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目次とメモを置いとく場

『教養としての歴史問題』(前川一郎[編著] 東洋経済新報社 2020)

著者:前川 一郎
著者:倉橋 耕平
著者:呉座 勇一
著者:辻田 真佐憲
装丁:橋爪 朋世



教養としての歴史問題 | 東洋経済STORE


【目次】
はじめに(編著者) [001-014]
  本書の目的――歴史認識問題の現状を正確に把握し、未来を考えるきっかけを作る
  三つの論点
  「歴史コミュニケーション」を広げていく
目次 [015-022]


第一章 「歴史」はどう狙われたのか?――歴史修正主義の拡がりを捉える[倉橋耕平] 023
  はじめに 
1 日本版歴史修正主義の展開とその特徴 026
  「慰安婦」像をめぐって
  脅迫と嫌がらせ
  利用された大衆文化
  歷史修正主義元年
  安倍首相の足跡
  新たなフェーズ
2 「歴史」をめぐるヘゲモニー争い 039
  ヘゲモニー争い
  排外主義と歴史修正主義
  人権問題と歴史修正主義
  歴史修正主義と女性蔑視
3 歴史から神話への「気づき」 047
  希求しながら歴史から逸れていく歴史修正主義
  「縄文ブーム」
  歴史を超える歴史修正主義
4 専門知はもはやいらないのか 057
  もう少し複雑な世界
  平等観の問題?
  おわりに


第二章 植民地主義忘却の世界史――現代史の大きな流れのなかで理解する[前川一郎] 065
  はじめに 
1 忘却された植民地主義 067
  植民地支配の歴史
  植民地問題が注目された「例外的」国際会議
  植民地問題が外交問題に発展しなかった二〇世紀後半
2 妥協を強いられた植民地の独立 073
  「解決済み」として独立したケニア
  国際社会から制裁を受けたジンバブウェ
  開発援助による植民地問題の「解決」
3 冷戦の終焉と「謝罪の時代」 079
  動き始めた清算の歴史
  なぜ九〇年代だったのか
  国際社会の「正義の記憶」
  「謝罪の時代」を後押ししたグローバリゼーション
4 日独両国に共通する加害者意識の欠如 085
  一筋縄ではいかない「過去の克服」
  法的責任を認めないドイツの戦後措置
  植民地統治下で起こったジェノサイド
  植民地主義を不問に付した、日本の戦後処理
  「慰安婦」問題は解決したのか
  問われているのは法的責任、植民地主義の“違法性”
5 ヨーロッパの戦勝国の描く植民地主義史 
  賠償ではなく、未来志向の経済支援
  謝罪を拒絶し続けるイギリス
  おわりに――いま、ようやく「歴史」が「狙われる」ようになった


第三章 なぜ 加害の歴史を問うことは難しいのか――イギリスの事例から考える[前川一郎] 107
  はじめに 
  個別の犯罪事案を植民地支配全体の責任から切り離す「選別的思考」
  「栄光の下水処理」
1 植民地主義を肯定する“中立的”歴史観 113
  功罪両論併記の歴史教育
  イギリス社会に染み渡る「選別的思考」
2 「アムリットサルのキャメロン」 119
  頭を下げても、謝罪しないイギリス
  植民地統治の「良かったところがあったとしたら、私たちはこれを称えるべき」だ
  キャメロン訪印に一定の評価を下すメディア
3 イギリス政府に受け継がれてきた「選別的思考」 127
  事件当時の政府の対応
  ハンター委員会最終報告書と政府の対応
  エリザベス二世の訪印
  法的責任実践と「選別的思考」の皮肉な関係
4 「選別的思考」を受け入れる日本 138
  「国際社会のなかの日本」という見立て
  近現代史再評価と歴史修正主義のあいだ
  国際社会をどう捉えるか?――むすびに代えて


第四章 「自虐史観」批判と対峙する――網野善彦の提言を振り返る[呉座勇一] 147
  はじめに 
1 網野善彦と「新しい歴史教科書」 152
  「自由主義史観は戦後歴史学の鬼子」
  「自由主義史観は右からの国民的歴史学運動」
2 「自虐史観」批判にどう反論するか 166
  「自由主義史観こそが自虐史観
  国民的歴史学運動のトラウマをどう克服するか
  歴史教育歴史学の敗北
  おわりに


第五章 歴史に「物語」はなぜ必要か――アカデミズムとジャーナリズムの協働を考える[辻田真佐憲] 183
  はじめに
1 「人間の生物的な限界」と「メディアの商業主義」 186
  アカデミズムとしての歴史とジャーナリズムとしての歴史
  「実証主義的マッチョイズム」の弊害
  「思想的潔癖主義」の弊害
2 キャッチフレーズの活用 194
  安全装置としての「物語」
  保守派の物語――教育勅語君が代御真影
  キャッチフレーズ活用の実例
3 「大まかな見取り図」と座談会文化の見直し 202
  「一冊でわかる」「早わかり」はすべてトンデモか
  「鋼のメンタル」だけが生き残る?
  信頼関係を醸成した座談会文化
  それでも「健全な中間」を模索すべき


第六章 【座談会】「日本人」のための「歴史」をどう学び、教えるか 214
  歴史学だけの問題ではない
  曖昧になった右左の概念
  主張のパッケージ
  学知に閉じ籠っていた歴史学
  歴史を概観する図式を描けなくなった歴史学
  フラットな社会
  歴史学歴史教育のあり方
  植民地主義を学校でどう教えるのか
  「植民地になればよかった」
  国民史の物語
  学校だけが歴史教育の場ではない
  「良質な物語」をいかに作るか
  学知と社会――外に出ることの意味
  学知と一般社会の乖離


おわりに(二〇二〇年六月一三日 前川一郎) [249-253]
日本語参考文献 [254-257]
執筆者紹介 [258]




【関連記事】


【メモランダム】
・木畑洋一による書評(in『立命館アジア・日本研究学術年報』)。
 なお、件の騒動(本書著者のひとりである呉座勇一がSNSで仲間とつるんで女性研究者を執拗に侮辱していたことが明るみになった件)についての「追記」と「編者による応答」が、末尾に付されている。
https://ritsumei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail&item_id=15079&item_no=1&page_id=13&block_id=21
(追記)URL変更 https://www.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=503125

『古文書はいかに歴史を描くのか――フィールドワークがつなぐ過去と未来』(白水智 NHKブックス 2015)

著者:著者:白水 智[しろうず・さとし] (1960-) 日本中世史。山村史、海村史。
NDC:210.029 日本史 >> 歴史補助学 >> 古文書学.花押


NHKブックス No.1236 古文書はいかに歴史を描くのか フィールドワークがつなぐ過去と未来 | NHK出版


【目次】
目次 [003-007]


序章 知られざる歴史研究の舞台裏 009
  忘れられた大震災
  古文書が人の世に光を当てる
  歴史は身近にあるか
  研究の舞台裏と身近な古文書
  歴史を知るもう一つの意味
  本書で伝えたいこと


第一章 古文書とは何か 021
一 歴史と史料 022
  書き替えられていく歴史
  歴史をたどる手がかりとしての史料
  活字史料の恩恵
  かけがえのない実物史料
二 失われた史料・たまたま残った史料 032
  日々廃棄されている文化財
  時間との戦い――昨日ゴミに出してしまいました
  時間との戦い――失われゆく山村史料
  廃棄史料はなぜ残されてきたか
  廃棄史料の特徴
  京都古刹から見つかった襖裏張文書
三 和紙という素材 046
  虫が喰い、ネズミが囓り、湿気が襲う
  いろいろな修復
  できるだけ避けたい修復


第二章 史料調査の日々――フィールドワークの重要性 057
一 歴史学とフィールドワーク 058
  各時代史のフィールドワーク事情
  「切り身」の活字史料の背後にあるもの
  調査の始まり
  怪しい者ではありません
  簡単ではない調査意図の説明
  所蔵者の姿勢を変えたもの
  相互の信頼関係が基本
  集団調査と個人調査
二 これまでの調査履歴から――駆け出しの頃 077
  初めての調査経験
  必ず起きる「偶然」
  五島列島
  日本常民文化研究所の調査
  激論の日々から
三 これまでの調査履歴から――ライフワークとなる調査の開始 089
  中央大学山村研究会の調査
  調査方法の変化
  毎年活動成果を刊行
  「歴史学の現場」に身を置くこと
  信越国境秋山の調査
  古文書を訪ねて
  八年かけて秋山関係の古文書を調査
  土蔵まるごとの文化財調査
  猛暑の中の土蔵調査
  学際研究のフィールドとして
  地元への成果還元とメンバーのつながり
  多分野共同研究の醍醐味――江戸時代の鉱山跡を探る
  次々見つかる手がかり
  江戸時代の森林が甦る――歴史学と林学とのコラボレーション
  調査経験から得たもの


第三章 史料の調査と整理を考える 131
  研究か史料整理か
  史料整理は「雑務」なのか
  最初にしか採れない情報――現状記録の重要性
  「ともにあること」の史料的価値
  内容と形態による整理方式は適切か
  史料内容の豊かさを生かすには
  形態別整理の問題点
  現状記録に意味はあるのか
  現状記録の重要性
  一体化する配置と記憶
  未来に備える
  何をどこまで採るか
  専門家でなくてもできる現状記録採り
  史料調査自体の記録を


第四章 史料の具体的整理方法 165
  現状記録を採ってみよう
  史料利用のための調査と目録づくり
  調査や目録の深度――概要調査と精細調査
  簡易な目録づくりも重要
  史料IDをつける
  史料自体をどう整理するか
  近世史料に合わせた目録仕様の不都合
  目録編成の考え方
  形態情報とイメージ情報の有効性
  パソコンを利用した目録の作成
  史料をどう撮影するか
  デジタルカメラマイクロフィルム


第五章 発掘・整理した史料から歴史を読み解く 205
一 断簡文書が明かす歴史 206
  謎だらけの古文書
  江戸城に提供されていた早川入の材木
  危険を冒しての運材
  垣間見える山地の重要性
  教科書に書き加えられる山の産業
二 襖張文書が明かす奥能登の記憶 221
  今に残る船道具
  裏張文書に残されていた証拠
三 衣装の中に古文書があった 227
  襟裏張文書の発見から追跡まで
  裏張文書を剥がしてみる
  裏張文書の内容を探る
  袴の中からも古文書が
  現地へ飛ぶ
  見えてきた背景
四 裏打ちで甦った史料から 241
  山村に残された狩猟関係史料
  犬を使った狩猟の実態
  猟師が投げかけた疑問
五 冷凍保存された地名発音 252
  文字に音声を聞く
  小若狭村と小赤沢村
  発音と表記の間に横たわる溝
六 遠のいた海の話 262
  青方氏の拠点はどこにあったか
  海際にあった殿山


第六章 歴史史料と現代――散逸か保存か 267
  身に迫らない歴史
  滅びようとするムラの前で歴史学は何をするのか
  地域を元気にする歴史学
  「三〇〇年後に小滝を引き継ぐ」
  「これまで」 があって「これから」がある
  史料を整理する職務の必要性
  史学カリキュラムにも史料整理やフィールドワークを
  地域に史料を遺せる環境を


終章 長野県北部震災を経て 291
  震災と文化財救出―― 三・一二の大震災
  「まるごと調査」の土蔵はどうなった?
  文化財救援組織「地域史料保全有志の会」の結成
  フィールドワークの経験が生きた現場
  文化財保全から活用へ――地域への還元の始まり
  文化財保管施設のリニューアルへ
  「人文学の現場」であること
  確かな未来は確かな過去の理解から始まる


あとがき(二〇一五年一一月一五日 白水智) [317-318]

『経済学のパラレルワールド――入門・異端派総合アプローチ』(岡本哲史,小池洋一[編著] 新評論 2019)

編者:岡本 哲史[おかもと・てつし](1962-)  ラテンアメリカ経済論(チリ経済)、開発経済学国際経済学
編者:小池 洋一[こいけ・よういち](1948-) 経済開発論、地域研究(ラテンアメリカ)。
著者:内橋 克人[うちばし・かつと](1932-) 経済評論家。
著者:佐野 誠[さの・まこと](1960-) レギュラシオン理論。
著者:飯塚 倫子[いいづか・みちこ](19-) 開発学。STI for SDGs、途上国の科学技術イノベーション政策。
著者:佐々木 憲介[ささき・けんすけ](1955-) 経済学史・経済思想・経済学方法論。
著者:塩沢 由典[しおざわ・よしのり](1943-) 理論経済学進化経済学
著者:柴田 德太郎[しばた・とくたろう](1951-) 制度進化の経済学。
著者:幡谷 則子[はたや・のりこ](1960-) 社会学ラテンアメリカ地域研究。
著者:Bresser-Pereira, Luiz Carlos[ブレッセル=ペレイラ,ルイス・カルロス](1934-) 開発経済学マクロ経済学
著者:森岡 真史[もりおか・まさし](1967-) 経済理論、経済思想。
著者:安原 毅[やすはら・つよし](1963-) 開発経済学ラテンアメリカ経済論。 
著者:矢野 修一[やの・しゅういち](1960-) 世界経済論。
著者:山田 鋭夫[やまだ・としお](1942-) 理論経済学。現代資本主義論。
著者:山本 純一[やまもと・じゅんいち](1950-) 政治経済学。メキシコ地域研究。
装訂:山田 英春
NDC:331 経済学.経済思想
NDC:331.6 社会主義学派.マルクス経済学派
NDC:331.76 制度学派


経済学のパラレルワールド 入門・異端派総合アプローチ | 新評論


【目次】
はじめに(2019年3月13日 岡本哲史 小池洋一) [001-009]
 経済学における異端と正統 
 異端と正統をめぐる注意点
 経済学における多様性の喪失
 多様性の保全のために
 「異端派総合」という言葉
目次 [010-015]


序章 新古典派経済学の系譜とその問題点[岡本哲史] 019
経済学における派閥対立の理由
数理モデルは価値中立的か?
ミクロ経済学としての新古典派経済学
源流としてのアダム・スミス
新古典派と経済自由主義思想
アダム・スミスの価値論と新古典派
アダム・スミスの実物経済論と貯蓄=投資論
セイ法則体系の出現
限界学派の考え方
限界トリオ以後の新古典派経済学
新古典派マクロ理論の誕生
新古典派マクロ理論の変なところ
セイ法則体系と貨幣ベール観
新古典派の変な焼き鳥屋
ケインズ新古典派経済学
ケインズ革命に対する新古典派経済学の対応
新古典派マクロ経済学の誕生
新古典派モデルのリアリティ欠如
価格は柔軟には変化しない
新古典派の価値観
新古典派経済学新自由主義イデオロギー
経済学における異端のすすめ


第1章 21世紀におけるマルクス経済学の効用[岡本哲史] 055
マルクス経済学と『資本論
世紀資本主義とマルクス
マルクスへの誤解
20世紀共産主義体制の非道
マルクスの青少年期
マルクスと父親
マルクスヘーゲル哲学
新聞記者マルクスと亡命生活
マルクスの思想的転機
マルクスと1848年革命
イギリスでの生活
マルクスの考えた共産主義社会
資本の定義
商品と2つの価値
価値の実体
マルクスの労働価値論
価値=労働=価格
マルクスの生産価格論
価値形態論――単純な価値形態
展開された価値形態
一般的価値形態
貨幣の出現
貨幣の呪物崇拝
資本の出現
産業資本の誕生
搾取理論の誕生
労働力の価値とは何か?
マルクスの基本定理
各種投入係数の設定
総生産物Xと純生産物Q
剰余生産物
利潤と搾取の関係
マルクス以後のマルクス経済学
応用系マルクス経済学
人文系マルクス経済学
数理系マルクス経済学
21世紀におけるマルクス経済学の効用


第2章 制度派経済学とは何か?[柴田德太郎] 119
ヴェブレンの主流派経済学批判(前進化論的経済学)
ヴェブレンの進化論的経済学
「ものづくりの原理」対「金儲けの原理」
金融バブルの形成と崩壊
ヴェブレンの未来社会像(思考習慣=制度の進化)
コモンズの制度進化論
3種類の取引
ゴーイング・コンサーンと行動準則
私有財産概念の進化と拡張
無体財産と無形財産
コモンズの最気循環論
コモンズの現代資本主義論(安定化の時代)


第3章 ポスト・ケインジアン経済学の全体像[安原毅] 147
マクロ経済の基礎
投資は何によって決まるか
投資に必要な資金はどうやって調達されるのか
企業の資金調達は社会的にどう影響するか
雇用はどのようにして決まるのか
「生産性が上がれば賃金が上がる」は本当か?
ポスト・ケインジアン、カレツキアンの方法の現代的意義


第4章 レギュラシオン理論の原点と展開[山田鋭夫] 169
レギュラシオン理論の40年
経済諸学派とレギュラシオン理論
レギュラシオンとは何か
レギュラシオンの基礎概念
イギリス型発展様式
フォーディズムの成長体制
フォーディズムの調整様式
金融主導型資本主義
資本主義の多様性


第5章 進化経済学の可能性[森岡真史] 191
生物学における進化の概念
進化概念の一般化
進化論的アプローチの意義
「進化する実在」としての生産物
知識と投入・産出関係
生産物の再生産を阻む諸要因
資本主義における生産物の進化
生産物進化の歴史性
商品世界の多様性
多様な商品の存在理由
商品の多様化と販売競争
商品世界の光と影


第6章 異端派貿易論の最前線[塩沢由典] 219
国際経済を考える基礎理論
リカード『原理』200年
リカードの数値例
リカードが真に言ったこと
比較生産費説の原型理解と変型理解
交易条件はいかに決まるか
「生産の経済学」から「交換の経済学」へ
古典派価値論の弱点
連結財あるいは共通財の考え方
新しい国際価値論
賃金率と価格
絶対優位と比較優位
投入財貿易と世界付加価値連鎖


第7章 ハーシュマンと不確実性/可能性への視座[矢野修一] 249
ハーシュマンとは何者?
社会改良と連帯をあきらめさせる主流派の理屈
「利益」は社会秩序の基盤となりえるか
新自由主義権威主義の親和性
デジタル化と権威主義
不均整成長論の含意
単線的・均質的時間概念の転換
無駄は無駄か?――オルターナティヴとしてのスラック経済観
離脱・発言・忠誠
アメリカン・ドリームから共同性への道筋
市場経済と民主主義――社会の「可能性」拡大のために


第8章 ネオ・シュンペタリアンとイノベーション[飯塚倫子] 275
シュンペーターの経済発展論の特異性
ネオ・シュンペタリアンの主張
イノベーションの定義と将来的な展望
イノベーション・システム:イノベーションを生み出す仕組み
イノベーション・システムの政策への適用とその課題
技術の転換がシステムの再構築を促す
研究動向にみるイノベーションの新たな方向性
利用者によるイノベーション
ソーシャル・イノベーション
公共セクターのイノベーション
インクルーシブ(包摂的)・イノベーション
イノベーションは社会的課題を解決できるのか


第9章 ポランニーから共生経済へ[小池洋一] 303
市場経済は勝利したのか
市場経済と資本主義の相対化
自己調整的市場はフィクションに基づいている
悪魔のひき臼
三重運動としての歴史
経済グローバル化と社会の防衛運動
複合社会
機能的社会主義
マルクスのアソシエーション論
市場と経済を社会に埋め戻す
共生経済社会の創造に向けて


第10章 経済学方法論と新自由主義[佐々木憲介] 331
方法論とは何か
新自由主義の捉え方
経済政策の論理
新自由主義政策の目的
  資源の効率的配分
  自由の尊重
  価値に対する批判と反批判
  新自由主義の目的の多様性 
新自由主義の理論
  理論と現実の混同
  理論選択の偏り
新自由主義の社会的機能
新自由主義負の遺産


第11章 開発のマクロ経済学としての新開発主義[Luiz Carlos Bresser-Pereira 著/岡本哲史 訳] 355
古典的な開発主義の誕生
古典的な開発主義の危機
新開発主義の誕生
新開発主義の政治経済学
資本主義の原型と開発主義の諸類型
第2の開発主義の危機
新開発主義の基本的な考え方
開発主義国家とは何か
新開発主義のミクロ経済学マクロ経済学
新開発主義の為替レート理論
3つの「お決まりの政策」
為替レートの割高化傾向
成長と投資関数
危機と適応
経済政策
マクロ経済的価格の適正化
オランダ病の克服
為替レートとインフレ抑制
分配
結論


第12章 フェアトレードと市場の「正義」[山本純一] 401
経済の仕組みは公正か?
「公正」と「正義」
「公正としての正義」
市場は「自由」なだけで十分なのか
フェアトレードという試み
フェアトレード誕生前夜――「自由かつ公正な貿易」
フェアトレードの基本原則――慈善から開発貿易・連帯貿易へ
フェアトレード産品はなぜ高い?――「適正な価格」の根拠
市場志向化がもたらしたもの
フェアトレードの新たな地平
「公正な取引」を広げる――「足元」の問題に向き合うために
市場の「正義」は果たされるか


第13章 世界の多様性をとらえる地域研究[幡谷則子] 435
地域研究とは何か
地域研究の歩み
地域研究の意義と志向性
地域研究の貢献――「市井の人々の知恵」の尊重
地域の価値観に立脚する――再発見された「コミュニティ参加」の概念
現地調査における倫理と双方向的な学び
グローバル・スタディーズの創成
グローバル・イシューに向き合う地域研究
覇権的グローバリゼーションへの批判的視座
テリトリーの概念
自然との関係性に基づく地域概念――生命の基盤としてのテリトリー
共感、コミットメント、双方向性の方法論をめざす地域研究
多様性に密着する地域研究


[特別収録]
1 ラテンアメリカ経済の研究は何のためにあるのか――日本語で書くことの可能性と意義[佐野誠] 466
  はじめに
  1 地域研究の諸類型―――各々の存在意義を自覚的に問う  
  2 往還する知
  3 筆者自身による往還型地域研究の試行錯誤
  おわりに:簡単な考察を兼ねた結び


2 連帯・共生の経済を――日本型貧困を世界的視野で読み解く[内橋克人, 佐野誠] 481
  現実と乖離する経済学
  日本型貧困の由来
  日本型新自由主義の政治構造
  1人ひとりの抵抗から連帯へ


[対談再掲への付言]佐野経済学の可能性[内橋克人] 497


おわりに(2019年7月 岡本哲史,小池洋一) [501-509]
図表一覧 [510]
事項索引 [511-518]
人名索引 [519-522]
執筆者紹介 [523-525]



【図表一覧】
0 経済学の系譜で見る異端と正統 003
0.1 価格変化による需給の一致 023
0.2 効用関数の形 032
0.3 労働市場と資本市場の均衡 037
1.1 『資本論』全3巻の構成 058
1.2 マルクスが残した共産主義に関する記述 075
1.3 「マルクスの基本定理」の簡単な証明 102
1.4 マルクス以後のマルクス経済学(20〜21世紀) 109
2.1 利潤マージンの変動 138
3.1 GDPが分配され支出に充てられるメカニズム 149
3.2 日本の労働生産性と実質賃金上昇率 163
4.1 経済諸学派の市場経済観 171
4.2 レギュラシオンの基礎概念と見方 174
4.3 イギリス型発展様式の成長体制と調整様式 177
4.4 フォーディズムの成長体制と調整様式 178
4.5 金融主導型資本主義の成長体制と調整様式 186
4.6 主要OECD諸国にみる資本主義の多様性 186
5.1 進化経済学における「進化」の概念図 194
5.2 日本標準商品分類の大分類・中分類 207
5.3 JANコード登録商品の内訳 208
6.1 毛織物とブトウ酒の生産に必要な労働者数(人/年) 222
6.2 貿易の利益(労働の節約:毛織物1単位とブドウ酒1単位とを交換する場合) 225
6.3 マーシャルの需要曲線・供給曲線交差図 232
6.4 2国3期の世界生産可能集合 236
6.5 2国3財に対応する全域木 239
6.6 ひとつの全域木はひとつの国際価値(賃金率と製品価格)を決める 241
8.1 『オスロ・マニュアル』におけるイノベーションの定義:重要な変更点 286
8.2 イノベーション・システムの概念図 289
8.3 マルチ=レベル=パースペクティブの概念図 292
10.1 エレファントカーブ(グローバルな所得水準で見た1人当たり実質所得の相対的な伸び 1988-2008年) 350
11.1 経常収支と為替レート 377
11.2 2つの均衡とその推移 377



【画像一覧】
序章 ミルトン・フリードマン 043
序章 アウグスト・ピノチェ 049
1章 カール・マルクス 066
2章 ソースティン・ヴェブレン 119
2章 ジョン・R・コモンズ 139
3章 ジョン・メイナード・ケインズ 155
7章 アルバート・ハーシュマン(評伝表紙) 250
8章 BlaBlaCarのステッカー 296
9章カール・ポランニー 304
12章 ジョン・ロールズ 404
12章 メキシコ先住民によるフェアトレードの実践 426
13章 コロンビア民衆居住区の互助活動 443
13章 コロンビアのアフロ系住民と鉱物資源 456





【抜き書き】

・巻末の執筆者紹介(pp. 523-525)がとても詳しいので転載しておく。版元のサイトには載っていない。

執筆者紹介(50音順)


飯塚倫子(Iizuka Michiko) 石川県生まれ。サセックス大学科学政策研究所(SPRU)にて博士号(科学技術イノベーション政策),同大学開発学研究所(IDS)にて修士号(開発学),ロンドン大学インベリアルカレッジにてディプロマ(環境管理)取得。(財)国際開発センター研究員,国連ラテンアメリカ・カリブ経済環境委員会環境担当官,国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT) リサーチ・フェローを経て,現在政策研究大学院大学教授。SPRU,UNU-MERIT 外部フェローを兼任。専攻は持続可能な開発目標達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs),途上国の科学技術イノベーション政策(天然資源,農業,環境分野)。主要業績に「協働が生み出す革新システム」(田中祐二・小池洋一編『地域経済はよみがえるか』新評論,2010年). “Potential for Innovation in Mining Value Chains: Evidence from Latin America," in A. Daly, D. Humphreys, J. Raffo and G. Valacchi (eds.), Global Challenges for Innovation and IP in the Mining Industries, Cambridge University Press (近刊).共編著に Chile's Salmon Industry: Policy Challenges in Managing Public Goods, Springer, 2016 などがある。


内橋克人(Uchihashi Katsuro) 1932年兵庫県生まれ。経済評論家。著書に『共生の大地』(岩波新書,1995年),『経済学は誰のためにあるのか』(共著,岩波書店,1997年),『不安社会を生きる』(文藝春秋,2000年),『「節度の経済学」の時代』(朝日新聞社,2004年),『悪夢のサイクル――ネオリベラリズム循環』(文藝春秋,2006年)、「始まっている未来――新しい経済学は可能か(宇沢弘文との共著,岩波書店,2009年),『新版 匠の時代』(全6巻,岩波現代文庫,2011年),『共生経済が始まる』(朝日文庫,2011年),『荒野渺茫』(I・II,岩波書店,2013年)などがある。2006年,第16回イーハトーブ賞,2009年,第60回NHK放送文化賞受賞。 【特別収録2】


岡本哲史(Okamoto Tetsushi) 1962年徳島県生まれ。専攻はラテンアメリカ経済論(チリ経済)開発経済学国際経済学。1986年,東北大学経済学部卒。1992年,東北大学大学院経済学研究科博士課程後期満期退学。博士(経済学)(東北大学,2001年)。1989年,メキシコ・グアダラハラ大学で学ぶ(外務省日掲交流計画)。東北大学助手,九州産業大学講師などを経て,現在,九州産業大学経済学部教授。チリ・カトリック大学歴史研究所客員研究員(1998年8月~99年8月),チリ大学物理数学学部客員研究員(2005年8月~06年8月,2011年8月~12年8月)。主要業績として『衰退のレギュラシオン――チリの開発と衰退化 1830~1914年』(新評論,2000年),『ラテンアメリカはどこへ行く』(共著,ミネルヴァ書房,2017年),『現代経済学――市場・制度・組織』(共著,岩波書店,2008年)などがある。 【編者,はじめに,序章,第1章,第11章翻訳,おわりに】


小池洋一(Kaike Yoichi) 1948年埼玉県生まれ。1971年立教大学経済学部卒。アジア経済研究所研究員・主任調査研究員・部長(1971~2000年), この間ジェトゥリオ・ヴァルガス財団サンパウロ校客員研究員(1977~79年), サンパウロ大学経済研究所客員教授(1992~93年),英国開発学研究所(IDS)客員研究員(1993~94年),拓殖大学国際開発学部教授(2000~2007年),立命館大学経済学部教授・特任教授(2007~19年)を経て,現在立命館大学社会システム研究所客員研究員,アジア経済研究所名誉研究員。専門は経済開発論,地域研究(ラテンアメリカ)。主要業績として『社会自由主義国家――ブラジルの「第三の道」』(新評論,2014年),『抵抗と創造の森アマゾン――持続的な開発と民衆の運動』(共編著,現代企画室,2017年),『現代ラテンアメリカ経済論』(共編著,2011年,ミネルヴァ書房),『市場と政府――ラテンアメリカの新たな開発枠組み』 (共編著,アジア経済研究所,1997年)などがある。 【編者,はじめに,第9章,おわりに】


佐々木憲介(Sasaki Kensuke) 1955年岩手県生まれ。専攻は経済学史・経済思想・経済学方法論。1980年,東北大学経済学部卒。1985年,東北大学大学院経済学研究科博士課程後期3年の課程単位取得退学。東北大学助手,北海道大学経済学部助教授・教授などを経て,現在,北海道大学大学院経済学研究院特任教授。博士(経済学)。主要業績に『経済学方法論の形成――理論と現実との相克 1776-1875』(北海道大学図書刊行会,2001年),『イギリス歴史学派と経済学方法論争』(北海道大学出版会,2013年:2018年経済学史学会賞),『イギリス経済学における方法論の展開――演繹法帰納法』(共編著,昭和堂,2010年),『経済学方法論の多元性――歴史的観点から』(共編著,蒼天社出版,2018年)などがある。【第10章】


佐野誠(Sano Makoto) 1960年新潟県生まれ。経済学者,博士(経済学)。1982年早稲田大学政治経済学部卒業後東北大学大学院,筑波大学大学院,東北大学助手,外務省専門調査員(在アルゼンチン日本大使館)などを経て98年より新潟大学教授(経済学部および大学院現代社会文化研究科)。2001年,アルゼンチン国立ラ・プラタ大学国際関係研究所招聘教授として集中講義。主著『開発のレギュラシオン』(1998年),『もうひとつの失われた10年」を超えて』(2009年), 『99%のための経済学【教養編】』(2012年),『同【理論編】』(2013年)内橋克人(本書「特別収録2」)との共編著「ラテン・アメリカは警告する」(2005年,以上新評論),柴田徳太郎(本書第2章)・吾郷健二との共編著『現代経済学』(岩波書店,2008年)など。2013年11月6日没。【特別収録1.2】


塩沢由典(Shiozawa Yoshinori)1943年長野県生まれ。京都大学理学部数学科卒,同修士。フランス政府給費留学生としてニース大学パリ第9大学に学ぶ。京都大学数学科・同経済研究所助手,大阪市立大学経済学部教授・同大学院創造都市研究科教授・研究科長,中央大学商学部教授を勤め、現在大阪市立大学名誉教授。専門は理論経済学。(日本)進化経済学会第2代会長。同フェロー。『市場の秩序学――反均衡から複雑系へ』(筑摩書房,1990年)でサントリー学芸賞(1991年)『リカード貿易問題の最終解決』(岩波書店,2014年)で進化経済学会賞(2016年)。単著に『近代経済学の反省』(日本経済新聞社,1983年),『関西経済論――原理と議題』(晃洋書房,2010年)、共著に A New Construcetion of Ricardian Theory of International Values(2017). Microfoundations of Evolutionary Economics (2019,以上Springer)などがある。反均衡・複雑系・過程分析などを標語とする現代古典派経済学のリーダーの1人。 【第6章】


柴田徳太郎(Shibata Tokutaro) 1951年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業,東京大学大学院経済学研究科修了。経済学博士(東京大学)。西南学院大学経済学部講師,同大学助教授,東京大学経済学部助教授,同大学教授を経て,現在,帝京大学経済学部教授(東京大学名誉教授)。専門は制度進化の経済学,アメリカ金融制度論,現代資本主義論。主要業績に『大恐慌と現代資本主義』(東洋経済新報社,1996年),『資本主義の暴走をいかに抑えるか』(ちくま新書,2009年)、『制度と組織――理論・歴史・現状』(編著,桜井書店,2007年),『現代経済学』(吾郷健二・佐野誠との共編著,岩波書店,2008年),『世界経済危機とその後の世界』(編著,日本経済評論社,2016年)などがある。 【第2章】


幡谷則子(Hataya Noriko) 1960 年神奈川県生まれ。2008年,ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL: University College London)にて Ph.D.取得(地理学)。アジア経済研究所研究員(1984年4月〜2001年3月)を経て,2001年4月より上智大学国語学部教員,現在,上智大学国語学イスパニア語学科教授。専門は社会学ラテンアメリカ地域研究。主要業績に「ラテンアメリカの都市化と住民組織』(古今書院, 1999年),La ilusion de participación comunitaria: Lucha y negociación en los barrios irregulares de Bogoti, 1992-2003, Bogori: Universidad Externado de Colombia, 2010,『小さな民のグローバル学――共生の思想と実践をもとめて』(共編著,上智大学出版,2016年),近刊に『ラテンアメリカの連帯経済――コモン・グッドの再生をめざして』(上智大学出版,2019年)などがある。 【第 13 章】


ブレッセル=ペレイラ,ルイス・カルロス (Luiz Carlos Bresser-Pereira) 1934年ブラジル・サンパウロ生まれ。ジェトゥリオ・ヴァルガス財団サンパウロ校教授を経て,現在同校名誉教授。Brazilian Journal of Political Economy 誌編集人。博士(経済学,サンパウロ大学)。専門は開発経済学マクロ経済学。現在のテーマは新開発主義,新古典派経済学の方法論的批判,社会民主主義と開発国家など。ブラジル連邦政府財務省行政改革省,科学技術省の各大臣を歴任。著書に The Political Construction of Brazil (2017). Developing Brazil: Overcoming the Failure of the Washington Consensus (2009, 以上 Lynne Rienner Publishers) など,共著に Globalization and Competition: Why Some Emergent Countries Succeed while Others Fall Behind (Cambridge University Press, 2009), Developmental Macroeconomics: New Developmentalism as a Growth Strategy (Routledge, 2014).共編著に Financial Stability and Growth, Routledge Studies in Development Economics (Routledge, 2014)などがある。 【第11章】


森岡真史(Masashi Morioka) 1967年大阪府生まれ。1993年,京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。博士(経済学)。現在,立命館大学国際関係学部教授。専門は経済理論および経済思想。著書に『数量調整の経済理論――品切回避行動の動学分析』(日本評論社,2005年)『ボリス・ブルックスの生涯と思想――民衆の自由主義を求めて』(成文社,2012年),Microfoundations of Evolutionary Economics(塩沢由典・谷口和久との共著,Springer, 2019)などがある。 【第5章】


安原毅(Yasuhara Tsuyoshi) 1963年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒。2001年,メキシコ国立自治大学経済学部大学院博士課程にて Ph.D.取得(経済学)。南山大学国語学部講師(1992年〜)を経て,現在同大学国際教養学部教授。専攻は開発経済学ラテンアメリカ経済論。主要業績に『メキシコ経済の金融不安定性』(新評論,2003年:2004年度国際開発研究大来賞),「グローバリゼーションの中のラテンアメリカ――経済危機と経済政策」(『神奈川大学評論』77号,2014年), “Analisis de la industria manufacturera por el modelo Poskeynesiano y Kaleckiano,” Qué hacer: científico en Chiapas, Vol. 3, No. 1, Universidad Autónoma de Chiapas, 2018などがある。 【第3章】


矢野修一(Yano Shuichi) 1960年愛知県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程退学。京都大学博士(経済学)。現在,高崎経済大学経済学部教授。専攻は世界経済論。著書に『可能性の政治経済学』(法政大学出版局,2004年),『サステイナブル社会とアメニティ』(共著,日本経済評論社,2008年),『デフレーション現象への多角的接近』(共著,日本経済評論社, 2014年),『新・アジア経済論』(共編著,文眞堂,2016年),訳書にアルバート・ハーシュマン『離脱・発言・忠誠』(ミネルヴァ書房,2005年),同『連帯経済の可能性』(共訳,法政大学出版局,2008年),スーザン・ストレンジ『国際通貨没落過程の政治学』(共訳,三嶺書房,1989年),エリック・ヘライナー『国家とグローバル金融』(共訳,法政大学出版局,2015年)などがある。 【第7章】


山田鋭夫 (Yamada Toshio) 1942年愛知県生まれ。1969年,名古屋大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。経済学博士。大阪市立大学教授,名古屋大学教授,九州産業大学教授などを経て,現在,名古屋大学名誉教授。専門は理論経済学および現代資本主義論。著書に『レギュラシオン理論』(読談社現代新書,1993年),『レギュラシオン・アプローチ』(増補新版,藤原書店, 1994年)、『さまざまな資本主義』(藤原書店,2008年), Contemporary Capitalism and Civil Society: The Japanese Experience, Springer, 2018 などがある。 【第4章】


山本純一(Yamamoto Junichi) 1950年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業,スペイン留学。会社勤務を経て,メキシコ大学院大学経済修士課程満期退学。帰国後,慶應義塾大学環境情報学助教授・同教授。現在は同大学名誉教授,フリースクール「大地の大学」代表。専門は政治経済学,メキシコ地域研究。著作に『メキシコから世界が見える』(集英社新書,2004年)、『インターネットを武器にした〈ゲリラ〉――反グローバリズムとしてのサパティスタ運動』(慶應義塾大学出版会,2002年:義塾賞),最近の業績として「メキシコの連帯経済――「共通善」としてのコーヒーのフェアトレードを中心にして」(幡谷則子編『ラテンアメリカの連帯経済――コモン・グッドの再生をめざして』上智大学出版,2019年)などがある。 【第12章】



■序章から何箇所か抜粋。


新古典派の歴史を概観した部分(の一部)。

新古典派マクロ経済学の誕生

 さて、1936年にケインズの「一般理論」が出版されてから1960年代に至るおよそ30年ほどの間は、欧米では、ケインズ経済学(新古典派総合を含む)が圧倒的な知的権威を有し、新古典派経済学は守勢に立っていました。しかし、1970年代になると状況が変わってきます。世界各国でケインズ的な財政金融政策がうまく働かなくなり、景気を刺激しても実質経済成長率は伸びず、ただインフレ率だけが昂進する現象が広く見られるようになったからです。インフレ(inflation,物価の上昇)と不況(stagnation)とが同時に存在するスタグフレーション(stagflation)という現象です。
 このような中で開始されたのが、新古典派経済学によるケインズ経済学への反撃であり、新古典派経済学自身の進化です。簡単に言うと、新古典派総合のように、景気局面の使い分けでケインズ理論新古典派理論との折衷を図るのではなく、マクロ経済モデルの中に新古典派の諸仮定を積極的に潜り込ませ、ケインズ理論新古典派マクロ経済学へと換骨奪胎する試みです。
 その最初の推進力になったのが、ハイエクの弟子にあたるフリードマンでした。フリードマンは、インフレ期待(=予想)や短期と長期という概念を巧みに用いることで、ケインズ的な非自発的失業が存在する局面は一時的な(短期の)現象であり、労働者のインフレ期待が修正される長期においては、摩擦的失業(=自発的失業)しか存在しない完全雇用が実現するという議論を展開しました。これを「自然失業率仮説」といいます。
 フリードマンによれば、裁量的な金融政策によるマネーストック(=経済に出回っているお金の総量)の変化は予期せぬインフレを生み出し、これが短期の景気変動の原因になるが(=「貨幣的景気循環理論」)、長期的にはインフレ期待と現実のインフレ率とが一致し、すべての経済変量が価格変化に対応して均衡を達成するため(=完全雇用の実現)、裁量的なマクロ政策(=不景気の際の財政金融政策の発動)は無意味であることが強調されます。フリードマンは、現代版貨幣数量説を信奉するマネタリズムという学派を形成し、ケインズ理論への攻撃を強めたことで有名です。


・序章の末尾から。

経済学における異端のすすめ
 新古典派に関する記述は以上です。わたしたちの問題意識の一端をお分かりいただけたでしょうか。 
 ただし注意してください。わたしたちは新古典派に厳しい態度を見せましたが、新古典派経済学を学ぶ必要が無いとか、富裕層や資本主義体制の擁護論だから排撃すべきだ、などと考えているわけではありません。先ほど見たように、新古典派の中にも、真摯な学問態度を貫いた尊敬に値する研究者は多くいます。また、ここでは触れることができませんでしたが、その分析手法にも学ぶ点は多々あります。
 わたしたちが本書の出版によって企図していることはシンプルです。本書を通じて、少しでも多くの人々に経済学の世界の多様性を知ってもらいたい。それだけです。どうか、いろいろな異端派の世界をのぞき込んで見てください。もしかしたら、新古典派とは違う側面を見せてくれるパラレルワールドに魅了され、あなたから未来の経済学の刷新が生じるかもしれません。

『新型コロナの科学――パンデミック、そして共生の未来へ』(黒木登志夫 中公新書 2020)

著者:黒木 登志夫[くろき・としお] 医学(がん研究)。
イラスト作成:朝日メディアインクーナショナル
図表作成・DTP:市川 真樹子
NDC:498.6 衛生学.公衆衛生.予防医学 >> 疫学.防疫


新型コロナの科学 -黒木登志夫 著|新書|中央公論新社


【目次】
推薦の言葉(山中伸弥) [i-ii]
はじめに(著者) [iii-vii]
目次 [viii-xiv]


序章 人類はパンデミックから生き残った 003
1 ペスト 004
  ベネチア 2020年、カーニバル
  フィレンツェ 1348年、デカメロン
  リヨン 1564年、永井荷風
  ウールスソープ 1665年、ニュートン
  アルジェリア 194X年、カミュ
  香港 1894年、北里柴三郎  

2 スペイン風邪 011
  スペイン風邪と日本文学
  与謝野晶子
  芥川龍之介
  斎藤茂吉
  武者小路実篤
  宮沢賢治
  スペイン由来でないスペイン風邪
  最悪の合併症
  第二波、第三波
  日本に上陸
  洋上の風邪
  山内保:濾過性病原体の証明
  河丘義裕:スペイン風邪ウイルスの復元

3 SARS 024
  コロナ三兄弟
  マニラ、2003年2月10日
  ハノイ、2003年2月28日
  香港、2003年2月21日
  北京、2003年3月
  関西空港、2003年5月8日
  国際共同研究、2003年3月17日
  自滅したSARSウイルス


第1章 新型コロナウイルスについて知る 033
1 ウイルスとは 035
  ウイルスは日本語
  ウイルスは一人では生きていけない
  DNAウイルスとRNAウイルス
  爆発的増殖

2 コロナウイルス 041
  ウイルス学的分類
  ウイルスゲノムと変異


第2章 新型コロナ感染症を知る 047
1 感染ルート 047
  「口は災の元」
  大量のウイルス
  飛沫感染エアロゾル感染を巡る論争
  合唱によるエアロゾル感染
  表面接触感染
  半減期
  無症状者からの感染
  半数は無症状感染者からの感染
  SARSとインフルエンザの感染
  クラスター感染
  スーパースプレッダー
  感染した人は悪くない
  感染の予防

2 新型コロナ感染症の経過 062
  軽症者

3 新型コロナ感染症の病状 065
  嗅覚、味覚障害
  二種類の肺炎
  インフルエンザ肺炎
  新型コロナ肺炎
  サイトカインの嵐
  重症化リスク要因
  血栓
  川崎病
  心筋炎
  新型コロナ後遺症
  新型コロナによる死亡


第3章 感染を数学で考える 079
  感染症の数字

1 感染は指数関数的に増加する 080
  ビリヤードの球
  倍加時間
  カーマック・マッケンドリックのSIRモデル

2 再生産数 085
  8割おじさん
  収束の判断

3 ロックダウンの数学的根拠 090
  ファーガソン
  51万人死亡予想
  5万9000人の命を救う
  武漢
  ドイツ

4 スーパースプレッダー 096
  R_0の分散
  複雑系ネットワーク


第4章 すべては武漢から始まった 101
1 最初の2ヵ月 102
  2019年12月、武漢
  2020年1月 武漢、WHO
  ゲノム解読の公表は何故遅れたのか
  テドロスWHO事務局長
  李文亮医師

2 石正麗―― Bat Woman 114
  新型コロナウイルスの秘密に迫った女性
  ウイルス分離
  危険な実験
  中国科学院武漢病毒研究所

3 新型コロナウイルスはどこから来たのか 120
  意外な事実
  人工的に作られたウイルスか


第5章 そして、パンデミックになった 125
1 パンデミックのルートを追う 126
  エピデミック、エンデミック、パンデミック
  五大陸に広がる
  最初はアジアに拡散
  ヨーロッパに広がる
  アメリカの西と東
  ラテンアメリカからインドに
  波状攻撃

2 ゲノムで追うパンデミック 131
  ウイルスの「ファミリーヒストリー
  武漢型からヨーロッパ型に

3 超過死亡 134
  26万人が過剰に死亡

4 点と線 136
  全てつながっている


第6章 日本の新型コロナ 137
  民間臨時調査会

1 第一波(武漢型ウイルス) 138
  武漢帰国者
  ダイヤモンド・プリンセス号
  クラスター対策と三密
  
2 第一波(ヨーロッパ型ウイルス) 145
  ヨーロッパ旅行がもちこんだウイルス
  志村けん

3 第二波 147
  感染者増加
  致死率低下

4 第一波、第二波のゲノム変異 150
  新たな変異発生

5 日本の特徴と不思議 152
  ゆっくりとした増加
  少ない死亡者

6 ファクター X 154
  何故?
  日本語の発音は飛沫を飛ばさない?
  山中伸弥の疑問
  重症化リスク遺伝子
  ネアンデルタール人の逆襲


第7章 日本はいかに対応したか 159
1 日本モデル 160
  「日本モデル」の定義

2 初期対応 161
  1月31日に介護施設に注意出す
  台湾、韓国のすばやい対応

3 専門家 162
  司令官
  後退するコロナ対策

4 エクスキューズ 164
  新型インフルエンザ(A/H1N1)対策報告書

5 法整備 166
  感染症法指定感染症
  新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)

6 緊急事態宣言 168
  ソフトロックダウン
  厳しさに欠ける緊急事態下の生活
  Googleによる人の移動分析
  日本の調査
  人・人接触は86%減

7 選択もされず集中もされず 172
  合理化の「草刈り場」

8 最大の問題はPCR検査 174
  アメリカ大使館の注意勧告
  専門家会議のポリシー
  行政検査
  37.5度以上4日間
  厚労省は最初からPCR検査拡大に猛反対
  内部秘密文書

9 官僚たち 181
  厚労省医系技官
  首相補佐官
  全国一斉休校
  アベノマスク

10 ベスト10、ワースト10 183
  日本の対応・評価


第8章 世界はいかに対応したか 187
1 格差 188
  医療、社会インフラ
  シンガポールの出稼ぎ労働者
  アメリカの人種格差
  ブラジルのスラム街

2 反リベラル、ポピュリズム指導者 190
  トランプ、ボルソナーロ、ジョンソン、プーチン
  危険なほど無能なアメリカの指導者たち

3 成功した女性政治家 192
  アーダーン、蔡英文メルケル
  アーダーン首相【Jacinda Ardern】
  蔡英文【Tsai Ing-wen】
  メルケル首相【Angela Merkel】

4 スウェーデンの集団免疫戦略 200
  ロックダウンしないという選択


第9章 新型コロナを診断する 203
1 新型コロナ感染の検査法 204
  PCR、抗原、抗体検査
  感度/特異度、偽陽性/陰性
  検体の採取時期
  
2 PCR検査 207
  PCR法の原理
  CDCの失敗
  検体の採取と時期
  PCR検査の感度と特異度

3 抗原検査 212
  ウイルスタンパクの迅速検査法

4 抗体検査 214
  過去の感染を検査
  抗体保有者の分布
  日本の抗体保有
  ソフトバンクの調査

5 PCR検査のあるべき姿 218
  厚労省の考える「PCR検査のあるべき姿」
  検査拡大のステップ提案
  ステップ1:新型コロナ患者レベル
  ステップ2:医療従事者レベル
  ステップ3:感染リスク者レベル
  ステップ4:社会の安全・安心レベル
  ステップ3、4に進むために必要なこと


第10章 新型コロナを治療する 225
1 薬の開発 225
  困難な抗ウイルス薬の開発
  探索研究
  第I相、第II相、第III相
  効果の判定(エンドポイント)

2 新型コロナ薬のターゲット 229
  何をターゲットにするか
  スパイク―― ACE2結合のトラップ作戦
  ナファモスタット(フサン)
  クロロキンとヒドロキシクロロキン
  RNAゲノム複製の阻害
  レムデシビル
  ファビピラビル(アビガン)
  イベルメクチン
  サイトカイン・ストーム
  デキサメタゾン
  トシリスマブ
  血漿(血清)療法
  新型コロナ治療薬開発の現状

3 アンジオテンシン系降圧剤 238
  ARBとACE2阻害剤は安全

4 不適切な論文発表 239
  オープンアクセス
  データベースに問題。相次ぐ論文撤回


第11章 新型コロナ感染を予防する 243
1 自然免疫と獲得免疫 244
  2段階防御装置

2 ワクチン 246
  釣り餌作戦
  生ワクチン(attenuated vaccine)
  不活化ワクチン(Inactive vaccine)
  サブユニットワクチン(Subunit vaccine)
  VLP(virus like particle)ワクチン
  遺伝子ワクチン(Genetic vaccine)
  抗体依存性感染増強(ADE)
  ワクチンができるまで
  政治圧力
  現在開発中のワクチン

3 集団免疫 253
  60%の人の免疫が必要

4 BCG 256
  100年前の生ワクチン
  アメリカ、カナダ、イタリアはBCGをしたことがなかった
  旧東ドイツと西ドイツの違い
  BCG非接種国は感染、死亡が多い
  イスラエルは差がなかった
  記述疫学から分析疫学へ
  訓練された免疫


第12章 新型コロナと戦う医療現場 263
1 院内感染 263
  感染の12%が院内感染
  永寿総合病院の院内感染

2 病院の現場 267
  慶應大学病院のコロナ対策
  和歌山県済生会有田病院
  岐阜大学病院
  東京医科歯科大学病院
  千葉大学病院
  徹底したPCR検査なしに院内感染は抑えられない
  病室の確保
  病院の予算

3 介護の現場 274
  欧米では死亡の40%以上が介護施設、日本は13%
  スウェーデントリアージ
  日本の対応

4 保健所の現場 277
  保健所の厳しい労働環境


第13章 そして共生の未来へ 281
1 われわれはどこに行くのか 282
  銀の弾丸
  変異
  ハーバード大学の予測

2 共生するための医療システム 284
  病院、介護施設、保健所
  PCR検査
  日本版CDC

3 共存するための社会システム 287
  何を変えるか、何を変えないか
  官僚制度
  デジタル化
  働き方改革
  教育
  限りある成長
  グローバル化
  環境問題

4 経済とコロナ対策のトレードオフは存在するか 293
  感染症と経済への対策は両立できる


おわりに(2020年11月 黒木登志夫) [297-300]


再校時の追記(Note added in proof) 301
 1. 第三波
 2. グーグルによる日本の感染予測
 3. ヨーロッパの感染爆発
 4. ミンクのコロナ
 5. 98%以上有効なワクチン開発

引用資料 [308-326]



[コラム]
1 ウイルス名 034
2 ベロ(Vero)細胞 036
3 変異 044 
4 感染した医師の手記 064
5 コロナ感染を自己診断するメニュー 066
6 パルスオキシメータ 069
7 死亡判断書の書き方 075
8 致死率と死亡率 076
9 カーマック・マッケンドリックのSIRモデル 084
10 有効再生産数(R_t)の計算 086
11 有効再生産数のサイト 090
12 方方『武漢日記』 108
13 生物学的安全レベル 119
14 ダイヤモンド・プリンセス号からの帰還 142
15 PCR発見物語「もう一つ大発見ができますね」 211
16 安心のための注射 222
17 最初のワクチン物語 249
18 集団免疫に必要な免疫保有者の計算 254
19 院内感染:看護師の手記 266
20 保健所に134回電話して、やっとPCR検査 279





【関連サイト】

著者のブログとのこと。
コロナウイルスarXiv @ 「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」

『新自由主義の妖怪――資本主義史論の試み』(稲葉振一郎 亜紀書房 2018)

著者:稲葉 振一郎[いなば・しんいちろう] (1963-) 
装幀:水戸部 功[みとべ・いさお] 装幀。
NDC:331.7 経済思想(近代経済学派.近代理論)


亜紀書房 - 「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み


【目次】
目次 [002-007]
はじめに [008-009]


第1章 マルクス主義の亡霊 011
1 「新自由主義」は社会主義前夜なのか? 014
  「新自由主義」という「段階」?
  マルクス主義の歴史神学の失効

2 資本主義に「外部」は必要なのか? 023
  マルクス唯物史観とはどんなものか
  サブ発展段階論による唯物史観のアップデート
  ローザ・ルクセンブルクと資本主義の「外部」
  オーソドックスなマルクス主義の産業予備軍論
  ルクセンブルクの短絡
  資本主義は「外部」の搾取なくしては成立しない?
  ルクセンブルクの理論の後世への影響
  日本のマルクス主義で、発展段階論はどう議論されたか
  帝国主義論とはいったい何だったのか
  「資本主義世界経済」概念の誕生
  新しく解釈された「二重構造」論
  段階を変化させるのは生産力(土台)か、政策思想(上部構造)か

3 国家独占資本主義としての福祉国家の危機? 068
  マルクス主義と「新自由主義」の福祉国家批判という共通性
  福祉国家の危機とは何なのか


第2章 ケインズ復興から見えるもう一つの経済史 077
1 ケインズ主義とは何か 079
  新しいケインズ経済学の復興
  ケインズ政策と管理通貨体制「マクロ経済」の発見者としてのケインズ
  「マクロ経済」とは何か
  国際通貨制度としての金本位制
  かつてのケインズ主義の不均衡分析の論点
  新しいケインズ像による不均衡分析の論点
  「ケインジアンマネタリスト」論争の誤解
  フリードマンハイエクの重大な経済観の相違
  「ケインジアンマネタリスト」論争の歴史的コンテクスト
  論争の左右イデオロギーへの回収
  市場への楽観論と悲観論
  それぞれの立場で切り分けてみる
  問題は「市場か計画か」ではない

2 発展段階論を超えて、経済史理解の転換へ 121
  マルクス主義的なケインズ理解の時代的制約
  ケインズの真の論点① マクロ的不均衡の調整メカニズムの不在
  ケインズの真の論点② 金融セクターの自律性と暴走
  銀行の信用創造とマクロ経済政策
  「ケインズ政策≒ 戦争経済」論の誤り
  「新自由主義段階へのシフト」という図式は成り立つのか?
  国際経済体制の転換こそが真のメルクマール
  寄せ集めのレッテルとしての「新自由主義


第3章 「保守本流」思想としての産業社会論 161
1 戦後保守主義社会民主主義の屋台骨としての産業社会論 163
  反ケインズ主義的福祉国家としての「新自由主義
  「保守本流」としてのケインズ主義的福祉国家と産業社会論
  資本主義と社会主義は一つの形態に収斂する?
  支配階級は資本家から官僚組織へ
  保守本流の崩壊と新保守主義の台頭

2 村上泰亮の蹉跌 182
  産業社会論の代表的論客としての村上泰亮
 「資本主義の精神」としての「イエ原理」?
  近代日本社会に対する三つの立場
  「新自由主義」と対決する産業社会論
  「開発主義」の時代の終焉と「新中間層」の台頭
  アメリカの覇権の揺らぎと変動相場制への移行による新しい世界秩序

3 産業社会論の衰退とその盲点 214
  社会主義と資本主義のパフォーマンスを分けた技術革新
  ホモ・エコノミクスとホモ・ソシオロジクス
  新中間層を支えた学校教育という制度
  経済の中心は公的セクターに移行した?
  産業社会論の衰退と「経済学帝国主義」の勝利

4 保守主義思想の屋台骨の喪失と「新自由主義」の台頭 240
  市場均衡論の「回帰」
  「産業社会論の基本構造」とは何か?
  「新自由主義」は保守主義思想の屋台骨なのか
  産業社会論没落以後の知的空白


第4章 冷戦崩壊後の世界秩序と「新自由主義」という妖怪 259
1 冷戦崩壊後の世界秩序 261
  現在の国際政治学をどう見るべきか
  「インドモデル」からNIEs的キャッチアップへ
  アジアとアフリカの「明暗」はなぜ分かれたのか
  「新自由主義」が必要ない国へのその押しつけとしての「構造調整」
  ゲーム理論による政治経済学の新しい基礎づけ

2 空白の中の「新自由主義」 292
  冷戦崩壊後のイデオロギー対立の行方
  包括的イデオロギーなしでやっていける現代資本主義?
  社会の質的な多元性はいかにして「保守」されるのか
  社会における多様性の総合の問題
  「疎外」の行方
  マルクス主義の鏡像としての「新自由主義


エピローグ 対立の地平の外に出る 327
  対立の地平の外に出る
  マルクス主義と「新自由主義」との共通の土俵
  「市民社会と国家」「計画と市場」の二分法
  対立の地平の外に出る


付論 現代日本の政策論議 344


おわりに(2018年7月 稲葉振一郎) [352-353]
参考文献 [354-361]




【関連記事】


・過去の著作はいくつか拝見したことがある。

『増補 経済学という教養』(稲葉振一郎 ちくま文庫 2008//2004)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20081205/1473838866

『「公共性」論』(稲葉振一郎 NTT出版 2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140301/1482597336

『不平等との闘い――ルソーからピケティまで』(稲葉振一郎 文春新書 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160925/1473835904


・直接登場する書名。

『雇用、利子、お金の一般理論』(John Maynard Keynes[著] 山形浩生[訳] 講談社学術文庫 2012//1936)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150401/1472950581

『ライブ・経済学の歴史――“経済学の見取り図”をつくろう』(小田中直樹 勁草書房 2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150701/1487071131


新自由主義または経済思想または経済体制がテーマの本。URLを貼ってからこの一覧読み返すと、これらが適切なチョイスになっているか自信が弱まってきた。

『経済学者たちの闘い[増補版]――脱デフレをめぐる論争の歴史』(若田部昌澄 東洋経済新報社 2013//2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160429/1462191648

『現代の経済思想』(橋本努[編] 勁草書房 2014
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150221/1517761205

現代社会論のキーワード――冷戦後世界を読み解く』(佐伯啓思, 柴山桂太[編] ナカニシヤ出版 2009)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20110729/1460521144

『日本型新自由主義とは何か――占領期改革からアベノミクスまで』(菊池信輝 岩波現代全書 2016)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20171021/1506427664

リバタリアニズム――アメリカを揺るがす自由至上主義』(渡辺靖 中公新書 2019)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190317/1552748400

『現存した社会主義――リヴァイアサンの素顔』(塩川伸明 勁草書房 1999)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20160309/1460516157

『資本主義が嫌いな人のための経済学』(Joseph Heath[著] 栗原百代[訳] NTT出版2012//2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20150601/1485775444





【抜き書き】

はじめに

 本書の元になった連載にあたって〔……〕私自身としてはこの題目、ことに「新自由主義(Neo Liberalism)」という言葉を使うことにためらいがありました。どういうことかというと、この言葉多分に実体がない――具体的にまとまったある理論とかイデオロギーとか、特定の政治的・道徳的立場を指す言葉というよりは、せいぜいある種の「気分」を指すもの、せいぜいのところ批判者が自分の気に入らないものにつける「レッテル」であって「ブロッケンのお化け」以上のものではないのではないか、という疑いがどうしても抜けなかったからです。しかしながらせっかくの機会ですから、本書ではやや新しい角度からこの問題について見ていきます。
 結論を先取りしていえば、我々はマルクス主義に匹敵するような体系的イデオロギーとして「新自由主義」なるものがあるとは考えるべきではない、ということになります。むろんマルクス主義だって一枚岩ではありませんし、その中で非和解的な対立や論争もあります。ただキリスト教イスラーム、あるいは仏教が多くの宗派に分かれつつも、それでもそれら宗派をまとめて「同じ宗教の中の様々な宗派」とみなすことに我々は違和感を覚えません。同様のことはマルクス主義についてもかなり当てはまる、と我々は考えます。しかしながらいわゆる「新自由主義」に対しては、それは当てはまらない、というわけです。それはどういうことでしょうか?