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『言語起源論の系譜』(互盛央 講談社 2014)

著者:互 盛央[たがい・もりお] (1972-) 言語論、思想史。
装丁:内山 尚孝(next door design)
NDC:801.02 言語学


『言語起源論の系譜』(互 盛央)|講談社BOOK倶楽部


【目次】
はじめに [001-004]
もくじ [005-007]
凡例 [008]


序章 人類最初の言語を聞く 009
  「野生児」の言語
  「自然」と「人為」、そして起源な問いへ


第I章 「神」が言語を与える――聖書の時代:中世から十五世紀まで 021
  「生まれ出ざる者」
  歴史の中のカスパーたち
  「起源の言語」を求める意味
  ヘブライ語起源説
  言語と政治
  ダンテと「起源の言語」
  「バベルの塔」はなぜ否定されたのか
  詩人が見出した言語
  バベル的状況の出現
  カバラの伝統
  言語の二種
  クラテュロスの真意
  すり替えられる「起源の言語」


第II章 複数のアダムたち――国民言語勃興の時代:十六世紀から十七世紀へ 063
  変質するカバラ
  変質するヘブライ語
  宗教改革と諸言語
  俗語賞揚とその根拠
  ギョーム・ポステルとフランソワ一世
  国民言語と国家統合
  乱立するバベル
  失われた「起源」、隠された「起源」
  パラケルススからヤーコプ・ベーメ
  普遍言語の企て
  ヘブライ語からの離脱
  普遍言語と「地上の楽園」
  普遍的調和と「自然」


第III章 人間が言語を作る――「自然創出」の時代:十七世紀 109
  「自然」の創出
  「歴史」の創出
  人類は二度、創造されたのか
  言語の「歴史」と複数の言語
  地球の外にある「自然」の言語
  「人為」と「自然」の一致
  「自然法」思想とのつながり
  主意主義と「起源の言語」
  近代の「自然法」思想
  「始まり」の暴力


第IV章 起源を証明する――「社会契約」の時代:十七世紀から十八世紀へ 147
  理性的な言語
  「自然」に優越する「人為」
  ホッブズの「自然」
  「ホッブズ問題」と「言語の起源」
  言語を作るには言語が必要である
  なされたことのない契約
  残存する「自然言語」I
  残存する「自然言語」II
  バークリーの観念論
  ラ・メトリの人間機械
  ディドロ唯物論
  コンディヤックの解決I
  コンディヤックの解決II
  「狼男」たち


第V章 起源をめぐる闘争――乱立する言語起源論の時代:十八世紀 201
  言語の発展段階
  言語神授説
  人間は生まれつき「交流」するのか
  アダム・スミスの言語起源論
  「共感」とは何か
  ルソーの敗北、そして飛躍へ
  「一般意志」による解決
  「一般意志」と非人称性
  ロマン主義への道
  「言語の歴史」から「言語という歴史」ヘ
  「普遍史」から「世界史」へ
  「普遍」の変貌
  起源からの「堕落」
  「野生の少女」の教え
  「削られた板」


第VI章 起源を復元する――言語学の時代:十八世紀から十九世紀へ 267
  「野生人」の国、アメリ
  虚の起源に向かって
  ベルリンの言語起源論
  「民族」の理性
  カントのすり替え
  フィヒテの解決
  ロマン主義実証主義の共犯
  言語学の誕生
  「バベルの塔」を建設する「民族精神」
  抵抗するアンシャン・レジーム
  「反動」の言語起源論
  抹消される「野生人」の言語
  神秘主義の「反動」
  「意志」には何ができるか
  メーヌ・ド・ビランの言語起源論
  因果性批判の射程


終章 「起源の言語」を語る天使たち 343
  ヘルダーの言語起源論は無効か
  グリムの反撃
  ルナンの言語起源論
  進化論と結合する言語学
  大脳局在説の登場
  消え去らない逆説
  風はアメリカから
  「言語の起源」は存在しない
  構造主義と起源
  生得的なもののゆくえ
  「神」の言語から人間の言語へ
  「純粋言語」のほうへ
  へりくだる「神」
  「起源の言語」を語る天使たち


あとがき(二〇一四年二月 互 盛央) [403-405]
書誌 [406-430]




【抜き書き】


□p. 403

    あとがき

 ここまで歩みをともにしてくださったかたには明らかなように、本書の試みはプラトンからチョムスキーに至る二千三百年間、プサンメティコス王まで遡るなら実に二千五百年間を対象にしている。そこには夥しい数の言語起源論が登場し、さらに本書で取り上げられなかったものまで含めれば、星の数ほどとも思える言語起源論が生み出され続けてきたことが分かる。改めて考えてみると、これは異様なことだ。
 言語起源論は、そのほとんどがヨーロッパと呼ばれる場所に現れた。いくら探しても、ヨーロッパ以外にそんな場所はこの地球上に存在しない。その事実が示しているように、言語起源論とはそもそもヨーロッパ的な問いだった。いつしかそれは「近代」の問いに変貌したが、その問いはいまだ答えられていないし、たぶん答えられることはありえない――そのことに気づいたとき、「言語起源論の系譜」はすでに始まっている。

□p. 405

 本書を書き進めながら、この企てがさまざまな意味で自分の力量を超えているものであることを痛感せざるをえなかった。それでもなお、ここまでたどりつくことができたのは、ウンベルト・エーコジェラール・ジュネットアルノ・ボルストをはじめとする偉大な先達の仕事を導きの糸にできたからにほかならない。ここに敬意と感謝の念を刻みたい。その糸をたどりながら進むほど、言語起源論の渦は巨大化していった。何度も途方に暮れた。歩み始めてしまったことを後悔もした。だが、私には、その渦から戻ってくる力を与えてくれる人たちがいた。その一人一人にただただ感謝している。合わせて、宮谷尚実さんからは貴重な文献をご提供いただいたことを謝意とともに記しておきたい。
 前著に続き、本書もまた講談社の林辺光慶さんのもとで生まれた。林辺さんにはどれだけ感謝の言葉を費やしても足りないだろう。敬愛する編集者に出会えた著者は幸せだ。私は本当に恵まれている。だから、私はこれから先の仕事で恩返しをしていきたいと思う。