著者:久馬 一剛[きゅうま・かずたけ](1931-) 水田土壌学,熱帯土壌学。
装幀:鷺草デザイン事務所
シリーズ:学術選書;001
【目次】
口絵 [i-iv]
目次 [v-xiii]
第1章 はじめに
1 「土」と「土壌」 001
2 土を語る言葉 004
参考文献 007
第2章 土壌はどのようにしてできるか
1 大規模造成農地の土 009
大規模造成ミカン園の生育不良
土を調べる
生育不良の原因
団粒と土壌
2 土壌の働きはどのようにして支えられているのか 015
土壌を構成しているもの
容積重と孔隙率
団粒モデル
団粒構造の意味
透水と保水の仕組み
透水性のもう一つの意味
3 自然の土壌はどのようにしてできるか 027
三原山の植生と土壌
母岩‐母材‐土壌とA‐B‐C層
土壌生成の時間――もう一つの考え方
参考文献 033
第3章 植物の栄養と土壌の働き
1 土はなくとも木は育つ! 035
植物生育の秘密
無機栄養説の出現
水耕栽培
土は邪魔者?
食料の工場生産は可能か
2 土壌の養分供給能 049
植物の無機養分の貯蔵所としての土
岩石の風化と養分の解放
風化による養分解放の速さ
岩質の差異と養分量
岩石と鉱物の風化の難易
養分の給源としての有機物
3 土壌の養分保持能 063
化学的風化作用の産物としての粘土
粘土鉱物の構造と種類
粘土鉱物のもつマイナス荷電
腐植のもつマイナス荷電
陽イオン交換とその容量
無定形粘土と変異荷電
イオン交換における選択性
植物根による養分吸収とイオン交換
4 肥沃度の高い土と低い土 077
肥沃度をどのように測るか
粘土の風化序列
肥えた土と痩せた土
参考文献 083
第4章 日本の畑の土
1 日本の土壌はみな酸性! 086
酸性土壌とは何か
なぜ土壌は酸性になるのか
植物の養分吸収と施肥に起因する土壌の酸性化
酸性土壌とその改良
土壌の酸性のもたらす問題
2 日本の特異な畑土壌――黒ボク土 097
黒ボク土とは
黒ボク土のできかた
黒ボクの性質
黒ボクは問題土壌か
3 畑土壌の管理107
畑作農業と土壌
畑土壌の物理性の改良
畑作物の連作障害
4 土壌のアルカリ性 113
石灰質土壌と塩類土壌
アルカリ土壌またはソーダ質土壌
わが国における塩類土壌,アルカリ土壌の問題
参考文献
第5章 水田稲作と土
1 稲作圏としてのモンスーンアジア 119
三つの主要な穀物
モンスーンアジアの気候と稲作
モンスーンアジアの地形と稲作
2 水田土壌の特性と灌漑水 123
湛水下の土の特性
灌漑水と水稲の栄養
3 湛水の功罪――窒素とリンの有効化と根腐れ 130
窒素の循環
リン酸の有効化
水稲の生育障害と土
4 水田と畑の優劣比較 141
水田の土と畑の土
水田の生産性の高さと安定性
5 日本の稲作の特殊性 145
日本の自然と稲作の条件
稲作選択の鍵としての不良畑土壌
参考文献 151
第6章 土の中の生き物たち
1 土壌生物たちの働き 154
団粒形成と生物
分解者としての土壌
土壌呼吸
土壌動物たちの働き
2 土壌生態系における窒素循環と微生物 164
万能の手品師——土壌微生物
工業的窒素固定と生物的窒素固定
硝化と脱窒
3 根圏における微生物たちと植物の根の働き 170
植物の根圏とは
植物根と菌根菌
内生菌根とリン酸吸収
根圏における植物根の反応
シデロフォアとリン酸吸収
4 連作障害と土壌管理 177
連作の意味すること
連作障害のない水稲栽培
畑作における連作障害
連作障害への対策
抑止型土壌
輪作への回帰
参考文献 183
第7章 世界の土と日本の土
1 土の色と土壌の種類 185
土は何色?
土壌の色は何を示すか
2 土壌の分類,調査,作図 187
土壌の自然分類
土壌調査と土壌図作製
3 世界の土壌のいろいろ(1) 191
温帯圏の土壌
日本の土壌
4 世界の土壌のいろいろ(2) 198
熱帯圏の土壌
熱帯土壌の特異性
熱帯土壌の古さ
熱帯土壌の変異の幅の広さ
熱帯の農業開発と土壌
参考文献 210
第8章 地球環境問題の中の土壌
1 熱帯林破壊と焼畑 211
焼畑の実態
なぜ焼畑をするのか?
焼畑の合理性と問題点
2 地球温暖化と土壌 218
炭酸ガス問題と土壌
亜酸化窒素の発生と土壌
水田土壌とメタンの生成
3 酸性雨と土壌 225
酸性雨の中和剤としての土壌
酸性雨とは何か
酸性物質の起源
乾性降下物と湿性降下物
酸性雨のボーダーレス性
4 土壌の塩類化 233
灌漑農業の光と影
灌漑による塩類集積
塩類化の危険
もう一つの塩類化
5 土壌侵食 240
『怒りの葡萄』の背景としての土壌侵食
水食と風食
土壌保全
先進国の単作農業と土壌侵食
開発途上国の農業と土壌侵食
6 砂漠化 249
砂漠化とは何か
アフリカの農業と牧畜
アフリカの気候と土壌
参考文献 259
第9章 人間にとって土とは何か
1 生物圏の成り立ちと土壌 261
生物圏の成立
土壌の生成とその生物圏での位置づけ
2 土壌資源の有限性――マングローブと湿地林の開発がもたらすもの 265
土壌生産力の持続性
熱帯泥炭の開発
泥炭農地の問題
マングローブ跡地の問題土壌
3 持続可能な農業と土壌 273
持続的農業とは何か
アメリカにおける新しい農業への試み
持続的農業と土壌
わが国における有機農業と土壌
4 人間にとって土とは何か 285
森林と土壌
水質と土壌
人口分布と土壌
人の健康と土壌
参考文献 294
あとがき [295-296]
索引 [297-299]
写真クレジット [301]
【抜き書き】
湿潤熱帯における畑作の難しさの傍証となるのは、歴史的に見ても、湿潤な熱帯アジアで大規模な畑作農業が成立していない事実である。
唯一これを克服したのは、ゴムや油ヤシのような多年生木本作物を作るプランテーション農業であって、一年生作物を作る普通畑については、近代的農業技術をもってしてもなかなか対処しえず、これまでのところ、安定な熱帯畑作技術が確立されたとはいえない状況にある。