著者:菊地 成孔[きくち・なるよし](1963-) ジャズ・ミュージシャン、文筆家、作曲家。
著者:大谷 能生[おおたに よしお](1972-) 評論家、サックス奏者、ラッパー。
寄稿:布施 明仁[ふせ・あきひと](1954-) ジャズ・ギタリスト、音楽講師、翻訳家。
寄稿:濱瀬 元彦[はませ・もとひこ](1952-) ベーシスト、作曲家、音楽理論家。
対談・鼎談:高村 是州[たかむら・ぜしゅう](1964-) ファッションイラストレーター。服飾研究家。
対談・鼎談:ケイ 赤城[けい・あかぎ](1953-) ピアニスト、作曲家、編曲家。
著者(採譜):成澤 巧章[?](?-) ?
編集:田口 寛之[たぐち・ひろゆき](1979-) 編集者、音楽ライター。制作チーム「ラブレター フロム 彼方」主宰。
編集:高城 昭夫 (Esquire Magazine Japan)
編集:鈴木 健之 (Esquire Magazine Japan)
装幀:千原 航[ちはら・こう](1971-) グラフィックデザイナー/アートディレクター。
出版社:Esquire Magazine Japan[エスクァイア マガジン ジャパン]
NDC:764.7 音楽 >> 器楽合奏 >> 軽音楽.ダンス音楽.ジャズ.ロック音楽
※2011年に文庫化された(2分冊)。中山康樹と菊地成孔と大谷能生での鼎談が追加されている。
M/D 上 :菊地 成孔,大谷 能生|河出書房新社
M/D 下 :菊地 成孔,大谷 能生|河出書房新社
【目次】
目次 [002-004]
プロローグ(2008年2月7日/追記 2008年2月22日 菊地成孔) [005-013]
凡例 [014]
第1章 マイルス・デューイ・デイヴィス3世誕生(1926‐1944) 015
|1| マイルス・デイヴィスの20世紀 016
東京大学のマイルス・デイヴィス
家系図のなかのジャズ・ミュージシャン
魔術の三元素
マイルスの近代性と更新主義
マイルスの歴史がジャズの歴史、なのか?
自家中毒としての「マイルス・マジック」
見て見ぬふりをされるということ
ナルシストは背が低く、半裸になる
必読の2冊
浮世離れしたデイヴィス一家
「愛くるしい少年」の日々
父に褒められたい
美しく、おしゃれで、無理解な母
|2| イースト・セントルイスのセンチメント 045
マイルス少年のラジオ・デイズ
お菓子のヴァリエーション
ニューディール政策下のブラック・グルーヴ
白人音楽と黒人音楽の差異
「白人がかかるとスイッチを切った」
路傍の呪いは家に入れてはいけない
ブルースが血の中に入ってきた
「ナスティ」への反感と憧れ
「先生、僕は綿花なんか摘んでないです」
人生を変えた必殺の一撃
1944年のあの夜のフィーリング
ビ・バップの最前線ニューヨークへ
Skeches of Miles:01:マイルス、ティーンエージャー時代のポップス10選[大谷能生] 066
Skeches of Miles:02:「どの10年を使うつもりだ?」―― "50年代ニューヨーク映画"としてのマイルス自伝映画 [菊地成孔] 074
第2章 ニューヨークの速度とビ・バップ(1945‐1955) 077
|1| 都市/速度/スウィーツ 078
最初の、甘いドラッグ
「ジュリア―ド入学」の盲点
ふたりのジュリア―ド出身者
夜ごとの聖地詣
ビ・バップとのアンビヴァレンス
ポピュラー音楽史上のビッグ・バン
突然変異した「ジャム・セッション」
バード、宇宙を喰い殺す
黒い破綻者たちによる「天才集団」
金ヅル
芸術で生計を立てる、というセンス
不適応者のあがき
カンザス・リフと近代和声の交配
ブルースとヒンデミットを脳内シャッフルする
奇跡のキメラ、その「マイルス的」両義性
|2| パリのリュクスと青春の高揚/失望 109
初めてのオリジナル曲
バードをパクり、パクられる
ソウルメイト、ギル・エヴァンス登場
クロード・ソーンヒルとクールの萌芽
ギルのアート・コミューンと九重奏団
「ノネット」という新発明の絶妙
「全部バップの逆を行こう」とばかりに
『クールの誕生』の誕生
初めての海外、初めてのパリ
失意の凱旋と、変革のトランペット
パリ仕様の特殊なビ・バップ
黒人ジャズメンたちの天国
名士マイルス、パリと決別する直感
お坊ちゃん、初めてのナスティ時代
中級ジャンキーの冴えない感じ
セントルイスのコールド・ターキー
通過儀礼のコントロール
マイルス初の「ジャズLP」
不良コスプレと天賦のエレガンス
ケンカ・セッションとメディア・アート
オン・マイクになったテクノロジスト
Skeches of Miles:03 : ヴァーノンの女前 マイルスファッション鼎談 前半[高村是州×菊地成孔×大谷能生] 178
マイルスとファッション/ジャズとファッション
セントルイスで目立ったマイルス
両親のおしゃれに憧れた
ニューヨーク上京と、独立心の目覚め
一時的なナスティ・スタイル
メジャー移籍、マイルス・イメージの確立
モーニング・スタイルに囲まれて
写真ではわからない全身像
第3章 メジャー・デビュー、帝王の完成(1956‐1965) 171
|1| メジャー・デビューとオリジナル・クインテット 172
マイルスと我々の近さと遠さ
チンピラを脱し、メインストリームへ
メロディ・ラインという輪郭線
比較伝記学の試み
オリジナル・クインテットと天才コルトレーン[John William Coltrane]
スカウトマンとしてのマイルス
2日で4枚。怒涛の「マラソン・セッション」
創世記の終焉と「大衆バップ」の興隆
モダン・ジャズの我が世の春
ジャズの貧しさとマイルス・モデルの成立
金と労力をめぐるポリティクス
だって「スター」なんだから
甘く危険な、キラー・チューン
「クール・マイルス」の全面開花
ハーマン・ミュートのなまめかしさ
サイボーグ、あるいは接続された裸体
喪失した「声」、獲得した「声」
ロール・モデルは誰か
シナトラは、元祖「ウィスパー系」
|2| アンビヴァレント・アメリカの1950年代 205
マイルスの音源を使わないマイルス研究の成果
ポップスは駄菓子である
「帝国」のソーダ・ファウンテン
「モンド」と「レイス」のオモチャ箱
超前衛としての「モダン・デザイン」
口ずさめそうで、口ずさめないメロディ
「モーダリティ」の萌芽
同居する二つのシステム
世界の両端を抱え込む
「死刑台」とマイルスの映画観
全能ヒステリアとドメスティック・ヴァイオレンス
パステル・デカダンスの極点へ
王子の小宇宙
ブラック&ホワイト偏差値
10万枚入れたジャズ・アルバム
可処分所得と美学の相克
キャリアの頂点をめぐる神学問答
折り返し地点の軌跡
どこまで秘密を隠し仰せるか
ハーフ・オープンという秘術
ガーシュイン[George Gershwin]、異形のワールド・ミュージックとしての
「オペラをやるぞ。誰よりも見事にだ」
奇形化したブリコラージュ
搾取された「歌」を奪還せよ
ハサミ帥テオ・マセロ[Teo Macero]登場
Skeches of Miles:04 : 神々のモーダリティ[菊地成孔] 244
第ゼロ者
第一~三者
第四~五者(それ以後)
第六者
|3| “都市音楽”から“汎都市音楽”へ 258
『カインド・オブ・ブルー』について
大いなる空白とマイルス主義
シルエットで誰かはわかるだろ
上空から世界を見下ろす
「美による支配」という美徳
政治性皆無の「侵略と統治」
原モーダリティと現モーダリティの共鳴
世界の音楽王としての「オレ」
権威主義者たちのヒステリー
「調教」された観客たち
50年代のSM感覚とモダン・ジャズ
「マイルス・ファッション」という課題
「リュクスでありながら個性的」
バードランド殴打事件
「60年代の1拍前」の白雪姫
革命的なディケイドは実在しない
「いま、世界がひとつになっている」の誕生
ビートルズ・インフレーションの打撃
ボサノヴァ上陸という危機
《イパネマの娘》のチャート・アクション
ティーン・ポップの切り札登場
ビートルズ vs. モータウン
カーネギーホールへの道
マックス・ローチ[Max Roach]座り込み事件
「社会」や「政治」は避けられない
父の死以前、父の死以後
生涯の失敗作『クワイエット・ナイト』
ことは極めて複合的なのだ
天使の羽を拾い集めるかのように
もうひとつの失敗作
|4| レヴォリューション/モードチェンジ 305
マイルスとオーネットのシンメトリー
執拗なオーネット・ストーカー
ビートルズがフリー・ジャズを肥大化した
無茶な愛ほど燃え上がる
アコースティック・ジャズ最後のムーヴメント
アウトサイダーアートとしてのアイラ―[Albert Ayler]
革命=破壊される眼前
ドルフィーの「未来」と、ひとりの「転向者」
抑圧された転移
オーネットはプアなビートルズだった
遅延された革命、すなわちモード・チェンジ
革命が「モード」になるという逆説
「モード革命」という自己撞着
ロスの風は(マイルスにさえ)さわやか
生け贄、ジョージ・コールマン
ジャズ・バーでの繰り言
研究機関としての第二期黄金クインテット
ビートルズ旋風を隠蔽
ジャズ史上最大最長のモード・チェンジ
ふたたび、そして永遠の「モードとは何か?」
「ビ・バップを旋律として捉える」水平感覚
モーダリティは途方もなく拡大する
垂直性と、水平性の抑圧
水面下で行われる「価値の交換」
モーダリティの増殖性と爆発力
リズムにおけるモード・チェンジの説明
「基準値と変換値が混在する」こと
全方位に張りめぐらされた「価値の交換」
加速する「音楽オタク」
焦燥感と、外部の圧力
Skeches of Miles:05:「純ジャズ理論史」は「マイルス理論史」たりえるか?[菊地成孔] 354
Skeches of Miles:06:楽曲分析:《ソーラー》 360
リディアン・クロマティック・コンセプトによる《Solar》のアナライズ[分析、採譜:布施明仁] 360
チャーリー・パーカーの語法とマイルス[分析、採譜:濱瀬元彦] 370
チャーリー・パーカーの語法1
F△7への解決過程での上昇音階形
Eb→Ebmでの上昇音階形
切断されている例
チャーリー・パーカーの語法2
繰り返される d-e-f-g-as-b
第4章 電化、磁化、神格化(1966‐1976) 381
|1| アコースティックからエレクトリックへ 382
年表を消してしまう
美しい「カルト」のあり方
ラボに訪れた「現実」
クール・ビューティー/怒り
聖者コルトレーンとの対比
「ソロがないんだ」
戦争にアゲインストした唯一のジャズ
"リズム・モーダリティ"の極限へ
『ネフェルティティ』リハーサル・テイク説
テイク・ゼロ主義と魔術師ショーター[Wayne Shorter]
「明晰」を渇望する
呪術が解けた世界
テオ、出番待ち。
遅れか、余裕か?
スーツを脱がせたミューズ
ユース・カルチャー
「やっと別れた女」としてのジャズ・クラブ
ハーフ電化
それは「サイボーグ化」を意味した
プラスティックの人工股関節
ギャラクティックではなくサイバー・パンク
女たちから「かっぱらった」もの
窃盗と資本主義、双生児としての
「同じメロディの、違う曲」
ジミ[Jimi Hendrix]との共演、その頓挫の真相
|2| さらなる電化/磁化への道程 424
『イン・ア・サイレント・ウェイ』の神話
エレクトリック・マイルス考古学の発生
50年代までのスタジオ・テクノロジーとは
エレクトリファイとマグネティファイ
「正規盤のアウト・テイクス集」
遺書か、冥界からのメッセージか
解読文自体が、暗号だった
複雑化するミスティフィカシオンの罠
「磁化」が音楽を「映画化」する
テオの「明確化する」力
テイク・ゼロ主義の完成形
犯人すら全体像を理解していない事件
失策をコントロールする
エレクトリック・マイルス考古学の実践例
ジミというロール・モデル
ブルースとの3度目の邂逅
ノー・ヒステリアの止揚感
「白人メンバーが過去最多」という事実
複雑なコスモス系
69年のロック・ミュージック
3年遅れの『サージェント・ペパーズ』
ヘルシーですらあるサウンド
「混沌としたムード=ポリリズム」という誤解
「遠く」への「大暴投」
ペティの不倫と、加齢の自覚
Skeches of Miles:07:ベルギー王立音楽院のビッチェズ・ブリュー[菊地成孔] 460
Skeches of Miles:08:テオ・マセロの鋏の角度 469
|3| エレクトリック・マイルスの構造分析 476
ロック産業との接触
フィルモアの獰猛と、ロックへの幻滅
「バカ負け」した日
ファンクへ
火星に届かなかったコルトレーン
ジミの「天使的モーダリティ」
「もっと黒くできる余地はないか?」
ライヴは野蛮に、レコードはクールに
最重要楽曲《ホンキー・トンク》
《ホンキー・トンク》分析 |1| フレーズ・サンプリング
《ホンキー・トンク》分析 |2| リズム・エディット
《ホンキー・トンク》分析 |3| リズム構造
《ホンキー・トンク》分析 |4| 基準の大きさが変わる
《ホンキー・トンク》分析 |5| ライヴにおける演奏
《ホンキー・トンク》分析 |6| テープ編集、ミスの隠蔽と拡大
ちょっとした回想
ポリリズムという言葉の転用と定着
たった一度の「やりすぎ」
混乱期にしか生み出せない名作
|4| 『オン・ザ・コーナー』から引退まで 512
1972年、煉獄の日々
「シュトックハウゼン・ミーツ・スライ」
お得意のロマンティックな「フカし」
《グルッペン》の影響
デュシャンか、モンティ・パイソンか
「元気な中年の音楽」
「スライ[Sly Stone]には、さすがにビビった」
強転移、あるいは死と発狂の模倣
黒人たちに踊ってもらいたかった
30年先への大遠投
《オン・ザ・コーナー》分析 |1| アルバム冒頭部分
《オン・ザ・コーナー》分析 |2| 拍の頭の同定
《オン・ザ・コーナー》分析 |3| 短文(求愛)に置換
《オン・ザ・コーナー》分析 |4| コペルニクス的転回
《オン・ザ・コーナー》分析 |5| 作品のなかに消える
《オン・ザ・コーナー》分析 |6| テオのゴミ箱
オーネットの影、ふたたび
ローファイを超越した「ゴミ性」
カマし屋リーブマンと、告発者ザヴィヌル
『オン・ザ・コーナー』をライヴで再現する
オール電化バンド、完成
日本人だけが愛したバンド
瀕死のファンク、瀕死のマイルス
コカインで蘇生したゾンビ
ハービー・ハンコック[Herbie Hancock]と20世紀最強の宗教音楽
二重に甘酸っぱい日本的受容
マイルス・デイヴィス、引退へ
なにかが狂った3年間
Skeches of Miles:09 : すべては「本当の帝王の服」に向けて マイルスファッション鼎談 後半[高村是州×菊地成孔×大谷能生] 560
ベティとの結婚/ジミ・ヘンドリックスのスタイリストとの付き合いがはじまる
「オフのほうが派手」説/引退期の謎
引退からファッション・フリーダムへ
『ユア・アンダー・アレスト』の周辺
アーストン・ボラージュとの蜜月
アーストン以後、晩年のファッションについて
80%の冒険
マイルスとファッション、音楽とファッション
第5章 帝王の帰還(復帰‐1991) 593
|1| 帝王のいない6年 594
マイルス不在の6年間
当時の円相場と日米関係
ロマンティストのための免罪符
ジャズ史の休止とルーツ・バック
疲れ果てた近代を休む
「V.S.O.P.」という事件
ハンコックの「スロー・ライフ」
甘い感傷と興奮と伝説
慈愛に満ちた悪魔祓い
ジャズ批評のクライシス
来るべき10年とバブル経済
転校生の大活躍
ジャンル区分というシステム
マーケティング用語としての「クロスオーヴァー」
フュージョン黄金時代の豊穣
Skeches of Miles:10:悪童の深き友情 620
Skeches of Miles:11:ファーゼル・マイルス・デイヴィス:ケイ赤城インタビュー 1 [菊地成孔×ケイ赤城] 622
マイルス・バンド加入の経緯
メンバーとして見た晩年の姿
マイルス・サウンドとは
80年代に、日本人を起用するということ
嬉しそうに話すマイルス
飽きたらなら、先に進め
フレージングと日本語
マイルス・サウンドの本質
包容力と子どもっぽさ
キーボーディストとして見たマイルス
ファーゼル・マイルス・デイヴィス
|2| 80年代の感傷的な速度 636
復帰後をちゃんと語る
回避される10年と、日本との蜜月
グランド・ピアノの贈り物
バックマスターの浄化大作戦
トランペットが鳴らなくても
究極のマイナス・パワー・チューン
歌モノのミスティックな脱構築感
音楽史全体を異化するほどの
復活ライヴが問いかけるもの
「痛み」とはなにか
タモリもむせび泣く完全復活
80年代を彷徨うオーネットの亡霊
マイルス、宇宙へ行く
「自由と破格」という名の老い
悠々と加速する日々
80年代型マイルス・モデル完成
「ロボットよいこ」
クールでセレブな還暦アイドル
最後の恋人との出会い
Skeches of Miles:12:多調性のブルース:ケイ赤城インタビュー 2 [菊地成孔×ケイ赤城] 670
「ジュリアード音楽院」の意味
フェンダー・ローズとDX7
バンドに移し変えられたギル・オーケストラ
マイルスのブルース・フィーリング
見えない多調性とブルース
マイルス・バンドの教育法
多調性ブルースの汎用化
マシナリーなサウンドのなかでのマイルス
最後に
Skeches of Miles: 13:楽曲分析:《デコイ》 690
リディアン・クロマティック・コンセプトによる《Decoy》のアナライズ[分析、採譜:布施明仁] 690
後期マイルスの半音階的充満[分析:濱瀬元彦、採譜:濱瀬元彦・成澤巧章] 696
1. Decoyのモチーフ
2. マイルスのソロ
3. 結語
|3| 帝王の退場、20世紀の終わり 708
帰ってきた「美メロ愛」
テンガロンハットにモデルガン
世紀の珍盤は「プロテスト・アルバム」
還暦アイドル「人類の滅亡」を描く
好々爺マイルスの上機嫌な日々
欧州クラシック界も、オレを認めた
コロムビアからワーナーへ
フュージョン番長、「マイルス番」になる
「打ち込みマイルス」という冒険
「ロゴ」と化したトランペット
「家庭的な幸福」もマイルス式
"昼寝"にちょうどいいサントラ
ギル・エヴァンス、死す
『マイルス・デイヴィス自伝』という事件
自伝から読む、アメリカの棘
「死の予感」をめぐるふたつの派閥
神話化された「再演コンサート」
ラスト・アルバム『ドゥ―・バップ』の図像学
「オレは死にたくない。オレは死にたくない」
暗闇の王子、その墓碑銘
語り残したこと、語り残されたこと
エピローグ(2008年2月29日 大谷能生) [757-758]
スタッフ・クレジット [759]
人名索引 [760-774]
フォト・クレジット [775]
著者紹介/奥付 [776]
【メモランダム】
□書籍のデザインについて。
・部分的に、横組(二段組または三段組)になっている。
・講義録にあれこれ盛り込んでレンガ本に。
・鼎談部分に掲載された写真はカラー印刷。
・ノンブルはページ上辺の余白に置かれている。ただし綴じている方に寄っているので、極めて探しにくい。
・本文は、講義部分も増補部分も口語で書かれている。
・本書の背表紙に目次が印刷されている。珍しく、そして素晴らしい。
□刊行当時のPR・ニュースのひとつ。菊地成孔がファッションショー分析など書籍2冊発表 - 音楽ナタリー
□本文での文字・記号についてのメモ。
・音楽系の書籍・論文では、二重山括弧《 》は曲名を示すのに使われる慣習がある。しかし本書では混在している。例:『オン・ザ・コーナー』(p.544)
・書名に含まれるスラッシュ(/)について:奥付の表記では、「半角スラッシュ」なので、これが本来の表記。
・独特な漢字の使い方(例:本文で「偽似」と「擬似」が混在している)や、独特な句読点の使い方(例:〈最初の、甘いドラッグ〉)がなされている。その理由は、著者の文体差別化戦略なのか、はたまた音楽評論業界の奇習なのか、判断がつかない。
・(628頁)〈飽きたらなら、先に進め〉は誤植か。なお、本文では「……飽きたのなら……」という表現がある。
【抜き書き】
□759頁の詳細なクレジット
著者:菊地成孔、大谷能生
企画:菊地成孔、大谷能生、田口寛之
寄稿:布施明仁、濱瀬元彦
対談・ 鼎談収録:高村是州、ケイ赤城
編集:田口寛之、高城昭夫 (Esquire Magazine Japan)、鈴木健之 (Esquire Magazine Japan)
装幀・組版設計・DTP:千原航
編集協力:若林恵、三輪裕也 (ペンギン音楽大学)
校正:野口達也
DTPオペレーション:朝日メディアインターナショナル
協力:佐藤孝信、内藤忠行、NHK京都、河出書房新社、小学館、スイングジャーナル、メルシャン、アトリエ・キュビス、甲陽音楽院、ラング、K2 ミュージック、東京大学教養学部、中原裕、今泉泰樹、黒岩幹子 (nobody)、三森隆文 (スイングジャーナル)、ペンギン音楽大学、高見一樹 (East Works Entertainment)、長沼裕之 (East Works Entertainment)、制作チーム「ラブレター フロム 彼方」(大坪渉、門間卓也、新発田創、岡本俊介、鈴木晋太郎、吉本治樹、斉藤岳、山田哲士、柴田奈央、川上真紀子、中野響子、田口寛之)写真提供:
Sony Music Japan International, Warner Music Japan, Universal Music, Columbia Music Entertainment、 Disk Union、 Mushroom Records、 Aflo、Corbis Japan
・商業音楽におけるアイドル性について述べた一節(pp. 187-188)。「アイドルとは、プロデュース・システムの極端な偏向、つまり、本人の意思が0パーセントに振り切られている極限状態を示し、そこには聖性に近い特別な価値が生じ」という説明は、マイルスを離れて一般論。
金と労力をめぐるポリティクス
「タレント・イメージをレコード会社とタレント本人が交換し合い、虚々実々の駆け引きも含めつつ、合意の後、全方位的に実行する」というトータルプロデュース・システムと、その主導権争いのこじれから生まれるゴシップは、前述の通り、1960年代以降のロック・ポップス界の日常的な風景として消費されてきました。偶像を意味する"アイドル"という言葉が初めて音楽の世界で使われたのが、60年代のフレンチ・ポップスの世界だというトリビアをご存知の方も多いでしょう。
アイドルとは、プロデュース・システムの極端な偏向、つまり、本人の意思が0パーセントに振り切られている極限状態を示し、そこには聖性に近い特別な価値が生じますが、こうした極例をエッジとして、役割の異なるふたつの生産主体、つまり、アーティストとプロデューサーによる「商品イメージのトータルプロデュース戦略」の実行こそが、実費に対してメタレベルにある〝金と労力"の発生となります。
レコード・セールスと演奏の興行収益というインカムの分離をもとに、現在ではエージェントやマネージメント・オフィス、独立プロデューサーと社内プロデューサーなど、音楽産業をめぐる分業制の複雑化が進んでおり、どんな小さな現場でも三つ巴、四つ巴の複雑なポリティクスが働いているのが当たり前となっていますが、その原型にあるのはあくまで”アーティストとプロデューサーという分離です。これは、初期においては"アーティストとマネージャー"でした。さらに言えば、原初期においては分離はなく、宣伝広告行為などもすべてアーティストによる、今様に言えば"セルフ・プロデュース"だったのです。この話は、クラシックにおける作演一致がのちに分離していくという、細胞分裂にも似た「資本主義体制下における芸能/芸術」の根本的かつ複雑な問題の一端です。
・ひきつづき「タレント・イメージ」と、二種類の「ロールモデル」(pp. 199-201)。
引用部3段落目にあるロールモデルの三条件は、たぶん独自説。
◆ロール・モデルは誰だ
スウィートなポップ・ミュージックや、オペラや現代音楽の要素までを抽象化し、そのすべてを高度なテクニックに支えられたクインテットを操って現実化し、ポップなタレント・イメージを演じつつエゴを剥き出す――このように、高度な音楽性と同時に虚実皮膜のスター性をも獲得したマイルスは、しかし、これから自身が規範とするべき芸能界におけるロール・モデルを探すという作業も怠りませんでした。
スターという職業/輝度は、強く移入し、移入される関係の鎖のなかだけに存在します。〔……〕マイルスは、「見たことも聞いたこともない完全なニューモデルは、スターにはなりえない」というテーゼを、生得的に、そしてビバップ時代の体験によって熟知していました。
ロール・モデルの条件とは、まずは体躯が同じこと。そして狙いが同じこと。そして肌の色が違うことでした。マイルスが大々的な表向きのロールモデルとしたのは、フランク・シナトラです。それに対して、おそらく、マイルスが憧れと同胞感覚を合わせ抱いていただろう幾人かの女性白人ヴォーカリストたちがいる、ということを我々は指摘しておきたいと思います。 「裏のロール・モデル」とでも言えるような彼女たちの存在は、これまでさまざまなマイルス・アンビヴァレンスを確認してきた我々にとっては、むしろ表のモデルよりも強く前景化してくる存在であるように思います。
【関連記事】
『マイルス・デイビス 総特集 没後10年』河出書房新社[KAWADE夢ムック 文藝別冊] 2001年
『増補新版 マイルス・デイビス 不滅の帝王 没後20年』河出書房新社[KAWADE夢ムック 文藝別冊] 2011年
増補新版 マイルス・デイビス|河出書房新社