著者:森谷 正規[もりたに・まさのり](1935-) 技術評論家。現代技術論。
NDC:409 科学技術政策.科学技術行政
NDC:502.1 技術史.工学史
件名:科学技術政策
朝日新聞出版 最新刊行物:選書:政治は技術にどうかかわってきたか
風力発電、バイオマス、燃料電池……。政治が主導して、これらの技術を社会問題解決のために使えば未来が開ける――豊富な事例を基に、人類共通の難題に立ち向かう道筋を徹底解説。日本が果たすべき役割についても深く洞察する。
※下記目次の【 】に、略語の補足を埋め込んだ。
【目次】
目次 ([iii-vii])
はじめに(2004年10月 森谷正規) [003-005]
第1章 「社会的生活」の向上が新たな政治課題 007
1 技術進展にはアンバランスがある 007
生活は確かに豊かになった
「社会的生活」は貧しい
「社会」の技術は遅れる
2 技術と政治の関係を掴む 013
「社会」の技術が遅れる理由
「社会」の技術を進めるのは政治
技術と政治の新しい関係
「社会需要」の拡大を
第2章 「産業」の技術を支援してきた日本の政治 023
1 明治からの技術にかかわる政策は、どうであったのか 23
官営工場の建設へ
払い下げで財閥が誕生
国がつくった八幡製鉄所
急速な鉄道網の建設
戦争が産業発展を左右した
保護から統制の時代へ
広軌改築論で揺れ動いた
銅山による公害が生じていた
煙は発展のシンボル
2 戦後もやはり産業へ向いていた 044
産業復興のための各種の政策
発展の二つの基本方向
技術の導入と輸入の制限で、保護育成へ
次々に実施した産業育成政策
政治主導で始まった原子力の研究開発
科学技術庁は生まれたが
大型プロジェクト制度をつくった
サンシャイン計画は、いま役に立ってきた
超LSIの共同開発で米国を圧倒した
“くたばれGNP”と言われたが
3 失敗に終わった巨大な政府開発プロジェクト 067
壮大な無駄であった原子力船
お粗末な事故と対処の高速増殖炉
旅客機として飛べなかった「飛鳥」
第3章 「社会」の技術に政治はいかにかかわったか 076
1 全国総合開発計画は何であったのか
過疎、過密を加速した一全総
大規模工業基地の完全な失敗
いきなり日本列島改造へ
定住圏構想で何をやったのか
ペンペン草が生えたテクノポリス
バブル経済をもたらした四全総
土建国家になってしまった
技官王国が国土計画を動かしてきた
2 社会問題に対して政治は何をしてきたのか 093
社会に向ける技術開発とは
七色の煙が発展のシンボルであった
「公害国会」が開催される
原因解明と補償が非常に遅れた水俣病
自動車の排ガス浄化は進んだが
都市内交通こそが問題
導入が増えない新交通システム
高度に過ぎると普及しない福祉機器
薬害を止め得なかった厚生省
テクノロジーアセスメントに取り組んだが
第4章 海外各国にみる技術と政治 119
1 軍事、宇宙開発に偏向した米国 119
政府は企業の巨大化を防ごうとした
「スプートニクショック」から「アポロ計画」へ
技術で日本に敗れた
日本に倣って共同開発へ
なぜ京都議定書から離脱したのか
2 それぞれ特徴がある欧州各国の技術と政治 131
サッチャーが「英国病」を治した
現場を担う層をしっかり教育する改革
コンコルドはわずか舶機の生産
トラブル続きで廃炉となったスーパーフェニックス
緑の党が生まれて、政権に入る
拡大生産者責任へ
市が独自の政策を実施しているフライブルク
3 車もテレビも壊滅したロシア 145
社会主義工業化にまずは成功した
核爆弾の開発でたちまち米国に追いついた
鉄鋼技術で先頭を走っていたが
長続きしなかった先端技術の開発力
車もテレビも国民にソッポを向かれた
環境破壊が平均寿命を縮めた
4 右に左に大きく揺れた中国 158
大躍進による大失敗
三線建設の不合理
“白い猫でも、黒い猫でも”で変わった
半導体やベンチャー企業への手厚い優遇策
第5章 「社会」に技術を向ける政治の役割 168
1 環境破壊を防ぐエネルギー技術 168
太陽光発電装置の補助金はいつまで続けられるのか
洋上風力発電に期待がかかる
生ゴミでゴミ運搬車を走らせる
家庭用燃料電池の実用化は近い
炭素税を徴収して、新エネルギーを補助する
2 廃棄物処理を進める環境税 179
ダイオキシン規制が市場を創った
都市ゴミ収集も変えられる
95%のリサイクルを目指す自動車
環境税の収入を技術開発へ
3 都市内交通問題をいかに解決するか 189
ITS【intelligent transport system】も決め手にならない
TDM【transportation demand management=交通需要マネジメント】で渋滞緩和が実現する
安全自動車をいかに普及させるか
地下トンネルは新しい道路だ
4 都市問題の解決に手をつける時 199
ヒートアイランド現象の防止策はいくつもある
モグラロボットで電線の地下埋設
地震対策はいくつもあるのに、手がつけられていない
新しい共同溝の設置へ
5 分かりやすい面白い教育で、教育問題を解決する 207
画像、映像をふんだんに使った教育を
バラバラに制作されているコンテンッ
コンテンッを体系的に制作する
国民と企業が費用を負担する
終章 技術の治水へ 216
1980年代に変わるべきであった
治水は政治の最大の課題
地方自治体の大きな役割
自分たちで真の豊かさをつくり出す
参考文献 [225-227]
【抜き書き】
・ある問題の提起と分析。「はじめに」から。
「社会に技術を向けよう」と、十数年前から私は言い続けてきた。〔……〕
その「社会」とは、何か。私は三十数年前に野村総合研究所に入所して、もっぱら技術問題全体を考える仕事をしてきた。その中で早い時期から、技術を応用する主な分野として「産業」「家庭」「社会」の三つを挙げて、種々の分析をしていた。簡単にいえば、「産業」は工場やオフィスで採用する技術であり、「家庭」は家の中で、あるいは個人が使用する技術であり、「社会」は街中で利用される技術である。
このように分けると、この30年ほど「産業」と「家庭」の技術は大きく進んできたが、「社会」の技術が遅れていると分かってくる。それは、経済的に、あるいは個人的にはとても豊かになったいまの日本で、社会にはさまざまな問題が山積していることで示される。環境破壊、廃棄物処理〔……〕。その問題解決がなかなか進まないというのが実情である。
解決が進まない大きな原因の一つが、「社会」に向ける技術の進みようが遅いことである。〔……〕それはいったいなぜなのか。
端的にいえば、遅れるのは「市場」の問題である。「産業」と「家庭」の技術では、自ずから「市場」が生まれて大きく伸びるので、企業は良い製品を安く作ろうと猛烈に努力する。したがって技術は急速に進んでいく。ところが、「社会」に向ける技術においては、経済性の不利を始めとして多くの障壁があって、「市場」が生まれにくいのである。したがって、技術開発に注ぐ企業の力は十分ではない。
・処方箋は政府の介入(またはサポート)。
そこで「社会」に技術を向けるには、「市場」が生まれ、大きく育っていくような方策が必要になる。それは、政府や地方自治体が何らかの政策を進めることによって可能になる。実例を二つだけ挙げれば、住宅用太陽光発電装置に対する政府の補助金があり、ディーゼルエンジンの排気ガスに対しての地方自治体が先行した厳しい規制がある。
・そして、書名に掲げられた問題へ。
ここから、技術と政治という重大な問題が生じてくる。私は、「社会」に技術を向けるのは政治であると、この問題に早くから目をつけていて、自著では必ず触れていた。ところが、技術と経済については、相互に深い関係があるとしてもっぱら経済学の分野からの数多くの研究が行われてきたが、技術と政治については深く論じているのをほとんど見かけない。
いま技術と政治は、環境破壊など深刻になる社会問題を解決し、「物質的生活」ばかりではなく「社会的生活」を向上させて、日本社会を真に豊かにするために非常に重要な課題になっている。それに正面から取り組んだのが本書である。技術に対する政治のかかわりようを、明治維新から始まって歴史的に振り返り、また米国やヨーロッパなど海外諸国でのありようを探り、現代において「社会」に技術を向ける可能性にどのようなものがあるか、それに対して政府や地方自治体がいかなる役割を果たすべきかなどについて調べ、考察した。
これは、技術と政治という、これまで見過ごされてきた重要な問題についての試論である。論というよりは問題提起であり、過去、現在の実例をふんだんに挙げて、具体的な問題として深く考えるように努めた。本書を通して多くの人が技術と政治の問題に関心を持っていただければ幸いである、