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『経済の本質――自然から学ぶ』(Jane Jacobs[著] 香西泰,植木直子[訳] 日本経済新聞出版社 2001//2000)

原題:The Nature of Economies (Random House Canada, 2000)
著者:Jane Butzner Jacobs (1916-2006)
訳者:香西 泰[こうさい・ゆたか] (1933-2018)  エコノミスト
訳者:植木 直子[うえき・なおこ] 


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【版元の内容PR】

エコロジーとエコノミーの語源が同じように、経済と自然には共通する法則が働いている。ユニークな着眼点から経済における多様性、自立的発展の重要性など、経済を見る目、自然の観察に新鮮な視点を提供する。経済と自然の働きを比較するというユニークな視点の教養書です。都市論で有名なジェイコブズの経済に関する思索が凝縮されています。

https://www.nikkeibook.com/item-detail/19701



【目次】
献辞 [i]
まえがき(ジェイン・ジェイコブス トロントにて、一九九九年七月) [iii-v]
目次 [vii-ix]


第1章 なんと、またエコロジストだって 003
第2章 発展の本質 019
第3章 拡大の本質 049
第4章 活力自己再補給の本質 081
第5章 崩壊を避ける 105
第6章 適者生存の二重の法則 149
第7章 予測不可能性 167
第8章 アームブラスターの約束 187
エピローグ 191


原注 [193-224]
謝辞 [225-226]
訳者あとがき(二〇〇一年四月二日 香西泰 植木直子) [227-232]
参考文献 [234-235]
索引 [236-245]




【抜き書き】 

・「第5章 崩壊を避ける」から抜き出した一節(pp. 113-115)。

 〔……〕
 「そのことで、腹が立つことがあるの!」。突然、ホーテンスが叫んだ。「人間嫌いのエコロジストは、疫病と飢饉が、とめどない人口増大を制限した、と指摘するのが大好きよ。彼らが考えつくかぎりでは、そのような災厄だけが地球を無制約で持続不可能な人類の増殖から救うってわけ。ああいう人間嫌いたちは注意不足だから、経済が繁栄すると――女性も男性も教育を受け、母たちは子孫が疫病や飢饉から守られ、教育を受けられると考えてよくなると――そういう経済でこそ、女性は子どもの数を自発的に制限することが、わからないのよ。女性は宗教権威や国家が禁止しようとも、そうするわ。疫病や飢饉は必要ない――その反対よ。ハイラム、産児制限も分岐とよべる?」

 「よべるとも。君が怒っている人間嫌いたちは、人類は種としてみずからを崩壊から救える能力があることを信じられなくなったのだ。昔は信じたことがあったにしてもね。産児制限は他の分岐と同じく、それが出現可能なところで始まり、以後さらに拡大し、女性と子供の経済的社会的条件が産児制限に向いているところではどこででも行われている。自発的産児制限は、遠い将来になって振り返ってみれば、農業や牧畜と並ぶ重要な安定化のための分岐だったということになるかもしれない。
 でもこういう人間嫌いにも、認めるべきところはあるよ、ホーテンス。非常に重要な論点を指摘したのだから。分岐は不安定修正にはすぐれているが、新しい不安定性を生みだしもする。疫病や飢饉の克服法は――われわれがやってきた程度にまで利用すると――先例がないほど急速な人口増大、先例がないほどの資源逼迫など、新しい不安定性を生みだした。中国のように産児制限を国家が制すると、これも新たな不安定性を生むことはたしかだ。それは現在時点ではただおばろげに推測できるだけだが。もっと漸進的で人道的な自発的産児制限も、社会経済生活に新たな不安定性を注入する。まず手はじめに、年金制度、移民政策、教育を歪める。
 これが分般に隠された落とし穴だ。すなわち、意図せざる、予期せざる結果さ。自動車とトラックが出現したために、車を引く馬や牛などは都市では使われなくなってしまった。その糞尿、虫害、そして騒音が都市では耐えがたくなり、飼料供給のために農場への圧力が増大しつづけたからね。これはすぐれた分岐だった。しかし自動車は新しい不安定性をつくりだす。それにはそれで修正を至急加える必要がある。意図せざる結果の落とし穴は、人間の短慮や愚鈍に由来するものではない。物事の本質からいってやむをえないのだ。地殻自体がその不安定性を修正しきっていない。なぜなら、地震、火山の噴火、そして地殻変動によるプレート移動は、ただ一時的な修正にすぎないからだ。修正すればしたで新たな圧力と緊張が生じる。同様に、あらゆる進化的発展は、それがどれだけある種の動物にとっては安定性を強めようとも、他の種の動物には不安定性をもたらす――」

「そのことは繰り返し注意されなければならないわ!」とケートが言った。「新しい不安定性が他の動物を害するのは、自然がわれわれの役割を決めているからよ」

「われわれが住んでいるのは永久に静止しない惑星の上なのだ」とハイラムは言った。「その創造性、多産性は、終わりなき修正を要求してやまない。それはどうしようもない。悲観的に考えると、完璧であることができず、よくて暫時をのぞき、まあ安全とすることさえ不可能な経済的社会的システムにわれわれは閉じこめられている。このことに絶望したって当然だ。しかし楽観的に考えると、世界は富んでいて、われわれの行動を修正し、修正し、さらに修正するべく、興味深く建設的な機会を、無限に与えつづけている。これを面白いと思うこともできる。
 それに、動的システムが不安定性と崩壊を土壇場で静止させる方法は、分岐以外にもあることをお忘れなく。つぎの範疇、ポジティブ・フィードバック・ループに移りましょう。〔……〕」