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『私説博物誌』(筒井康隆 新潮文庫 1980//1976)

著者:筒井 康隆[つつい・やすたか] (1934-) 小説家。
解説:日高 敏隆[ひだか・としたか] (1930-2009) 動物行動学。
カバー装画:辰巳 四郎
イラスト:大竹 雄介[おおたけ・ゆうすけ] (1939-)

【目次】
目次 [003-005]
タイトル [007]


イボイノシシ 009
コモリガエル 015
アズマヤツクリ 022
ワニ 028
ヤドリギ 034
アシカ 040
グンカンドリ 047
ミズグモ 053
フウセンウナギ 059
シリコニイ 065
フタゴムシ 071
ハンミョウ 077
ユーカリ 083
イナゴ 089
グァナコ 095
ボネリア 101
センザンコウ 107
キュウケツコウモリ 113
モア 119
トリフィド 125
リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ 131
クズリ 137
トビケラ 143
キュウカンチョウ 149
ボウリュウ 155
シャカイハタオリドリ 161
ナマケモノ 167
タッノオトシゴ 173
アホウドリ 179
スイセン 185
デンキウナギ 192
リンゴマイマイ 198
イソードン 204
ホオジロザメ 210
ホウセンカ 216
アカウアカリ 222
カメレオン 228
ワライカセミ 234
ツバイ 240
マツタケ 246
スカンク 252
イスカ 258
コバンザメ 264
ジョウチュウ 270
テングノムギメシ 276
ミチバシリ 282
スキアシガエル 288
タランチュラ 294
カッパ 300
ヒト 306


解説にならない解説 日高敏隆(昭和五十五年四月) [312-314]




【抜き書き】
・適宜改行を加えた。


◆「イナゴ」の項目から断片的に(91〜49頁)。本書のナンセンスさとブラックさが伝わるはず。

 動物生態学の方では、人間以外の動物の数であっても「人口」という言いかたをしている。イナゴの人口爆発の場合、結果はどうなるのだろうか。川村多実二教授は動物の「大量発生の跡始末」として、通常起こる三つの場合を記していられる。
 一は、行きづまり。海へなだれこんで死んでしまうとか、食いものがなくなって死んでしまうとかいった、要するに野たれ死にである。
 二は、天敵とか自然敵とか言われているものの激増である。ひとつの動物の種類が大量に発生すると、いつもこれを食べている動物の数もふえるのだ。おまけに、ふだんこれを食べない動物までが加わって制圧にかかることもある。ソルトレーク・シティでイナゴが大発生した時、いつもならイナゴを食べないカモメの類がやってきてこれをむさぼり食った。現在ソルトレーク・シティの公園には、このことを記念して碑が立っている。〔……〕
 「跡始末」の三は、流行病の突発である。たとえばネズミがふえすぎるとペストが流行し、これが人間にも伝染して大さわぎになることは、カミュの小説でご存じの通り。
 イナゴ。直翅目バッタ科。英名ロカスト(Locust)。食用にもなる。戦争中はおやつとして、包装したものを駄菓子屋で売っていた。 
 イナゴには天敵がいる。だからイナゴが大量発生したら天敵である猛禽類がこれを食べてくれる。しかし、天敵のいない動物もいる。食物連鎖のいちばん最後にいるやつ、つまり何が来ても天下無敵という動物で、これを終端動物、ターミナル・アニマルというのだが、人間はこの終端動物である。南極では、意外なことにペンギンが終端動物である。ペンギンより強いやつはいないのだ。北極のように、キツネやホッキョクグマがいないからである。では、ペンギンがふえすぎて困ることはないのかというと、これはきびしい寒さが数を制限し、ちゃんとふえないようになっている。


・先見的だ。

 次に人間の天敵であるが、それが現在いないのである。いっそのこと天敵を作ったらどうかと思うのだ。鉄砲玉やちゃちな大砲では死なないぐらいの人食い怪獣を数百匹作り、これを世界のあちこちにばらまくのである。これにやられるのは一種の天災であるからしかたがないということにすればよろしい。逃げるスリルも味わえるではないか。
 新聞には天敵予報というのが毎朝出る。
「本日の天敵。関西方面では、現在西宮市内を通過中の天敵が西に向かいつつあり、このまま進路を変えなければ、午後二時ごろ以降は神戸市全域が天敵警戒圏内に入る予定」
「東京地方。昨日練馬区桜台で住民三六人を食べた天敵はそのまま南下を続け、本日未明渋谷区に到り、現在明治神宮表参道であばれまわっております。付近の住民は出歩かないように」

 最後に流行病だが、これが蔓延して多くの人間が死んでくれる望みも現在ではなくなった。ウイルスやリケッチャーの類をまきちらすことも、ジュネーヴ会議で禁止されてしまっている。
 人口過剰で過密状態になるとヒステリーが起こることは、他の動物たちによって知られている。
 結局は戦争ということになるのだろうか。戦争で人類滅亡という結果になるぐらいなら、天敵を作った方がいいと思うのだが。