編者:大竹 文雄[おおたけ・ふみお] (1961-) 労働経済学、行動経済学。
著者:池田 新介
著者:高宮 浩司
著者:安井 健悟
著者:川口 大司
著者:小川 一夫
著者:佐野 晋平
著者:鈴木 彩子
著者:沓澤 隆司
著者:西條 辰義
著者:暮石 渉
著者:若林 緑
著者:杉本 佳亮
著者:中川 雅央
著者:Charles Yuji Horioka
著者:筒井 義郎
著者:青柳 真樹
著者:石井 利江子
著者:齋藤 弘樹
著者:芹澤 成弘
著者:小野 善康
著者:常木 淳
著者:奥平 寛子
初出:『週刊エコノミスト』誌での連載「効く経済学」
筑摩書房 こんなに使える経済学 ─肥満から出世まで / 大竹 文雄 著
【目次】
目次 [003-006]
序 「経済学は役立たず」は本当か[大竹文雄] 007
暮らしの中の経済学
経済学のイメージと実際
経済学を学ぶ本当の意味
情報の不完全性
経済学はやくにたつのか
経済学の行方
第一章 なぜあなたは太り、あの人はやせるのか 023
1 なぜあなたは太り、あの人はやせるのか[池田新介] 025
時間割引率で考える
損失だけに辛抱強い人も
2 タバコ中毒のメカニズムを解く[池田新介] 031
中毒財と「後回し行動」
中毒財の悪循環を断つには?
3 臓器売買なしに移植を増やす方法[高宮浩司] 037
医療ニーズと倫理の対立
「贈与の意思」を再分配する仕組み
4 美男美女への賃金優遇は不合理か[安井健悟] 044
ルックスで6%弱の賃金格差
「容姿情報なし」はさらに損
第二章 教師の質はなぜ低下したのか 051
1 学年ごとの競争は公平か[川口大司] 053
苦手意識が道を閉ざす
最終学歴にも影響を与える生まれ月
2 文系の大学院志願者が一時増えた理由[小川一夫] 059
大学院への需要を高める要素
不確実性を回避するリアルオプション
3 出世を決めるのは能力か学歴か[川口大司] 065
東大生が別の大学に行っていたら?
「消えた73年東大卒」
4 教師の質はなぜ低下したのか[大竹文雄・佐野晋平] 071
都会で進む公立不信
学部偏差値が低下した理由
第三章 セット販売商品はお買い得か 077
1 セット販売商品はお買い得か[鈴木彩子] 079
バンドリング商法のカラクリ
記事をバラ売りしたら
2 犯罪が地域全体に与える影響とは?[沓澤隆司] 085
犯罪が地価を引き下げる
犯罪発生を防ぐには
3 理論を逸脱する日本人の行動[西條辰義] 091
ゲーム理論のほころび
「協力」のからくり
4 人の生まれ月を決めるもの[暮石渉・若林緑] 097
できちゃった結婚との比較
早生まれの損も考慮か?
5 少子化の歴史的背景とは[杉本佳亮・中川雅央] 103
義務教育で減った児童労働
高齢化で確保しづらい教育予算
第四章 銀行はなぜ担保を取るのか 109
1 日本人が貯蓄をしなくなったワケ[チャールズ・ユウジ・ホリオカ] 111
ライフサイクルを考える
貯蓄ゼロでも心配無用
2 株でもうかる「裁定機会」はあるか[筒井義郎] 117
理論上は、うまい話のはない
アノマリーを探す
3 ぜいたくが解く株価のなぞ[池田新介] 123
株式のリスクとは何か
海外旅行とTOPIXとの強い相関
4 銀行はなぜ担保を取るのか[小川一夫] 129
モラルハザードを防ぐ
グラミン銀行はなせ無担保融資ができたか
5 銀行の貸し渋りはあったのか[筒井義郎] 135
貸し渋りのメカニズム
金利の動きに注目する
第五章 お金の節約が効率を悪化させる 141
1 談合と大相撲の共通点とは[青柳真樹・石井利江子] 143
談合の「足跡」
非協力業者への脅し
2 周波数割り当てにオークションは馴染むか[齋藤弘樹・芹澤成弘] 148
事業能力を入札額で測る
米国の周波数オークション
3 不況時に公共事業を増やすべきか[小野善康] 154
乗数効果は起こらない
統計の落とし穴
4 お金の節約が効率を悪化させる[小野善康] 160
お金は決してなくならない
自治体の節約競争が財政破綻を生む
5 サザエさんの本当の歳を知るには[鈴木彩子] 167
問題は「情報の非対称性」
インセンティブ規制の効用
第六章 解雇規制は労働者を守ったのか 173
1 「騒音おばさん」を止めるには[大竹文雄]175
「騒音を出す」ことによる満足度
国際紛争解決のヒント
2 耐震データ偽装を再発させない方法[常木淳]181
情報不足につけ込む業者
モラルハザードを防ぐ
3 解雇規制は労働者を守ったのか[大竹文雄・奥平寛子] 187
正社員の残業も拡大する
解雇規制がもたらす皮肉な結果
4 相続争いはなぜ起こる[チャールズ・ユウジ・ホリオカ] 192
「愛情から遺産」の幻想
利己的であることの利点
あとがき[大竹文雄] [199-201]
執筆者一覧 [203-205]
【抜き書き】
◆72〜73頁
教師の質の低下は、米国でも大きな問題になってきた。その原因として、経済学者たちが指摘してきたのは、1960年代から始まった労働市場における男女平等の進展である。どうして女性の雇用機会均等が教員の質を低下させるのだろうか。
かつては米国の労働市場でも男女差別が根強く存在し、一般のビジネスの世界では、女性は活躍できなかった。このため、学業にすぐれた大卒女性は、教職についた。つまり、学校は男女差別のおかげで、優秀な女性を安い賃金で雇用できたのである。
だが、男女差別が解消されてくると、優秀な女性は教師よりも給与が高い仕事、より魅力的な職種を選べるようになり、昔に比べて教師になる人は少なくなった。「男性教師もいるではないか」という反論もあるだろうが、教師の採用数が一定だとすれば、優秀な女性が集中して教師を希望していた時代よりも、優秀でない男性が教師になれるチャンスが広がる結果となり、レベルの低下は否めない。
◆75〜76頁
労働市場における男女差別の改善が教員採用に予期せぬ影響を及ぼし、多くの優秀な女性が教師になってくれた時代は過ぎ去った。時代の流れは逆回転させられないが、公立校教師を労働市場のなかでより魅力的な職業にしていく努力は可能である。
具体的には、教員の給与を上げたり、その社会的地位を高めることだ。また、教員養成系学部出身に限らず採用する道を開き、本当に教育に情熱を持つ人材を選ぶことも重要だろう。そのような教員採用の方法を実施している私学もある。もちろん、教師になる前、そしてなった後も継続的に教育訓練の場を与え、教育の質を上げていく地道な努力も忘れてはいけない。