著者:阿部 彩[あべ・あや](1964-) 社会政策、貧困・格差の研究。
NDC:367.61 家族問題 >> 児童・青少年問題
【目次】
はじめに [i-vi]
目次 [vii-x]
第1章 貧困世帯に育つということ 001
1 なぜ貧困であることは問題なのか 002
貧困と学力
貧困と子育て環境
貧困と健康
貧困と虐待
貧困と非行
貧困と疎外感
2 貧困の連鎖 018
大人になってからも不利
15歳時の暮らし向きとその後の生活水準
世代間連鎖
3 貧困世帯で育つこと 028
貧困と成長を繋ぐ「経路」
さまざまな「経路」
やはり所得は「鍵」
4 政策課題としての子供の貧困 035
求めるのは格差を縮小しようという姿勢
第2章 子供の貧困を測る 039
1 子どもの貧困の定義 040
相対的貧困という概念
相対的貧困の定義
貧困率と格差
2 日本の子供の貧困率は高いのか 051
社会全体からみた子どもの貧困率
国際比較からみた子どもの貧困率
3 貧困なのはどのような子供か 055
ふたり親世帯とひとり親世帯
小さい子どもほど貧困なのか
若い親な増加と子どもの貧困率
「貧乏人の子沢山」は本当か
親の就業状況が問題なのか
4 日本の 子供の貧困の現状 070
第3章 誰のための政策か 政府の対策を検証 073
1 国際的にお粗末な日本の政策の現状 074
家族関連の社会支出
教育支出も最低レベル
2 子ども対策のメニュー 080
政府の子育て支援策
「薄く、広い」児童手当
縮小される児童扶養手当
保育所
教育に対する支援
生活保護制度
3 子どもの貧困率の逆転現象 092
社会保障の「負担」の分配
子どもの貧困率の逆転現象
負担と給付のバランス
4 「逆機能」の解消に向けて 100
第4章 追いつめられる母子世帯の子供 103
1 母子世帯の経済状況 104
母子世帯の声
一七人に一人は母子世帯に育っている
貧困率はOECD諸国の上から二番目
母子世帯の平均所得は二一二万円
非正規化の波
不安定な養育費
2 母子世帯における子どもの育ち 120
平日に母と過ごす時間は平均四六分
「みじめな思いはさせたくない」
母子世帯特有の子育ての困難さ
3 母子世帯に対する公的支援――政府は何を行ってきたか 129
「母子世帯対策」のメニュー
「最後の砦」の生活保護制度
二〇〇二年の母子政策改革
「五年」のもつ意味
増える出費
4 「母子世帯対策」ではなく「子ども世帯対策」を 140
第5章 学歴社会と子供の貧困 145
1 学歴社会の中で 146
中卒・高校中退という「学歴」
2 「意識の格差」 150
努力の格差
意欲の格差
希望格差
3 義務教育再考 159
給食費・保育料の滞納問題
「基礎学力を買う時代」
教育を受けさせてやれない親
教育の「最低ライン」
4 「最低限保証されるべき教育」の実現のために 172
就学前の貧困対策
日本型ヘッド・スタートの模索
第6章 子どもにとっての「必需品」を考える 179
1 すべての子どもに与えられるべきもの 180
「相対的剥奪」による生活水準の測定
子どもの必需品に対する社会的支持の弱さ
日本ではなぜ子どもの必需品への支持が低いのか
2 子どもの剥奪状態 192
剥奪状態にある子どもの割合
子どもの剥奪と世帯タイプ
親の年齢と剥奪指標
子どもの剥奪と世帯所得の関係
子どものいる世帯全体の剥奪
3 貧相な貧困観 208
第7章 「子ども対策」に向けて 211
1 子どもの幸福を政策課題に 212
子どもの幸福度(ウェル・ビーイング)
子どもの貧困撲滅を公約したイギリス
日本政府の認識
「子どもと家族を応援する日本」重点戦略
2 子供の貧困0社会への11のステップ 219
1 すべての政党が子どもの貧困撲滅を政策目標として掲げること
2 すべての政策に貧困の観点を盛りこむこと
3 児童手当や児童税額控除の額の見直し
4 大人に対する所得保障
5 税額控除や各種の手当の改革
6 教育の必需品への完全なアクセスがあること
7 すべての子どもが平等の支援を受けられること
8 「より多くの就労」ではなく、「よりよい就労」を
9 無料かつ良質の普遍的な保育を提供すること
10 不当に重い税金・保険料を軽減すること
11 財源を社会が担うこと
3 いくつかの処方箋 235
給付つき税額控除
公教育改革
4 「少子化対策」ではなく「子ども対策」を 242
あとがき(二〇〇八年一〇月 阿部彩) [245-249]
主要参考文献 [1-7]
【図表一覧】
図1-1a 父親の学歴と子どもの学力 004
図1-1b 母親の学歴と子どもの学力 004
図1-2 親の社会経済階層と学力 005
表1-1 子育て環境と年収の関係 006
図1-3 カナダの子どもの健康格差 009
表1-2 児童虐待が行われた家庭の状況 012
図1-4 子どもは学校生活をどう感じているか 016
図1-5 15歳時の暮らし向きとこんにちの生活水準 021
図1-6 学歴の世代間関係(20-69歳男女) 026
図1-7 貧困と成長をつなぐ「経路」 030
図2-1 日本の等価世帯所得の分布と貧困世帯(2004年度) 048
表2-1 相対的貧困線と生活保護基準(2006年) 049
図2-2 貧困率の推移 052
図2-3 子どもの貧困率の国際比較 053
表2-2 子どもの属する家族構成と貧困率 056
図2-4 子どもの年齢別の貧困率 059
図2-5 子どもの年齢別の貧困率:各年齢層(3歳刻み)の貧困線をつかった場合 060
表2-3 出生児の母親の年齢・父親の年齢 063
図2-6 父親の年齢別 子どもの貧困率 065
図2-7 子ども数別 子どもの貧困率 066
図2-8 親の就業状況別 子どもの貧困率 068
図2-9 子どもの貧困率:ふたり親世帯,就業人数別 069
図3-1 各国の家族関係の給付の国民経済全体に対する割合(2003年) 077
図3-2 教育関連の公的支出(対GDP比) 078
表3-1 主な「児童・家族関係社会支出」 081
表3-2 先進諸国の児童手当 083
図3-3 子どもの生活保護率(1955-2005年) 091
図3-4 子どもの貧困率(2000年) 09600
表3-3 労働力人口の所得5分位階級別分布 099
表4-1 母子世帯の特徴 107
図4-1 ひとり親世帯の就労率 110
図4-2 ひとり親世帯の子どもの貧困率 111
図4-3 母子世帯の母親の就労状況 114
表4-2 母子世帯の母親の勤労収入の中央値の推移 115
表4-3 母子世帯の子育てをするうえでの気がかりや心配事 127
図4-4 母子世帯になった頃に比べて,現在の暮らしは? 138
図4-5 母子世帯になった頃に比べた生活感 138
図5-1 女性の貧困経験と学歴[岩田(2007)] 148
表5-1 学歴別フリーター率[小杉・堀(2006)] 148
図5-2a 父親の職別 学校外の学習時間(平均) 152
図5-2b 父親の学歴別 学校外の学習時間(平均) 152
図5-2c 母親の学歴別 学校外の学習時間(平均) 152
図5-2d 社会階層別 学校外の学習時間(平均) 153
図5-3a 「落第しない程度の成績をとっていればいいと思う」(社会階層別) 155
図5-3b 「授業がきっかけになって,さらに詳しいことを知りたくなることがある」(社会階層別) 155
図5-4 学力ランク別の平均点(2006年)
図5-5 子どもの教育をどう考えるか
図5-6 すべての子どもに与えられるべき教育とは? 170
表6-1 子どもに関する社会的必需品 186-187
表6-2 イギリスにおける子どもの必需品の支持率(1999年) 190
表6-3 子どもに関する剥奪項目 194-195
図6-1 子どもの剥奪指標:世帯類型別平均値 199
図6-2 子どもの剥奪指標:世帯類型別 0の場合,3以上の割合 199
図6-3 子どもの剥奪指標:親の年齢別平均値 201
図6-4 子どもの剥奪指標:親の年齢別 0の場合,3以上の割合 201
図6-5 所得階級別 平均剥奪指標 202
図6-6 子どもの剥奪指標:所得階級別平均値 204
図6-7 子どもの剥奪指標:所得階級別 0の場合,3以上の割合 204
図6-8 平均剥奪スコア(世帯全体の16項目) 206
図6-9 有子世帯の剥奪指標(一般項目):平均値 208
表7-1 ユニセフによる子どもの「幸福度」の分野別順位 213
表7-2 Child Poverty Action Groupによる子どもの貧困ゼロ社会への10のステップ 220
図7-1 家族関係支出の財源構成(推計)の国際比較(2003年度) 234
【抜き書き】
□不利が子に伝達されるメカニズムについて(偶然見つけた論文の「5. 家族の変容と貧困」も参考にした)。
本書(29-33頁)から抜粋。
子どもの貧困に対する具体的な対策として、どのような内容(所得保障、親の就労支援、教プログラム、食料扶助など)の政府の介入策が有効であるのかを知るためには、貧困がどのように子どもの成長に影響しているのかを見極める必要がある。この貧困から成長への影響の仕方を「経路(パス=path)」 と呼ぶ。
残念なことに、どのような「経路」が存在するのか、その決定的なしくみはまだ解明されていない。〔……〕部分的ではあるが、いくつかの事実がわかってきている。一つの事実は、経路は一つではなく、複合的であり、貧困世帯のさまざまな側面を反映していることである。〔……〕主な説を紹介しよう。
・教育投資と、「良い親論」。
一番直感的に考えやすい経路は、経済的なものであろう〔……〕。「投資」の方法としては、子どもの教育費など直接の支出もあれば、評判のよい公立小学校がある地域に住むことや、夏休みに海外経験させることや、住居に子ども部屋があるなど、一見「子育て費」には含まれていないような項目も考慮に入れる。これらは、まとめて「投資論 (Investment Theory)」といわれる。
もう一つは、「良い親論 (Good-Parent Theory)」といわれるものである。「良い親論」の中には、主に「モデル論」と「ストレス論」がある。「モデル論」は、親は子のモデルとなるため、親自身の出世や学歴達成に対する価値観が子どもに引き継がれるというものである〔……〕。
「ストレス論」は、経済的に困難な状態が続くことにより、親にストレスが溜まり、家庭内が子どもがゆったりと健全に成長できる環境でなくなるという説である。
・偏見としては、次の「遺伝説」が最もやっかいだと思う。
また、子どもの成長は、子どもを取り巻く経済環境、いわゆる「育ち」によって決定されるのではなく、生物学的に親から引き継がれる能力によって決定されるという「遺伝説」もある。成績が良い子は、親も頭がよく、「能力」が受け継がれることにより、世代間の職業所得階層や貧困が受け継がれるというものである。さすがに貧困研究者の間ではこのような説を唱える人はほとんどいなくなったが、一般的には、まだまだ根強い俗説である。
社会学の分野では、親から継承される「文化」に着目する説も多い。たとえば、「文化的再生産論」では、人は育った家庭で「文化資本」を獲得し、その不平等がのちのちの地位達成などの成長に不平等をもたらすというものである。ここでいう「文化資本」とは、学力など目にみえるものだけではなく、身についたものごし、知的な話し方など、目にみえないものも含まれる。また、学校文化などといった類の「文化」の継承も視点に入る〔……〕。
そのほかには、地域という媒体を通す「経路」も存在する。たとえば、学校の質や近隣住民なども含めた居住地域の環境などがそれにあたる。
・注意点。
ここで強調しておきたい。「遺伝説」を始め、「文化論」も「モデル論」も、「貧困者は能力がない」〔……〕など、一つ間違えば貧困者に対する偏見につながりかねない危険性をもつ。このような偏見は、かつてアメリカおいても「アンダークラス論」として、大手を振るっていた。つまり、貧困の継承は、親から受けつがれる資質によるものであるという考えである。