編者:桑山 敬己
編者:綾部 真雄
NDLC:G121
NDC:389 民族学.文化人類学
【目次】
まえがき(2018年1月 桑山敬己・綾部真雄) [i-ii]
目次 [iii-ix]
凡例 [x]
第I部 基本領域
第1章 文化相対主義の源流と現代(桑山敬己) 003
1 文化相対主義の登場と発展 003
ボアズの文化観と文明観
ミード著『サモアの思春期』をめぐる論争
2 文化相対主義批判の古典的事例――言語相対論をめぐって 008
3 文化相対主義の現代的諸相 010
文化と政治
文化と人権
多文化主義論争
4 課題と展望 015
文献 015
第2章 言語人類学(名和克郎) 017
1 前史および古典期 017
イギリス社会人類学における言語研究
北米総合人類学における言語研究
認識人類学の登場
2 コミュニケーションの民族誌 019
SPEAKINGとは
事例1
事例2
論集 Directions in Sociolinguistics(1972)
3 現代言語人類学の展開 022
地名と知恵
文法と社会
言語相対論再考
4 言語人類学の主張 025
シルヴァスティン『記号の思想』(原著 1976~1993)から
5 課題と展望 028
文献 029
第3章 狩猟採集社会――その歴史,多様性,現状(岸上伸啓) 031
1 狩猟採集社会の歴史 031
2 多様な狩猟採集社会 032
狩猟採集社会の一般モデルとその限界
食料獲得におけるジェンダー差
移動と定住度
社会関係
経済的な豊かさと効率性
外部社会と歴史的関係
分配
3 21世紀の狩猟採集社会――カナダ・イヌイット社会 037
4 狩猟採集の現代的な意義 040
5 課題と展望 041
文献 042
第4章 文化と経済(山本真鳥) 044
1 贈与交換と互酬性 044
贈りものと返礼
互酬性と社会関係
互酬性と市場交換
全目的貨幣と特定目的貨幣
2 モラル・エコノミー 047
18世紀イギリス群衆の蜂起
日米の米騒動
東南アジアの農民と彼らの叛乱
モラル・エコノミー対ポリティカル・エコノミー
3 地域通貨 050
カナダでの経験
イサカ・アワーフランスの地域通貨SEL
日本の地域通貨
地域通貨と資本主義
4 ジェンダーと経済 053
サブシステンス社会の性別分業(ジェンダー役割分担)
近代化後の性別分業と主婦の誕生
性別分業の将来
5 文化と資本主義経済 055
宗教倫理と経済
資本主義の発達と時間認識
日本文化と経済
6 課題と展望 057
文献 058
第5章 家族と親族(河合利光) 060
1 家族・親族研究の開始と展開 060
初期の家族・親族研究
機能主義の親族論
2 グローバル化の中の家族と親族 063
家族・親族研究の拡大
核家族論と構造主義的親族論
親族研究における文化構築主義
親族研究批判
3 親族研究における西洋的二元論の克服 066
4 世界内存在としての身体と家族・親族 068
生活世界への関心
世界内存在としての身体
家族・親族の「経験と文化」の民族誌
5 課題と展望 072
文献 073
第6章 ジェンダーとセクシュアリティ(宇田川妙子) 075
1 ジェンダーの人類学,ジェンダー視点の人類学 075
2 ジェンダーとセックス 077
ジェンダーは生物学基盤論か
複雑な身体の性差
ジェンダーとしてのセックス
3 女性の可視化という問題 079
「沈黙させられた」女性,表象される女性
性別分業の再考
4 ジェンダーと権力 083
女性の劣位という問題,近代西洋中心主義
ジェンダーをめぐる様々な権力
ポジショナリティ,そして男性という問題
5 セクシュアリティ,トランスジェンダー,様々な性のかたち 087
6 課題と展望――視点としてのジェンダー 089
文献 090
第7章 同時代のエスニシティ(綾部真雄) 092
1 誰がエスニックか 092
ホワイト・エスニック
フラットなエスニシティ
2 エスニシティ前夜 094
「部族」の終焉
「ゆりかご」としてのゾミア
3 論争 097
原初主義(本質主義)と道具主義(構築主義)
「集団」が意味するもの
4 定義と定位 099
5 同時代のエスニシティ 100
エスニック化
マジョリティ・エスニシティ
6 課題と展望 103
文献 104
第8章 法と人間(石田慎一郎) 106
1 争論の中での法の発見 106
紛争から争論へ
争論研究における当事者主義
2 争論を文脈化する――法との接点において働く力 109
主張する/沈黙する
3 他者を知る法理論――法のプルーラリズム/オルタナティブ 111
裁判に対するオルタナティブ
4 法の確定性を支えるメカニズム――法人類学のもう一つの筋書き 114
法の遵守を促す力を捉える
法の柔軟性と確定性
5 課題と展望――法人類学のさらなる筋書き 117
文献 118
第9章 政治・紛争・暴力(栗本英世) 120
1 伝統社会の暴力と人権問題 120
文化相対主義の限界
女性の身体に対する暴力
殺人という暴力
2 東アフリカ牧畜社会の武力紛争 124
牛と紛争――ヌエル人の場合
ヌエル社会の分節構造と紛争
エチオピア南西部オモ川流域における戦い
個人の視点と横断的紐――紛争研究の展開
3 現代の民族紛争と内戦 129
新しい紛争――内戦,民族紛争,宗教紛争
「還元主義的」説明に対する批判
4 課題と展望――戦争と平和という連続体 131
文献 131
第10章 宗教と世界観(片岡 樹) 133
1 文化人類学と宗教 133
2 宗教とは何か 134
様々な宗教的伝統の発見
宗教の定義
3 世界を意味づける 137
宗教は意味を提供する
世界を分類する
4 再び宗教とは何か 141
儀礼と信仰
宗教概念そのものを疑う
5 課題と展望 145
文献 146
第11章 儀礼と時間(松岡悦子) 148
1 人類学における儀礼研究 148
通過儀礼―― A. ファン・ヘネップ
2 リミナリティのもつ力――ヴィクター・ターナー 151
リミナリティ
コミュニタスと構造
3 分類と境界 153
場違いなもの――メアリ・ダグラス
境界の持つ力――エドマンド・リーチ
通過儀礼における子どもと大人
4 象徴研究とその先へ 156
象徴的効果――クロード・レヴィ=ストロース
象徴的行為の先へ――浜本満
5 課題と展望――グローバル社会における儀礼と政治 159
文献 160
第12章 医療と文化(白川千尋) 162
1 非西洋医療への関心 162
西洋医療
非西洋医療
2 多元的医療論 164
西洋医療と非西洋医療の関係
パーソナリスティックな病因とナチュラリスティックな病因
多元的医療論の意義
3 非西洋医療をめぐるグローバルな動向 167
ヴァヌアツ・トンゴア島の西洋医療と非西洋医療
分業関係の構図を越えて
非西洋医療をめぐるグローバルな動向
4 病気のとらえ方 171
疾病と病
マラリアのとらえ方
5 課題と展望 173
治療と癒し
二項対立的図式の見直しへ
文献 175
第13章 グローバリゼーションと移動(湖中真哉) 177
1 グローバリゼーションの人類学 177
人類学の新たな危機
グローバリゼーションの人類学の展開
2 グローバリゼーションとは何か――歴史化的転回 178
グローバリゼーションの概念
初期のグローバリゼーション研究
概念の歴史化
3 さまよえるグローバリゼーション研究――否定論的転回 180
肯定論と否定論
グローバリゼーションの暗黒面
4 ローカリティとフィールドの消滅――連接論的転回 182
ローカリティとフィールドは消滅するか
新たな起点
5 グローバルなものとローカルなもの――存在論的転回 184
グローバリゼーションの認識論
言説としてのグローバリゼーション
グローバリゼーションの存在論
6 課題と展望――ポスト・グローバリゼーション的転回 187
ポスト・グローバリゼーション期
グローバル・イシューの人類学
文献 189
第14章 開発と文化(関根久雄) 191
1 普遍性と個別性 191
単純な近代化
もう一つの発展論
地域的近代
2 言説としての開発 194
低開発の意識を内面化する過程
開発論ともう一つの発展論への批判
3 感情によって揺れる開発 196
文化的構築物としての感情
「驚き」を原点として感情が生じる過程
4 「持続可能な開発」と文化 198
経済開発と社会開発の両立に向けて
サブシステンスとともにある生活を可能にする開発
5 課題と展望 201
フィールドにおける人類学者のあり方
フィールドの人々との協働
文献 203
第15章 観光と文化(川森博司) 205
1 観光現象と文化人類学 205
人類の文化としての観光
ポストモダン状況と観光の人類学
2 観光のまなざしと生活文化 207
観光のまなざしと疑似イベント
観光イメージと観光リアリズム
観光文化と生活文化
3 地域イメージと演じられる文化 210
地域イメージと文化の客体化
個人の実践と文化
観光客の経験
4 情報化時代における場所の意味 214
ディズニーランドとアニメの聖地
場所の虚構化
5 課題と展望 215
文献 217
第16章 民族誌と表象・展示(高倉浩樹) 218
1 民族誌とは何か 218
文化人類学における民族誌
異文化遭遇の歴史
民族誌の刷新
2 人類学と民族誌記述の歴史 220
非西欧研究としての文化人類学
文化比較と法則定位
マリノフスキーの長期参与観察
3 民族誌の発展 223
民族誌の客観性とHRAF
日本の民族誌
4 民族誌批判 225
解釈人類学
日記とオリエンタリズム
文化を書く
5 民族誌の可能性 228
地域研究と気候変動
フォーラムと協働による展示
6 課題と展望 230
文献 231
第17章 フィールドワーク論(佐川 徹) 233
1 人類学的フィールドワークの特徴 233
フィールドワークへの関心の高まり
人類学的なものの見方を養う場
仮説検証型と問題発見型
もろい防護服だけを着た人類学者
2 フィールドワークの現在 236
古典的フィールドワークへの批判
新しいフィールドワークと関係性
いくつものフィールドワーク
3 フィールドワークにともなう倫理 238
研究倫理の必要性
倫理の制度化の功罪
倫理的冒険としてのフィールドワーク
フィールドで育まれる倫理
4 フィールドワークで遭遇する危険と困難 241
身近にある危険
環境による危険
状況による危険
経験の共有と予防の必要性
5 課題と展望 244
文献 245
第II部 新たな展開
第18章 構造主義の現代的意義(出口 顯) 249
1 構造の定義 249
要素と要素間関係
変形
不変
2 文化と自然の連続 254
3 主体の解体,作者の死 257
4 神話が考える 259
5 構造主義の倫理 260
6 課題と展望 262
文献 263
第19章 「もの」研究の新たな視座(床呂郁哉) 265
1 「もの」研究の系譜 265
人類学における「もの」研究の系譜――初期人類学から20世紀半ばまで
2 近年の人類学における「もの」への回帰 266
「人類学の静かな革命」と存在論的転回
「もの」の社会生活
アクター・ネットワーク論
日本における「もの」研究
3 「もの」研究のいくつかの視点 269
意味からエージェンシーへ
シンボルからインデックスへ
4 脱人間中心主義的人類学の可能性 272
近代的「もの」観の相対化
人間/非人間の境界のゆらぎと越境
「ひと」としての自然物・人工物
5 課題と展望 275
文献 277
第20章 災害とリスクの人類学(木村周平) 279
1 生活・環境・災害 279
環境への適応
早魃に抗する在来知
災害の人類学
2 被災(害)者という対象 281
周辺化される被災者
語り・苦しみ・主体
誰が被災(害)者なのか
誰が被災するのか――脆弱性
3 災害というプロセス 285
災害が襲うとき
復興と支援
復興から社会変化へ
風化する民族誌/エスノグラフィ
4 リスクに備える 288
リスクという見方
現代社会とリスク
事故を防ぐ文化
セキュリティ
5 課題と展望 291
災害の公共人類学
人類学の変化?
グローバルなリスクをめぐる想像力
文献 293
第21章 人とヒト――文化人類学と自然科学の再接合(田所聖志) 295
1 文化人類学の対象とする人とヒト 295
2 文化人類学からの「再接合」 296
人/動物・機械という境界の揺らぎ
人に働きかける存在としての動物
3 自然科学からの接近 300
自然人類学による宗教の研究
現代の文化進化論
健康をめぐるヒト研究と人研究の接点
生物文化的なアプローチ
4 科学技術社会論と「再接合」 307
5 課題と展望 309
文献 310
第22章 映像と人類学(田沼幸子) 313
1 映像と人類学の黎明期 313
ミードの嘆き
黎明期と前史
博物館展示
『極北のナヌーク』(1922年制作)
2 科学と制度化 317
ミード,ラドクリフ=ブラウン,グリアスン
リアリズム
脱植民地化期の民族誌映画への批判
シークエンス撮影と観察映画
3 革命とアヴァンギャルド 322
ヴェルトフとルーシュ
ベイトソン
4 「共有」とは?――ネイティヴの視点から 323
撮影者と対象の関係
葛藤と立ち位置
5 課題と展望 326
文献 327
第23章 認識論と存在論(綾部真雄) 330
1 社会科学の通奏低音 330
攻守交替の歴史
言語論的転回:言語が世界を分節する
真摯さの陥穽
2 人類学と認識論 334
相対性と先鋭性
実証主義の行方
解体から設計へ
3 存在論的転回 338
真剣に受け止める
「転回」の顕在化
なにが「転回」したのか
4 パースペクティヴィズムの外延 342
多自然主義
多自然主義の源流
革新かディバイドか
5 課題と展望 345
文献 346
第24章 日本研究の現在――医療人類学の視点から(北中淳子) 348
1 異なる近代としての日本――科学・医療人類学的視座 348
科学の相対化
「異なる近代」としての日本
セルフ・オリエンタリズム
2 日本の医療研究――象徴主義と社会構成主義的アプローチ 351
生物医学批判と医療的多元主義
生物医学の象徴分析
自己の規律化と身体統治のテクノロジー
3 ライフサイクルの医療化論 354
老いの医療化
ローカル・バイオロジー
生物学的差異をめぐる文化の政治学
死の医療化
戯画化された文化論
Making the strange familiar, making the familiar strange(他者の同化を通じた自己の異化)
苦悩への社会的応答性
4 精神医学の人類学 359
心の病――文化とパーソナリティー学派から脱構築主義的分析まで
ジェンダー・家族・社会をめぐる文化的イデオロギー
近代的自己像が溶解する時代に
5 課題と展望 361
グローバル・サイエンスにおける「世界システム」
ローカル・サイエンス
文献 363
人名索引 [367-370]
事項索引 [371-381]
執筆者・編著者紹介 [382-384]
【メモランダム】
・本書の姉妹書(前身?)とは版型が変わっている。第1版(2006年)と第2版(2010年)。いずれも、 やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ。
章の異同はまだ確認していない。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784623045778
【抜き書き】
※〔……〕は、私が省略した箇所。
□ 第7章、綾部真雄「同時代のエスニシティ」から(pp. 100-101)。
ここには、〔……〕独立を望む背景として、スコットランド地方の住民のケルト人意識にも焦点が当たった。このとき問題となるのは、彼らがケルト人としての原初的紐帯を持つかどうかといった単純な話ではない。より大きな問題は、ケルトという「なまえ」のもとでのエスニシティが、一定の影響力を持った枠組みとして、現実の政治的過程においてどのように動員されたかである。そしてその過程においては、人類学者や社会学者が心血を注いで築き上げてきた理屈やモデルは一顧だにされずきわめて本質主義的な表象が「真実」として公に語られることが多かった。
ただし、エスニシティを同時代のものとして学問的な議論の俎上に載せる際に必要なのは、学問と現実の乖離を嘆きながら思弁の殻に閉じこもることではなく、現実の推移を的確にとらえるための尺度と修辞法をつねにアップデートしていく姿勢であろう。