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『人種は存在しない――人種問題と遺伝学』(Bertrand Jordan[著] 林昌宏[訳] 中央公論新社 2013//2008)

原題:L'humanité au pluriel : La génétique et la question des races (2008)
著者:Bertrand Jordan (1939-) 分子生物学
監修者:山本敏
訳者:林 昌宏
装丁:細野綾子

 

人種は存在しない -人種問題と遺伝学

人種は存在しない -人種問題と遺伝学

 

 【感想】
 現存する人種問題について(そして人種概念について)、要点を押さえキレイにまとめてある一般向け科学随筆。

【版元】
http://www.chuko.co.jp/tanko/2013/03/004481.html

 

【目次】
目次 [001-003]
凡例 [004]
謝辞 [006]
はじめに [007-011]


第1章 人種および人種差別に関する小史 013
啓蒙の世紀〔フランスの十八世紀〕における人種と人種差別
ピノー ――強烈なイデオロギーを打ち立てる
不本意ながらの「単一起源論」
「理論的に明らかで、永続的で消し去ることのできない」不平等
人種差別主義者の進化に関する解釈
人種差別と優生学
ナチズムからの転機


第2章 人種は明白なものか 031
アメリカにおける人種
人種の壁を超えるという神話
人種の特性
近代的な表現に変わる
根本的な間違い
あやふやな言葉の定義


第3章 科学は人種を否定する 047
「科学を装った人種差別」
ゲノムの読み取りと人間の多様性
小さな差異が大きな相違となるのか


第4章 差異と格差 055
われわれのDNAの構造
どの親もまったく異なるのか、まったく同じなのか
ゲノム、病気、疾病率、疾病からの保護
ハンディキャップが利点に
環境、それとも遺伝か
知能と知能指数(IQ)――複雑怪奇
厳密な実験をおこなうための条件
ほとんど意味のない研究
不平等と序列


第5章 ヒト集団の多様性――最初の目印 075
ミニサテライト、DNAの繰り返し
マイクロサテライト(STRs)
母方と父方の家系――部分的ではあるが、隠されたものが見える
マイクロサテライト――ゲノム全体に対する最初のアプローチ


第6章 スニップスがヒト集団を定義する 085
われわれの種のまとまりを証明する……
そうはいっても、人種には多様性があるのでは……
祖先はさまざまなヒト集団からなる
祖先と「人種」


第7章 さらに詳しく解説するなら…… 101
スニップスの組み合わせがハプロタイプ
コピー数多型という新顔
それでもヒトに対する見方は変わらない


第8章 われわれはみな、クロマニョン人の子ども 113
ホモ・サピエンス・サピエンスの移動
創始者効果と遺伝的浮動
自然選択……
性交相手の自然選択!
人種が生まれるはずが、そうならなかったわけ


第9章 人種ビジネス 125
マーカーの組み合わせ
血縁調査、浮気検査……
魅力的で新たな未開拓事業――祖先探し
アフリカ系アメリカ人が、こうしたサービスを利用するわけ
アメリカ先住民出身者の要求
アファーマティブ・アクション積極的差別是正措置〕が抱える矛盾
改良の余地があるテクノロジー
イデオロギーがもたらすもの


第10章 犬とヒト 139
犬の起源は新しい
犬種は、ヒトがつくり出した
誘導された自然選択の威力
それではヒトは、どうなっているのか


第11章 「人種」と病気 147
遺伝子、病気、成績、行動様式
スニップスは、しばし遺伝子に影響をおよぼす(しかし、それは稀である)
個人から集団へ
特定のヒト集団における歴史的な突然変異
バイキングの病気
アシュケナージ中欧および東欧系〕のユダヤ人の病気……
複雑怪奇な多因性遺伝子疾患
かなり特徴的な違いもある
しかし、おそらくそれは例外だ……
「人種」は医学的な指標になるか
「人種」と病気との微妙な相関関係


第12章 「特定ヒト集団用の」医薬品 165
新しいのは名前だけの新薬
アフリカ系アメリカ人だけを対象にする臨床試験
儲けに絡んだ対象設定
いわゆる特定ヒト集団用の医薬品に流行の兆し
疑わしい特殊性、イデオロギーに満ちあふれた見方が影響力をもつ


第13章 「人種」と能力 175
アフリカ人の知能指数は、「遺伝的に劣っている」のか
筋肉隆々だが(頭の中身は?)
リフトバレー州〔アフリカ大陸の東部〕のマラソンランナー
西アフリカの短距離走者は
一卵性双生児と二卵性双生児に助けを求める
分類では人を定義できない


第14章 旅の終わり 187


註 [195-208]
詳細目次 [209-211]
監修者あとがき [212-215]
訳者あとがき [216-218]
専門用語解説 [219-223]
参考資料――参考文献とウェブサイト [224-237]

 


【抜き書き】

   はじめに

 最近、フランスでは「民族統計」を作成してはどうか、という議論がある。このような統計を作成すれば、雇用状況や住宅事情に関する社会的な差別の実体が明らかになるという。そうした提案がなされること自体、人種が相変わらず社会問題になっている証拠だ。もちろん、その際に「人種」という直接的な言葉が用いられることはない……。人種という言葉は、人類が同胞に対して犯した忌まわしい過ちを想起させる。したがって、この言葉からはありとあらゆる否定的な感情が浮かび上がってくる。さらに、その定義もきわめて杜撰だ。というのは、身体的な特徴、遺伝的特性、生活様式、文化という多様な要素を一緒くたにしているからである。
 以上のような理由から、人種という言葉は、少なくともわが国では政治的に正しくない表現になっている。一九五○年代から六○年代にかけてわが国では、人種について語るのはやめよう、という社会的な風潮があった。だが人種は、われわれの社会に内在化されたものであるかのように、周期的に話題になっている。そうした経緯を踏まえながら、本書はこの厄介なテーマを取り上げる。
 人種が今でも時事問題であり続けるのは、人種差別に反対する人々が展開する議論に、しばしば説得力が欠けるからではないだろうか。彼らの議論をほとめると、次のような感じだ(かなり単純化して言えば、である)。「人種など存在しないことは、科学が示すところだ。したがって、人種差別が存在する理由などない」【1】。このような発言は、ヒトの遺伝子はほとんど同じであるという科学的事実に依拠している。しばしば指摘されるように、無作為に選んだ二人の人物のDNAは、九九・九%が同型だ【2】。
 しかし、実際に街を歩けば、「黒人」、アラブ人、アジア人に出くわす。より科学的な観点から述べると、〇・一%の差異といえども、ヒトのDNAに皇れる三十億個の塩基【3】のうち、三百万個が異なるのだ……。この違いだけで、ヒトは明確な多様性をもつと考えられている。これを詳細に眺めると、たとえばDNA内の遺伝的多型マーカーを分析すれば、DNAレベルでヒトの集団を定義することができる。これは人種というよりも、人々の出身地域、祖先あるいは「祖先マーカー」を特定することである。これについては後述する。
 最近では、ほんの少し前では想像もできなかったような技術革新により、ヒトのゲノムの理解が大幅に進み、新たな事実がわかってきた。現在では、ある人物から採取したDNAを詳細に分析すれば、その人物の祖先は、おもにアフリカ出身者であるか、ヨーロッパ出身者であるか、または中東出身者であるか、ということがわかるようになった。とはいっても、これは「ヒトを人種に振り分けることができる」ことを意味するのではない。また人種間に存在する「論理的かつ明快で、消し去ることのできない永続的な序列」を指し示すのでもない。
 今日の科学の貢献をできる限り広く一般に周知させるために、本書では明らかになった事実を詳細に紹介しつつ、あらゆるタブーを排除し、これらの問題を解説する。今日の科学と強調したのは、それらのデータは最近になって明らかになったからだ。その大半は、数年前までは存在しなかった科学的知識や技術に基づいて導き出されたものだ。それらのデータにより、これまでの断片的な情報でなく、総合的で信頼性の高い新たな情報収集が可能になり、ヒトのDNAの多様性について、包括的な研究がおこなえるようになった。またヒト遺伝子の構造に関する理解も深よった。
 本書ではまず、十九世紀に理論づけられた人種差別を中心に、その歴史をざっと振り返る。そのような理論づけが植民地政策において果たした役割や、ナチスを常軌を逸した殺戮行為にまでいたらせたことを忘れてはならない。本書では、一般に「人種」によって語られることについて詳細に述べる。この人種という概念にはさまざまな意味があるだけに、それは困難な作業であることを申し添えておく。
 次に、人種差別に反対する人々の観点について語る。これは第二次世界大戦後に席巻した「環境絶対主義」や「文化絶対主義」という観点である。そして過去二十年間に蓄積されたヒトゲノムに関する分析結果から、個人レベルで人類に生じる不平等について問題提起する。その際に、ヒトのDNAの多様性や、個人を明確な集団に振り分けることができるのかどうかについて、最新のデータを利用して詳述する。次に、新たなタイプのヒトが登場する可能性について検証する。たとえば、ヒトも犬のように種類がはっきりと区別されるような事態が起こりうるのだろうか。犬のDNAの塩基配列も読み取られたが、これにより、ヒトも犬種のように科学的な意味での人種が生じるための諸条件を探ることができるようになるかもしれない。仮に人種が存在するのなら、それが科学的に何を意味するのかについても判明するだろう。
 次に、属するヒト集団や遺伝子の違いによって、罹りやすい病気について探る。また、患者が属する祖先ヒト集団から導き出せる情報に医学的価値があることについて述べる。そして属するヒト集団によって不平等が生じるのかという問題について再び論じ、生物学的な観点からこうした考え方に、はたして意味があるのかどうかについて考える。
 今日、ヒト集団のゲノムの多様性について、どのように語ればよいのだろうか。われわれの社会組織にとって、ゲノムの多様性から導き出せる結論とは何だろうか。本書は、これらの重要な疑問に対する答えを見出しながら議論を進めていく。

 

 


【メモランダム】

・本書に直接の関係は無いが、人種と構築主義について。


道徳的動物日記

2020-09-11

人種は存在しない…のか?

https://davitrice.hatenadiary.jp/entry/2020/09/11/141318