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『数値と客観性――科学と社会における信頼の獲得』(Theodore M. Porter[著] 藤垣裕子[訳] みすず書房 2013//1995)

原題:Trust in Numbers: The Pursuit of Objectivity in Science and Public Life (Princeton University Press)
著者:Theodore M. Porter(1953-) 科学史、科学論。
訳者:藤垣 裕子(1962-) 科学技術社会論、科学計量学。
NDC:400 自然科学
NDC:404 自然科学 >> 論文集.評論集


数値と客観性 | みすず書房

 なぜ「数字は正しい」のか。なぜ数字になると信頼するのだろう。
 数値にした瞬間に一人歩きするものは世に多い。GNP、PISA放射線量。どうして星や分子や細胞の研究で成功した数値化という方法が、社会の事象をあつかうにも妥当と認められるようになったのか。ギリスピーとクーンに学んだ科学史家が、19-20世紀イギリスの保険数理士、フランスの技術官僚、アメリカ陸軍技術団の史実に即して徹底追求。ひるがえって自然科学にとっての数値化の意味を照射する。
 ローカルノレッジ(局所的な知識)を越える卓抜な技術としての標準化・定量化。専門家の裁量に不信の目が向けられるとき。エキスパート・ジャッジメントか客観性か。
 科学者共同体と社会の鮮やかな政治的・文化的構図を描き、1997年4S(国際科学技術社会論学会)Fleck賞受賞。「日本語版への序」には、東日本大震災とフクシマの原子力発電所事故から2年後の日本の読者にあてたメッセージをふくむ。科学技術社会論をリードする訳者が明快な解題を付す。


【目次】
目次 [001-002]
日本語版(2013年)への序(セオドア・M・ポーター カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて 二〇一二年九月二十三日) [003-008]
序 [009-015]
謝辞(カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて 一九九四年三月) [016-017]


はじめに――客観性という文化 019


  第一部 数の力

第1章 自然記述の技巧の世界 029
  知識を没個人化する
  定量化と実証主義
  尺度の標準化
  生物学的標準化


第2章 社会を記述する数値が妥当とされるまで 057
  統制と妥当性
  規則と介入
  カテゴリーをつくる
  情報


第3章 経済指標と科学の価値 077
  社会的な技術としての定量
  不毛な理論
  技術者と物理学者による経済学
  公共事業に値段をつける
  ワルラスとポリテクニシャンとの対立
  経済学、物理学、そして数学


第4章 定量化の政治哲学 108
  客観性/対象化
  透明性/表層性
  フランスを統計社会にする
  二次元の文化


  第二部 信頼の技術

第5章 客観性に対抗する専門家――会計士と保険数理士 129
  会計と没個人化のカルト集団
  会計の客観性
  階層性と差異――イギリスの公務員
  紳士的な保険数理士
  特別委員会は正確な規則を求める


第6章 フランスの国家技術者と技術官僚の曖昧さ 159
  経済の定量化の文脈
  作動する定量化精神
  公的効用の評価
  収益の予測と利便性の見積もり
  エリートとしての技術者
  フランスにおける行政文化
  テクノクラシー


第7章 アメリカ陸軍技術者と費用便益分析の興隆 200
  アメリカの工学における経済的定量化のはじまり
  当局の権威によって正当化される数値
  技術団の数と標準化への圧力
  連邦政府省庁の経済的実践の不一致
  一様性を求める圧力
  経済学者による乗っ取り


  第三部 政治的な科学者共同体

第8章 客観性と専門分野の政治 253
  官僚制――アメリカのスタイル
  推論の規則
  生命科学の検定と治療の施行
  心理テストと実験心理学
  客観性は専門性に置き換わるか?


第9章 科学は共同体によってつくられている? 282
  交渉と自律性
  強い共同体と弱い共同体
  不透明な境界と力をもつ外部者


解題(藤垣裕子) [299-314]
  1 現代社会における数量化の意味 299
  2 数値による信頼と専門家によせる信頼――「客観性」の文化研究 300
  3 「科学的」とは何か――科学の地図論 304
  4 科学的とは何か――促進されるものと探求できなくなるもの 306
  5 科学者の社会的責任論へ 310
  註 313


訳者あとがき(二〇一三年四月 藤垣裕子) [315-316]
原註 [xli-lxxiv]
参考文献 [xii-xl]
索引 [i-xi]




【メモランダム】
統計学の専門用語の翻訳において問題があるという指摘。
『数値と客観性:科学と社会における信頼の獲得』 - leeswijzer: een nieuwe leeszaal van dagboek

 それはともかくとして,「数学的統計学」(p. 41)とか「ランダム化(無作為抽出)」(p. 266)とか「直感的統計学者によって表象されはじめた」(p. 276)とか ― おい,大丈夫か,この翻訳〔……〕.
—— 有害な翻訳は「見なかったふりをする」自由が読者にはあるはず.もちろん,有害な翻訳書を「あえて引用しない」自由もある.