編者:尾本 恵市[おもと・けいいち](1933-) 分子人類学。
著者:川田 順造[かわだ・じゅんぞう](1934-) 文化人類学。
著者:松井 健[まつい・たけし](1949-) 認識人類学。
著者:藤田 紘一郎[ふじた・ こういちろう](1939-2021) 寄生虫学、感染免疫学、熱帯医学。
著者:桑原 未代子[くわはら・みよこ](1931-2015) 小児歯科学。歯科医師。
著者:井口 潔[いのくち・きよし](1921-2021) 医学教育。
著者:吉田 眞澄[よしだ・ますみ](1945-) ペット法学。弁護士。
著者:武部 啓[たけべ・けい](1934-2018) 遺伝学。
装幀:川畑 博昭[かわばた・ひろあき]
NDC:469.04 自然人類学
【目次】
目次 [001-003]
初出について [006]
はじめに[埴原和郎] 007
メタファーとしての自己家畜化現象――現代文明下のヒトを考える[尾本恵市] 015
はじめに 016
一 自己家畜化現象とは何か 017
二 ローレンツの「八つの大罪」 021
①人口過剰
②生活空間の荒廃
③人間同士の競争
④感性の衰減
⑤遺伝的な退廃
⑥伝統の崩壊
⑦教化されやすさ
三 自己家畜化現象とヒトの未来 027
引用文献 031
人間の自己家畜化を異文化間で比較する[川田順造] 033
一 034
二 038
三 040
四 043
五 046
六 049
七 052
八 054
九 057
一〇 059
引用文献 062
自己家畜化の認知的側面[松井健] 063
一 065
二 073
三 079
引用文献 082
清潔すぎることの危うさ[藤田紘一郎] 083
はじめに 084
一 日本人の清潔志向 085
二 アレルギー病に悩む日本人 087
三 日本人のを驚かせたO157集団感染 089
四 今、日本が「あぶない」 092
五 社会の寄生虫 094
六 日本人の自己家畜化現象 097
おわりに 099
いま、子どもの口の中に何が起きているか[桑原未代子] 103
はじめに 104
一 自己家畜化現象 107
二 子どもの口の中の変化 110
1 成長・発育に関する問題
歯列の成長
2 機能発達途上の疾患
3 子どもの口腔内生活習慣病
口腔感想症
舌痛症
唾石症
軟組織の自咬症
三 子どもの口の中の問題を解決するには 121
ヒトにとって教育とは何か――自己家畜化現象からの視点[井口潔] 127
はじめに 128
一 アレキシス・カレルによる人類の危機の警鐘 129
二 精神の個体発生の仕組み 130
「胎教」の生物学的意味
新生児の脳の目覚め
「躾は三歳まで」の生物学的意味
童心期―学童期―思春期から立志期へ
人は成熟するにつれて若くなる
三 物質文明社会における教育と価値観の歪み 137
日本の近代化と教育の歪み
教育構造の見直し
四 危機からの脱出 140
①生得性の感性に帰ること
②教育改革について国に求めること
③教育ローカル線、新寺子屋駅をつくること
参考図書 146
ペットと現代文明[吉田真澄] 147
一 ペットの現状 148
二 現代人がペットを求める理由 150
三 ヒトとペットの関係の特徴 157
四 都市生活とペット 163
五 ペットの人化と人のペット化――結語に代えて 166
ヒトの未来[武部啓]177
人間の未来とヒトの未来――ヒトは自己家畜化されるか
日本にはみられなかったクローン人間への不安感
クローン人間肯定論
部分的なクローン作成への支持
ヒトの未来はクローン人間であってはいけない
生物学的な多様性の尊重を
ヒトの未来を明るく――自己家畜化の否定を
おわりに[尾本恵市]189
著者略歴 [200-201]
【抜き書き】
・尾本恵市氏のお言葉。
「ゲーム感覚」で殺人を犯す子供たちが現代社会の大問題となっているが、これも科学・技術の発達による人間離れの結果とみなしうる。幼児期からゲームなどの機械によって一種の「刷り込み」を受けた結果、親や周囲の人間との関係の薄い、まるで家畜のような子供たちが増えている。(27頁)
・統計なしに犯罪の凶悪化は語れないので、管賀江留郎『戦前の少年犯罪』(築地書館、2007年)と『安全神話崩壊のパラドックス――治安の法社会学』(岩波書店、2004年)を。
・同時にこれは世代論なので、後藤『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な世代論からの脱却』(日本図書センター、2013年)を処方したい。
・ところで、森昭雄『ゲーム脳の恐怖』(日本放送出版協会)が2002年で、本書と同じ時期に世に出ている。70歳を超えて、論壇誌やマスメディアから流行りの言説に染まって発信してしまうのも、また一種の「刷り込み」なのだろうか。
・武部啓「ヒトの未来」から。下線は引用者。
私がクローン人間作成に反対するもう一つの理由は、生物としての人間をある特定の意図のもとに改造することが、生物学の原理に反し、人間が生物であることの否定につながるからである。(184頁)
この部分は含蓄が深くてわかりにくい。
これに続く部分を要約して補うと、『生物学の原理』とは「高等生物では雌雄の遺伝子がランダムに組み合わさるため、親と同一の遺伝子をもつ子は自然界にはいない」くらいの意味のようだ。(余談だが「生物学の原理」という言葉はよく見聞きするが、今回の場合などは「生物の原理」でもよいと思う)。
この『生物学の原理』に反すること単体での善悪は述べられていない。一応、デザイナー・ベイビーへの反対論と同様に、「改造する側の価値観が時と共にうつろうので人間の介入は危険」(大意)ということが書いてある。現実的には超人や理想的な子どもを作る方面ではなく、致命的な遺伝病の治療・予防が先だと思われる(武部氏はこれに真っ向から反対することはないと思う)。ただし、遺伝子編集にかぎらず、優生学的な選抜への反対論としてなら納得できる。
『人間が生物であること』が指示する内容はわからなかった。文字通り[literally]に解釈しようにも情報が足りないので引用者の想像で補うと、上記抜粋部「生物としての人間をある特定の意図のもとに改造することが〔……〕人間が生物であることの否定につながる」とは、「特定の意図に従ってつくられた生命は、生物の(何らかの)条件に反する」だろうか。
これは、ある程度の高等生物に限定した主張だと思われるが、それでも具体性に欠けていて真意が分からない。
ということで、『人間が生物であること』の部分は割愛する方がすっきりした文章になると思う。