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『手術室の中へ――麻酔科医からのレポート』(弓削孟文 集英社新書 2000)

著者:弓削 孟文[ゆげ・おさふみ](1947-) 麻酔学。麻酔科医。
NDC:494.2 外科学 >> 診断・治療・手術


手術室の中へ ―麻酔科医からのレポート – 集英社新書


【目次】
目次 [003-009]
はじめに [010-011]


第一章 手術入門 013
【実例1】主治医と患者さんとのズレた会話
  インフォームド・コンセントと手術の承諾
  手術室には誰がいるか
  患者さんの状態を見守るもの
  手術に関して知っておきたい八つのポイント
    ①手術はからだに傷をつける「侵襲」的な医療であり、慎重に選択されるべき方法である
    ②手術に対する強い反応を抑えるのが麻酔である
    ③全身麻酔は生きているからだをいったん非常事態におちいらせる方法である
    ④すべての機能が抑制された状態のからだに、直接的な外傷を加えるのが手術である
    ⑤手術室には手術にふさわしい環境と機器類・設備が整っている
    ⑥麻酔と手術侵襲とのバランスをとり、手術を成功させるのが麻酔科医の役割である
    ⑦手術前に麻酔科医は患者の情報を集め、的確な麻酔計画を立てる
    ⑧麻酔科医は患者の代弁者。信頼関係を結ぶようにしたい
      淋病経験も申告したほうがよいという実例
      痔も手術に影響する


第二章 手術室の中ヘ 037
  手術室に入るとき
  手術室は部外者立入禁止
  手術室の環境づくり
  手術室の受付で
  患者さん当人であることの確認
  患者さんの緊張をほぐす
  手術室の備えは万全
  徹底的に清潔に 
  手術室の医療スタッフ
  医療スタッフのための施設
  手術室の位置づけ


第三章 麻酔をかけるということ 055
【実例2】手術前の患者さんに麻酔を理解してもらった
  手術という「侵襲」的な医療
  麻酔も「侵襲」的である
  麻酔が麻酔であるための条件
  全身麻酔による異常事態
  「生きている」という状態
  四つの麻酔方法
    ①局所麻酔薬により麻酔領域をつくって行う比較的小さな手術
    ②「局麻手術」よりもう少し神経に近いところで局所麻酔薬を作用させ、特定の神経回路を遮断することによって、広範囲な麻酔領域をつくってから行う手術
      局所麻酔薬中毒のこと
      アナフィラキシーショックのこと
    ③「脊椎麻酔」や「硬膜外麻酔」といつ、脊髄神経に近いところで局所麻酔薬を作用させ、比較的強い、そして広い範囲の麻酔領域を得て行う手術
      手術後の痛み止めにも有効
      硬膜外麻酔はどのように行われるか
      意識がある状態での麻酔の怖さ
      「先制麻酔」による痛み防止効果
    ④全身麻酔が必要な手術
      全身麻酔の薬
      「笑気ガス」物語
      筋弛緩薬の効果
      フグ中毒と筋弛緩薬
      患者さんを観察するシステム


第四章 全身麻酔がもたらすもの 093
【実例3】全身麻酔でピンチに!
  中枢神経機能(脳の機能)への影響
  呼吸機能(酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する肺の機能)への影響
    ①気管内挿管による人工呼吸
    ②酸素バッグと人工呼吸器(麻酔器)
    ③気管内挿管ができないケース
  循環機能(心臓のポンプとしての機能と血管機能)への影響
  肝機能(解毒やたんぱく質をつくったり薬物を分解する機能)への影響
  腎機能(尿を生成し老廃物を排泄する機能)への影響
  内分泌(ホルモンを分泌代謝する機能)への影響
  体液・電解質バランス調節機能への影響
  出血−凝固―線溶系への影響
  栄養代謝機能への影響
  免疫系など生体防御機能への影響


第五章 手術という「侵襲」がもたらすもの 111
【実例4】リンパ液喪失に対応する 
  手術の準備完了
  手術の始まり
  手術中の観察――異常事態に備える
  大量の出血
  血圧の低下
  ショック状態
【実例5】輸血してほしくないと主張した患者さん
  異常な高血圧
  血栓の形成
  低体温と高体温
  手術が終わって
  生理機能への手術の影響 
    ①手術侵襲
      サードスペース(第三の領域に起こる水分貯留)の形成
      体脂肪や体たんぱくの崩壊
      炎症
    ②神経‐内分泌系への影響
    ③生体防御システム(免疫系と出血‐凝固‐線溶系)への影響


第六章 手術からの回復 137
【実例6】手術後、呼吸が苦しそうだった子供
  術後管理の大切さ/術後回復室の確保
  手術後の回復期に起こるかもしれないこと
  術後回診を行う
  手術後の痛みをコントロールする
  持続硬膜外麻酔の応用


第七章 手術の決定から手術当日まで 155
【実例7】手術を受ける 
  定期検診
  精密検査
  検査結果
  入院
  外科病棟へ
  手術三日前夕方
  麻酔科医の説明
  術前検査
  手術前日
  前夜
  当日朝
  手術室
  手術直前
  手術後


第八章 手術前に情報を交換する 181
  外科系医師による検査
  手術のための術前検査
  全身状態をチェックする
  既往歴または現在かかっている病気をチェックする
【実例8】手術直前に心臓の異常を発見! 苦渋の選択を強いられる
  現在飲んでいる薬剤をチェックする
  麻酔科医によるチェック
  麻酔計画が立てられる
  患者さんが医師に聞くこと
  手術後の患者さんに必要なこと


第九章 麻酔科医と手術室専属看護婦 207
【実例9】麻酔科医と外科系医師との意見が食い違うとき
  麻酔科医という臨床医集団
  手術室専属看護婦
  医師にメスを渡す看護婦
  患者さんを介護する看護婦
  手術室専属看護婦は優れた看護婦
  さらにこんなスタッフも
  病院と社会を結ぶスタッフ
  手術とインフォームド・コンセント


おわりに(平成一二年三月・広島市にて 著者記す) [220-222]






【抜き書き】

「はじめに」から。

 麻酔は、手術という外傷によってからだにもたらされる苦痛や衝撃を和らげることができる。
 しかしその反面、麻酔は生きているからだのあらゆる機能を落とす医療でもある。
 そのような麻酔が必要不可欠であり、しかもからだに傷を負わせる「手術」という医療は、誤解を恐れずにいえば「死と隣り合わせ」の医療なのである。
 患者さんやその家族の大部分は、そのことを知らない。あるいはそのことに無頓着である。手術をすれば治る、麻酔をすれば痛くない、というメリットばかりが頭に浮かぶからだ。
 手術とはどういう医療か、麻酔をすることによってからだに何が起こるのか――医療が進歩し、手術を受ける機会が格段に増えてきた今、その基本的なところは、ぜひ知っておいていただきたい。そして、手術を提案されたとき、ただ「お任せします」と答えるのではなく、その実体を十分理解したうえで、主治医や私たち麻酔科医たちと、そして家族や友人たちと一体になって、手術に立ち向かってほしい。そうすることが手術を成功させ、治癒に向かって大きく前進することになる。
 この本は、手術する外科医たちとも、また、手術を受ける患者さんたちとも日々接しているだけでなく、手術を受ける患者さんの代弁者ともなっている麻酔科医による、手術室からのメッセージである。本書を読むことによって、手術や麻酔の基本的なことがわかっていただけると思う。