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『イスラーム国の衝撃』(池内恵 文春新書 2015)

著者:池内 恵[いけうち・さとし](1973-) イスラーム政治思想。
件名:ISIL IS 
件名:テロリズム
NDC:316.4 国家と個人・宗教・民族 >> 政治闘争:テロリズム


文春新書『イスラーム国の衝撃』池内恵 | 新書 - 文藝春秋BOOKS

※ 節番号を付与した。


【目次】
目次 [003-009]
地図 [010]


1 イスラーム国の衝撃 011
1.1 モースル陥落 012
1.2 カリフ制を宣言 013
1.3 カリフの説教壇 017
1.4 「領域支配」という新機軸 020
1.5 斬首による処刑と奴隷制 023
1.6 何がイスラーム国をもたらしたのか 029
1.7 本書の視角――思想史と政治学 030


2 イスラーム国の来歴 033
2.1 アル=カーイダの分散型ネットワーク 034
2.2 聖域の消滅 036
2.3 追い詰められるアル=カーイダ 038
2.4 特殊部隊・諜報機関・超法規的送致 040
2.5 なおも生き残ったアル=カーイダ 044
2.6 アル=カーイダ中枢の避難場所――パキスタン 045
2.7 アフガニスタンパキスタン国境を勢力範囲に 047
2.8 アル=カーイダ関連組織の「フランチャイズ化」 050
2.9 「別ブランド」の模索 052
2.10 「ロンドニスタン」の「ローン・ウルフ(一匹狼)」 053
2.11 指導者なきジハード? 057


3 甦るイラクのアル=カーイダ 061
3.1 イラクのアル=カーイダ 062
3.2 ヨルダン人のザルカーウィー 063
3.3 組織の変遷 064
3.4 イラク内戦の深淵 070
3.5 斬首映像の衝撃 071
3.6 アル=カーイダ関連組織の嚆矢 073
3.7 ザルカーウィーの死と「バグダーディー」たち 074
3.8 カリフ制への布石 075
3.9 二〇二〇年世界カリフ制国家再興構想 077
3.10 「カリフ制イスラーム国」の胎動 085


4 「アラブの春」で開かれた戦線 087
4.1 「アラブの春」の帰結 088
4.2 中央政府の揺らぎ 090
4.3 「統治されない空間」の出現 094
4.4 隣接地域への紛争拡大 097
4.5 イラク戦争という「先駆的実験」 101
4.6 イスラーム主義穏健派の台頭と失墜 102
4.7 「制度内改革派」と「制度外武闘派」 103
4.8 穏健派の台頭と失墜 105
4.9 紛争の宗派主義化 106


5 イラクとシリアに現れた聖域――「国家」への道 111
5.1 現体制への根本的不満―― 二〇〇五年憲法信任投票 112
5.2 スンナ派に不利な連邦制と一院制・議院内閣制 115
5.3 サージ(大規模増派)と「イラクの息子」 116
5.4 マーリキー政権の宗派主義的政策 118
5.5 フセイン政権残党の流入 119
5.6 「アラブの春」とシリア・アサド政権 120
5.7 シリアの戦略的価値 122
5.8 戦闘員の逆流 124
5.9 乱立するイスラーム武装勢力 126
5.10 イラクイスラーム国本体がシリアに進出 129
5.11 イスラーム国の資金源 130
5.12 土着化するアル=カーイダ系組織 134


6 ジハード戦士の結集 137
6.1 傭兵ではなく義勇兵 138
6.2 ジハード論の基礎概念 142
6.3 ムハージルーンとアンサール ――ジハードを構成する主体 146
6.4 外国人戦闘員の実際の役割 152
6.5 外国人戦闘員の割合 153
6.6 外国人戦闘員の出身国 156
6.7 欧米出身者が脚光を浴びる理由 159
6.8 「帰還兵」への過剰な警戒は逆効果――自己成就的予言の危機 161
6.9 日本人とイスラーム国 165


7 思想とシンボル――メディア戦略 169
7.1 すでに定まった結論 171
7.2 電脳空間のグローバル・ジハード 173
7.3 オレンジ色の囚人服を着せて 176
7.4 斬首映像の巧みな演出 179
7.5 『ダービク』に色濃い終末論 184
7.6 九〇年代の終末論ブームを受け継ぐ 192
7.7 終末論の両義性 194
7.8 預言者のジハードに重ね合わせる 196


8 中東秩序の行方 205
8.1 分水嶺としてのイスラーム国 206
8.2 一九一九年 第一次世界大戦後の中東秩序の形成 207
8.3 一九五二年 ナセルのクーデタと民族主義 211
8.4 一九七九年 イラン革命イスラーム主義 212
8.5 一九九一年 湾岸戦争と米国覇権 213
8.6 二〇〇一年 9・11事件と対テロ戦争 214
8.7 二〇一一年「アラブの春」とイスラーム国の伸張 215
8.8 イスラーム国は今後広がるか 217
8.9 遠隔地での呼応と国家分裂の連鎖 218
8.10 米国覇権の希薄化 220
8.11 地域大国の影響力 223


むすびに [226-229]
参考文献 [i-ix]






【抜き書き】


「むすびに」から。

 「イスラーム国」の台頭によって、筆者は、長年取り組んできた二つの分野が一つに融合していく稀な瞬間を目撃することになった。
 一つは、イスラーム政治思想史である。とくにジハード主義が国際展開し、9・11事件後に分散型、非集権型のネットワーク的組織構造によって再編されていく過程を追跡してきた。
 もう一つは、中東の比較政治学と国際関係論である。二〇一一年の「アラブの春」が、アラブ諸国に共通の社会変動をもたらしながら、体制変動は多様に分岐していった。その過程と要因を明らかにするのが、近年の最大の関心事だった。
 二つの研究の手法・視点を併用して、思想と政治の両方に取り組んできたのは、両者に相互連関性があると見ていたからだが、「イスラーム国」は、まさに両者の相互連関性を体現した存在である。
 〔……〕「アラブの春」以降の中東政治の変動に取り組んだ比較政治学・国際関係論の成果と、グローバル・ジハードの思想と歴史の展開についてのイスラーム政治思想史の叙述を、それぞれ一冊の本にまとめるため、数年間かけて準備してきた。どちらも、完成一歩手前のところまできている。本書を読んでこれらのテーマに関心を抱いた読者には、もう一歩・二歩踏み込んだ、それらの本を、近く届けたいと願っている。


※ここで流れを切って補足。本書(『イスラーム国の衝撃』)以降の、池内恵の出版物はこの通り。
 三冊目の本は無期限の延期になってしまったようだ(リンク先で仮目次を確認できる)。……ただし監修した本はその後も刊行されており、本人はTwitterでは相変わらず気を吐いていることを確認できる。


『【中東大混迷を解く】サイクス・ピコ協定――百年の呪縛』(新潮選書、2016年)
『【中東大混迷を解く】シーア派スンニ派 』(新潮選書、2018)
『「アラブの春」とは何だったのか』(東京大学出版会、未定)
 → 「アラブの春」とは何だったのか « 大学出版部協会




□上の引用箇所から続く部分。

 新書という媒体の性質上、詳細な注釈を付し、長文を引用することはできなかった。現在の問題を扱っているため、言及する個々の出来事は〔……〕公知の事実となっている。英語のインターネット空間に広がった膨大な公知の事実は、それを適切に引照し議論する専門家集団を中核とする、成熟した市民社会に共有されることで意味を持つ。〔……〕一般論を超えて、専門家の自由で多元的な議論を経た共通の知が、安定して組織的に形成され、公的な判断と意思決定に適切に生かされていくシステムは、技術発展によって成立した新しい情報空間に見合う形では、まだ整っていないように思われる。
 その意味で本書は、日本の分厚い一般読者層と、中東を含む英語圏の専門家コミュニティに培われたグローバルな公知の空間とをつなぐことも試みている。
 本書の末尾に付した参考文献リストには、各章の下敷きとなった筆者の論文・論考を列挙した。また、扱ったテーマごとに、基本的・代表的な文献を記して読者への道しるべとした。しかしそれ以外の数多くの書物や記事を参照して、本書の世界観と認識は構築されている。