contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『人事と法の対話――新たな融合を目指して』(守島基博, 大内伸哉 有斐閣 2013)

著者:守島 基博[もりしま・もとひろ] 人材マネジメント論。
著者:大内 伸哉[おおうち・しんや] 労働法。
鼎談ゲスト:二宮 大祐〔イオン㈱グループ人事部〕
鼎談ゲスト:澤和 宏〔㈱ベネッセコーポレーション人財部〕
鼎談ゲスト:川上 憲人〔東京大学大学院医学系研究科 教授〕
鼎談ゲスト:日置 政克〔コマツ 顧問〕

人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して

人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して

【目次】
はしがき(平成ニ十五年八月 大内伸哉) [i-v]
目次 [vi-x]


session 01 人材を獲得するとき 001
1 企業の採用行動 002
2 エントリーシートと企業の採用活動 005
3 採用拒否の理由開示 008
4 職種別採用 009
5 内々定と学生の辞退 011
6 インターンシップと試用期間 014
7 中途採用非正社員の採用 018
8 無期雇用への転換規定のインパクト 019
9 派遣労働者について 022
10「常用型派遣」の活用の可能性 024


session 02 正社員と非正社員の間 029
 《ゲスト:二宮大祐》
  現場では
1 イオンでの非正規雇用 030
2 社員への転換 033
3 仕事の差・賃金の差 035
4 正社員像 036
5 労働契約法の改正が及ぼす影響 040
おわりに 043
  鼎談をふまえて
1 正社員の定義 044
2 非正社員の正社員化 045
3 多様な働き方と人事管理のこれから 046


session 03 公正な評価と納得できる賃金 051
はじめに 052
1 日本の賃金制度の変容 052
2 定期昇給成果主義 054
3 役割等級制とは 058
4 降格の実情 060
5 フレキシブルな人事 061
6 人事管理からみた評価の公正さとは 063
7「給料」は何に対して支払われているのか 067
8 年功型とは異なる賃金体系の可能性 072


session 04 人材を動かすとき 077
1 人事異動は企業の自由な権限なのか 078
2 人事が気にしていること 081
3 異動 拒否に対する制裁 086
4 成出向とリストラ出向 088
5 職種転換を伴う異動 091
6 営業譲渡・事業譲渡と人事異動 095
7 出向‐転籍の流れ 098
8 人事異動とキャリア権 099


session 05 人材を育成するとき 105
 《ゲスト:澤和 宏》
  現場では
1 ベネッセの人材育成・能力開発 106
2 自由と自己責任の問題点 108
3 二〇〇九年の制度改正 110
4 キャリアの自律の保障 111
5 ワーク・ライフ・バランスと能力開発 115
6 従業員の二極化と能力開発 117
7 モチベーションの考え方を変える 120
8 そもそも「キャリア」とは何を意味するのか」 122
  鼎談をふまえて
1 人事制度が持つ従業員へのメッセージ 124
2 自律的な能力開発は無理か 125
3 人事管理の個別化と公平さ 127
4 能力開発の責任転嫁 128
5 誰が能力開発の主体であるべきなのか 129


session 06 ワーク・ライフ・バランス 135
1 そもそも「ワーク・ライフ・バランス」
とは? 136
2 「労働時間」から考えてみる 138
3 「休み」から考えてみる 140
4 「育児・介護」から考えてみる 143
5 あるべき「ワーク・ライフ・バランス」像 146
6 育児・介護休業取得者の処遇について 148
7 「ワーク・ライフ・バランス」はどうやって進めるべきか 152
8 企業性善説と企業性悪説 156


session 07 メンタルヘルス産業医の役割 159
 《ゲスト:川上憲人》
  現場では
1 産業医とは 161
2 メンタルヘルス問題 162
3 精神的障害と安全配慮義務 163
4 ストレスの過重性――誰を基準とするか 166
5 産業医のスタンス 168
6 長時間労働者へのケア 171
7 労働安全衛生法改正案 172
8 メンタルヘルス問題に企業はどう取り組むべきか 174
9 産業医の労使関係内での位置づけ 176
  鼎談をふまえて
1 企業のやるべきこと 179
2 産業医への期待 180


session 08 退職のマネジメント 183
1 解雇のルール――労働契約法一六条 184
2 能力不足の従業員への対応 184
3 退職のマネジメント 186
4 整理解雇の法理 188
5 有期雇用の雇止めの制限 190
6 納得に基づく退職 194
7 事業部門の閉鎖と人員整理 197
8 解雇ルールは明確なほうがよいのか 199
9 解雇の金銭解決 200
10人事の敗北 202
11 懲戒解雇も穏便に 203
12 メンタルヘルス問題と解雇 205
13 休職・休業と解雇 207
14 顔の見える人事と法 209
15 リテンションの問題 213


session 09 高年齢者の雇用 217
1 二〇一二年高年法改正の影響 218
2 二〇〇六年改正のころ 220
3 定年の二つの機能 221
4 「五年」耐えられるか 222
5 四〇歳定年論 225
6 若年者雇用への影響 229
7 人事管理全体への影響 231


session 10 労働紛争の解決 235
1 労働組合法には意味がない? 236
2 最近の傾向 238
3 協調路線の弊害 240
4 労働組合は雇用さえ守れればよいのか 244
5 組合は再生できるのか 245
6 労働者の不満と組合 250
7 社会組織としての組合の姿 252
8 闘うためのノウハウと労働法教育 253
9 紛争解決手続への評価と実務でのマネージ 255
10 Voice and Exit と組合 258
11 組合は人事管理の敵か 259


session 11 グローバル化で問われる日本の人事 261
 《ゲスト:日置政克》
  現場では
1 コマツグローバル化の歴史 262
2 多様性のある人材の管理と育成 264
3 海外の人事管理を経験して 266
4 人事の現地化のすすめ 268
5 グローバル化と日本の人事システム 271
6 バル化の中での人事管理の課題 272
7 日本の労働法のパターナリズム 275
8 人事部と労働法 276
9 人事の仕事の本質 278

  鼎談をふまえて
1 人事の原則と応用」 282
2 それぞれの「公正さ」、「幸せ」 284
3 「幸せ」を与えるのは人事の仕事 286


session 12 対談を振り返って 289
1 新たな区分 290
2 人事の腕の見せどころ 293
3 人材の解雇・活用・入替え 295
4 最後に 299


あとがき(平成ニ十五年八月 守島基博) [303-307]
事項索引 [i-vi]

『怠惰への讃歌』(Bertrand Russell[著] 柿村峻, 堀秀彦[訳] 平凡社ライブラリー 2009//1958//1935)

原題:In Praise of Idleness, and Other Essays
著者:Bertrand Arthur William Russell(1872-1970)
訳者:柿村 峻[かきむら・たかし] (1902-1987) 中国哲学。 「ラッセル協会」発起人の一人
訳者:堀 秀彦[ほり・ひでひこ] (1906-1997) 哲学。評論。
解説:塩野谷 祐一[しおのや・ゆういち] (1932-2015) 経済学。経済哲学。

怠惰への讃歌 (平凡社ライブラリー)

怠惰への讃歌 (平凡社ライブラリー)


【目次】
序 [005-007]
目次 [008-009]

第一章 怠惰への讃歌(1932年筆) 010
第二章 「無用」の知識 033
第三章 建築と社会問題 052
第四章 現代版マイダス王(1932年筆) 069
第五章 ファシズム由来 090
第六章 前門の虎,後門の狼――共産主義ファシズム 120
第七章 社会主義の問題 133
第八章 西欧文明 172
第九章 青年の冷笑(1929年筆) 193
第十章 一本調子の現代(1930年筆) 206
第十一章 人間対昆虫(1933年筆) 218
第十二章 教育と訓練 222
第十三章 克己心と健全な精神(1928年筆) 232
第十四章 彗星について 247
第十五章 霊魂とは何であるか(1928年筆) 250


解説(堀秀彦) [257-261]
平凡社ライブラリー版解説――怠惰礼讚(塩野谷祐一) [262-271]

『大阪ソースダイバー ――下町文化としてのソースを巡る、味と思考の旅。』(堀埜浩二, 曽束政昭 ブリコルール・パブリッシング 2017)

著者:堀埜 浩二[ほりの・こうじ] (1960-) ライター、イベントプロデューサー。
著者:曽束 政昭[そつか・まさあき] (1968-) ライター。

大阪ソースダイバー: 下町文化としてのソースを巡る、味と思考の旅。

大阪ソースダイバー: 下町文化としてのソースを巡る、味と思考の旅。

  • 作者:堀埜浩二,曽束政昭
  • 出版社/メーカー: ブリコルール・パブリッシング
  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: 単行本

【目次】
はじめに [002-005]
目次 [006-009]


序章 ソースから眺める、あの頃の下町 011
  高度成長期と大阪 
  ソースダイバー的「大阪の下町」
  家庭の食卓におけるソースのポジション
  昭和の下町の風景――西成から 
  飛田遊廓の塀の「中」と「外」
  「得体の知れなさ」と下町のエートス


第1章 お好み焼な街を往く 033
関西の「お好み焼き文化」試論 034
  「お好み焼き」と「お好み焼
  お好み焼きの起源、そしてソース
  「粉もん」によって遠ざかっていくもの

京阪神 お好み焼きな街と店 044
【大阪】
  キタ 044
  ミナミ 050
  天満 056
  西九条・千鳥橋 060
  鶴橋・桃谷 064
  今里 068
  布施 072
  岸里玉出 076
  堺東 082
  岸和田 086
【神戸】
  新長田 092
  生田川 098
  阪神住吉 100
【京都】
  七条・東九条 104
お好み焼な街を往く――「まとめ」として 110


[クローズアップ]OSAKA SAUCE DIVER GRAFFITI 113

[ピックアップ]関西地ソースカタログ 
 関西の代表的地ソースだよ! 全員集合 118 
 関西地ソース21社33品 比較座談会 119


第2章 ソースメーカーの工場を訪ねて 131
イカリソース 132
  大阪ソース界の「元祖的存在」の体力やいかに
  トマトをべーすに、「隙がないバランス 味」を確立
  多様化へ向かいつつ、変わらぬ姿勢

大黒ソース 144
  大阪地ソースの、頼もしき大手
  個人経営の店を支えるオリジナルソース
  地元に愛され続ける名物ソースとして

ヘルメスソース 155
  「幻のソース」の生まれる現場へ
  ウスターソースの希少価値が「幻」に
  「幻の味」を、次世代に受け継ぐために

ヒシウメソース 164
  家族代々、親戚一同の味が下町に残る
  樽はタンクに、ガラス瓶はペットに
  地域とつながるのは作り手だけでなく


第3章 串カツと下町 173
  串カツは、新世界の食である
  はじまりの串カツ
  「二度漬け禁止」の真実
  「串カツ」と「串揚げ」
  「ソースにまみれた風景」の価値
  西成・鶴見橋に見る、下町商店街コネクション
  昼飲みの聖地・京橋で、朝から串カツ三昧
  東成区・緑橋、串カツは上町台地を超えて
  サラリーマンの小腹を支える、キタの串カツ天国


最終章 ソースと下町のパースペクティヴ 205
  「コミュニケーションの行方」と「街場の行儀」について


おわりに(2017年6月某日 堀埜浩二@大坂・安治川口にて) [214-217]
掲載エリア [218-219]
参考文献 [220-221]





【抜き書き】
・ルビは〔 〕に入れた。
・傍点は黒太字で代用した。


□まず「序章」(p. 30)から。

 ソース、コーヒー、そしてコーラ。本書ではこれらを便宜的に、「3大黒褐色液〔ダークリキッド〕」とまとめましょう。いずれもダークな黒褐色で、どこか得体の知れないところがあります。その「得体の知れなさ」を含めて、私たちはそれらを「ハイカラでおいしいもの」として、全面的に受け入れた時代があった。ソースダイバー的には、3大黒褐色液が「雑多なヒトやモノやコトが行き交う場」としての「町・街」で受け入れられたことに、大きく首肯〔しゅこう〕してしまいます。それは、先に「出身地や社会的属性が重視されず、等身大の本人こそがコミュニティの成員として受け入れらる」とした「下町のエートス」と、ピッタリと重なるからです。


□最終章の末尾(p. 212)。

  ソース、コーヒー、コーラの「3大黒褐色液〔ダークリキッド〕」のうち、何故ソースだけが「ノスタルジックな風景」に閉じ込められようとしているのか……その理由は、「ソースが下町のエートスそのものであるがゆえ」、なのではないでしょうか。ノスタルジーとは端的に、失われた/損なわれたものに対する思慕にほかなりません。翻って、異なる立場や意見、異質なものや複雑なものをいちいち排除するのではなく、ひとまず受け入れるという「人や街の度量」を下町のエートスとするならば、今まさにそれが損なわれつつある、ということにならないか。ゆえに「ソースは、下町のエートスそのものである」という宣言は、これから迎える時代――どのような時代になるのかは、私たちの双肩にかかっています――に向けてのものであるということを、強調しておきたいと思います。
  私たちは未だ、ソースを巡るストーリーの途中にいます。それは終着点もなく、どこまでいっても結論のない旅です。ソースも街も、その「得体の知れなさ」において変わらない。だから私たちは、飽きずに旅を続けることができるのです。そこにソースの手柄があるということを今一度確認して、次なる「ソースにまみれた風景」へと、向かうことにしましょう。


□「おわりに」の一節(p. 215)。

  また本書の執筆と並行して、私はアイドルグループ「バンドじゃないもん!」のアルバム『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』(ポニーキャニオン、2017年)を愛聴していました。わけてもアルバムの中盤、『ドリームタウン』、『秘密結社、ふたり。』、『強気、Magic Moon Night 〜少女は大人に夢を見る〜』『ロマンティック♡テレパシー』、からの『すきっぱらだいす』という圧倒的な名曲群は、ソースを巡って街を駆け抜ける際に、常にドーパミンを注入してくれました。そして「おうちにあるのは小麦粉だけ」との「すきっぱらだいす♡」のフレーズには、毎回「そんな時はネットサーフィンではなくお好み焼でっせ」とツッコミを入れなくてはならず、また女性における空腹と生死の関係やチーズの重要性などを学ぶことで、やはり「下町とソースの関係」についての軸足の据え方を、確かなものにしてくれたのでした。
  つまり本書は、中沢新一氏の『大阪アースダイバー』への斜め45度からのオマージュでありつつ、東氏の『観光客の哲学』の豊かな思想的エコーの中に揺蕩〔たゆた〕いながら、「バンドじゃないもん!」にプッシュされ続けることで成立したものであるということを、各氏への感謝とともに、ここに記しておきたいと思います。

【メモ】
・当該グループの公式サイトから、そのアルバムの収録曲一覧。アイドルについてよく知らないので一応。

 『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』
M1:青春カラダダダッシュ
M2:キメマスター!
M3:しゅっとこどっこい
M4:夏のOh!バイブス
M5:君はヒーロー
M6:結構なお点前で
M7:YAKIMOCHI
M8:ドリームタウン
M9:秘密結社、ふたり。
M10:強気、Magic Moon Night 〜少女は大人に夢を見る〜
M11:ロマンティック♡テレパシー
M12:すきっぱらだいす♡
M13:ピンヒール
M14:YATTA!
M15:エンド・レス

『自由学問都市 大坂――懐徳堂と日本的理性の誕生』(宮川康子 講談社選書メチエ 2002)

著者:宮川 康子[みやがわ・やすこ] (1953-) 日本思想史、文化理論。

【目次】
目次 [001-003]


はじめに――よみがえる近世大坂の「知」 004
  町人の町大坂
  武士と商人
  世界に対する認識そのものの対立
  町人思想とは何か
  さまざまな世界認識がぶつかりあった時代
  「自由」という言葉の意味
  常に新しいものに開かれていた都市
  懐徳堂というトポス
  日本近代との連関の中で捉えなおす


第一章 町人学問所懐徳堂 017
  「民の学問」の中心池
  懐徳堂の設立
  五井持軒〔ごいじけん〕と三宅石庵〔みやけせきあん〕
  しつけの場から学問の場へ
  官許への道のり
  不協和音
  もはや「商人の道楽」ではない
  「貴賎貧富を論ぜず」
  ただ純粋な人間として
  公開性と公共性
  江戸の学問への批判


第二章 江戸対大坂――知の権威への反抗 037
  徂徠学大流行
  紫雲事件
  卓越者としての強烈な自負
  強烈な磁力
  文は徂徠にはじまる
  徂徠学のインパク
  戦略としての擬古
  徂徠の新しさ
  知の傲慢さへの批判
  道はすべての人に開かれていなければならない
  より開かれた学問へ


第三章 富永仲基――夭逝の天才学者 059
  天才町人学者
  仲基の破門  
  まったく新しい学問
  加上〔かじょう〕の法則の発見
  意識の大転換
  徂徠の手法を逆手にとる
  勝上〔しょうじょう〕と加上
  絶対的なものは存在しない
  三物五類の説
  五類とは何か
  どんな言葉にも特殊な価値を認めない
  言葉は使われることで意味を獲得する
  言語は生きている
  本居宣長と仲基
  今、ここのあたりまえ
  近代日本の二つの源流


第四章 中井履軒と上田秋成――夢と虚構の世界 087
  相似形のメンタリティー
  中井履軒
  反目
  秋成の嘲笑
  共通の知的前提に立つ
  華胥〔かしょ〕国の世界
  すべてを相対化する知性
  現実への冷徹な認識
  時代精神としてのアイロニー
  上田秋成物語論
  秋成対宣長
  秋成の源氏物語
  自由で多様な読みへ
  「田舎者」へのいらだち


第五章 心学と懐徳堂――2つの「かわしまものがたり」 115
  懐徳堂のライバル
  求道者梅岩
  心の教説
  「本心」を知れ
  反知性
  相容れない者同士
  懐徳堂の危険性
  孝子顕彰
  二つの孝子物語
  「文」へのこだわり
  相容れない立場
  町人思想の二つの道すじ


第六章 武士無用論――中井竹山の『草茅危言』 135
  忘れられた経世論
  懐徳堂天皇
  江戸の学者とのちがい
  理性的朝廷論
  懐徳堂の朝廷批判
  天皇をも脱神秘化する
  日本史上の特異点
  武士への批判
  今役に立つ人材にのみ価値がある
  武士無用論
  「まなざし」の変化のあらわれ
  国家という視点
  合理精神
  社会的実践性
  対外認識
  非侵略主義外交論


第七章 近代的知の濫觴――懐徳堂の洋学 161
  大坂洋学の祖
  大坂への出奔
  実地実測の学
  新たな知を受け入れる柔軟性
  華胥国と洋学
  朱子学脱構築
  朱子学からの脱却
  天から人へ
  人間の知への確信


第八章 理性と合理主義――山片蟠桃「夢の代」の世界 177
  自由な学問空間の精華
  懐徳堂諸葛孔明
  実践が知を生みだす
  『夢の代』の成立
  近代的学科〔ディシプリン
  斬新性への自負
  太陽明界説
  三際説
  天理に代わる太陽
  人はすべてを知る可能性を持つ
  地動説の衝撃
  伝統的世界観の動揺
  コペルニクス的転回の条件
  死後の世界はない
  無鬼を語ること
  人情を捨てても
  切断の意識
  鬼神はフィクション
  無鬼の論拠
  不変的な知の確立を目ざす
  宗教から政治へ


おわりに――懐徳堂から適塾へ=「自由学問都市」の終焉 209
  フリーランスの学問
  忍びよる暗雲
  洋学飛躍の背景
  失われた「対話」
  「大阪の知」の可能性


参考文献 [217]
あとがき(二〇〇一年 一ニ月ニ五日 宮川 康子) [218-219]
索引 [220-222]





【抜き書き】
・ルビは亀甲括弧〔 〕に示した。
・引用者による補足はスミ付括弧【 】に示した。


□pp. 141-142

 しかし、このような朝廷への尊崇を、いわゆる「尊皇思想」として、水戸学や国学と同列に論じることはできない。『草茅危言』における竹山の提言は、あくまでも儒家的文治主義の理想から、幕藩体制のなかでのあるべき朝廷の姿を論じるもので、けっして政権奪取をめざした王政復古の方向へと進むものではなかったのである。

   懐徳堂の朝廷批判
 竹山は「王室の事」の冒頭、「太古より八百万代〔やおろずよ〕の末まで、百王不易の沢〔めぐみ〕は、四海万国に超越せさせ給いたる御美事」と書いているが、これが枕詞的な美辞にすぎないことは、その後すぐ、その朝廷がなぜ中葉以来衰微してしまったのかという原因の分析に移っていくのを見ても明らかである。
 竹山によれば、朝廷が衰えたのは、ひとえに「崇神倭仏〔すうじんねいぶつ〕の惑〔まどい〕 」による。「およそ朝廷の重大行事は、ほとんどが祈高や祓いに関することで、天災や凶作、疫病、敵の侵略など、何か変が起こったときには、それ祈橋だ、それ供養だといっては、国庫の金を費やし、あやしげな巫祝〔ふしゅく〕や僧侶を寵愛するばかりであった。このような荒唐無稽なことを信じ、天下の大政要務を少しも顧みないというありさまだったのである。この崇神倭仏の惑が、人民を害したことは、枚挙にいとまがない。これを詳しく論していけば、南山の竹もつきてしまうほどであろう」と竹山はいう。
 このような厳しい批判の言葉を読むとき、彼らのいわゆる尊皇が、天子様に手を合わせるような民衆の朝廷敬慕の心とも、また万世一系イデオロギーを説く尊皇思想からも遠いことがわかるであろう。竹山は仏教におぼれることだけでなく、万世一系の皇統の根拠である神道を崇拝することさえも批判する。いいかえればこれは「無鬼論」(第八章参照)に基づく尊皇なのである。

□□p. 143

 これらの提言【※中井竹山の朝廷改革案】の中には、一代一号や、年号を諡号とすることなど、近代において実現されたことが多く含まれている。その点で、天皇制の近代化の先駆けをなすものともいえるであろう。しかし、同時にここには、幕末の尊皇攘夷明治維新の王政復古の波のなかでまったく見失われてしまったものが含まれている。それはひとことでいえば、天皇の神格化とはまったく逆の、天皇の脱神秘化、脱宗教化という方向である。無鬼論を基盤として、天皇崇神をさえ批判する彼らが、天皇天照大神の子孫とし、ましてや現人神とすることはけっしてなかったのである。

□pp. 144-145 水戸学との対比

いうまでもなく水戸学においては、聖人に対して、「天孫」である天皇が社会の極として立てられるのである。〔……〕
 このような祭政一致的な社会統合論は、明治政府の国民統合の理念のなかにひきつがれている。天皇および朝廷の近代化は、国家神道の強力な整備とともに行われていくことになるのである。
 この点で、はっきりと無鬼論を主張し、朝廷や天皇からも宗教的・呪術的要素をすべて洗い流そうとした懐徳堂の立場は、明治維新以後、現代までを通してみても、きわめて特異なものといっていいだろう。

『大阪――都市の記憶を掘り起こす』(加藤政洋 ちくま新書 2019)

著者:加藤 政洋[かとう・まさひろ] (1972-) 都市社会地理学。沖縄研究。
https://ramblingurbanist.jimdo.com/

大阪 (ちくま新書)

大阪 (ちくま新書)

大阪 ──都市の記憶を掘り起こす (ちくま新書)

大阪 ──都市の記憶を掘り起こす (ちくま新書)

【目次】
目次 [003-007]


序章 路地と横丁の都市空間 009
1 下水処理場の居住空間 009
  ポンプ室の上に
  生活空間としての路地
  再現された〈路地〉
2 空間表象としての〈横丁〉 018
  法善寺裏の食傷通路
  空間パッケージとしての〈横丁〉
  名は実を超えて
  本書の構成


第1章 大阪《南/北》考 031
1 梅田の都市景観 033
  駅頭の風景
  グローカル梅田
  東京の匂い
2 駅と遊郭 039
  二枚の写真
  縁辺の遊興空間
  駅前の遊郭
3 駅前ダイヤモンド 044
  カタチか地価か
  地霊の不在
  さながら遊郭の如し
  変転する駅前空間
  土地利用の高度化
4 相克する《南/北》 053
  《南》――方角から場所へ
  岸本水府の《南》
  二つの〈顔〉
  インテリの《北》
  宮本又次の《北》礼讃
  競演から協演へ
5 明日を夢見る《北》、懐古する《南》 064
  場所の履歴――場所・水辺・火災・駅
  鍋井克之の予感
  明日の夢、昔の夢


第2章 ラビリンスの地下街 071
1 梅田の異空間 073
  裏町を歩く
  地下街の原風景
  ふたつの横丁
2 排除の空間 081
  はじまりの地下道
  変転する地下空間
  繰り返される排除
3 もうひとつの都市 085
  地下街の拡散
  地下街ラビリンス


第3章 商都トポロジー 093
1 起ち上がる大阪 095
  焦土と化した街
  織田作の戦災余話
  場所への愛着
  船場トポフィリア
  復興の風景と場所感覚
2 同業者街の変動 104
  新旧の商工地図
  谷町筋の「既製服」と「機械」
  船場の問屋街
  丼池の繊維問屋街
  玩具・人形・菓子の問屋街
  道具商の街
  掘割と問屋街
  脱水都化の象徴
3 新しい消費空間の登場 120
  拡散する《ミナミ》
  《アメリカ村》の発見
  自然発生のまち?


第4章 葦の地方へ 131
1 重工業地帯のテーマパーク 132
  此花ユニバ
  沈む地面
  小野十三郎の大阪
2 新開地の風景 142
  石川栄耀の〈場末論〉
  此花区の新開地
3 梁石日の錯覚 148
  葦しげる湿地の開発
  《今里新地》の現在


第5章 ミナミの深層空間――見えない系をたどる 155
1 石に刻まれた歴史 157
  京都東山の豊国廟
  阿倍野墓地と千日前
2 《飛田新地》から新世界へ 161
  飛田遊郭の誕生
  郭の景観
  青線と芸人のまち
  「糸ある女」の飲み屋横丁
3 花街としての新世界 173
  歓楽の混在郷
  新世界は花街だった
4 釜ケ崎と黒門市場 180
  第五回内国博のインパク
  スラムとしての日本橋筋
  地図にないまち
  原風景――鳶田の木賃宿
  釜ケ崎の成立をめぐる語り
  釜ケ崎銀座の沖縄
  黒門市場の成立
5 《ミナミ》――相関する諸場の小宇宙 197
  千日前へ
  空間的排除としての郊外化


第6章 大阪1990 ――未来都市の30年 205
1 大阪湾の新都心 207
  2025年万博、夢の舞台
  テクノポート大阪
2 ダイナミック大阪と「負の遺産」 213
  ファッショナブルな都市空間
  大阪1990の出発点
  土地信託と「負の遺産
3 都市の空間構造と〈場所〉 222
  グローバル化時代の都市
  場所からの発想
  大阪2025の都市像


終章 界隈の解体 231
  〈界隈〉のひろがり
  再開発による分断
  モール化する阿倍野
  小野十三郎の足どり
  界隈の行く末


あとがき (二〇一九年二月 加藤政洋) [245-247]
主な引用・参考文献 [248-253]




【抜き書き】

□pp. 184-185
〔コメント:このラインナップであれば、鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』を入れた方が自然だと思う。その本のメインテーマが、まさに西成特区構想だから。〕

 紀州街道を南へ環状線をくぐってゆくと、「宿」をひっくりかえして「ドヤ」と略称される簡易宿所の建ち並ぶ、通称「あいりん地域」にはいる――そこは「日本最大の自由労働市場」であり、「人々は、この一帯を『釜ヶ崎』と呼ぶ」(砂守勝巳『カマ・ティダ 大阪西成』)。

 特定の場所イメージを喚起する釜ヶ崎に関しては、稀代の教科書的入門書である『釜ヶ崎のススメ』にはじまり、生田武志釜ヶ崎から』、原口剛『叫びの都市』、白波瀬達也『貧困と地域』など、この十年間ですぐれた専門書の出版が相次ぐと同時に、橋下徹市政下で打ち出された「西成特区構想」にもとづく――あるいはオルタナティヴな――「まちづくり」の議論と実践も活発化している。
 ドヤの利用者たる日雇い労働者の生活空間であった釜ヶ崎は、労働者の高齢化にともなって簡易宿所が福祉アパート(サポーティブハウス)に、あるいはインバウンドの旅行客を積極的に受け入れるホテル(ゲストハウス)に転用されることも多く、地図にないこのまちは急速に変容する側面をも持ち合わせている。