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目次とメモを置いとく場

『マンガ学からの言語研究——「視点」をめぐって』(出原健一 ひつじ書房 2021)

著者:出原 健一[いではら・けんいち] 認知言語学
装丁:宗利 淳一[むねとし・じゅんいち] グラフィック・デザイナー
シリーズ:未発選書;第28巻
NDC:801.04 言語心理学
件名:認知言語学
件名:漫画


ひつじ書房 マンガ学からの言語研究 「視点」をめぐって 出原健一著


【目次】
はじめに [iii-v]
目次 [vii-x]


第1章 言語学とマンガ学の接点を求めて 001
  本書の目的 001


第2章 認知言語学は視点をどう取り扱ってきたか 009
2.1 「言語学」とは? 011
2.2 謎を解くための仮定(1)——生成文法理論—— 011
2.3 謎を解くための仮定(2)——認知言語学—— 013
2.4 「一般認知能力が言語に反映」とは?——認知言語学入門—— 015
  2.4.1 一般認知能力の「語の意味」への反映
    2.4.1.1 必要十分条件からプロトタイプへ
    2.4.1.2 図と地
  2.4.2 一般認知能力の「文法」への反映
  2.4.3 認知言語学における「視点」「視線」
    2.4.3.1 「視線」から「主体化」へ
    2.4.3.2 主体化
    2.4.3.3 言語化する際の「視点」


第3章 マンガ学における視点論 069
3.1 マンガ学とは 070
3.2 マンガ表現論 077
3.3 竹内オサムの視点論——同一化技法—— 082
3.4 泉信行の視点論 097
  3.4.1 泉(2008a)の視点論
  3.4.2 誰でもない者の視点
  3.4.3 誰かの視点
  3.4.4 誰でも視点


第4章 マンガ学の視点論と言語学の視点論の融合 119
4.1 野村(2016)の意義 119
4.2 新たな視点理論の構築へ向けて 123


第5章 ルビと視点 マンガやライトノベルに見られる拡張的ルビ
5.0 ルビ以前——様々な見解の併記—— 130
5.1 先行研究 133
5.2 「視点」から見たルビの分類 135
5.3 引用文献 136
5.4 データの分類・分析 137
  5.4.1 主観的把握の表現に客観的把握のルビ
  5.4.2 客観的把握の表現に主観的把握のルビ
  5.4.3 複数の視座が関わる事例
  5.4.4 連動型
5.5 拡張的ルビの効果 151
5.6 黒田(2016)、朽方(2017) 154
5.7 ルビと話法 159


第6章 話法と視点 163
6.1 序 163
6.2 英語の話法 163
6.3 先行研究 174
  6.3.1 Brinton(1980)
  6.3.2 O’Neill(1994)
  6.3.3 自由間接話法の分析に向けて
6.4 自由間接話法と共同注意 182
  6.4.1 自由間接話法の「キュー」
  6.4.2 これまでの引用例
  6.4.3 知覚表現
  6.4.4 行為表現
  6.4.5 判断表
  6.4.6 表現される順序と認知プロセス
  6.4.7 例外的(?)事例
  6.4.8 自由間接話法と同一化技法
  6.4.9 エコー発話
  6.4.10 第6章前半のまとめ
6.5 日本語の自由間接話法 201
6.6 自由間接話法の視点 205
  6.6.1 話法の視点
  6.6.2 英語の自由間接話法と身体離脱ショット
  6.6.3 日本語の自由間接話法の視点
  6.6.4 自由間接話法とは
6.7 最近の研究 218
6.8 自由間接話法と拡張的ルビ 223
6.9 まとめ 223


終章 今後の視点論の展望 227 


参考文献 [235-241]
謝辞(2021年1月 出原健一) [243-245]
索引 [247-249]





【関連文献】
マンガの認知科学 - 北大路書房 心理学を中心に教育・福祉・保育の専門図書を取り扱う出版社です

『認知言語学を紡ぐ』(森雄一, 西村義樹, 長谷川明香[編] くろしお出版 2019)

編者:森 雄一[もり・ゆういち] 成蹊大学文学部教授
編者:西村 義樹[にしむら・よしき] 東京大学大学院人文社会系研究科教授
編者:長谷 川明香[はせがわ・さやか] 成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員。
著者:有直 智美[ありぞの・さとみ] 名古屋学院大学国語学部准教授.
井川 壽子[いかわ・ひさこ] 津田塾大学学芸学部英語英文学科教授.
古賀 裕章[こが・ひろあき] 慶應義塾大学法学部専任講師.
小松原 哲太[こまつばら・てつた] 立命館大学言語教育センター講師
鈴木 亨[すずき・とおる] 山形大学人文社会科学部教授
田中 太一[たなか・たいち] 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
張 莉(张 莉)[ちょう・り] 上海市甘泉外国語中学日本語部講師.
永澤 済[ながさわ・いつき] 名古屋大学国際言語センター・大学院人文学研究科准教授.
野田 大志[のだ・ひろし] 愛知学院大学教養部准教授.
野中 大輔[のなか・だいすけ] 国立国語研究所プロジェクト非常勤研究員.
野村 益寛[のむら・ますひろ] 北海道大学大学院文学研究院教授.
平沢 慎也[ひらさわ・しんや] 慶應義塾大学非常勤講師,東京大学非常勤講師,東京外国語大学非常勤講師.
本多 啓[ほんだ・あきら] 神戸市外国語大学英米学科教授。
籾山 洋介[もみやま・ようすけ] 南山大学人文学部日本文化学科教授.
八木橋 宏勇[やぎはし・ひろとし] 杏林大学国語学部准教授
シリーズ:成蹊大学アジア太平洋研究センター叢書


認知言語学を紡ぐ|くろしお出版WEB


【目次】
序 [iii-iv]
目次 [v-vi]


第1部 規則性と変則性のあいだ

第1章 日本語母語話者による英語メトニミー表現解釈における知識と文脈の役割[有薗智美]003
1. はじめに 003

2. 外国語の比喩表現 003

3. 日本語母語話者による英語メトニミー表現の解釈ストラテジー 005
  3.1 調査対象者
  3.2 調査に使用されるメトニミー表現
  3.3 調査手順
  3.4 結果と考察
    3.4.1 メトニミー解釈のストラテジー
    3.4.2 適切なメトニミー解釈を左右する要因
4. 名詞転換動詞の解釈と,名詞から想起される行為との関係 015
  4.1 アンケート対象者
  4.2 アンケート内容
  4.3 結果と考察

5. おわりに 022

付記 022
参照文献・用例出典 023


第2章 レトリックの認知構文論――効果的なくびき語法の成立基盤[小松原哲太] 025
1. はじめに 025

2. くびき語法 025
  2.1 広義のくびき語法
  2.2 狭義のくびき語法
  2.3 破格くびきと非文くびき
  2.4 くびき語法の分類
  2.5 くびき語法の構文と意味

3. くびき語法の構文と意味 030
  3.1 並立の2つの基本機能
  3.2 等位構造と構成性
  3.3 くびき語法の成立条件

4. 二重性のバリエーション 036

5. 並立のバリエーション 037

6. 共有のバリエーション 040

7. 関連性のバリエーション 041

8. おわりに 043

付記 044
引用例出典・参照文献 044


第3章 創造的逸脱を支えるしくみ―― Think differentの多層的意味解釈と参照のネットワーク[鈴木亨] 047
1. はじめに 047

2. Differentの語彙的意味づけ 048

3. 疑似他動詞用法と引用実詞 050
  3.1 Thinkの疑似他動詞用法
    3.1.1 同族目的語構文
    3.1.2 意識の集中を指示する命令文
  3.2 引用実詞を補部とする構文化

4. 〈SVC〉構文における属性評価 056
  4.1 寸法の形容詞と色彩の形容詞
  4.2 属性評価の〈SVC〉構文
  4.3 属性評価文の拡張型

5. 属性評価文の多層的意味解釈 061
  5.1 命令文における結果変化の含意
  5.2 混交と多層的意味解釈
    5.2.1 [NP BE/SEEM ADJ]の枠組み
    5.2.2 〈SVC〉構文の多層的意味解釈
    5.2.3 参照される関連表現のネットワーク

6. まとめ 068

付記 068
参照文献・使用コーパス 068


第4章 母語話者の内省とコーパスデータで乖離する容認度判断―― the reason... is because...パターンが妥当と判断されるとき[八木橋宏勇] 071
1. はじめに 071

2. 非標準用法ないしは誤用と判断される2つの理由 071
  2.1 文法的な理由
  2.2 冗長であるという理由
  2.3 母語話者の容認度判断はどれほど妥当なのか

3. RBパターンが好まれる文法的環境 080
  3.1 コーパスデータから見るRBパターンが好まれる文法的環境
  3.2 語の構造的関連性と物理的距離
  3.3 疑似分裂文としてのRBパターンと情報構造
  3.4 RB/RTパターンにおけるbecauseとthatの交替

4. おわりに 087

参照文献・用例出典 088


第2部 認知意味論の諸相

第1章 生物の和名俗名における意味拡張[永澤済] 093
1. はじめに 093

2. 語形成のタイプ 095
  2.1 単独X型
  2.2 X+種属名型
  2.3 P+種属名型
  2.4 種属名+S型

3. Xの意味の拡張のタイプ 102
  3.1 メタファー的命名
  3.2 メトニミー的命名
  3.3 混合型

4. 焦点化と表現法の多様性 109
  4.1 焦点化する事物の多様性
  4.2 表現法の多様性

5. 「相対的」命名法 111

6. まとめ――種属を超えた共通性―― 111

7. 今後の課題と展望 113

資料・写真・電子版資料・参照文献 113


第2章 百科事典的意味の射程――ステレオタイプを中心に[籾山洋介] 115
1. はじめに 115

2. 百科事典的意味とは 115
  2.1 語の意味の慣習性の程度
  2.2 語の指示対象の特徴
  2.3 語の意味の背景知識としてのフレーム
  2.4 語の一般性の程度が完全でない意味
  2.5 まとめ

3. ステレオタイプ 122
  3.1 典型的なステレオタイプ――慣習性が高く,一般性が低い場合――
  3.2 慣習性が高く,一般性がゼロの場合
  3.3 慣習性も一般性も低い場合
  3.4 まとめ

4. おわりに 132

付記 133
参照文献 133


第3章 現代日本語における名詞「名」の多義性をめぐって[野田大志]137
1. はじめに 137

2. 呼称としての言語記号の存在意義 138
  2.1 (主に)命名者にとっての位置づけ
  2.2 (主に)使用者にとっての位置づけ

3. 名詞「名」の多義構造 140
  3.1 呼称としての言語記号
    3.1.1 意味1
    3.1.2 意味2
    3.1.3 意味3
    3.1.4 意味1〜3全てに共通するスキーマ
  3.2 呼称の指示対象と実体との不一致
    3.2.1 意味4
    3.2.2 意味5
    3.2.3 意味6
    3.2.4 意味4〜6に共通するスキーマ
  3.3 言語記号の構成要素の焦点化
    3.3.1 意味7
    3.3.2 意味8
    3.3.3 意味7と意味8の意味づけ
  3.4
    3.4.1 意味9
    3.4.2 意味10
  3.5 名詞「名」の多義構造 155
4. 呼称としての言語記号に関するフレーム 155

5. おわりに 157

付記 157
参照文献 158



第3部 構文論の新展開
 
第1章 英語の接続詞when ――「本質」さえ分かっていれば使いこなせるのか[平沢慎也] 161
1. はじめに 161

2. 何を〈意味〉と呼ぶか 162
  2.1 意味観Aと意味観B
  2.2 分析者にとっての意味観と,分析者にとっての言語学の目標

3. whenのいくつかの用法 168
  3.1 whenの内容コメント用法
  3.2 whenの行為解説用法
  3.3 whenの代表発言用法
  3.4 「is when定義文」
  3.5 SNSにおける「共感喚起when構文」
  3.6 「語りのwhen節」

4. 意味観Aと意味観B,そしてwhen 176

5. 結語 179

参照文献 183


第2章 打撃・接触を表す身体部位所有者上昇構文における前置詞の選択―― hitを中心に[野中大輔] 183
1. はじめに 183

2. 身体部位所有者上昇構文の特徴 183
  2.1 目的語および前置詞句に現れる名詞句
  2.2 動詞
  2.3 前置詞

3. 動詞と全治詞の共起に関わる問題 186

4. コーパス調査 188
  4.1 調査方法
  4.2 調査結果と先行研究の検討

5. 働きかけの方向 191

6. 使用基盤モデルの観点から 196
  6.1 スキーマの段階性
  6.2 下位スキーマの重要性
  6.3 前置詞研究との関連

7. まとめ 200

付記 200
参照文献 200
付録(第4節で示したon/inの補部名詞の完全なリスト) 202


第3章 日本語における使役移動事象の言語化――開始時使役KICK場面を中心に[古賀裕章] 203
1. はじめに 203

2. 移動にかかわる意味要素と移動表現の類型論 203

3. データについて 206

4. 日本語の使役移動事象の言語化にみられる特徴 207
  4.1 自律移動事象と使役移動事象の言語化の間の差異
  4.2 意味要素の表現頻度を決定づける言語個別的要因
  4.3 主語一致の原則
  4.4 逆行構文による直示情報の指定
  4.5 経路の表示と表現パターンについて

5. 結語 225

付記 227
略語一覧・参照文献 229


第4章 英語における中間構文を埋め込んだ虚構使役表現について[本多啓] 231
1. はじめに 231

2. 虚構使役表現の具体例 234

3. 虚構使役表現の動機づけ:概念世界の中での(当事者にとっての)変化 241

4. 主体変化表現(主観的変化表現) 244
  4.1 現象と本章の立場
  4.2 中間構文および虚構使役表現との関連

5. 結語 247

付記 250
参照文献 250


第5章 主要部内在型関係節構文の談話的基盤[野村益寛] 254
1. はじめに 254

2. 文処理からみた主要部内在型関係節 254

3. 「継ぎ足し戦略」からみた主要部内在型関係節 258
  3.1 継ぎ足し戦略
  3.2 統語的融合としての主要部内在型関係節

4. 結論 265

略語一覧・参照文献 269



第4部 認知言語学から見た日本語文法

第1章 再帰と受身の有標性[長谷川明香・西村義樹] 275
1. はじめに 275

2. 認知言語学におけるsubjectivity 275
  2.1 Langackerのsubjectivity
  2.2 池上の主観的把握
  2.3 井川論文における自己認識

3. 認知文法から見た日本語の受身 286

付記・参照文献 296


第2章 再帰代用形「自分」とImage SELF ――言語におけるリアリティをめぐって[井川壽子] 299
1. はじめに 299

2. 再帰代用形「自分」の指示対象,および,「自分」の抽象化制約 300

3. 分身(doppelgaenger)――2つのレベルにおける同一性―― 303

4. 言語における「リアリティ」および「実体的存在」――定延(2006),定延・程(2011),木村(2014)―― 307

5. 「人がある」存在文の属性読み 311

6. Image SELFとしての「自分」――リアリティの度合い―― 314

7. おわりに 316

付記・参照文献 317


第3章 非情の受身の固有性問題――認知文法の立場から[張莉] 321
1. はじめに 321

2. 「非固有説」の研究史 322
  2.1 「非固有説」の起源と思われる研究
  2.2 「非固有説」のその後の展開
    2.2.1 「非固有説」を批判する研究
    2.2.2 「非固有説」を支持する研究

3. 日本語の受動構文の成立要因――そのプロトタイプ――330

4. 固有の非情の受身 333
  4.1 状態性の表現
    4.1.1 非情物主語行為者無表示――「XがV(ら)れたり」――
    4.1.2 非情物主語行為者ニ表示――「XがYにV(ら)れたり・(ら)る」――
  4.2 動作・作用の表現
    4.2.1 非情物主語行為者無表示――「XがV(ら)る」――
    4.2.2 非情物主語行為者ニ表示――「XがYにV(ら)る」――

5. まとめ 339

参照文献 340


第4章 日本語受身文を捉えなおす――〈変化〉を表す構文としての受身文[田中太一] 343
1. はじめに 343

2. 益岡による受身文の分類 343
  2.1 それぞれの論文における受影受動文の意味
  2.2 川村(2012)における〈被影響〉説の問題点
  2.3 〈被影響〉の内実規程
  2.4 主語の指示対象が物理的影響を認識しているとはどのようなことか
  2.5 迷惑受身は主語の指示対象への心理的影響を義務的に表すか
  2.6 〈変化〉概念による問題の解消

3. 属性叙述受動文に関する先行研究 352
  3.1 益岡(1982, 1987, 1991, 2000)の分析
  3.2 天野(2001)の分析
  3.3 坪井(2002)の分析
  3.4 和栗(2005)の分析

4. 「間主観的変化表現」としての属性叙述受動文 357

5. 受身文の意味 361

6. おわりに 363

参照文献 364



執筆者一覧 [366-369]




【抜き書き】

認知言語学を紡ぐ』執筆者一覧

【編者】
森 雄一 (もり ゆういち) 成蹊大学文学部教授
西村 義樹 (にしむらよしき) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
長谷 川明香(はせがわさやか) 成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員


【著者】(五十音順)
有直 智美(ありぞの さとみ)
現在,名古屋学院大学国語学部准教授.
【主要業績】 The interpretation of metonymy by Japanese learners of English.(Jeannette Littlemore 氏・Alice May氏との共著) In Ana Maria Piquer-Piriz and Rafael Alejo-González, eds., Applying Cognitive Linguistics: Figurative language in use, constructions and typology. John Benjamins, 2018.
「[手+形容詞・形容動詞]における「手」の実質的意味」山梨正明(編)『認知言語学論考 vol.14ひつじ書房2018.
行為のフレームに基づく「目」,「耳」, 「鼻」の意味拡張――知覚行為から高次認識行為へ――」『名古屋学院大学論集言語・文化篇』 25(1), 2013.


井川 壽子(いかわ ひさこ)
現在,津田塾大学学芸学部英語英文学科教授.
【主要業績】『イベント意味論と日英語の構文くろしお出版 2012.
Thetic markers and Japanese/Korean perception verb complements. Japanese Korean Linguistics 7, CSLI Publications, 2010.


古賀 裕章(こが ひろあき)
現在,慶應義塾大学法学部専任講師.
【主要業績】「日英独露語の自律移動表現」松本曜(編)『移動表現の類型論くろしお出版 2017.
「自律移動表現の日英比較――類型論的視点から――」藤田耕司・西村義樹(編)『文法と語彙への統合的アプローチ――生成文法・認知言語学と日本語学――』開拓社 2016.
「「てくる」のヴォイスに関連する機能」森雄一・西村義樹・山田進・米山三明(編)『ことばのダイナミズムくろしお出版 2008.


小松原 哲太(こまつばら てつた)
現在,立命館大学言語教育センター講師
【主要業績】「修辞的効果を生み出すカテゴリー化――日本語における類の提喩の機能的多様性――」『認知言語学研究』 3, 2018. 『レトリックと意味の創造性――言葉の逸脱と認知言語学――京都大学学術出版会 2016.


鈴木 亨(すずき とおる)
現在,山形大学人文社会科学部教授
【主要業績】『慣用表現・変則表現から見える英語の姿』(住吉蔵氏・西村義博氏との共編著) 開拓社 2019.Spurious resultatives revisited. Predication mismatch and adverbial modification, 『山形大学人文学部研究年報』 14, 2017.
「Think different から考える創造的逸脱表現の成立」 菊地期他(編)『言語学の現在を知る26考』研究社 2016.


田中 太一(たなか たいち)
現在,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
【主要業績】「日本語は「主体的」な言語か――「認知言語類型論原理」について」『東京大学言語学論集』41,2019.
「同じ事物」と「ありのままの現実」」『東京大学言語学論集』40,2018. 「日本語受身文をめぐる黒田久野論争について」『東京大学言語学論集』38, 2017.


張 莉(张 莉)[ちょう り]
現在,上海市甘泉外国語中学日本語部講師.
【主要業績】「古代日本語における非情の受身の意味」『東京大学言語学論集』38,2017.
「现代日语书面语无生命主语ニ格被动句研究」『日语教育与日本学』(华东理工大學出版社)10, 2017.


永澤 済[ながさわ いつき]
現在,名古屋大学国際言語センター・大学院人文学研究科准教授.
【主要業績】「近代民事判決文書の口語化――ある裁判官の先駆的試み――」『東京大学言語学論集』37, 2016.
「複合語からみる「自分」の意味変化――なぜ「自分用事」「自分家」「自分髮」という言い方ができたか――」『東京大学言語学論集』 29, 2010.
「様態副詞から文副詞へ――日本語の副詞「明らかに」の歴史的変化――」『認知言語学論考 No.7』 2008.


西村 義樹(にしむら よしき)
現在,東京大学大学院人文社会系研究科教授.
【主要業績】『認知文法論I』 (編著)大修館書店 2018.
言語学の教室一哲学者と学ぶ認知言語学』(野矢茂樹氏との共著)中央公論新社 2013.
認知言語学――事象構造――』(編著)東京大学出版会 2002.


野田 大志(のだ ひろし)
現在,愛知学院大学教養部准教授.
【主要業績】「日本語多義動詞の意味分析に関する覚書――メタ言語の選定及び語義の区分――」「愛知学院大学教養部紀要』65(3), 2018. 「現代日本語における動詞「ある」の多義構造」『国立国語研究所論集』 12, 2017. 「「他動詞連用形+具体名詞」型複合名詞の意味形成」『日本語の研究』7(2), 2011.


野中 大輔(のなか だいすけ)
現在,国立国語研究所プロジェクト非常勤研究員.
【主要業績】「語形成への認知言語学的アプローチ――under-V の成立しづらさとunder-V-ed の成立しやすさ――」(株澤大輝氏との共著) 岸本秀樹(編)「レキシコンの現代理論とその応用』くろしお出版 2019.「構文の記述方法と構文の単位を問い直す――英語の場所格交替を例に――」『東京大学言語学論集』 40,2018.『不確かな医学』(シッダールタ・ムカジー著,訳書) 朝日出版社 2018.


野村 益寛(のむら ますひろ)
現在,北海道大学大学院文学研究院教授.
【主要業績】『認知言語学とは何か――あの先生に聞いてみよう――』(高橋英光氏・森雄一氏との共編著)くろしお出版 2018. 「事象統合からみた主要部内在型関係節構文――「関連性条件」再考――」藤田耕司・西村義樹(編)『日英対照文法と語彙への統合的アプローチ』開拓社 2016.『ファンダメンタル認知言語学ひつじ書房 2014.


長谷川 明香(はせがわ さやか)
現在,成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員.
【主要業績】「認知言語学のどこが「認知的」なのだろうか?」(西村義樹氏との共著)高橋英光・野村益寛・森雄一(編)『認知言語学とは何か――あの先生に聞いてみよう』くろしお出版 2018.
『メンタル・コーパス――母語話者の頭の中には何があるのか』(ジョン・R. テイラー著,西村義樹氏・平沢慎也氏・大堀壽夫氏との共編訳)くろしお出版 2017.
「語彙,文法,好まれる言い回し――認知文法の視点――」(西村義樹氏との共著) 藤田耕司・西村義樹 (編)『日英対照文法と語彙への統合的アプローチ――生成文法認知言語学と日本語学――』開拓社 2016.


平沢 慎也(ひらさわ しんや)
現在,慶應義塾大学非常勤講師,東京大学非常勤講師,東京外国語大学非常勤講師.
【主要業績】『前置詞 by の意味を知っているとは何を知っていることなのか――多義論から多使用論へ――』くろしお出版 2019.
『メンタル・コーパス――母語話者の頭の中には何があるのか』(ジョン・R. テイラー著,西村義樹氏・長谷川明香氏・大堀壽夫氏との共編訳) くろしお出版 2017.
Why is the wdydwyd construction used in the way it is used? English Linguistics 33 (2), 2017.


本多 啓(ほんだ あきら)
現在,神戸市外国語大学英米学科教授。
【主要業績】「構文としての日本語連体修飾構造――縮約節構造を中心に――」天野みどり・早瀬尚子(編)『構文の意味と拡がり」くろしお出版 2017.
『知覚と行為の認知言語学――「私」は自分の外にある――』開拓社 2013.
アフォーダンスの認知意味論――生態心理学から見た文法現象――』東京大学出版会 2005.


籾山 洋介(もみやま ようすけ)
现在,南山大学人文学部日本文化学科教授.
【主要業績】 「ステレオタイプの認知意味論」『認知言語学論考 No.13』ひつじ書房,2016.
『日本語研究のための認知言語学』研究社,2014.
『日本語は人間をどう見ているか』研究社 2006.


八木橋 宏勇(やぎはし ひろとし)
現在,杏林大学国語学部准教授
【主要業績】「使用基盤モデルから見たことわざの創造的使用」『ことわざ』,ことわざ学会,2015.
「実践的イディオム学習への認知的アプローチ」『杏林大学国語学部紀要』24,2012.
『聖書と比喩――メタファを通して旧約聖書の世界を知る』(橋本功氏との共著)慶應義塾大学出版会,2011.

『認知言語学を拓く』(森雄一, 西村義樹, 長谷川明香[編] くろしお出版 2019)

編者:森 雄一[もり・ゆういち] 成蹊大学文学部教授
編者:西村 義樹[にしむら・よしき] 東京大学大学院人文社会系研究科教授
編者:長谷 川明香[はせがわ・さやか] 成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員。
著者:相原 まり子[あいはら・まりこ] 東京大学教養学部非常勤講師,日本大学文理学部非常勤講師。
著者:石塚 政行[いしづか・まさゆき] 東京大学大学院人文社会系研究科助教.
著者:大橋 浩[おおはし・ひろし] 九州大学基幹教育院・大学院人文科学府教授.
著者:加藤 重広[かとう・しげひろ] 北海道大学大学院文学研究院教授.
著者:小嶋 美由紀[こじま・みゆき] 関西大学国語学部・大学院外国語教育学研究科教授.
著者:小柳 智一[こやなぎ・ともかず] 聖心女子大学現代教養学部教授.
著者:真田 敬介[さなだ・けいすけ] 札幌学院大学人文学部准教授
著者:高橋 英光[たかはし・ひでみつ] 北海道大学名誉教授.
著者:長屋 尚典[ながや・なおのり] 東京大学大学院人文社会系研究科准教授,
著者:西山 佑司[にしやま・ゆうじ] 慶應義塾大学名誉教授、明海大学名誉教授.
著者:野村 剛史[のむら・たかし] 東京大学名誉教授、
著者:三宅 登之[みやけ・たかゆき] 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授
著者:李 菲[り・ふぇい] 立教大学ランゲージセンター教育講師
シリーズ:成蹊大学アジア太平洋研究センター叢書
装丁:右澤 康之


認知言語学を拓く|くろしお出版WEB



【目次】
序(森雄一 西村義樹 長谷川明香) [iii-iv]
目次 [v-vi]


◆第1部 フィールド言語学認知言語学

第1章 バスク語の名詞文・形容詞文の文法と意味[石塚政行]
1. はじめに 003
2. 分析に用いる認知文法の概念 004
3. バスク語の名詞句とコピュラ文 007
  3.1 バスク語の名詞句
  3.2 バスク語のコピュラ文
4. 名詞文の分析 013
  4.1 名詞文はタイプと事例の関係を表す
  4.2 なぜ定冠詞か
  4.3 同定文との比較
5. 形容詞文の分析 017
  5.1 主要部闕如名詞句の意味構造
  5.2 形容詞文の補語名詞句もモノのタイプを表す
6. まとめ 022
付記・略語一覧 ・参照文献 022


第2章 意図と知識――タガログ語のma-動詞の分析[長屋尚典]
1. はじめに 023
2. タガログ語の類型論的特徴と動詞形態論 024
  2.1 タガログ語の類型論的特徴
  2.2 焦点体系(フォーカス・システム)
  2.3 無標動詞とma-動詞 026
3. ma-動詞とその多機能性 027
  3.1 ma-動詞の意味――自発――
  3.2 ma-動詞の意味――意図成就――
  3.3 ma-動詞の意味――経験――
  3.4 ma-動詞の意味――可能――
  3.5 まとめ
4. 意図と知識 036
  4.1 ma-動詞の意味のネットワーク
  4.2 ma-動詞の解釈はどのように決まるのか
5. おわりに 041

付記・略語一覧・参照文献 042


◆第2部 中国語研究と認知言語学

第1章 中国語の攻撃構文における臨時動量詞の意味機能[李菲]
1. はじめに 047
2. ニ種類の動量詞 048
  2.1 回数を表す専用動量詞
  2.2 臨時動量詞の特異性
  2.3 “V了O―N” 051
3. 攻撃構文を表す臨時動量詞構文 053
  3.1 道具という観点の問題点
  3.2 “V了(O)―N”の生産性
  3.3 攻撃構文としての四特徴
4. 攻撃構文における臨時動量詞の意味機能 060
  4.1 臨時動量詞の意味機能と成立条件
  4.2 動作対象が臨時動量詞に変わる場合
  4.3 臨時動量詞が指すモノ
5. おわりに 065

略語一覧 ・参照文献 066


第2章 行為の評価からモノの属性へのプロファイル・シフトについて――中国語の難易度を表す形容詞の事例から[三宅登之]
1. はじめに 067
2. “简单”と“容易” 067
  2.1 中国語の類義語“简单”と“容易”
  2.2 文法機能の差の調査
    2.2.1 述語
    2.2.2 連体修飾語
    2.2.3 連用修飾語
3. モノ対象形容詞と行為対象形容詞 072
  3.1 “难”の文法機能について
  3.2 形容詞の2つの類――モノ対象形容詞と行為対象形容詞
  3.3 名詞性成分が“容易”だということの解釈
4. 行為と対象の間のプロファイル・シフトについて 079
  4.1 行為からモノへ
  4.2 モノから行為へ
5. 行為を表す部分の省略可否について 084
  5.1 英語の場合
  5.2 中国語の場合
6. まとめ 088
付記・略語一覧 ・参照文献 088


第3章 中国語主体移動表現の様相――ビデオクリップの口述データに基づいて[小嶋美由紀]
1. はじめに 091
2. 移動に関わる意味要素と移動表現の類型について 091
3. 実験とその目的 093
4. 中国語データの提示と問題提起 095
  4.1 中国語における意味要素間の競合について
  4.2 中国語における各情報の言及率
5. 直示言及率が低い要因 098
  5.1 直示の種類別言及率
  5.2 直示動詞と「地」を表す名詞句との共起関係
    5.2.1 /to/における「経路」及び「地」の表現方法
    5.2.2 /into/及び/up/における「経路」及び「地」の表現方法
  5.3 /up/においてTwdS言及率が低い要因
6. ビデオクリップ口述データから見た中国語の主体移動表現の累計 112
7. おわりに 114

付記・略語一覧 ・参照文献 114


第4章 中国語における直示移動動詞の文法化――[動作者名詞句+来+動詞句]の“来”の意味と文法化の道筋[相原まり子]
1. はじめに 117
2. これまでの研究 118
  2.1 意味に関する先行研究
    動作者の意志,積極性
    話し手の願望
    発話の場での動作立ち上げ
    焦点(フォーカス)
  2.2 文法化の道筋についての先行研究
3. “来f1”の獲得した意味 121
  3.1 誰かが行うべき行為とその担い手
  3.2 必要性のありか――〔話者領域【場】〕――
  3.3 前提
  3.4 主語の脱主題化
  3.5 希求
  3.6 心理的移動
4. 文法化の経路の推定 134
  4.1 推定方法
  4.2 変化が起こった環境と文法化の道筋
    ① “来m1”としか解釈できない(=“来f1”の可能性なし)
    ② どちらの“来”とも解釈できる
    ③ “来f1”としか解釈できない場合
5. おわりに 140

付記・略語一覧・参照文献 141


◆第3部 語用論と認知言語学の接点◆

第1章 認知言語学と関連性理論[西山佑司]
1. はじめに 145
2. 認知言語学と関連性理論の親和性 145
3. 言語研究に関する合理論と経験論 146
  3.1 生成文法理論(GC
  3.2 認知言語学(CL)
  3.3 認知言語学生成文法理論批判はどこまで正当化できるか
4. 関連性理論(RT) 151
  4.1 関連性理論の位置付け
  4.2 意味論的決定不十分性(semantic underdeterminacy)
5. 論理形式と表意の区別 156
  5.1 「論理形式と表意の区別」に対する CLの見解
  5.2 論理形式と表意の区別を否定することの帰結
    5.2.1 自由変項読みと束縛変項読みの曖昧性
    5.2.2 自由拡充に対する意味論的制約
6. 認知言語学(CL)は言葉の意味をいかなるものと考えているか 163
  6.1 意味とカテゴリー化
  6.2 世界の事態の捉え方(construal)の意味論
7. 結び 167
付記 ・参照文献 168


第2章 なぜ認知言語学にとって語用論は重要か――行為指示の動詞と項構造[高橋英光]
1. はじめに 171
2. 認知言語学と語用論の関係史 172
3. 意味論と語用論の峻別が招く弊害 176
4. なぜ認知言語学にとって語用論は重要か 179
5. 行為指示の動詞と項構造 180
  5.1 行為支持の二重目的語構文―― giveの場合
  5.2 行為支持の二重目的語構文―― tellの場合
  5.3 行為支持の二重目的語構文についてのまとめと考察
6. おわりに 186
付記・参照文献 187


第3章 日本語の語用選好と言語特性――談話カプセル化を中心に[加藤重広
1. はじめに 191
2. 動的言語観と作用の反転 192
3. 言語研究は複雑系と力動性をどう利用するか 194
  3.1 複雑系の主要概念と言語
  3.2 動的語用論と複雑系
4. 談話カプセル化と引用現象 202
  4.1 引用に関する先行研究
  4.2 引用のカプセル化
5. まとめと課題 212
参照文献 212


第4章 提喩論の現在[森雄一]
1. はじめに 215
2. 認知能力から見た提喩と換喩の区別 215
3. 提喩の非対称性と分類
4. アドホック概念構築 225
5. 自己比喩 231
6. おわりに 233
参照文献 234


◆第4部 言語変化と認知言語学

第1章 認知言語学と歴史語用論の交流を探る――MUSTの主観的義務用法の成立過程をめぐって[眞田敬介]
1. はじめに 239
2. 認知言語学と歴史語用論の概観 240
  2.1 認知言語学と言語変化研究
  2.2 歴史語用論
  2.3 認知言語学と歴史語用論の交流地点としての主観化
3. MUSTの義務用法における主観性と主観化 244
4. データ源 245
5. 古英語motanの意味・用法の概観 246
  5.1 motanの意味・用法の分類
  5.2 motanの義務用法を特定した基準
  5.3 motanの義務用法の派生に関わる文脈
6. 主観的義務用法の成立過程――古英語motanの分析から――
  6.1 motanの義務用法の観察
  6.2 主観的義務用法の成立と定着――使用頻度の観点から――
  6.3 主観的義務用法の成立過程――認知言語学的観点からの考察――
7. おわりに 257

付記・参照文献・コーパス 257


第2章 譲歩からトピックシフトへ――使用基盤による分析[大橋浩]
1. はじめに 261
2. 認知的アプローチと文法化 261
3. 譲歩への変化と譲歩からの変化 265
4. Having said thatにおける意味変化 267
  4.1 構文的特徴
  4.2 生起位置
  4.3 譲歩からトピックシフトへ
  4.4 関連構文における変化
  4.5 動機づけ
  4.6 理論的意味合い
5. おわりに 280

付記・参照文献・コーパス・辞書 281


第3章 ノダ文の通時態と共時態[野村剛史]
1. はじめに 285
2. ノダ文についての説明 285
3. 共時態と通時態 287
4. ナリ文とノダ文 290
5. 中古ナリ文の振る舞い 293
6. ナリ文からノダ文へ
7. 通時態の困難 302

参照文献 304


第4章 副詞の入り口――副詞と副詞化の条件[小柳智一]
1. はじめに 305
2. 副詞の捉え方 305
3. 副詞の拡がり 308
  3.1 確認副詞と評価副詞
  3.2 量副詞
  3.3 集合副詞と例示副詞・比喩副詞
  3.4 時間副詞と空間副詞

4. 副詞化の条件 314
  4.1 副詞化の意味的条件
  4.2 副詞形成
  4.3 挿入句経由
  4.4 連体修飾句経由
5. おわりに 321

付記・資料・参照文献 322


執筆者一覧 [324-326]




【抜き書き】

 本書は,「認知言語学を拓く」というタイトルのもと,14名の言語研究者が,それぞれの問題関心において言語現象を分析した論考を収録する。本書のもととなっているのは,2015年度~2017年度成蹊大学アジア太平洋研究センター共同研究プロジェクト「認知言語学の新領域開拓研究―英語・日本語・アジア諸語を中心として―」(研究代表者:森 雄一)である。このプロジェクトにおいては,研究会を8回,公開シンポジウムを2回開催し,プロジェクトメンバーとゲストスピーカーが報告と討議を行った。ゲストスピーカーには認知言語学的手法をメインにしている研究者だけではなく,様々なスタイルの研究者をお招きすることができ,認知言語学研究の活性化のため,有意義な機会であったと考える。その成果が,成蹊大学アジア太平洋研究センターからの助成を受け,本書『認知言語学を拓く』と姉妹書『認知言語学を紡ぐ』の2巻に成蹊大学アジア太平洋研究センター叢書としてまとめられることとなった。

『多モデル思考――データを知恵に変える24の数理モデル』(Scott E. Page[著] 椿広計[監訳] 長尾高弘[訳] 森北出版 2020//2018)

原題:The Model Thinker: What You Need to Know to Make Data Work for You (Basic Books)
著者:Scott E. Page 複雑系、社会科学。
監訳:椿 広計[つばき・ひろえ](1956-) 統計数理研究所所長。
訳者:長尾 高弘[ながお・たかひろ](1960-) (株)ロングテール社長。翻訳。
NDC:301.6 社会科学方法論。
NDC:417  確率論、数理統計学


多モデル思考|森北出版株式会社


【目次】
colophon [\]
題辞 [i]
プロローグ [ii-iv]
目次 [v-x]


第1章 多くのモデルで考える人
1.1 データ時代のモデル 003
1.2 なぜ多くのモデルが必要なのか 005
1.3 知の階層構造 008
1.4 この章のまとめと本書の概要 013


第2章 なぜモデルなのか
2.1 モデルのタイプ 016
2.2 モデルの7つの用途 017
  :推論(Reason)
  :説明(Explain)
  :デザイン(Design)
  :コミュニケーション(Communicate)
  :行動(Act)
  :予測(Predict)
  :探索(Explore)


第3章 多モデルの科学
3.1 独立した嘘としての多モデル 031
3.2 分類モデル 033
3.3 ひとつの大きなモデルと粒度問題 036
3.4 一石多鳥 039
  一石多鳥:高次化(x^x)
    スーパータンカー
    ボディマス指数
    新陳代謝
    女性CEO
3.5 まとめ 044


第4章 人間の行動のモデリング
4.1 人間のモデリングが抱える難しさ 050
4.2 合理的行為者モデル 052
  心理的なバイアス
4.3 ルールベースモデル 059
4.4 認知的閉鎖、大問題、多モデル 062


第5章 正規分布:ベル型曲線 
5.1 正規分布:構造 067
5.2 中心極限定理:論理 069
5.3 分布についての知識の応用:機能 070
  有意性検定
  シックスシグマ
5.4 対数正規分布:相乗効果 073
5.5 まとめ 074


第6章 べき乗則分布:ロングテール
6.1 べき乗則:構造 077
6.2 べき乗則分布を生成するモデル:論理 080
6.3 ロングテールが内包する意味 083
  公平性
  大惨事
  ボラティリティ
6.4 ロングテール化した世界 086


第7章 線形モデル
7.1 線形モデル 090
  相関関係と因果関係

7.2 多変量線形モデル 094
  多変量回帰

7.3 大きな係数と新しい現実 097
7.4 まとめ 098


第8章 凹関数と凸関数
8.1 凸関数 101
8.2 凹関数 105
8.3 経済成長モデル 106
  ソロー成長モデル
  成功する国と失敗する国が生まれる理由
8.4 結局世界は線形ではない 112


第9章 価値と力のモデル 
9.1 協力ゲーム 115
9.2 シャープレイ値の公理的な基礎 117
9.3 シャープレイ値と代替用途テスト 119
9.4 シャープレイ - シュービック指数 120
9.5 まとめ 122


第10章 ネットワークモデル 
10.1 ネットワークの構造 125
  一般的なネットワーク構造
10.2 ネットワークの形成:論理 130
10.3 ネットワークが重要な理由:機能 131
10.4 ネットワークの頑健性 135
10.5 まとめ 137


第11章 ブロードキャスト、拡散、感染 141
11.1 ブロードキャストモデル 141
11.2 拡散モデル 143
11.3 SIRモデル146
11.4 一対多 150


第12章 エントロピー:不確実性のモデリング
12.1 情報エントロピー 154
12.2 エントロピーの公理的基礎 156
12.3 エントロピーを使った4種類の結果の区別 157
12.4 最大エントロピーと分布についての仮定 159
12.5 エントロピーの肯定的で規範的な意味 160


第13章 ランダムウォーク
13.1 ベルヌーイの壺問題 163
13.2 ランダムウォークモデル 164
13.3 ランダムウォークを使ったネットワークの大きさの推定 167
13.4 ランダムウォークと効率的市場 168
13.5 まとめ 171


第14章 経路依存性
14.1 ポリア過程 174
14.2 均衡化過程 176
14.3 経路依存性かティッピングポイントか 177
14.4 さらなる応用 179


第15章 局所相互作用モデル
15.1 局所多数決モデル 183
15.2 ライフゲーム 187
15.3 まとめ 190


第16章 リアプノフ関数と均衡
16.1 リアプノフ関数 191
16.2 局所多数決モデルにおける均衡 193
16.3 自己組織:ニューヨークとディズニーワールド 194
16.4 純粋交換経済 196
16.5 リアプノフ関数のないモデル 198
16.6 まとめ 199


第17章 マルコフモデル
17.1 ふたつの例 201
17.2 ペロン - フロベニウスの定理 203
17.3 マルコフモデルの一石多鳥 205
17.4 まとめ 208


第18章 システムダイナミクスモデル
18.1 システムダイナミクスモデルの構成要素 213
18.2 捕食被食モデル 215
18.3 行動の指針としてのシステムダイナミクスモデル 219
18.4 ワールド3モデル 220
18.5 まとめ 222


第19章 フィードバックをともなうしきい値モデル
19.1 グラノヴェターの反乱モデル 226
  市場の生成と二重反乱
19.2 ふたつの住み分けモデル 228
19.3 ネガティブフィードバックをともなうしきい値モデル 233
19.4 まとめ:モデルの粒度 235


第20章 空間/ヘドニック競争モデル
20.1 空間競争モデル 240
20.2 属性数を増やす 242
20.3 空間競争のダウンズモデル 243
20.4 現状効果、提案管理、拒否権 246
20.5 ヘドニック競争モデル 248
20.6 競合する商品のハイブリッドモデル 250
20.7 まとめ 252


第21章 ゲーム理論の3つのモデル
21.1 標準型ゼロサムゲーム 256
21.2 逐次ゲーム 258
21.3 連続行動ゲーム 260
21.4 まとめ 261


第22章 協力モデル
22.1 囚人のジレンマ 266
22.2 ルールベース行為者の間の協力 271
22.3 協力行動モデル 274
22.4 まとめ 279


第23章 集団行動問題
23.1 集団行動問題 284
23.2 公共財 285
23.3 混雑モデル 289
23.4 再生可能資源採取 291
23.5 集団行動問題:解決されたものとそうでないもの 294


第24章 メカニズムデザイン
24.1 マウント - ライターの三角形 297
24.2 多数決原理とキングメーカーカニズム 299
24.3 3種類のオークションメカニズム 300
  競り上げオークション
  セカンドプライスオークション
  ファーストプライスオークション
24.4 収入同値定理 303
24.5 公共事業の決定メカニズム 306
24.6 まとめ 310


第25章 シグナリングモデル
25.1 離散型のシグナリング 314
25.2 連続型のシグナリング 316
25.3 シグナルの使い方と価値 317
25.4 まとめ 319


第26章 学習モデル
26.1 個人の学習:強化学習 323
26.2 社会学習:レプリケーターダイナミクス 326
26.3 ゲームにおける学習 328
  ガズラーゲーム
  太っ腹/意地悪ゲーム
26.4 学習モデルの組合せ 333


第27章 多腕バンディット問題
27.1 ベルヌーイバンディット問題 338
27.2 ベイジアン多腕バンディット問題 340
27.3 まとめ 342


第28章 起伏地形モデル
28.1 適応度地形 345
28.2 起伏地形 348
28.3 NKモデル 350
28.4 起伏地形と舞踏地形 353


第29章 オピオイド、不平等、謙虚な姿勢
29.1 多モデルで考えるオピオイド危機 356
29.2 経済的不平等の多モデル解析 360
29.3 世界へ 372


注 [375-397]
参考文献 [398-406]
監訳者あとがき(統計数理研究所 椿 広計) [407-414]
  1. はじめに:とんでもないことを引き受けてしまった
  2. 多モデル思考者から診て自身はいかに単一モデルを目指すことに縛られていたか
  3. 多モデル思考の文法
  4. 多モデル思考下での確率・統計モデル周辺の話題
  5. ネットワーク構造の中でどう生きるか?
  6. ゲーム論的モデリング:寓話の持つ世界観の有無を言わせない迫力に屈服
  7. マクロモデルとミクロモデルの双方が重要
  8. 最適な情報の収集としての学習:統計的実験計画の発展
  9. 多因子の相互作用(交互作用)が人間にもたらす本質的価値
  10. おわりに:船頭多くして文殊の知恵
索引 [415-418]




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『図書館情報学概論』(David Bawden, Lyn Robinson[著] 塩崎亮[訳] 勁草書房 2019//2012)

原題:Introduction to Information Science (Facet Publishing, 2012)
著者:David Bawden  Professor of Information Science at City University London
著者:Lyn Robinson  Senior Lecturer in Information Science, and Director of the Postgraduate Information Studies Scheme, at City University London
監訳:田村 俊作[たむら・しゅんさく](1949-) 図書館情報学
訳者:塩崎 亮[しおざき・りょう](1977-) 図書館情報学
NDC:010  図書館.図書館情報学
備考:本書の内容は、図書館情報学というより情報学。


図書館情報学概論 - 株式会社 勁草書房



【目次】
日本語版への序文(田村 俊作) [i-iii]
目次 [v-ix]
図版一覧 [x]
序文(デビッド・ボーデン、リン・ロビンソン) [xi-xii]
略語一覧 [xiii-xvii]


第1章 情報学とは何か:学問分野・専門職 001
はじめに 
情報学の特性 
情報学とはどのような類の学問分野なのか 
構成要素と基本概念 
他の情報関連領域 
  コレクション
  技術
  社会
  コミュニケーション
  経営管理及び意思決定
  特定領域の専門職
情報学の独自性 
情報学の歴史 
まとめ 
主要文献/参考文献 015


第2章 情報の歴史:ドキュメントを巡って 020
はじめに 
情報から見た時代区分? 
前史・古代 
古代ギリシャ・ローマ時代と中世 
印刷の時代 
19世紀 
20世紀 
まとめ 
主要文献/参考文献 035


第3章 情報学の哲学・パラダイム 039
はじめに 
哲学と情報学 
哲学的立場 
  実在論
  構成主義
  批判理論
パラダイムと転回 
  システム志向
  認知志向
  社会認知志向
哲学者と情報学 
カール・ポパーと客観的認識論 
ジェシー・シェラと社会認識論 
ルチアーノ・フロリディと情報の哲学 
まとめ 
主要文献/哲学の情報源/参考文献 061


第4章 情報学の基本概念 068
はじめに 
情報と知識 
情報:物理的、生物的、社会的 
  情報の数学理論(若干の記号論
情報学における情報  
情報学における知識 
ドキュメント 
コレクション 
適合性とアバウトネス 
情報の利用・利用者 
まとめ 
主要文献/参考文献 094


第5章 領域分析 100
はじめに 
情報学理論としての領域分析 
領域とは何か 
領域分析の観点 
資料案内 
情報組織化ツール 
  索引・検索
  利用者研究
  計量書誌学
  歴史的観点
  ドキュメントとジャンルの研究
  認識論的・批判的研究
  ターミノロジー(専門用語集)、言語、ディスコース(談話)
  構造、制度、組織
  認知、知識表現、人工知能
領域分析の実務上の価値
領域分析の例
領域分析と主題専門家 
まとめ 
主要文献/参考文献 114


第6章 情報の組織化 117
はじめに 
統制語彙とファセット分析 
ターミノロジー(専門用語集) 
メタデータ 
情報資源の記述と目録作成 
オントロジー 
系統的な語彙体系:分類とタクソノミー 
アルファベット順の語彙:件名標目とシソーラス 
抄録 
索引とタグ 
まとめ 
主要文献/参考文献 145


第7章 情報技術:作成・流通・検索 150
はじめに 
情報技術とは何か 
デジタル技術 
ネットワーク 
モバイル機器とその普及 
ソフトウェア 
コンピュータとの相互作用 
情報システム:分析、アーキテクチャ、設計 
アプリケーション 
  作成
  流通
  共有
  組織化と検索
  電子図書館リポジトリ
  保存
まとめ 
主要文献/参考文献 185


第8章 計量情報学 192
はじめに 
計量情報学の発展過程 
  計量書誌学の法則の起源
どれくらいの量の情報があるのか? 
計量情報学の主な法則 
  ロトカの法則
  ブラッドフォードの法則
  ジップの法則
  これらは同じ法則なのか?
ネットワーク理論 
計量情報学の活用 
  文献の特性とその変化
  コレクション管理
  文献や学術分野の構造
  情報資源の理解
  影響度の評価
  情報検索への応用
まとめ 
主要文献/参考文献 213


第9章 情報行動 219
はじめに 
情報行動とは何か 
情報行動研究の起源と発展 
理論とモデル
  記述モデル
  認知モデル
  複合モデル
  個人の知覚理論
  進化論と生態学
情報行動研究の手法 
情報行動の調査事例 
集団の情報行動 
個人の情報行動スタイル 
まとめ:結局、何が分かっているのか? 
主要文献/参考文献 241


第10章 情報の流通:変容する環境 247
はじめに 
概念枠組み 
  情報連鎖とライフサイクル
  情報資源の概念枠組み
変容する情報環境 
印刷世界のデジタル化 
  新たな情報環境:均質化された単純さ
  モバイルへの以降
変化する経済モデル 
オープンアクセスとリポジトリ 
コミュニケーションの新たな形態 
研究活動と学問の新たな形態 
情報空間・場所 
まとめ 
主要文献/参考文献 265


第11章 情報社会 270
はじめに 
情報社会とは何か 
  経済的な意味での情報社会
  職業的な意味での情報社会
  技術的な意味での情報社会
  政治的な意味での情報社会
  社会文化的な意味での情報社会
  理論的な意味での情報社会
  開かれた社会
情報社会の枠組み 274
  情報政策
  情報の法的枠組み
  情報倫理と価値
  倫理の基本原理
情報社会のインフラ 
情報社会に内在する問題と格差 
  情報過多と情報不安症
  情報貧困とデジタル格差
  情報の世代間格差
まとめ 
主要文献/参考文献 289


第12章 情報管理・情報政策 294
はじめに 
情報管理の基本 
情報管理の文脈 
  データ管理
  ドキュメント管理とコンテンツ管理
  記録管理とアーカイブス管理
  図書館経営リポジトリ管理
  博物館・美術館の情報管理
  コレクション管理
  ナレッジマネジメント
  環境スキャニング
情報ガバナンスと情報リスク 
情報政策と情報戦略 
情報監査と情報マッピング 
情報の評価
  効果とインパク
創造とイノベーション 
まとめ 
主要文献/参考文献 328


第13章 デジタルリテラシー 337
はじめに 
情報リテラシーコンピュータリテラシー 
情報リテラシーを備えた人 
デジタルリテラシーの概念 
  デジタルリテラシーの派生概念
デジタルリテラシーのモデル 
デジタルリテラシーの重要性 
デジタルリテラシーの振興 
まとめ 
主要文献/参考文献 354


第14章 情報学の調査研究法:何について、どのように? 357
はじめに 
情報学研究のスタイル 
調査研究手法の概要 
研究と実務
 情報学の調査研究手法 
調査研究手法:社会調査 
情報学における社会調査の事例 
調査研究手法:実験・評価・観察 
情報学における実験・評価・観察の事例 
調査研究手法:机上調査 
情報学における机上調査手法の事例 
サンプリング 
情報学の研究倫理 
研究成果の探索と評価 
まとめ 
主要文献/参考文献 383


第15章 情報学の未来 386
はじめに 
予測と予言 
変化の要因 
情報専門職と情報学の未来観
  「これまで通り」
  「景観の変容」
  「クラウド上へ」
  予想は注意深く
情報学の研究テーマ 
情報学の未来 
まとめ 
主要文献/参考文献 399


補足情報 [402-404]
  他の教科書/学術雑誌/抄録索引サービス/参考情報源

あとがき(塩崎亮) [405-415]
  本書の特徴
  著者について
  原書について
  翻訳について
  謝辞
  参考文献
索引 [414-424]



【図版一覧】
図2.1 タルタリアの石板:前史文字の例 024
図2.2 楔形文字の粘土板 025
図2.3 シッパルの粘土板図書館 026
図2.4 シナイ写本 028
図2.5 ハンドソートパンチカードでの検索 033
図2.6 ポール・オトレ 034
図2.7 ムンダネウム 035
図4.1 クロード・シャノン 074
図4.2 フロリディの情報マップ 079
図4.3 データ - 情報 - 知識 の階層 081
図6.1 FRBRモデルの一部 127
図6.2 綱レベルのデューイ十進分類法 134
図6.3 シソーラスの形態で表現された用語の例 139
図7.1 ジョン・フォン・ノイマン 154
図7.2 ノイマンアーキテクチャ 155
図7.3 情報検索システムの構成要素 173
図7.4 詳細檢索機能 178
図7.5 電子図書館の構成要素 182
図9.1 情報行動の入れ子モデル 221
図9.2 ウィルソンの記述モデル 228
図9.3 ウィルソンの第一モデル 229
図9.4 レッキーらの「専門家の情報探索」モデル 230
図9.5 ウィルソンの拡張モデル 231
図9.6 ジョンソンによる「情報探索の包括モデル」 232
図10.1 情報のライフサイクル 249
図10.2 書籍のライフサイクル 250
図10.3 記録資料のライフサイクル 250
図12.1 記録管理のライフサイクル 302
図13.1 SCONUL情報リテラシーに関する7柱モデル 342
図13.2 SCONULの情報リテラシーモデル改訂版 343





【抜き書き】


・監訳者(田村俊作)による序文。情報学の来歴と、日本での一般的な受容について。

  日本語版への序文


  わが国の図書館情報学は、公共図書館の専門職員である司書と、学校図書館の職員である司書教諭という二つの国家資格取得をめざす学生への教育を軸に展開してきた。そのため、研究よりも教育が重視され、研究にしても、公共図書館学校図書館の歴史、サービス、運営、利用といったテーマに関心が集中し、他のテーマといってもせいぜいのところ大学図書館や情報組織法関連で、図書館「情報」学とは言っても、非常に狭い範囲での研究と教育に終始しているとの印象がある。
  〔……〕図書館情報学はもともと欧米由来の研究・実践領域で、図書館の管理運営法に起源を持つものの、対象領域はもっと広い。〔……〕第二次世界大戦後は、コンピュータを中心とする技術の急速な発展と科学技術政策の推進などにより、科学技術分野の文献情報流通をデジタル情報にまで広げ、多様な情報の活用法とそれに伴う諸問題を、より広い社会的文脈の中でとらえ直そうとする研究・実践がさかんになった。そうして、文献情報を扱うという点で図書館学と親和性の高い分野、本書で言うところの情報学が誕生した。
  図書館情報学は、こうしたドキュメンテーション由来の情報学が、図書館学と本質的には同じ対象と課題を扱っている、との認識から、両者を統一的にとらえることばとして1960年代に登場した。〔……〕本書で扱う情報学は、図書館に関わる研究・実践を含んでいるという点で、図書館情報学と実質的に同じものであると考えてよい。
  わが国の場合、図書館学がもっぱら公共図書館学校図書館と強く結びついていて、情報学に展開する契機を十分に持たなかった上に、コンビュータ科学由来の「情科学」やマスコミュニケーション研究由来の「社会情報学」などの分野の語の方が一般に知られているため、原語の information science を直訳して「情報学」と言っても、それが図書館情報学由来の語だということを理解できる人は少ないであろう。本書でも「情報学」と「図書館情報学」の語が混在しているが、両者は実質的に同じことであると思っていただいてよい。

・ひきつづき監訳者の序文から、欧米(の)図書館情報学の動向についての記述。

  21世紀に入り、欧米の情報学は一段の飛躍を遂げ、新たな段階に入ったように見える。〔……〕組織を超えた情報流通の問題を扱ってきた図書館情報学は、その対象範囲を拡張し、インターネット上の情報の発信、蓄積、検索、利用等に関わる技術、制度、倫理、情報リテラシー等の問題も、新たに対象範囲に含めるようになった。それによって、書館情報学の新たな可能性が拓けてきたのと同時に〔……〕他領域と重なる部分が大きくなったため、領域の輪郭を描くのが難しくなっている。 
  〔……〕欧米図書館情報学は急激に姿を変えてきているように見える。図書館情報学を基盤に据えつつ、コンピュータ科学や経営学等と融合することにより、新領域の開拓をめざす iスクールと呼ばれる大学院も登場した。
  伝統的な司書・司書教諭養成に力点を置くわが国の図書館情報学は、こうした欧米の動向と断片的につながっているだけで、対応しようとしているようには見えない。〔……〕国際的な図書館情報学の動向をきちんと理解・把握しておくことは、わが国図書館情報学の今後の展開を考える上で重要であろう。
  そのような問題意識の下で、欧米図書館情報学の動向を概観するよい本はないかと探していたときに出会ったのが本書である。〔……〕
  シティ大学情報学大学院出身の塩崎亮君という最適の訳者を得て、本書がわが国の図書館情報学分野の研究者、学生、大学院生だけでなく、図書館で働く人々、他分野の方や市民にも、欧米図書館情報学を紹介する本として、広く読まれることを期待する。