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『子どもの貧困 II ――解決策を考える』(阿部彩 岩波新書 2014)

著者:阿部 彩[あべ・あや](1964-) 社会政策、貧困・格差の研究。
NDC:367.61 家族問題 >> 児童・青少年問題
備考:『子どもの貧困――日本の不公平を考える』(阿部彩 岩波新書 2008)の続編。



子どもの貧困 II - 岩波書店


【目次】
はじめに [i-vi]
  子どもの貧困の発見から五年
  政策オプションは何か
目次 [vii-x]


第1章 子どもの貧困の現状 001
1 どれほどの子どもが貧困なのか 003
  就学援助費の受給率15.6%
  子どもの貧困率の国際比較
  どのような世帯の貧困率が高いか
2 貧困が子どもに及ぼす影響 014
  恐ろしい貧困の影響
  学力だけではない
  大人になってからの影響
  貧困の連鎖
  「機会の平等」
3 貧困の社会的コスト 025
  貧困の社会的コストは1億円?
  貧困の社会的コストに含まれるもの
4 景気回復は貧困対策となり得るか 030
  先進諸国の30年間
  日本への示唆


第2章 要因は何か 037
1 連鎖の経路 040
  (1)金銭的経路
    【教育投資】
    【家計の逼迫】
    【資産】
  (2)家庭環境を介した経路
    【親のストレス】
    【親の病気(精神疾患を含む)】
    【親との時間】
    【文化資本説】
    【育児スキル・しつけスタイル】
    【親の孤立】
  (3)遺伝子を介した経路 
    【認知能力は遺伝するのか】
    【そのほかの遺伝的要素(身体的特徴・性格・発達障害)】
  (4)職業を介した経路 
    【職業の伝承】
  (5)健康を介した経路
    【健康という経路】
    【発達障害・知的障害】
  (6)意識を介した経路
    【意欲・自尊心・自己肯定感】
    【福祉文化説】
  (7)その他の経路 
    【地域・近隣・学校環境】
    【ロールモデルの欠如】
    【早い離家・帰る家の欠如】
2 どの経路が重要なのか 066
3 経路研究を政策につなげるために 070


第3章 政策を選択する 073
1 政策の選択肢 075
  さまざまな政策オプション
2 政策の効果を測る 078
  政策効果の検証
  ペリー・スクール実験(アメリカ)
  日本への適用
  比較のベース
  貧困の深刻度と効果の関係
3 政策の収益性をみる 088
  何をもって「効果」とするか
  将来の収益性
  アメリカにおける収益性の比較
4 日本への示唆 096


第4章 対象者を選定する 099
1 普遍主義と選別主義 101
  ターゲティングが絶望的に下手
  川上対策と川下対策
  選別主義への批判
  普遍主義の欠点
  負担の累進性と逆進性
  どちらが貧困削減に効果があるか
  ターゲティングが上手な国
  日本では
2 的を絞る 116
  ターゲットの全体像
  ターゲティングの方法
3 年齢を絞る 122
  乳幼児期の貧困は後々まで響く
  クルーガー・ヘックマン論争
  介入政策の効果は持続するか
4 ターゲティングの罠 129


第5章 現金給付を考える 131
1 「現金給付 対 現物給付」論争 133
  データが示すもの
2 現金給付の利点/現物給付の利点 136
  100%の効果は望むな
  かゆいところに手が届く
  おカネしか解決できないもの
  おカネでは解決できないもの
3 現金給付の現状 144
  児童手当
  児童扶養手当
  遺族年金
  生活保護制度
  再分配の逆転現象
4 現金給付の設計オプション 156
  逆転現象の解消
  乳幼児期の重視


第6章 現物(サービス)給付を考える 161
1 子どもへの支援 163
  貧困対策としての保育
  医療のセーフティネットの強化
  栄養プログラム
  発達障害・知的障害への対策強化
  放課後(子どもの「居場所」)プログラム
  放課後格差の解消
  メンター・プログラム
  学習支援
  子どもが相談しやすい環境整備
  貧困の最前線への投資
  「帰れる家」の提供
2 親への支援 184
  妊婦への支援
  親の疾患(精神疾患・自殺、依存症)・親の障害(発達障害・知的障害)


第7章 教育と就労 187
1 教育費の問題 189
  どこまでが「必要最低限の教育費」か
  義務教育の完全無償化
  高校
  大学
2 学力格差の縮小 196
  「落ちこぼれ」の予防
  教育予算の増加
  少人数学級
  教育カリキュラムの改善
3 学校生活への包摂 202
  不登校と中退への対策
  中退防止
4 教育のセーフティネットの強化 206
  定時制高校・通信制教育・夜間中学
5 教育から就労への移行支援 209
  安定した雇用へのスタートライン
  雇用する側への働きかけ
  労働法・社会保障制度の知識
6 子どもと接する大人たちへの教育・支援 214


終章 政策目標としての子どもの貧困削減 215
1 子どもの貧困対策法 216
  うれしいニュース
  子どもの貧困を測る指標
  これからのこと
2 子どもの貧困を測る 220
  イギリスの子どもの貧困指標
  EUの子どもの貧困指標
  相対的貧困率
  剥奪指標
  複合指標
  モニタリング指標と目標指標
3 優先順位 229
  現金給付
  現物給付
4 さいごに 234


あとがき(二〇一三年一一月 阿部彩) [237-240]
参考資料 子どもの貧困対策の推進に関する法律 [5-14]
主要引用・参考文献 [1-4]



【図表一覧】
図表1-1 就学援助費の受給率の推移(2001~2011年) 004
図表1-2 相対的貧困率の推移(1985~2009年) 006
図表1-3 貧困率(年齢層別,性別) 008
図表1-4 先進20カ国の子どもの貧困率 009
図表1-5 ひとり親世帯の貧困率の国際比較 010
図表1-6 子ども(18歳未満)の相対的貧困率(2009年) 012
図表1-7 学力格差:親の年収と子どもの学力 016
図表1-8 健康格差:ぜんそくの通院率 016
図表1-9 「将来の夢がない」とした小学5年生の割合とその理由 018
図表1-10 15歳時の経済状況と現在の生活困窮(20~59歳) 021
図表1-11 母親の学歴別子どもの学歴(20~40歳) 023
図表1-12 GDPと国内の最貧層[※世帯所得が最も低い10%の人々]の所得の関係 032
図表1-13 最貧層の所得の30年間の変化 033

図表2-1 貧困と親の健康の関係 047
図表2-2 親との時間:母親・父親と過ごす時間が少ない子どもの割合(7歳児) 049
図表2-3 「テストでよい点がとれないとくやしい」と思う中学3年生の意見 060
図表2-4 自分が40歳になった時「世の中の役に立つ仕事をしている」と思う中学3年生の割合 061
図表2-5 自分が40歳になった時「やりがいを感じる仕事をしている」と思う中学3年生の割合 061
図表2-6 世帯年収と子どもの学校の成績,問題行動傾向,QOLとの関連 067
図表2-7 「貧困の連鎖」:複数の経路を想定した概念図 068

図表3-1 子どもの貧困対策の選択肢リスト 076-077
図表3-2 ペリー・スクールの効果 082
図表3-3 貧困と子どもたちの状況との関係性(概念図) 087
図表3-4 アメリカにおける対貧困プログラムの収益性 093

図表4-1 対象者ピラミッド 119
図表4-2 親の所得が子どもの高校卒業に与える影響 125
図表4-3 人的資本に対する投資の収益率の概念図 127

図表5-1 児童扶養手当の受給者数の増加 147
図表5-2 子どもの貧困率:再分配前,再分配後[内閣府(2011)] 153
図表5-3 ユニセフ推計による再分配前後の子どもの貧困率:国際比較 155

図表6-1 所得階層と放課後の過ごし方[阿部彩・埋橋孝文・矢野裕俊(2014)「大阪子ども調査 結果の概要」] 171

図表7-1 教育費に占める公的資金の割合 190
図表7-2 世帯所得別学校外学習費 191

図表終-1 EUによる子どもの剥奪指標に用いられる項目 224
図表終-2 ユニセフ報告書の「子どものウェル・ビーイング指標」 226-27




【抜き書き】
□ v 頁。「はじめに」から。

社会問題の多くがそうであるように、一目瞭然の解決法が存在するわけではない。子どもの貧困に対して、具体的にどのような政策を打っていけばよいかという問いに対して、私を含め、「霞ヶ関」も、社会学者、教育学者、経済学者といった「有識者」も、決定打となる答えを示せていないのである。
 しかし、海外においては、子どもの貧困に対する膨大な試行錯誤の蓄積があるし、日本においても、さまざまな取組みが始まっている。


□ pp. 107-109

  普遍主義の欠点
 それでは、普遍主義の欠点、逆にいえば、選別主義の利点はなんであろう。
 選別的制度の最大の利点、そして、普遍的制度の最大の欠点は、財政負担が大きいことである。たしかに、ニーズをベースとした制度においては、高所得層へ給付を行う合理的な理由づけは困難である。むしろ、同じ財源規模であるならば、所得制限を課して、より多くの資源ニーズの高い子どもに給付すべきであるという主張がなされるであろう。同じ財源規模であるのであれば、「広く薄く」給付をするのでなく、貧困層に絞って、より「狭く厚く」給付をしたほうが貧困対策として効率的であるという議論は、貧困対策を推進する側からも、貧困対策を最小限の財源支出に抑えようという消極派からもあがる。この説は非常に説得性がある。とくに日本の現状のように、国の財政状況が厳しい場合は、「お金がかかる」というのはいちばん手強いハードルである。二〇一二年に一時的に導入された普遍的な「子ども手当」もまさにこの議論に則って廃止されたといえよう。
 また、選別的制度は、ニーズに基づく給付であるのに対し、普遍的制度は、政治的な票集めにしかすぎないという批判もある。簡単にいえば、「バラマキ」である。とくに、現金給付は「バラマキ」の印象が強い。ニーズとは関係なく給付されるので、給付がなくても十分豊かな暮らしをしている富裕層にまでも国のお金が流れる。税金の無駄遣いではないか。このことに対する批判は非常に根強い。
 しかし、不思議なことに、普遍的制度に対するこの批判は「現金給付」のみに強く主張されるものの、多くの他のタイプの普遍的制度については主張されない。誰も、富裕層の子弟にも国のお金で義務教育を施していることを「税金の無駄遣い」とはいわない。医療サービスも、同じ三割負担(現役層の場合)でサービスを誰でも受けられるが、それを不思議に思わない。
 義務教育や医療サービスなどの現物給付は普遍的制度にし、現金給付は選別的制度にするべきだという意見もある。しかし、近年においては、民間や公的に提供されているサービスを購買する費用の一部を政府が補填する制度などもあり、現物給付と現金給付の線引きは難しくなってきている。たとえば、保育所の保育料は所得によって段階的に決められている。保育サービスは現物給付であるが、お財布への影響という意味では、保育料減免はその差額がだけ現金給付をしたことと変わらない。


□pp. 168-169

   発達障害・知的障害への対策強化
 前述したとおり、本章で掲げる政策の多くは、筆者がかかわった内閣官房社会的包摂推進室の調査からヒントを得たものである。本調査は、一八歳から三九歳の比較的若い年齢で、薬物依存、ホームレス、若年妊娠、自殺など極度の社会的排除の状況に追い込まれてしまった人々の子ども期からの生活史を丁寧に調べたものである。彼/彼女らの圧倒的多数が子ども期を貧困の中で過ごしており、金銭的困窮以外にも複数のリスクを抱えていた。
 なかでも多く見られたのが、発達障害・知的障害をもつ人たちである。発達障害や知的障害は、重度であれば、保健所や学校の健診で発見され、何らかの支援が提供される。しかし、先の調査であげられたケースの人たちは、みんな、比較的軽度の障害であり、発見されずに成人となっていた。彼/彼女らは就学前や小学生といった小さい時から疎外されており、学校や職場などの周囲からの無理解によって適応問題が生じ、結果として貧困、そして社会的排除の状況に追い込まれている。もし、障害が幼少期に発見されていれば、本人にあった教育や接し方を周囲が行うことができ、彼/彼女らは異なる人生を歩んでいたかもしれない。
 貧困世帯においては、子どもに発達障害・知的障害があっても放置されてしまう可能性が高い。だからこそ、子どもの貧困対策において、発達障害・知的障害に対する政策は欠かせないものなのである。
 具体的には、早期発見、親への働きかけ、適切なプログラムと実施機関の普及が必要であろう。早期発見については、近年、知識の浸透、乳幼児健診などの実施によって、改善されているものの、軽度もしくは疑いがある場合は、未発見・未支援のまま進学してしまうこともある。子どもが大きくなるにつれて、発見の「場」「目」が少なくなるため、小学校までに発見することを徹底する必要がある。
 なお、障害が「発見」されても、親が支援を受容するかどうかは課題として残る。「福祉制度」は親にとって敷居が高いので、「教育制度」からアプローチする必要があろう。教育問題としてアプローチしたほうが、親は支援を受けやすいかもしれない。そして、これはいうまでもないが、発達障害の理解が深まり、診断される子どもも多くなってきた今、障害を抱える子どもへの教え方の開発とその普及、これらに従事する人員の増加が不可欠であろう。