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『妖怪学新考――妖怪からみる日本人の心』 (小松和彦 講談社学術文庫 2015//1994)

著者:小松 和彦[こまつ・かずひこ](1947-) 文化人類学民俗学口承文芸論、妖怪論、シャーマニズム民間信仰)。



【目次】
はじめに――新しい妖怪学のために 
  妖怪学とはなにか/妖怪学の三つの潮流/柳田国男の妖怪学/柳田以降の妖怪学


第一部 妖怪と日本人 
一 妖怪とはなにか 
  恐怖・空間・妖怪/不思議・災厄・妖怪/妖怪を定義する/妖怪と社会関係/自然の妖怪と人間の妖怪/妖怪の予防と駆除/「生活社会」の三類型と妖怪

二 妖怪のいるランドスケープ 
  日本人の「ふるさと」としての小盆地宇宙/ムラのコスモロジー、マチのコスモロジー水木しげる少年の妖怪体験/奥能登・七浦の妖怪たち

三 遠野盆地宇宙の妖怪たち 
  遠野のムラの妖怪たち/遠野のマチの妖怪たち

四 妖怪と都市のコスモロジー 
  前近代の都市の妖怪たち/平安京の恐怖空間/江戸の怪異空間

五 変貌する都市のコスモロジー 
  「闇」の喪失/妖怪の近代  

六 妖怪と現代人 
  妖怪の存立と前提条件/現代都市の「闇」/「学校の怪談」/「化け物屋敷」/現代の妖怪の特徴と現代人の不安


第二部 魔と妖怪 
一 祭祀される妖怪、退治される神霊 
  「神」と「妖怪」の相違/祀り上げられる「妖怪」/棄てられた「神」/退治される「妖怪」

二 「妖怪」の民俗的起源論 
  どのようにして妖怪は生じるのか/非人間起源の妖怪/「妖怪」に変身する人間/怨霊と御霊/人に見える死霊=幽霊

三 呪詛と憑霊 
  呪詛――魔に身を任せた人々/生霊憑き・死霊憑き・動物霊憑き/二種類の「憑きもの筋」

四 外法使い――民間の宗教者 
  宗教者の両義性/陰陽師式神/修験者と護法/外法神

五 異界・妖怪・異人 
  異界とは何か/異界と妖怪/異界と異人/秩序・災厄・異人(妖怪)


おわりに――妖怪と現代文化


あとがき
新書版あとがき
注 





【抜き書き】

はじめにーー新しい妖怪学のために

「人間文化の進歩の道程に於て発明され創作された色々の作品の中でも『化物』などは最も優れた傑作と云はなければなるまい」 (寺田寅彦


  妖怪学とはなにか

 人間は想像する。その想像力はまた、さまざまな文化を創りだす創造力でもある。そしていま私たちはその創造力が作りだした膨大な種類の文化を所有しているわけであるが、そのなかでもっとも興味深いものの一つが「妖怪」と称されているものであろう。この「妖怪」を研究する学問が、ここでいう「妖怪学」である。
 しかしながら、現在まで、「妖怪学」という学問はまともな形で存在していなかった。すなわち、学問の範囲や目的、研究方法、いずれの面でもまともな論議がなされてこなかったのである。たしかに「妖怪学」という名称は早くも明治の後半に現れており、妖怪を研究する学者も何人かはいたのだが、〔……〕妖怪研究はその妖怪撲滅・否定のための学問か、あるいは滅びゆく「迷信」を記録する学問で、近代における人間の生活にあまり積極的な意義を見いだせない研究とみなされたのである。
 近代の科学、物質文明の発達・浸透は現実世界から妖怪を撲滅してきた。しかし、現代においても妖怪たちは滅びていない。活動の場を、都市の、それも主としてうわさ話やフィクションの世界に移して生き続けている。〔……〕
 この新しい妖怪学は、〔……〕妖怪文化の考察を通じて、人間の精神の歴史や心のあり方を探る学問として構築されるべきである。もっとも、この試みはまだ十分な成果を収めているわけではない。むしろ、これから本格的研究が開始されるというべきであろう。〔……〕
 それでは、私が考える「妖怪学」の輪郭とはどのようなものであろうか。簡単に以下で説明しておこう。新しい妖怪学は、人間が想像(創造)した妖怪、つまり文化現象としての妖怪を研究する学問である。〔……〕妖怪を研究するということは、妖怪を生み出した人間を研究するということにほかならない。要するに、妖怪学は「妖怪文化学」であり、妖怪を通じて人間の理解を深める「人間学」なのである。