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『文化人類学のエッセンス――世界をみる/変える』(春日直樹,竹沢尚一郎[編] 有斐閣アルマ 2021)

文化人類学のエッセンス (有斐閣アルマ)

文化人類学のエッセンス (有斐閣アルマ)

  • 発売日: 2021/01/16
  • メディア: 単行本

【目次】
序(2020年10月 春日直樹 竹沢尚一郎) [i-viii]
執筆者紹介 [ix-xii]
目次 [xiii-xviii]


  第I部 傷つきやすいものとしての人間 

第1章 貧困 003
1 貧困への恐怖 004
  「いつか自分もこうなるかも」
  「きっと自分はこうはならない」
2 2つの貧困 
  どちらがまだ「まし」なのか
  貧困の「違い」
3 お金と人生 
  「ただお金だけがない」
  貧困と社会的排除
4 貧困の多様さと,そこからの自由のあり方 018


第2章 自然災害――被災地における手仕事支援の意義 023
1 自然災害の被災地をフィールドにする 024
  インドの被災地
  手仕事を介した支援
  手仕事は生活を支える仕事になった
2 日本が被災地になった 030
  日本でも手仕事を介した支援がひろがった
  仮設住宅の集会所で手仕事をする
  インドとは異なる点
3 経済的自立と支援の意味 035
  ささやかな収入でも意味がある
  手仕事によって,辛い時をやりすごすことができた


第3章 うつ 043
1 新健康主義:心のスクリーニング 044
2 心の病はどうとらえられてきたか 046
  伝統的災厄論
  20 世紀の日本におけるうつ病
  バイオロジカルな災厄論:グローバル化する21世紀のうつ
  日本のうつ病
3 心と脳の監視社会? 055


第4章 感染症 061
1 数字と人生 062
  数百万人のうちの1人
  感染症とともに生きる人々の苦しみと力
  環境の一部としての数字
2 多様なバイオソーシャリティ 069
  市民であることの前提としての生物学的なもの
  政策のなかの生物学的なもの
  臨床と疫学
  バイオソーシャルな世界を生きる


第5章 性愛――他者と向き合う 079
1 他者との遭遇 
  私の「愛」とあなたの「愛」
  愛する人は他者
  モノガミー
  「奇妙」な関係
  ポリアモリーとは?
  ポリアモリーに至る背景
  意識的な関係構築:感情管理を中心に
2 「厄介な」他者 
  「夢中になる」ことの両義性
  性愛における暴力
  愛撫
3 他者への接近 093
  性愛と他者
  他者と向き合う


  第II部 文化批判としての人類学 

第6章 アート 099
1 開かれゆくアートとイメージの拡張 100
  なにが「アート」にするのか?
  開かれていくアート
  加速するイメージの拡張
2 フィクションと現実の相互生成 105
  社会モデルとしてのアート?
  新しいお祭りをつくる
  還るところ
  アートの道具化
  不可避な「距離」がもたらすもの   
3 複数の現実を照らし返すイメージ 113
  100年を架ける大凧
  消えゆくイメージと現実の複数性


第8章 食と農 119
1 なぜ日本の有機農業は少ないのか 120
  2種類の食パン
  農薬の危険
  有機農業教室の教え
  有機農業の割合
  農業の多面的機能
2 農業による環境保全 125
  豊かな農業を維持する仕組み
  農業者の誇り
  コウノトリを育む農業
  アフリカの農業と「緑の革命」の功罪
3 グルメブームとスローフード 132
  マクドナルドとスローフード
  グルメブームの陰で
  食べることは私たちの内なる自然を再確認すること


第9章 自分 137
1 誰もが自分ネイティブ 138
2 自閉スペクトラム症と診断される人々 139
  ずっと「普通」になりたかった
  欠陥か才能か
  自他の思考と感情
  生き方の模索
3 霊とともに生きる人々 145
  生者の魂,死後の霊
  霊力をそなえた自分
  霊力への配慮
4 2つの人々が共有するもの 149
  彼らにはあり,私たちにはない
  気持ちも感情も
5 知覚できないもの 152


第10章 政治 157
1 集団の意思を決定する方法 158
  政治とは何だろう
  他者(違い)と向き合う作法
  多数決:意思決定の常識
  全員一致:もう1つの方法
2 アフリカ社会の合意形成の知恵 163
  雄弁術
  パラヴァー:「全員一致」の知恵
3 社会の分裂と破局を乗り越える方法 
  破局的対立:ルワンダのジェノサイド
  ジェノサイド問題の解決法
  ガチャチャとパラヴァー
4 「文化人類学する」ことの醍醐味 173


  第II部 人類学が構想する未来 

第11章 自由 179
1 自由のとらえ方 180
  とらえどころのない自由
  解放としての自由 181
  結びつきがつくる自由
2 忘却と自由 185
  結びつきの忘却
  忘れないなら不自由?
3 もう1つの自由 189
  遠くの自由
  ケアと自由
4 身近な自由をとらえなおす 195


第12章 分配と価値 199
1 権原とシチズンシップ 200
  治療のシチズンシップ
  正当な分け前
  豊かさが雇用に結びつかない世界
2 新しい分配の政治 206
  就労や家族制と切り離された給付
  人々を選別する装置
  ベーシック・インカムの可能性
3 家父長制が終わった世界を生きる 210
  家父長制の揺らぎ
  父親の不在
  ケアの関係から疎外されていること
  人はなんで生きるか


第13章 SNS 219
1 それは何か? 220
  仮想空間の解体
2 仮想と現実 
  変容と矛盾
  矛盾の乗り越え
3 記号と情報 225
  人称と非人称
  誰のものかわからない発話 228
4  半人称的発話 230
  コンテクストの分裂
  SNS
  多様性と標準化


第14章 エスノグラフィ 239
1 新たなエスノグラフィの兆し 240
  新型コロナ禍のなかで
  リモート・エスノグラフィの兆し
2 エスノグラフィをめぐる問いとICT 246
  『文化を書く』が投げかけた問いとICT
  方法としてのエスノグラフィにおけるコラボレーション
3 ICT が切り開く新たなエスノグラフィ 251
  ハイパーメディア・エスノグラフィ
  プロトタイプ駆動


引用文献一覧 [259-265]
事項索引 [266-271]
人名索引 [272-273]


第7章 人間と動物(MOSA/奥野克巳) [1-16]




【抜き書き】
・本書のねらい(一般的な概説書とは異なっている)。
 また本書における文化人類学の基本的な想定4つを最初に示している。抜粋するついでに、メモとして、自分なりの言葉に変換してみる。

 序

 この本は大学の 1,2年生や専門課程の初年度ではじめて文化人類学を学ぶ学生を対象としている。〔……〕とはいっても,本書がめざしているのは,文化人類学の基礎的な考え方を伝えることではない。この学問の最新の成果を知らせることであり,その見方を学ぶことで世界がいかに違ってみえてくるかを示すことである。〔……〕
  本書は以下の4つの基本的な認識にもとづいて構成されている。

・一。グローバリゼーションとユビキタス社会の到来により変わるフィールド調査。

1. 世界中でグローバル化が猛烈な勢いで進行しており,日本でも世界の他のどの地域でも急速な変化が同時並行的に生じている

 本書を編集するふたりがそれぞれ最初の現地調査に行ったのは,1980年代のことである。インターネットや携帯電話などない時代だったから,日本に住む家族や友人とのやりとりは,フィールドの村に週に1度来る郵便に頼るしかなかった。〔……〕
  ところが今では,〔……〕過去には手紙でしか連絡のできなかった人類学者も,帰国後に資料をまとめる段階で疑問があればフィールドの友人に連絡して確認することができるようになっている。文化人類学という学問の最大の特徴とされてきたフィールドワークのあり方が,これまでとは大きく変わってきているのである。

・二。フィールドワークの意義は残る。

2. それでも人類学の核心部分は相変わらず,他の人々と直接に出会う経験としてのフィールドワークであり続ける

  テクノロジーの発達によってフィールドワークのあり方が大きく変わったからといって,私たちは文化人類学という学問にとってそれが不要になったとは思わない。
 〔……〕判断や理解のための枠組みは,地域や集団や時代によって共通する部分と違う部分とがある。とすれば,自分たちと異なる枠組みを理解するには,私たちが今まで身につけた殻をいったん脱ぎ捨てて,彼らのものの考え方や判断基準を学んでいくしかない。〔……〕人類学者は無知の自分をさらけ出しながら相手にぶつかり,彼らの考え方や生き方を学んでいかなくてはならないのであり,本書はそのようにして得られた理解にもとづいて書かれたものである。
  もっとも,理想とする調査がいつもできるわけではない。〔……〕しかしながら,どのような事態になろうとも,人類学者は人々の生き方や考え方にできるかぎり近づこうとし,与えられた環境下での最善の方法を人々とともにみいだそうと努めるだろう。

・三。他者への関心が、文化人類学者を動かしている。

3. フィールドワークの根底にあるのは他者と直接的に向かい合うことであり,文化人類学では困難や苦しみを抱えながら生きている人々への関心が大きな位置を占めるようになっている

  文化人類学は書物を通じてではなく,人々と直接に相対することで彼らについて学ぼうとする学問だから、その彼らのあり方が変化するにつれて,研究関心や方法も変わらざるをえない。
  〔……〕1980年代まで一般的であったこうしたフィールドワークのあり方――人類学者が遠く離れた調査地で,異なる生活様式を学んでいくという様相――は21世紀の今日ではすっかり変わってしまった。〔……〕1992年に難民研究に焦点を当てた人類学者のジョン・デービスが,従来の安定的な社会構造や文化形態の研究に加えて,「混乱と絶望に満ちた人類学」,すなわち「苦難の人類学」の必要性を訴えたのは(Davis 1992),こうした経緯を反映したものであった。
  ところがその20年後,工場閉鎖,失業,短期雇用,疾病,戦争,災害といった,人々が直面する苦難をテーマにした「暗い人類学」は,著名な人類学者シェリー・オートナーが指摘するように人類学の一大テーマになっていた (Ortner 2016)。本書の第1部の各章が,貧困,災害,うつ,病気,性的マイノリティといった困難な状況のなかで生きている人々を扱っているのは,こうした近年の傾向を反映しているのである。〔……〕今日の人類学は文化的な差異の理解だけでなく,「傷つきやすい存在としての人間の共通の性質」(Robbins 2013:450)に強い関心を向けているのである。

・四。社会問題を考えるとき、文化の次元に着目する。

4. 世界各地で生じている困難の多くは,社会経済的なだけでなく文化的な問題であり,文化人類学は人々がそれらの問題にどのように対処しているかを知ることで,困難の克服に貢献しようと努める

  文化人類学は困難や苦難を抱える人々を,主観と客観との往復運動のなかで理解しようとするだけでなく,そうした課題を生み出した世界のあり方を問い直そうとする。そのとき文化人類学は,社会や経済を私たちの外部にある完全に客観的な制度ではなく,つねに私たちが意味を与えることによって機能する主観性を帯びた実在としてとらえる点に特徴がある(このような観点を私たちは文化論的な観点と呼んでいる)。〔……〕
  本書の第II部は,こうした観点に立つ章によって構成されている。ここでとりあげるのは,アート,人間と動物,食と農,自分,政治といった私たちに身近なテーマだが,実際に論じているのは社会経済的な側面だけでなく,人々の認識や価値判断までを含む複雑な現象であることがわかるだろう。そして,私たちがあたりまえとしている見方や考え方が,じつは世界にたくさんある見方や考え方の1つでしかないことが理解できるようになるだろう。
  〔……〕世界には多様な文化,多様な意味の体系が存在するのだから,困難や苦難を乗り越えようとする試みも多様なはずである。そうした人々の試みのなかには,明日を切り開いていく可能性をもつものもあるのではないか。最後の第IⅡ部では,この視点からさまざまなテーマを議論する。
  第III部を構成するのは,自由,分配と価値,SNSエスノグラフィなどの章である。〔……〕具体的な事例から出発しつつ,そこから可能な未来を想定することは,私たちの生きている現在を批判的に見直すために有効だろう。それもまた,人類学のつとめであり可能性なのである

  この本のなかで提示されているさまざまな事例と解釈,構想は、あなたがこれまで親しんできたものとは異なるかもしれない。しかし,それこそ私たちの望むところである。新しい姿で登場する世界の諸問題に出会うことで,あなた方自身のものの見方や判断のあり方が少しでも変わるように,と私たちは願っている。

『21世紀の文化人類学〈ワードマップ〉』 (前川啓治ほか 新曜社 2018)

著者:
前川 啓治[まえがわ・けいじ](1957-) 文化人類学。グローバリゼーション論、地域開発。
箭内 匡[やない・ただし](1962-) 文化人類学。“映像人類学”。
深川 宏樹[ふかがわ・ひろき](1981-) 社会人類学。人格論。
浜田 明範[はまだ・あきのり](1981-) 医療人類学。アフリカ地域研究。
里見 龍樹[さとみ・りゅうじゅ](1980-) 文化人類学メラネシア民族誌
木村 周平[きむら・しゅうへい](1978-) 文化人類学(日本、トルコ)。
根本 達[ねもと・たつし](1975-) 文化人類学。南アジア地域研究。
三浦 敦[みうら・あつし](1963-) 農村開発研究、協同組合研究。
装幀:加藤 光太郎[かとう・こうたろう] ブックデザイナー。
photo:fbxx / PIXTA

【書誌情報】

版型:四六判 並製
頁数:384頁
定価:本体2800円+税
発売日 2018年6月12日
ISBN 978-4-7885-1582-6

21世紀の文化人類学 - 新曜社 本から広がる世界の魅力と、その可能性を求めて




【目次】
はじめに [003-006]
目次 [007-012]


序章 「人類学的」とはどういうことか[前川啓治] 013
超越的・超越論的  「文化」の客体化 015
  民族誌と批評
  超越論的な文化相対主義
  フィールドワークと文化の客体化
  個別の文化と文化一般


[コラム]「超越的」と「超越論的」の変遷 030


超越論的展開  過去から未来へ生成する人類学 032
  出来事と出会いの構造
  文化戦争とそれ以降――構造からイメージへ
  パラダイム・シフトと生成する人類学

[コラム]クック船長の死 047


   I 部 自然・存在・イメージの生成 051


1章 人格と社会性[深川宏樹] 053

人間の概念  変容可能性 056
  地図
  カメレオン的フィールド・ワーカー
  変容


構造と機能  人間社会の自然科学 065
  構造機能主義
  祖先崇拝
  社会を「発見」する


身体とサブスタンス  生殖=再生産の「事実」からの解放 074
  生殖=再生産の「事実」
  サブスタンス
  「発明」する記述


社会性  切断=拡張する思考 083
  「我々/彼ら」の内化
  人格化と物化
  展開


[コラム]マリリン・ストラザーンとの対話――研究現場での「部分的つながり」[前川啓治] 093


2章 アクターネットワーク理論以降の人類学[浜田明範] 099

アクターネットワーク理論  科学と政治が絡まり合いながら変化する世界を探る 102


存在論的  具体的なものを通して反・自文化中心主義を深める 108


ポストプルーラル  二つ以上のものが互いに別個に存在していると言えないこと 114


疾病/病い  文化の複数性からポストプルーラルな自然へ 120


生物学的市民  生物学的なステータスが駆動する政治 126


3章 「歴史」と「自然」の間で――現代の人類学理論への一軌跡[里見龍樹] 133


歴史人類学  「文化」を問い直す 136
  人類学における歴史の問題
  歴史人類学
  「海の民」の歴史人類学
  歴史人類学とその後


カーゴ・カルト  〈新しいもの〉をとらえる 146
  「カーゴ・カルト」とは
  マライタ島のマーシナ・ルール運動
  カーゴ・カルトをどうとらえるか
  ストラザーンのカーゴ・カルト


[コラム]想起されるマーシナ・ルール 156


景観  「歴史」と「自然」の間で 159
  景観人類学の登場
  オセアニアにおける景観人類学
  忘れっぽい景観


「自然/文化」をめぐる人類学  南アメリカにおける展開 168
  問い直される「自然/文化」
  デスコラ『自然と文化を超えて』
  ヴィヴェイロス・デ・カストロの「パースペクティヴィズム」論


「人間」を超える人類学  可能性の探究 177
  コーン『森は考える』
  マルチスピーシーズ民族誌
  コスモポリティクス


   II部 実践――生成する世界へ 187


4章 公共性[木村周平] 189

「表象の危機」その後  『文化を書く』からの展開 192


公共性  関与・介入・貢献 198


災害  脆弱性レジリエンス 204


リスク  未来の予測可能性をめぐって 210


エスノグラフィ  知の創造と活用 216


5章 運動と当事者性――どのように反差別運動に参加するのか[根本達] 223

アイデンティティ・ポリティクス  不確実な世界における暴力的な対立 223


被差別者と人類学  差別に抗する、差別から逃れる 233


生活世界の声  動態的で輻輳的なそれぞれ 239


寛容の論理  等質でないものの繫がり 245


生成変化の政治学  当事者性を拡張する 251


   III部 社会科学と交差する人類学 259


6章 持続可能性と社会の構築――ハイブリッドな現実の社会過程の多元的な分析の必要性[三浦敦] 261

合理的個人  合理的には見えない個人の行動を、合理的に説明する 264
  個人の行為と合理性
  未開人と合理性
  人間の合理性
  RCT


家族制生産とグローバル経済  なぜ資本主義経済において小規模家族制生産は維持され続けるのか 274
  家族制生産をめぐる問題
  チャヤノフ理論
  小商品生産論
  「世帯」概念のあいまいさ


多元的法状況における所有  「ものを所有する」ということは、自明なことではない 282
  所有の重要性
  法とは何か
  土地所有
  所有のイデオロギーと政治過程


コモンズ  自然環境を守ること、それはわれわれの生活を守ること 290
  コモンズの悲劇
  オストロムのコモンズ論
  情報のコモンズ
  コモンズと文化人類学


開発  大資本の手先か住民の味方かという、不毛な二元論を超えて 298
  開発と社会科学
  戦後の開発の歴史
  開発と文化人類学
  開発分析の枠組み


アソシエーションと社会的連帯経済  連帯はどのように可能なのか、連帯は人々を救えるのか 306
  アソシエーションの歴史
  アソシエーションと文化人類学
  社会的連帯経済の現状
  社会的連帯経済における理念と現実


[コラム] 十九世紀のフランス農村と文化人類学の前史 316


終章 過去・現在・未来[箭内 匡] 319

文化人類学の現在と過去  人類学は今、どこにいるのか 320
  一九九〇年代以降の人類学
  一九九〇年代以降の社会状況


「外」  人類学的思考を貫く本質的要素とは何か 326
  人間と社会に関する理論を「外」に引き出す
  (広義での)自然人類学


不可量部分  人類学者がフィールドで出会うものとは? 330
  マリノフスキ主義の遺産
  不可量部分の現在
  不可量部分をめぐるジレンマ
  

イメージ  フィールドの現実を新たな目で捉えなおす 336
  イメージ的な雑多さ、イメージ的な結び合い
  映像人類学の可能性


時間  未来の人類学に向かって思考の軸をずらしてみる 342
  可能性の人類学へ
  時間のなかでの「外の思考」


あとがき(二〇一八年四月 前川啓治) [348-351]
引用文献 [352-370] ([12-30])
事項索引 [371-377] ([5-11])
人名索引 [378-381] ([1-4])




【メモランダム】
・60頁5行目に登場する空白二つは、本来は二倍ダッシュにするはずだったのだろう。
・三浦「合理的個人」(pp. 264-273)は、経済学の概念について文化人類学から評価しているのが興味深い。
・また、三浦「アソシエーションと社会的連帯経済」では、マイクロファイナンスについての記述(p. 312)がある。
・事項索引に「ホーリスティック」が無い。何故だ。

『詳論 文化人類学――基本と最新のトピックを深く学ぶ』(桑山敬己,綾部真雄[編] ミネルヴァ書房 2018//2010)

編者:桑山 敬己
編者:綾部 真雄



【目次】
まえがき(2018年1月 桑山敬己・綾部真雄) [i-ii]
目次 [iii-ix]
凡例 [x]


  第I部 基本領域

第1章 文化相対主義の源流と現代(桑山敬己) 003
1 文化相対主義の登場と発展 003
  ボアズの文化観と文明観
  ミード著『サモアの思春期』をめぐる論争
2 文化相対主義批判の古典的事例――言語相対論をめぐって 008
3 文化相対主義の現代的諸相 010
  文化と政治
  文化と人権
  多文化主義論争
4 課題と展望 015
文献 015


第2章 言語人類学(名和克郎) 017
1 前史および古典期 017
  イギリス社会人類学における言語研究
  北米総合人類学における言語研究
  認識人類学の登場
2 コミュニケーションの民族誌 019
  SPEAKINGとは
  事例1 
  事例2 
  論集 Directions in Sociolinguistics(1972)
3 現代言語人類学の展開 022
  地名と知恵
  文法と社会
  言語相対論再考
4 言語人類学の主張 025
  シルヴァスティン『記号の思想』(原著 1976~1993)から
5 課題と展望 028
文献 029


第3章 狩猟採集社会――その歴史,多様性,現状(岸上伸啓) 031
1 狩猟採集社会の歴史 031
2 多様な狩猟採集社会 032
  狩猟採集社会の一般モデルとその限界
  食料獲得におけるジェンダー
  移動と定住度
  社会関係
  経済的な豊かさと効率性
  外部社会と歴史的関係
  分配
3 21世紀の狩猟採集社会――カナダ・イヌイット社会 037
4 狩猟採集の現代的な意義 040
5 課題と展望 041
文献 042


第4章 文化と経済(山本真鳥) 044
1 贈与交換と互酬性 044
  贈りものと返礼
  互酬性と社会関係
  互酬性と市場交換
  全目的貨幣と特定目的貨幣
2 モラル・エコノミー 047
  18世紀イギリス群衆の蜂起
  日米の米騒動
  東南アジアの農民と彼らの叛乱
  モラル・エコノミー対ポリティカル・エコノミー
3 地域通貨 050
  カナダでの経験
  イサカ・アワーフランスの地域通貨SEL
  日本の地域通貨
  地域通貨と資本主義
4 ジェンダーと経済 053
  サブシステンス社会の性別分業(ジェンダー役割分担)
  近代化後の性別分業と主婦の誕生
  性別分業の将来
5 文化と資本主義経済 055
  宗教倫理と経済
  資本主義の発達と時間認識
  日本文化と経済
6 課題と展望 057
文献 058


第5章 家族と親族(河合利光) 060
1 家族・親族研究の開始と展開 060
  初期の家族・親族研究
  機能主義の親族論
2 グローバル化の中の家族と親族 063
  家族・親族研究の拡大
  核家族論と構造主義的親族論
  親族研究における文化構築主義
  親族研究批判
3 親族研究における西洋的二元論の克服 066
4 世界内存在としての身体と家族・親族 068
  生活世界への関心
  世界内存在としての身体
  家族・親族の「経験と文化」の民族誌
5 課題と展望 072
文献 073


第6章 ジェンダーセクシュアリティ(宇田川妙子) 075
1 ジェンダーの人類学,ジェンダー視点の人類学 075
2 ジェンダーとセックス 077
  ジェンダーは生物学基盤論か
  複雑な身体の性差
  ジェンダーとしてのセックス
3 女性の可視化という問題 079
  「沈黙させられた」女性,表象される女性
  性別分業の再考
4 ジェンダーと権力 083
  女性の劣位という問題,近代西洋中心主義
  ジェンダーをめぐる様々な権力
  ポジショナリティ,そして男性という問題
5 セクシュアリティトランスジェンダー,様々な性のかたち 087
6 課題と展望――視点としてのジェンダー 089
文献 090


第7章 同時代のエスニシティ(綾部真雄) 092
1 誰がエスニックか 092
  ホワイト・エスニック
  フラットなエスニシティ
2 エスニシティ前夜 094
  「部族」の終焉
  「ゆりかご」としてのゾミア
3 論争 097
  原初主義(本質主義)と道具主義構築主義
  「集団」が意味するもの
4 定義と定位 099
5 同時代のエスニシティ 100
  エスニック化
  マジョリティ・エスニシティ
6 課題と展望 103
文献 104


第8章 法と人間(石田慎一郎) 106
1 争論の中での法の発見 106
  紛争から争論へ
  争論研究における当事者主義
2 争論を文脈化する――法との接点において働く力 109
  主張する/沈黙する
3 他者を知る法理論――法のプルーラリズムオルタナティブ 111
  裁判に対するオルタナティブ
4 法の確定性を支えるメカニズム――法人類学のもう一つの筋書き 114
  法の遵守を促す力を捉える
  法の柔軟性と確定性
5 課題と展望――法人類学のさらなる筋書き 117
文献 118


第9章 政治・紛争・暴力(栗本英世) 120
1 伝統社会の暴力と人権問題 120
  文化相対主義の限界
  女性の身体に対する暴力
  殺人という暴力
2 東アフリカ牧畜社会の武力紛争 124
  牛と紛争――ヌエル人の場合
  ヌエル社会の分節構造と紛争
  エチオピア南西部オモ川流域における戦い
  個人の視点と横断的紐――紛争研究の展開
3 現代の民族紛争と内戦 129
  新しい紛争――内戦,民族紛争,宗教紛争
  「還元主義的」説明に対する批判
4 課題と展望――戦争と平和という連続体 131
文献 131


第10章 宗教と世界観(片岡 樹) 133
1 文化人類学と宗教 133
2 宗教とは何か 134
  様々な宗教的伝統の発見
  宗教の定義
3 世界を意味づける 137
  宗教は意味を提供する
  世界を分類する
4 再び宗教とは何か 141
  儀礼と信仰
  宗教概念そのものを疑う
5 課題と展望 145
文献 146


第11章 儀礼と時間(松岡悦子) 148
1 人類学における儀礼研究 148
  通過儀礼―― A. ファン・ヘネップ
2 リミナリティのもつ力――ヴィクター・ターナー 151
  リミナリティ
  コミュニタスと構造
3 分類と境界 153
  場違いなもの――メアリ・ダグラス
  境界の持つ力――エドマンド・リーチ
  通過儀礼における子どもと大人
4 象徴研究とその先へ 156
  象徴的効果――クロード・レヴィ=ストロース
  象徴的行為の先へ――浜本満
5 課題と展望――グローバル社会における儀礼と政治 159
文献 160


第12章 医療と文化(白川千尋) 162
1 非西洋医療への関心 162
  西洋医療
  非西洋医療
2 多元的医療論 164
  西洋医療と非西洋医療の関係
  パーソナリスティックな病因とナチュラリスティックな病因
  多元的医療論の意義
3 非西洋医療をめぐるグローバルな動向 167
  ヴァヌアツ・トンゴア島の西洋医療と非西洋医療
  分業関係の構図を越えて
  非西洋医療をめぐるグローバルな動向
4 病気のとらえ方 171
  疾病と病
  マラリアのとらえ方
5 課題と展望 173
  治療と癒し
  二項対立的図式の見直しへ
文献 175


第13章 グローバリゼーションと移動(湖中真哉) 177
1 グローバリゼーションの人類学 177
  人類学の新たな危機
  グローバリゼーションの人類学の展開
2 グローバリゼーションとは何か――歴史化的転回 178
  グローバリゼーションの概念
  初期のグローバリゼーション研究
  概念の歴史化
3 さまよえるグローバリゼーション研究――否定論的転回 180
  肯定論と否定論
  グローバリゼーションの暗黒面
4 ローカリティとフィールドの消滅――連接論的転回 182
  ローカリティとフィールドは消滅するか
  新たな起点
5 グローバルなものとローカルなもの――存在論的転回 184
  グローバリゼーションの認識論
  言説としてのグローバリゼーション
  グローバリゼーションの存在論
6 課題と展望――ポスト・グローバリゼーション的転回 187
  ポスト・グローバリゼーション期
  グローバル・イシューの人類学
文献 189


第14章 開発と文化(関根久雄) 191
1 普遍性と個別性 191
  単純な近代化
  もう一つの発展論
  地域的近代
2 言説としての開発 194
  低開発の意識を内面化する過程
  開発論ともう一つの発展論への批判
3 感情によって揺れる開発 196
  文化的構築物としての感情
  「驚き」を原点として感情が生じる過程
4 「持続可能な開発」と文化 198
  経済開発と社会開発の両立に向けて
  サブシステンスとともにある生活を可能にする開発
5 課題と展望 201
  フィールドにおける人類学者のあり方
  フィールドの人々との協働
文献 203


第15章 観光と文化(川森博司) 205
1 観光現象と文化人類学 205
  人類の文化としての観光
  ポストモダン状況と観光の人類学
2 観光のまなざしと生活文化 207
  観光のまなざしと疑似イベント
  観光イメージと観光リアリズム
  観光文化と生活文化
3 地域イメージと演じられる文化 210
  地域イメージと文化の客体化
  個人の実践と文化
  観光客の経験
4 情報化時代における場所の意味 214
  ディズニーランドとアニメの聖地
  場所の虚構化
5 課題と展望 215
文献 217


第16章 民族誌と表象・展示(高倉浩樹) 218
1 民族誌とは何か 218
  文化人類学における民族誌
  異文化遭遇の歴史
  民族誌の刷新
2 人類学と民族誌記述の歴史 220
  非西欧研究としての文化人類学
  文化比較と法則定位
  マリノフスキーの長期参与観察
3 民族誌の発展 223
  民族誌の客観性とHRAF 
  日本の民族誌
4 民族誌批判 225
  解釈人類学
  日記とオリエンタリズム
  文化を書く
5 民族誌の可能性 228
  地域研究と気候変動
  フォーラムと協働による展示
6 課題と展望 230
文献 231


第17章 フィールドワーク論(佐川 徹) 233
1 人類学的フィールドワークの特徴 233
  フィールドワークへの関心の高まり
  人類学的なものの見方を養う場
  仮説検証型と問題発見型
  もろい防護服だけを着た人類学者
2 フィールドワークの現在 236
  古典的フィールドワークへの批判
  新しいフィールドワークと関係性
  いくつものフィールドワーク
3 フィールドワークにともなう倫理 238
  研究倫理の必要性
  倫理の制度化の功罪
  倫理的冒険としてのフィールドワーク
  フィールドで育まれる倫理
4 フィールドワークで遭遇する危険と困難 241
  身近にある危険
  環境による危険
  状況による危険
  経験の共有と予防の必要性
5 課題と展望 244
文献 245


  第II部 新たな展開

第18章 構造主義の現代的意義(出口 顯) 249
1 構造の定義 249
  要素と要素間関係
  変形
  不変
2 文化と自然の連続 254
3 主体の解体,作者の死 257
4 神話が考える 259
5 構造主義の倫理 260
6 課題と展望 262
文献 263


第19章 「もの」研究の新たな視座(床呂郁哉) 265
1 「もの」研究の系譜 265
  人類学における「もの」研究の系譜――初期人類学から20世紀半ばまで
2 近年の人類学における「もの」への回帰 266
  「人類学の静かな革命」と存在論的転回
  「もの」の社会生活
  アクター・ネットワーク論
  日本における「もの」研究
3 「もの」研究のいくつかの視点 269
  意味からエージェンシーへ
  シンボルからインデックスへ
4 脱人間中心主義的人類学の可能性 272
  近代的「もの」観の相対化
  人間/非人間の境界のゆらぎと越境
  「ひと」としての自然物・人工物
5 課題と展望 275
文献 277


第20章 災害とリスクの人類学(木村周平) 279
1 生活・環境・災害 279
  環境への適応
  早魃に抗する在来知
  災害の人類学
2 被災(害)者という対象 281
  周辺化される被災者
  語り・苦しみ・主体
  誰が被災(害)者なのか
  誰が被災するのか――脆弱性
3 災害というプロセス 285
  災害が襲うとき
  復興と支援
  復興から社会変化へ
  風化する民族誌エスノグラフィ
4 リスクに備える 288
  リスクという見方
  現代社会とリスク
  事故を防ぐ文化
  セキュリティ
5 課題と展望 291
  災害の公共人類学
  人類学の変化?
  グローバルなリスクをめぐる想像力
文献 293


第21章 人とヒト――文化人類学と自然科学の再接合(田所聖志) 295
1 文化人類学の対象とする人とヒト 295
2 文化人類学からの「再接合」 296
  人/動物・機械という境界の揺らぎ
  人に働きかける存在としての動物
3 自然科学からの接近 300
  自然人類学による宗教の研究
  現代の文化進化論
  健康をめぐるヒト研究と人研究の接点
  生物文化的なアプローチ
4 科学技術社会論と「再接合」 307
5 課題と展望 309
文献 310


第22章 映像と人類学(田沼幸子) 313
1 映像と人類学の黎明期 313
  ミードの嘆き
  黎明期と前史
  博物館展示
  『極北のナヌーク』(1922年制作)
2 科学と制度化 317
  ミード,ラドクリフ=ブラウン,グリアスン
  リアリズム
  脱植民地化期の民族誌映画への批判
  シークエンス撮影と観察映画
3 革命とアヴァンギャルド 322
  ヴェルトフとルーシュ
  ベイトソン
4 「共有」とは?――ネイティヴの視点から 323
  撮影者と対象の関係
  葛藤と立ち位置
5 課題と展望 326
文献 327


第23章 認識論と存在論(綾部真雄) 330
1 社会科学の通奏低音 330
  攻守交替の歴史
  言語論的転回:言語が世界を分節する
  真摯さの陥穽 
2 人類学と認識論 334
  相対性と先鋭性
  実証主義の行方
  解体から設計へ
3 存在論的転回 338
  真剣に受け止める
  「転回」の顕在化
  なにが「転回」したのか
4 パースペクティヴィズムの外延 342
  多自然主義
  多自然主義の源流
  革新かディバイドか
5 課題と展望 345
文献 346


第24章 日本研究の現在――医療人類学の視点から(北中淳子) 348
1 異なる近代としての日本――科学・医療人類学的視座 348
  科学の相対化
  「異なる近代」としての日本
  セルフ・オリエンタリズム
2 日本の医療研究――象徴主義と社会構成主義的アプローチ 351
  生物医学批判と医療的多元主義
  生物医学の象徴分析
  自己の規律化と身体統治のテクノロジー
3 ライフサイクルの医療化論 354
  老いの医療化
  ローカル・バイオロジー
  生物学的差異をめぐる文化の政治学
  死の医療化
  戯画化された文化論
  Making the strange familiar, making the familiar strange(他者の同化を通じた自己の異化)
  苦悩への社会的応答性
4 精神医学の人類学 359
  心の病――文化とパーソナリティー学派から脱構築主義的分析まで
  ジェンダー・家族・社会をめぐる文化的イデオロギー
  近代的自己像が溶解する時代に
5 課題と展望 361
  グローバル・サイエンスにおける「世界システム
  ローカル・サイエンス
文献 363


人名索引 [367-370]
事項索引 [371-381]
執筆者・編著者紹介 [382-384]





【メモランダム】
・本書の姉妹書(前身?)。第1版(2006年)と第2版(2010年)。いずれも、 やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ
 章の異同はまだ確認していない。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784623045778

よくわかる文化人類学[第2版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

よくわかる文化人類学[第2版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




【抜き書き】
※〔……〕は、私が省略した箇所。



□ 第7章、綾部真雄「同時代のエスニシティ」から(pp. 100-101)。

ここには、〔……〕独立を望む背景として、スコットランド地方の住民のケルト人意識にも焦点が当たった。このとき問題となるのは、彼らがケルト人としての原初的紐帯を持つかどうかといった単純な話ではない。より大きな問題は、ケルトという「なまえ」のもとでのエスニシティが、一定の影響力を持った枠組みとして、現実の政治的過程においてどのように動員されたかである。そしてその過程においては、人類学者や社会学者が心血を注いで築き上げてきた理屈やモデルは一顧だにされずきわめて本質主義的な表象が「真実」として公に語られることが多かった。
 ただし、エスニシティを同時代のものとして学問的な議論の俎上に載せる際に必要なのは、学問と現実の乖離を嘆きながら思弁の殻に閉じこもることではなく、現実の推移を的確にとらえるための尺度と修辞法をつねにアップデートしていく姿勢であろう。

『ヒトの全体像を求めて――21世紀ヒト学の課題』(川田順造[編] 藤原書店 2006)

編者:川田 順造[かわだ・じゅんぞう](1934-) 文化人類学
著者:大貫 良夫[おおぬき・よしお](1937-) 先史学、文化人類学
著者:尾本 惠市[おもと・けいいち](1933-) 分子人類学。
著者:西田 利貞[にしだ・としさだ](1941-) 霊長類学。
著者:佐原 真[さはら・まこと](1932-2002) 考古学。

【目次】
目次 [001-004]


序[二〇〇六年三月 川田順造] [006-009]


I 部 総合の 「学」 をめざして [新エイプ会の提唱][尾本惠市+川田順造+佐原真] 011
  メタサイエンスとしての人類学
  エイプ会の背景
  分化と総合のダイナミズム
  魅力的なエイプ会の人たち
  身体技法総合研究の可能性
  学際研究、三つの段階
  人類学の子盾と課題


◆II部 四者討論 ヒトの全体像を求めて[大貫良夫+尾本惠市+川田順造+西田利貞] 053◆


1章 現代世界における人類学
はじめに 056
  [問題提起]
■自然史の視点から総合人間学へ[尾本惠市] 058
  区別、偏見、差別
■集団間暴力の起源[西田利貞] 067
  宗教と連帯、桑力の起源
■長大な人類史のなかで見る[大貫良夫] 075
  歴史的変化を考える必要
国民国家の成立と戦争[川田順造] 085
  欧米がつくった近代 
  野蛮人から未開人へ 


  [討論]
  農業は原罪か? 
  先住民の問題 
  DNAか学習か 
  先住民の人権 
  漢文化の位置づけ 
  人類の人口増大 
  サルにおける差別、ヒトにおける差別 


2章 自然の一部としてのヒト[種間倫理の可能性を探る] 135
  人種、民族の概念
  進化とは何か
  生物の多様性
  江戸文化と自然
  経済のグローバル化 
  文化相対主義をどう考えるか
  カースト制度、ガンディーの思想など
  種間倫理の問題


3章 現代以後のヒト学はどうあるべきか 199
  人間らしさはどこからきたか
  総合人間学としてのヒト学
  開発と人類学
  世界に横行する「悪」
  自然史の一部としてのヒト学
  討論の終わりに


新しい始まりへ向けて
 ヒト学への道 [尾本惠市]
 生物人類学者の義務 [西田利貞
 総合の学としての先史人類学と文化人類学 [大貫良夫]
 新しい人文主義への想い[川田順造


編者あとがき[二〇〇六年四月二十五日 川田順造] [261-262]





【抜き書き】

人種分類と民族分類について(pp. 139-143)。

尾本  〔……〕たとえば18世紀あたりから人種分類が非常に熱心になってきて、そこではいまから考えればきわめておかしなことがなされていた。それは一つには、個体変異と人種の違いは関係ないと思ってしまったこと。人種差というものは個体変異と別の、何かもっとすごいものだという考え。現在の生物学では、そんなものナンセンスですね。それから二番目の問題は、ごく限られた少数の形質でもって人を分類した。たとえば皮膚の色と髪の毛の形、鼻の形というような特徴、しかも目に見える特徴でもって世界の人種がいくつあるという、いまから考えれば本当にばかばかしい議論をしていた。それが人種分類ということですね。
 それが非常におかしいというのはもちろん、一九六〇年代ぐらいからわかってきました。ただ、なぜおかしいかということが、案外ごまかされてしまっている。つまり、人種分類をやると差別につながるからやめましょうと。それはそれで正しいんです。ところが、困ったことにそうなるとヒトの地理的多様性の研究さえもできなくなるんです。つまり地理的多様性、たとえばなぜ地球上に皮膚の色の差異があるのかということ自体、非常に重要な進化の問題です。それを研究しようとすると、あいつは人種分類をやろうとしているんだろうと言われる。ひがみかもしれないけれども、何かそういう、自然人類学に対する悪口は人種分類に集約されていた気がするんです。〔……〕
 しかしいずれにしても、ヒトの非常に大きな特徴は地理的多様性が大きいということです。ですから、人種がいくつあるかというばかばかしい分類はやめるべきである。けれども、アフリカ生まれのヒトと、ヨーロッパ生まれのヒト、これは統計的に見れば随分違いがありますよということは隠す必要はない〔……〕


・引き続き尾本恵一発言。

逆に一切そういうことは隠して文化的な区別だけならいいだろうということで、民族はいいけど人種はだめだという議論がひところありました。〔……〕ところが、どうも民族という単位自体も非常にあいまいだとわかってきた。とはいえ、人種よりはまだ民族のほうが包含的だと思うんです。というのは、人種というと本当に皮膚の色とか髪の毛、形が念頭に浮かぶけれども、民族というとそれらを含み込んでとにかく人の集団、ある地域にいる人の集団とまず理解される。だから僕は人種分類はいけないけれども民族の分類ならいいかなと思っていたら、どうもそう簡単にはいかない。最近では民族という概念も非常にあやふやであるということですね。

川田  それは、〔……〕「人種・民族の概念を検討する小委員会」で、世界のいろいろな地域で調査をしてきた文化人類学者一〇〇人に、それぞれの地域で「民族」といわれているものの実体について訊ねたアンケートの結果も参照して出した結論でも、それから前に国立民族学博物館で「民族とは何か」の共同研究を三年間代表者としてやっていたとき、みんなの共通理解として出てきたのも、「境界を有する実体の集団としては、民族というものは存在しない」ということでした。
 民族は僕の言葉遣いで言えば、一種の「旗印」なんです。差別されたりしている社会的弱者が自己主張するときなどの旗印としては使われるけれども、有境の実体としては存在しない。だからきわめて状況的なものであって、ここからここまでは何民族だ、ここからここは違うとは言えない。さまざまな規準、一番古典的に言われるのは主観的な「われわれ意識」と、言語、宗教、その他の習俗のいわば客観的な規準の二つですが、われわれ意識だって状況によって変動するものだし、言語、宗教、衣食住の習慣が全部同じ境で重なるなんてことは絶対にありえない。〔……〕
 それと〔……〕主観的な側面に、漠然とした共属感覚と、自覚された共属意識の二つのレベルを区別した方がいいのではないかと思うのです。日常生活で風土や衣食住の仕来りや信仰を共有するところから自生的に育まれる、範囲も明確には定められない共属感覚と、何らかの危機的な状況その他の必要から、他の集団と区別された「われわれ意識」が、多分に政治的なリーダーの主導で、情動的な側面に訴え顕在化されてつくられる共属意識です。民族というものが、きわめて状況的に生みだされるとすれば、それは「民族」としてまとめようとする人々の、神話的な由来や、共通の血や風土など、要するに個人が人為的に選び取れないものをリーダーが人為的に選び取り、情動に訴えて、「民族」が生みだされるのです。

『日本の人類学』(山極寿一, 尾本恵市 ちくま新書 2017)

著者:山極 寿一[やまぎわ・じゅいち](1952-) 人類学、霊長類学。
著者:尾本 恵市[おもと・けいいち](1933-) 分子人類学。 

日本の人類学 (ちくま新書)

日本の人類学 (ちくま新書)


【目次】
目次 [003-008]
まえがき(山極寿一) [009-013]


第一章 人類学の現在 015
1 総合人類学がなぜ必要か 016
  いまなぜ人類学か
  「文理融合」のオールラウンダー
  人類学者の京大総長という衝撃
2 ヒト・文明・文化 025
  ヒトと人類の違い
  文化と文明
  霊長類から見た「文化」
  文化としての直観力とメタファー


第二章 東大人類学と京大霊長類学 037
1 東大・京大、それぞれの出発点 038
  多様性を重視する人類学
  霊長類学の出発
  長谷部言人と東大人類学
2 本当のエリート教育 047
  長谷部人類学から受け継いだもの
  飲み屋で人類学を教わる
  今西錦司と「京都エリート」
  草創期の分子人類学とエリートの使命感
3 長谷部人類学と今西霊長類学 058
  人類学との出会い
  探検としての人類学
  霊長類学の京大、分子人類学の東大


第三章 最新研究で見る人類の歩み 071
1 デニソワ人、ネアンデルタール人、ホモ・フローレシエンシス 072
  デニソワ人、ネアンデルタール人と現生人類との混血
  ホモ・フローレシエンシスの謎
  天変地異と人類の分布
  ホモ・エレクトス研究の最前線
  人類学と植民地主義
  金髪碧眼のネアンデルタール?――なぜ人類は短期間で多様化したか
2 人類と霊長類を分けたもの 087
  自己家畜化とネオテニー
  類人猿とヒトは子ども時代が長い
  永久歯への生えかわりの遅さ
  なぜ研究対象にゴリラを選んだか
  チンパンジーの特異な性行動
  オランウータンのネオテニー
  類人猿のゲノムの違い


第四章 ゴリラからヒトを、狩猟採集民から現代文明を見る 111
1 ゴリラからヒトを見る 112
  二十数年前の交友を覚えていたゴリラ
  子ども時代の記憶がよみがえる
  シミュレーションするゴリラ
  ゴリラのシンパシー能力
2 狩猟採集民から現代文明を考える 122
  なぜ狩猟採集民に目を向けねばならないのか
  何でも平等に配分する狩猟採集民
  戦いのロジック――ヒトとチンパンジーの違い
  農耕・牧畜と戦争
  私有を否定する狩猟採集文化
  定住革命
  女性の力が強い狩猟採集民
3 今こそ狩猟採集民に学べ 142
  文明人とは何か
  農耕による人口増大が文明を生む
  狩猟採集民と農耕民を分けたもの
  自然観の違い
  狩猟採集民こそが最古の先住民
  狩猟採集民に何を学ぶか


第五章 ヒトはなぜユニークなのか 165
1 ユニークではないゲノムがユニークさを生んだ 166
  認知革命はなぜ起きたか
  ヒトのゲノムはユニークではない
  身長の違いはなぜ生じたのか
  均質なまま新しい環境に進出していった人類
2 音楽の誕生 176
  子どもの好奇心とネオテニー
  歌の起源
  なぜヒトから音楽が出てきたのか
  なぜ大型動物を絶滅に追いやってしまったのか
3 宗教と共同体 190
  宗教の誕生
  人類が裸になったのは一二〇万年前
  住居と共同体の移り変わり
  食べるときに集まるのはヒトだけ
4 性の問題 200
  インセスト・タブーは人間だけの現象ではない
  バーバリーマカクの実験
  人間はいいつ頃からなぜ、性を隠すようになったのか


終章 これからの人類学 209
1 日本から何を発信すべきか 210
  日本の果たすべき役割
  情緒の豊かさが日本の特長
  なぜ人間の由来に関心が起きているのか
  文明の発展を後戻りさせられるのか
  閉塞感の中での人類学者の役割
  教育の劣化
2 人類学に何ができるか 228
  人類学はいったい何の役に立つのか
  DNAから人権までの総合的人類学を
  基礎研究の衰退
  科学と宗教のモラル
  自然への畏怖の衰退
  最後は教育が大事
3 大学・博物館の問題 246
  国立科学博物館の人類学研究
  アミューズメントパーク化が研究を阻害する
  アンチ東大としての京大
  戦争と東大・京大
  学生と教師の古き良き関係
4 総合的な人類学へ 262
  自然人類学と文化人類学のあいだ
  日本人類学会と文化人類学
  アイヌの人類学研究の重要性
  動物の社会・文化研究
  総合的な人類学を現代に蘇らせる


あとがき(尾本恵市 二〇一七年九月一〇日) [276-282]
参考文献 [283-286]




【関連記事】

『人類の自己家畜化と現代』(尾本恵市[編] 人文書院 2002)
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20090725/1248506924





【抜き書き】
■山極寿一による「まえがき」から。

・冒頭。

 今、新しい人類学が求められている。〔……〕それは、人間の定義が大きく揺らいでいるからである。
 現代の情報通信技術は、世界のどこに住んでいる人々とも瞬時に交信することを可能にした。〔……〕つい最近まで人に頼んでいたことが、ほとんどすべて情報機器によって済ますことができる。人工知能(AI)の登場で、人間は考えることや予想することまで機械に任せるようになってきつつある。さらに遺伝子組み換え技術や遺伝子編集技術の進歩で、身体を内部から人為的に変えられるようになってきた。〔……〕いったい人間の身体や心はどこへ行ってしまうのか。人間が作ると思っていた社会や文化はどうなるのか。そういった疑問が突きつけられているのである。
 かつて人間は自然界で特別な地位を与えられていた(そう思い込んでいた)。それが一九世紀に登場したチャールズ・ダーウィンの進化論によって大きく変更されることになった。人間は動物と連続した特徴を持ち、決して自然界で例外的な存在ではないということがわかったからである。しかし、当時の人類学者たちが進化論を安易に取り入れて人間や社会を論じたために、人種論や優生思想がはびこり、先進国による植民地支配や人種差別が正当視される事態を引き起こした。それが強く批判されて、二〇世紀の前半は人間の文化や社会の研究には進化論を適用しない、自然科学は人間以外の動物について研究する、という合意が作られた。こと人間に関する学問は文理がはっきり二分するような常識が生まれたのである。


・東大と京大の人類学

 東京大学には創設間もない一九世紀の終わりに、理学部の前身である理科大学に人類学教室が作られ、人間の学としてさまざまな学問が合流した。京都大学はずっと遅れたが、二〇世紀半ばにやはり理学部に自然人類学教室が作られた。そこには人間の身体と社会を研究するだけでなく、人間に系統的に近いサルや類人猿の社会を調べる霊長類学というユニークな学問領域が含まれていた。〔……〕
 しかし、ここ二〇年あまり、自然人類学と文化人類学は大きく袂を分かってしまった。自然人類学は形態学と遺伝学に特化し、その中に含まれる霊長類学は動物学としての性格を強めた。文化人類学は文化相対主義の立場から文化の普遍性よりも地域性を重視して、地域研究へと傾斜していった。
 〔……〕学問が細分化され、それぞれの学問分野で小さな学会が林立している現状では、広い範囲に関心を向ける人類学者といえどもなかなか同じ土俵に立つのは難しく、似たようなテーマを別々のコミュニティで違った手法によって論じているというのが現状である。


・著者二人の問題意識と本書。

 これでは、現代の人間が直面している課題に人類学は応えられない。尾本先生と私はそういった危機感を共通に募らせたのである。尾本先生は人類学の世界に遺伝学の手法で入ってこられ、そこからアジアの先住少数民族の抱える問題に気づいた。私は霊長類学の手法で人類学に分け入り、類人猿との比較から人間の繁殖や成長の特徴に共感社会の由来が隠されていることを知り、現代の社会がはらむ問題に気づいた。そこで、まず東大と京大の人類学の歴史的特徴から、互いが現在の問題に行き着いた経緯について話し、そこからどういった解決法があるかを探ってみることにした。〔……〕
 当初の予想に反して話題は多岐にわたり、身体の歴史から文化、文明、宗教の成り立ちや経済、科学技術、大学のあり方などに及んだ。はからずも現代文明の歴史を霊長類の登場まで遡り、現代社会がはらむ問題にまで至ったように思う。人類学のすそ野の広さを実感し、人類学が現代に生かされる必要性を痛感した次第である。これからは、学術がすべての世代で共有される時代である。ぜひわれわれの放談を楽しみ、人間を、社会を見る目を新たにしていただきたいと思う。