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『21世紀の財政政策――低金利・高債務下の正しい経済戦略』(Olivier Blanchard[著] 田代毅[訳] 日本経済新聞出版 2023//2023)

原題:Fiscal Policy under Low Interest Rates (MIT Press)
著者:Olivier Jean Blanchard(1948-)
訳者:田代 毅[たしろ・たけし] マクロ経済政策、日本経済論。
装幀:野網 雄太[のあみ・ゆうた] グラフィックデザイン
本文DTPキャップス
件名:財政政策
NDLC:DG61 経済・産業 >> 財政 >> 財政政策
NDC:343 財政 >> 財政政策.財務行政
備考:数式が幾分含まれているが、基本的に縦書き。コラムは横書き。傍注形式。


21世紀の財政政策 | 日経BOOKプラス


【目次】
献辞 [/]
日本語版への序文(2023年1月6日 オリヴィエ・ブランシャール) [001-006]
目次 [007-010]
はじめに(2022年6月 ワシントンDCにて オリヴィエ・ブランシャール) [011-015]


第1章 本書の概要 017


第2章 導入 037
2‐1 中立金利r* 040
2‐2 安全金利とリスク金利(rとr+x) 045
2‐3 中央銀行の役割―― r=r*の実現を試みるもの 048
2‐4 なぜ「r<g」が重要なのか 049
2‐5 名目金利と実質金利、実効下限制約 053
2‐6 結論 058


第3章 金利の変遷、過去と未来 059
3‐1 安全金利の変遷 062
  (r-g)の劇的な低下
  安全金利の低下に関する潜在的な要因
3‐2 金利と経済成長率 077
3‐3 人口の影響 082
3‐4 結論 086


第4章 債務の持続可能性 091
4‐1 (r-g)<0のときの驚くべき債務ダイナミクス 097
4‐2 不確実性、持続可能性、財政余地 104
4‐3 効果的な持続可能性ルールは設計可能か? 121
4‐4 公共投資と債務の持続可能性 130
4‐5 複数均衡と中央銀行の役割 138
4‐6 中央銀行、救済、帳消し 149
  債務の貨幣化と救済
  中央銀行保有する国債を帳消しにするべきか
4‐7 結論 156


第5章 債務と財政赤字による厚生面のコストとベネフィット 159
5‐1 確実性下の債務と厚生 163
5‐2 不確実性下の債務と厚生 170
5‐3 財政政策、実効下限制約、生産の安定化 181
5‐4 議論をまとめる 189
  財政政策は実際に機能するのか。乗数の再検討
  インフレ目標とは何か
  もし長期停滞がさらに悪化したら


第6章 財政政策の実践 205
6‐1 世界金融危機後の緊縮財政 208
6‐2 日本の経験――成功か失敗か 216
  日本の債務比率の上昇を抑えつつ、生産を維持するためにどの程度のプライマリーバランスの赤字を計上できるのか
  金利が大幅に上昇したらどうなるか
  民間需要が非常に低迷したまま、巨額の財政赤字と債務比率の上昇の継続をよぎなくされたらどうなるか
6‐3 バイデンの賭け――政策金利、中立金利、経済成長率 230


第7章 要約と今後の課題 241


訳者あとがき(2023年2月 東京にて 田代毅) [249-263]
  著者オリヴィエ・ブランシャールについて
  マクロ経済政策の再検討
  本書の意義
  現在進行するインフレや長期停滞の展望と本書との関係
  本書の日本へのインプリケーション
  ブランシャールと訳者の共同研究について
参考文献 [264-272]
索引 [273-275]



【コラム一覧】
格付け会社は実際に何をしているか 110-112
SDSAはどのようなものか。SDSAに関するいくつかのインプリケーション 118-120
経常勘定と資本勘定の分別に関する代数学的考察 134-135
EUルールの改革 136-137
複数均衡と債務の安全な水準 141-143
移転による厚生の効果 175-176
実効下限制約が拘束する状況下における緊縮財政による債務と生産への影響 195,197
量的緩和国債管理政策の綱引き 196-197



【図表一覧】
図2-1 中立金利の決定 042
図2-2 中立金利の決定:代替的な表現 044
図2-3 安定金利、リスク金利、リスクプレミアム 047

図3-1 米国、ユーロ圏、日本の実質金利(1992-2020年) 063
図3-2 1325年からの実質安定金利(1325-1997年) 067
図3-3 米国の10年実質金利と10年実質経済成長率予測(1992-2021年) 068
図3-4 総貯蓄率:高所得国、高中所得国、世界(1992-2018年) 074
図3-5 実質安定金利、株式の実質期待収益率(1992-2021年) 076
図3-6 個々人の消費と総消費 080
図3-7 寿命と総資産 084
表3-1 2022年1月時点において名目金利が5年後または10年後に特定の値以下となる確率 087

図4-1 格付けと債務比率 110
図4-2 債務比率の変化の分布 118
図4-3 アビラの大聖堂 126
図4-4 複数均衡の射程 143
図4-5 2020年初頭からのイタリアとドイツの10年物国債のスプレッド 148

図5-1 資本の関数としての消費、黄金律、動学的非効率性 166
図5-2 資本収益率(1992-2020年) 170

図6-1 G20IMFの債務削減対生産安定化の姿勢(2008/06/01-2013/05/06) 210
図6-2 需給ギャップ景気循環調整後のプライマリーバランスの変化 215
図6-3 日本のプライマリーバランス(1990-2025年) 220
図6-4 物価と賃金、コモディティー価格のインフレーション、2019年第1四半期から2021年第3四半期 238

表7-1 財政政策のマクロ経済の安定化の役割に関する専門家の認識 245




【抜き書き】

 田代毅による「訳者あとがき」から。
 本書の成り立ち 

 毎年初めに開催される全米経済学会では会長の基調講演が行われる。2019年の会長講演を行ったのは本書の著者であるブランシャールであった。そのタイトルは、“Public Debt and Low Interest Rates"(公的債務と低金利)。本書を読まれた方はたびたび目にした経済成長率が金利を上回る状況、数式で示すと(r-g)<0の状況における経済分析、そして、マクロ経済政策のあり方を問う内容であった。財政面でも厚生面でも債務のコストは小さい。債務を愛する必要は無いが、債務をどのように使うかを学ぶべきだと世界に問う内容であった。〔……〕本書は、マクロ経済政策の再検討の流れを踏まえて、この講演を歴史的、理論的、そして、実践に向けたインプリケーションとして発展させているものだ。


・日本経済への示唆。

 日本では高債務にも関わらず金利は低下し、他方で、低成長は長期化している。 債務の爆発の懸念が長年叫ばれてきたが、金利が急激に上昇することは見られていない。その中で、経済成長率が金利を上回る状況が他の先進国同様に出現している。
 ブランシャールによる日本の財政政策の評価については第6章第2節に詳しく記述されてお り、また、「日本語版への序文」は日本の読者に向けた書き下ろしとなっている。当然ながら、高債務は望ましいものではない。しかし、需要が低迷し、民間貯蓄が拡大する中で余儀なくされたものであり、債務の活用は避けがたいものであっただろう。危機の可能性をなくすほどの安全な水準まで債務をすぐに低下させることができない以上、債務と適切に付き合っていく必要がある。