著者:井上 達夫[いのうえ・たつお](1954-) 法哲学。
シリーズ:信山社新書 - 法と哲学新書;03
ウクライナ戦争と向き合う ― プーチンという「悪夢」の実相と教訓 - 信山社出版株式会社 【伝統と革新、学術世界の未来を一冊一冊に】
【目次】
巻頭言 [iii-iv]
目次 [v-xii]
プロローグ――我々は何処へ行くのか 003
一 増幅する悪夢的現実 003
(1) 疫学的危機と政治的危機の拡大再生産
(2) 戦争長期化の懸念と世界の行く末への不安
二 本書が向き合う問題 010
(1) ウクライナ戦争の性質と原因
(2) 戦争終結への道筋
(3) ウクライナ戦争が日本に突き付ける課題
当事者意識の希薄性
九条問題の正面解決――立憲主義的安全保障体制の確立
第一章 いかなる戦争が戦われているのか
一 「ロシアは侵略していない」という不思議な「論理」 027
(1) 「ネオナチ的支配からのウクライナ解放」という言説の呪力
(2) 「集団的自衛権行使」論の虚妄性
二 「NATOの東方拡大がプーチンを追い詰めた」のか? 035
(1) 国際政治におけるリアリズム派の「NATO東進帰責論」
(2) NATOの変容――集団的自衛権体制から地域的集団安全保障体制へ
冷戦期対立構図の崩壊によるNATOの機能転換
NATO東進帰責論の米国陰謀説的偏見
NATO・ロシア関係の変遷
(3) コソボ紛争とNATO・ロシア関係
NATOのコソボ紛争軍事介入とエリツィンの核恫喝発言
プーチンの親米的・親NATO的対応
(4) ロシアの軍事的攻勢とNATOのロシアに対する軍事的非関与主義
攻めるプーチン、自制するNATO
民主化の波へのプーチンの軍事的応答
(5) 「リアリスト的プーチン像」の破綻
三 「西側」の責任はどこにあるのか――責任の問い方に潜む罠 063
(1) 米国とNATOの真の罪責
「西側」の欺瞞に対するプーチンの応酬
バイデン陰謀説の欠陥
「バイデンのそそのかし」より巨大な米国の罪責
(2) 自己批判の陥穽――「二悪二正論」を越えて
戦争責任問題における「二悪二正論」の呪縛
「二悪二正論」の自壊性と執拗性
(3) 「チョムスキーよ、お前もか」
対露宥和主義へのチョムスキーの傾斜
ウクライナ知識人たちの公開書簡
チョムスキーの意図の好意的解釈――ウクライナへの愛?
「自己批判の陥穽」へのチョムスキーの転落
四 プーチンがウクライナを侵略した真の狙いは何か 096
(1) 「ユーラシアニズム」というアイデンティティ政治への転向?
ロシアにおけるユーラシアニズムの復活とプーチン
ミンスク合意の虚妄性
ウクライナ征服のイデオロギー的道具
(2) 「対外硬、内に憂あり」――プーチンの自己保身戦争
挑発されざる戦争に為政者が走る一般的理由
民主化の波に対するプーチンの自己保身
自己保身主因論に対する批判への応答――陰りゆくプーチンの威光
軍人イヴァショフによるプーチン批判
アイデンティティ起業家的プーチン像と自己保身主因論の整合性
第二章 戦争はいかにして終わり得るのか
一 ウクライナ戦争の実相認識と国際社会の対応 135
二 第三国の仲介調停による紛争解決の可能性――中国の利害と期待可能な役割 139
(1) 戦況の膠着と停戦交渉の頓挫――調停役はいないのか
ロシアとウクライナの亀裂拡大と第三者的調停役の不在
調停者としての中国の可能性
(2) 中国の政治的・経済的利害状況
中国経済の沈下要因としてのロシア
中国の国際政治原則・世界戦略を掘り崩すロシア
中国の戦略的利害が見えていない習近平
三 戦争泥沼化の行く末――破滅は止められるか 155
(1) 戦術核兵器使用から第三次世界大戦へ?
「戦術核兵器限定使用」の非現実性
「核のブラフ」への屈従の自壊性
(2) ロシアが勝てない戦争をプーチンが止めない理由
米国とソ連の失敗から学習できないプーチン
なぜロシアはウクライナ戦争に勝てないのか
プーチンの戦況認識が歪められている可能性
戦況が不利でもプーチンが戦争を止められない理由
(3) 「テレビと冷蔵庫の戦い」――ロシア国民は覚醒できるか
ロシア国民しかプーチンを止められない
アレクイシエービッチの「知恵の言葉」――ロシア国民の変容可能性
「プーチンが排除されても明るい展望は開かれない」のか?
「冷蔵庫をテレビに勝たせる」ための対露経済制裁の意義と効果
対露経済制裁強化はロシア国民に対して苛酷か?
ロシアの民に捧ぐ、ディランとともに―― To Russians, with Dylan
第三章 この戦争から日本は何を学ぶべきか
一 ウクライナ戦争の「当事者意識なき当事者」日本 197
(1) 「反ロシア共同戦線」への日本の参加
「火事場」に立ち入った日本
ミロノフの恫喝の意味
(2) サハリン・プロジェクト撤退問題――危機管理意識なき日本
問題認識の倒錯――敵に回したロシアに依存し続けたい日本
エネルギー政策の抜本的転換ができない日本
二 立憲主義的統制に服する自衛戦力の確立 217
(1) 「危なすぎて使えない軍隊」としての自衛隊
「仁義なき戦争」が跋扈する国際社会
日本の安全保障体制の根本的欠陥――憲法九条と自衛隊の矛盾の放置
自民党「改憲四項目案」の愚
なぜ自衛隊は「使えない軍隊」なのか
最低限の憲法九条改正構想
(2) 国際社会は「自らを助くる者のみを助く」
「戦うウクライナ」が変えた欧米の支援姿勢
「平和を愛する諸国民の公正と信義」の実相
(3) 「日米安保信仰」を超えて
護符としての日米安保――「いざとなったら米軍が護ってくれるから大丈夫」
護符の効験の実相
自主防衛能力確立と日米安保体制対等化の不可分性
エピローグ――壊れやすきもの、汝の名は世界(二〇二二年八月 ウクライナの戦禍を思いつつ終戦記念日を過ごした後に 井上達夫) [257-268]
【関連記事】
・本書の前提にあるgrobal justiceの書。
『世界正義論』(井上達夫 筑摩選書 2012)
・その他の著作(のうち、弊ブログで掲載しているもの)。
『普遍の再生』(井上達夫 岩波書店 2003)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20140201/1483695738
『自由の秩序――リベラリズムの法哲学講義』(井上達夫 岩波現代文庫 2017//2008)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20171129/1511881200
『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください――井上達夫の法哲学入門』(井上達夫 毎日新聞出版 2015)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20180313/1520441257
『タバコ吸ってもいいですか――喫煙規制と自由の相剋〈法と哲学新書〉』(児玉聡 奥田太郎 後藤励 亀本洋 井上達夫 信山社 2020)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20201221/1608479700