著者:大和田 敢太[おおわだ・かんた] (1949-) フランス労働法。
NDC:336.49 職場の人間関係.ビジネス マナー
NDC:366.3 労働条件.労働者の保護
【目次】
まえがき [i-vi]
目次 [vii-xii]
第一章 ハラスメントとは何か 001
1 「いじめ」から「ハラスメント」へ 001
ハラスメント概念の登場
一九九二年の福岡セクシャル・ハラスメント事件
日本での取り組みのはじまり
2 問題の背景 005
学校のいじめ
事実確認と責任追及の区別
教員による「指導死」
スポーツ界でのハラスメント
いじめ問題と条例
職場のいじめの見方の変化
ハラスメント発生の構造
Aさんの事例
いじめ問題の事件化
川崎市水道局事件(暴力的いじめ行為)
使用者の安全配慮義務
パワハラ概念の登場
ハラスメント概念の普及
3 ハラスメントの定義 022
多種多様なハラスメント類型の登場
行為類型
職場のハラスメントの定義――解決のために
意図は必要か
指導や教育であれば、ハラスメントにならないか
パワー・ハラスメントという日本独自の概念
パワハラとは何か
パワハラに含まれないハラスメントの存在
パワハラ概念の限界
ハラスメントのない職場のあり方――対等・平等な使用者と労働者の関係
包括的な概念を
ハラスメントを規制するために
第二章 職場のハラスメントの現状 051
1 実態 051
労働相談の公的統計より
セクシャル・ハラスメント
いじめとセクシャル・ハラスメントの分離
実態調査より
労働組合調査より
医療現場の実態
ボランティア団体調査からみえてくるもの
業界団体調査による外部的ハラスメントの実態
介護施設における利用者からのハラスメント
交通機関における乗客暴力
学校教員の状況
消費者のクレーマー問題
2 国際的な実態調査の結果より 080
全体の傾向
性別による被害の特徴
業種や職種による影響
被害の多い業種外部的ハラスメントの実情
企業規模による影響
年齢差別
健康への否定的影響
ハラスメントと欠勤
労働環境
3 ハラスメントが起きる構造 093
組織的要因と構造的性格
リストラ
ハラスメントの構造的性格
ハラスメントが起きやすい企業
ブラック企業――その対策
4 隠れた職場のハラスメント問題 101
メンタルヘルス問題
メンタルヘルスの不調と自殺
統計より
公務員のメンタルヘルス問題
企業の取り組み
長時間労働問題と「働き方」改革
長時間労働の現状
過労死白書から
電通過労自殺事件
労働者の自殺問題
労働災害の実態
統計や実態調査からの教訓
第三章 実例で知る、職場のハラスメント 122
1 通常の業務を通じて行われるハラスメント(業務型ハラスメント) 122
①長時間労働・過重労働型
時間外労働(残業)と長時間労働による運転手自殺
過重なノルマによる銀行員自殺
②指導・教育型
農協係長自殺
指導の正当性の判断
高等学校の教諭に対する自宅研修
指導に名を借りた叱責・暴言
部下からの暴言
③被害者の立場の配慮
被害者の「同意」
被害者の弱い立場
新人(新入社員) ハラスメント
公立病院新任医師自殺
④不必要業務・違法労働・懲罰的労働型
懲罰的労働型ハラスメントの事例
⑤アカデミック・ハラスメント型
2 労務管理型 142
①人事管理型
労働条件切り下げ型
人事異動型
不本意な配置転換
②退職強要型
退職・転職の自由抑圧型
海外研修の費用返還
③不適切な人事管理制度
罰金制度
内部告発報復型
労災隠し型
団結権侵害型
④労務管理による個人の自由の抑圧の事例
職場における自由な人間関係の妨害
3 個人攻撃型 154
①暴力行為型
②犯罪行為型
③私生活の自由・プライバシー侵犯型
個人情報についての調査が問題となった事例
④アルコール・ハラスメント
飲めない人への飲酒強要
飲酒マナーの問題と判断された事件
4 差別とハラスメント 162
①性差別
女性従業員の昇進・昇格差別が認められた事例
職場における結婚後の改姓問題
セクシャル・ハラスメント型
妊娠中の女性へのマタニティ・ハラスメント
育児休業を取得したことに対するパタニティ・ハラスメント
LGBT差別型
②年齢差別型
定年後の再雇用
若年定年制
雇用形態による差別
③障害者差別
④国籍・人種差別
韓国名強要
外国人技能実習制度
履歴書匿名化の試み
5 第三者・顧客攻撃型 181
小学校の教諭が保護者から暴言を浴びた事例
6 使用者の対応や調査はどうあるべきか 182
被害者が録音
会社側の無断録音
写真撮影の正当性
第四章 職場のハラスメントの規制と対策――いま悩んでいる人へ、新たな被害者を生まないために 187
1 他国はいかに規制しているか 188
EUにおける取り組み
ベルギーにおける法規制
広い定義
ベルギーにおける法律制定の効果
ベルギーの企業内での規制制度
フランスにおける法規制
労使協定による規制
差別禁止法や雇用平等法による規制――オランダの事例
労働安全衛生法による規制――フィンランドの事例
労働環境による規制の事例――デンマークの事例
2 被害者を救済するために 207
被害者の権利
加害者への対応
被害者はどのように行動すべきか
被害者の保護のあり方
3 使用者と管理職の役割、労働者の対応 212
使用者の責務
管理職の責務
労働者の責務
4 外部組織の役割 218
5 規制立法の役割 220
今こそ、ハラスメントの法的規制を
あとがき(二〇一七年一二月 大和田敢太) [225-232]
参考文献 [233-237]
ハラスメント対策の10か条 [238-243]
【抜き書き】
□本書「まえがき」より(pp. i-vi)。
過労死とハラスメントは表裏一体の関係にあることは本文で指摘したとおりである。
この時期、日産自動車、神戸製鋼所、三菱マテリアルや東レなどの製造メーカーで、製品検査の不正が明るみになっている。その原因として、従業員が上司に意見を言えない雰囲気や不正を申告できない企業風土の存在が指摘されている。まさしく内部告発報復型のハラスメントの土壌が醸しだされていると言えよう。ハラスメント根絶のための企業経営の責任が果たされなければならない。
重要なことは、報道されているかぎりで、これらの事件は、本書が問題点を指摘した長時間労働によるハラスメントや新入社員ハラスメントの繰り返しである事実である〔……〕。たまたま起きた特殊な事件ではなく、現代日本の労働現場におけるハラスメントとして、構造的な原因から生じているのである〔……〕。社会全体の課題として認識する必要がある。「ハラスメントのない社会」の実現に向けた法律規制など社会的規制が今こそ求められる。
・用語について。
日本におけるハラスメント問題の特徴は、個人的な問題としての捉え方にある。ハラスメントを個人的な問題とみなしたり、当事者間の個人的なトラブルやコミュニケーション不足の問題と捉えるのではなく、企業経営にかかわる構造的な問題として捉える必要がある。そのため、「いじめ」から「ハラスメント」へという考え方の変遷を重視した。本書では、諸外国での定義問題には、それほど立ち入らなかったが、国際的にも、ハラスメント行動を表現するために、「有害な行為」、「敵意ある行動」、「悪意ある行為」、「脅迫行為」、「不愉快な行動」、「暴力」などの用語が、今日では、「ハラスメント」の概念に収斂し、「ハラスメント」の呼称が定着している。この過程には、各国の研究者が、この現象を分析し、表現するために、最も適切な用語を工夫して考案していた痕跡が残されている。すべての人が共有しうる包括的な定義が必要である。
第三章では、実際のハラスメント事件を取り上げた。その内容は、判決が認定した事実を要約したものである。すべて現実の出来事である。一部の判決で事件名や年次を記した他は、判決のデータ(裁判所名、年月日、判決掲載誌)は省略した〔……〕。これらの詳細なデータは、「職場のモラル・ハラスメントをなくす会」のホーム・ページに掲載する予定である。
本書が出版される時期、政府の「働き方」改革をめぐる議論が重要な段階を迎えるであろう。長時間労働自体を実効的に根絶しなければ、ハラスメント はなくならないであろう。また、ハラスメントを廃絶することが、長時間労働をなくすためにも必要不可欠である。政府の方針は、パワハラ政策やセクハラ・マタハラ・パタハラ政策が別個に展開され、国民の中に無用な混乱をもたらしている。ハラスメントを個々に定義するのではなく、広く包括的な定義により、被害者を救済していくべきである。