contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『政府は巨大化する――小さな政府の終焉』(Marc Robinson[著] 月谷真紀[訳] 日経BP 2022//2020)

原題:Bigger Government: The Future of Government Expenditure in Advanced Economies (Arolla Press, 2020)
著者:Marc L. Robinson(1953-) 財政学。財政コンサルタント
訳者:月谷 真紀[つきたに・まき](1967-) 英日翻訳。
装幀:野網デザイン事務所
件名:財政
NDLC:DG8 経済・産業 >> 財政 >> 財政史・事情
NDC:342 財政 >> 財政史・事情


日経BOOKプラス


【目次】
目次 [003-008]
図一覧 [009-010]
BOX一覧 [011-012]
日本語版序文 [013-020]


序章 021


第1章 政府支出は多すぎるのか、少なすぎるのか 027
拡大期 
縮小期 
第三期――「二つの危機のはざま」 
政府支出の国ごとの違い 
予算への重圧 

補遺1・1 「二つの危機のはざま」期の政府支出の対GDP比(%)(2007~2018年) 046


第2章 なぜ医療支出がこれほど急増したのか 047
慢性疾患 
医薬品価格の上昇と医療支出 
  医薬品の複雑さと価格上昇
  規模の問題
  高い価格の影響
治療コストを下げるイノベーション 
  なぜボーモル[William J. Baumol (1922-2017)]は間違っていたか
  コスト病は何らかの寄与をしたのか?
「コスト病」説 
新技術と医療支出 
人口の高齢化と医療費の増加 

補遺2・1 心血管疾患(CVD)による死亡率減少に医学の進歩が果たした役割 093
補遺2・2 ボーモル効果は現在効いているのか 094
補遺2・3 医療は上級財か 096
補遺2・4 長寿化と医療支出 098
  死亡時点への近接性効果
  有病状態の圧縮


第3章 医療支出の未来 103
生物科学の進歩と拡大する医療の力 
  精密医療
  カスタマイズド医療
高齢化と医療支出 
感染症の課題 
デジタル技術は救世主となるか 
  新技術と医療の生産性
  症例単位コストは一律に下がるか
  その他の節減の可能性
支出増は減速するか 
将来の医療支出を政府はどれだけ負担すべきか 
政府の医療支出の未来 


第4章 高齢化の影響 147
高齢化の未来 
介護 
  介護とコスト病
  人口高齢化の影響
老齢年金 
教育 


第5章 地球温暖化への断固たる行動――そのコストは? 165
支出への対応 
気候投資――政府支出の役割 
  政府の業務とサービスにかかるコスト
  民間部門の気候投資への補助金は?
その他の気候関連の政府支出 
政府予算と地球温暖化 
気候変動政策への支出 
カップリングと経済成長の未来 

補遺5・1 気候投資 187
  温室効果ガス排出量削減投資の必要額
  適応投資の必要額
  

第6章 インフラ不足 191
  インフラと政府支出圧力
輸送インフラ不足 
政府の追加投資はいくら必要か 
その一方で…… 
公共部門は全体的に投資不足か 
具体的な金額は? 


第7章 ニューエコノミーの所得補助 211
将来の貧困に関する問題 
最近の歴史からの教訓 
  貧困に何が起きたか
  失業と労働市場からの排除
  就労貧困
  不完全就業、「不安定雇用」、貧困
  悲惨な未来の予測は間違っている
  情報通信技術によって雇用と賃金が破壊されなかったのはなぜか
  グローバリゼーションの影響
将来、大規模な技術的失業は起きるか 
  人工知能の影響
  楽観シナリオ
  誰が正しいのか
ワーキングプアが増える? 
フリーランスと雇用不安 
所得補助支出は将来どうなるか
  ベーシックインカムは答えになるか

補遺7・1 賃金停滞、デカップリング、貧困 257
補遺7・2 非正規労働と雇用不安 258
  一時雇用
  自営業
  呼出契約
  派遣労働
  集計指標のトレンド
補遺7・3 高技能雇用は風前の灯か 264


第8章 借り入れと通貨増発? 267
政府支出と新型コロナ禍による経済危機 
実物資源の視点 
財政赤字のマネタリーファイナンス 
負債による資金調達と実物資源制約 
財政の持続可能性と負債 
長期停滞と長期の財政赤字 

補遺8・1 プライマリーバランス 287
補遺8・2 長期停滞 288
補遺8・3 現代貨幣理論と国民のための量的緩和 291
  現代貨幣理論
  国民のための量的緩和


第9章 無駄を削減する 297
効率化による節減の余地 
潜在的な効率化による節減の規模 
新技術で節減は実現できるか 
結論 


第10章 政府は巨大化する 315
増分相当の支出削減を行う余地はあるか 
アメリカ 
  アメリカで福祉は削減できるか
  アメリカの軍事支出は削減できるか
増税は? 
税の高い福祉国家 
持続不可能な財政赤字の時代に突入するのか 

補遺10・1 アメリカの就労要件拡大による支出削減 334
補遺10・2 企業と富裕層への増税による歳入増の可能性 337
  資産税
  歳入の最大化か格差との戦いか
  企業への増税


謝辞 [345]
統計補遺 347
  第1章の統計補遺 347
  第4章の統計補遺 350
  第6章の統計補遺 356
  第10章の統計補遺 364
原注 [365-408]
参考文献 [i-xxix]




図一覧
図1 総医療支出の対GDP比(2019年) 
図2 総医療支出の対GDP比の増加(1970~2019年) 
図3 慢性疾患の有病率の増加:日本と高所得国の比較(1990~2019年) 
図1・1 1人当たり政府債務総残高:選択された先進国(2018年) 
図1・2 世界金融危機前と後の政府支出の対GDP比[A] 
図1・3 世界金融危機前と後の政府支出の対GDP比[B] 
図1・4 政府支出の対GDP比(2017年) 
図1・5 政府の医療支出の変遷(1995~2018年) 
図1・6 政府の老齢年金支出の変遷(1995~2015年) 
図1・7 医療および社会保障以外の総政府支出の変遷(1995~2015年) 
図1・8 「社会保障」支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 
図2・1 総医療支出の対GDP比:選択した高所得国 
図4・1 人口高齢化:高所得国(1950年、1985年、2020年) 
図4・2 老齢年金支出の変化(1980~2015年) 
図4・3 人口高齢化:高所得国 
図4・4 政府の年金支出予測:選択したヨーロッパ諸国 
図4・5 政府の年金支出予測:選択したEU非加盟先進国 
図8・1 世界金融危機による政府債務の増加(2007~2012年) 
図9・1 職員報酬と財およびサービスへの政府支出(2017年) 
図10・1 国防費の対GDP比:選択した先進国(1998年と2018年の比較) 
図10・2 教育支出の変遷:選択した先進国(1995~2018年) 
図10・3 歳入の対GDP比:アメリカと他の先進諸国との比較(2017年)〈統計補遺〉 
図S1・1 利払い費を除く政府支出の対GDP比:選択した先進国――10年間平均[A] 
図S1・2 利払い費を除く政府支出の対GDP比:選択した先進国――10年間平均[B] 
図S1・3 利払い費を除く政府支出の対GDP比:アメリカ(1950~2007年) 
図S1・4 利払い費を除く政府支出の対GDP比:アメリカ(2007~2019年) 
図S1・5 社会保障支出の変遷(1995~2018年) 
図S4・1 65歳以上の人口比率(1950年、1985年、2020年) 
図S4・2 80歳以上の人口比率(1950年、1985年、2020年) 
図S4・3 人口高齢化予測:アメリカ 
図S4・4 人口高齢化予測:日本 
図S4・5 人口高齢化予測:フランス 
図S4・6 人口高齢化予測:ドイツ 
図S4・7 介護支出(2017年) 
図S4・8 政府の介護支出の増加予測(2060年までの50年間) 
図S4・9 政府の介護支出の増加予測(2020~2050年) 
図S6・1 内陸輸送投資(全財源)の対GDP比 
図S6・2 道路投資(全財源)の対GDP比 
図S6・3 鉄道投資(全財源)の対GDP比 
図S6・4 輸送および水インフラ投資の対GDP比:アメリカ 
図S6・5 政府の資本支出の変遷(1995~2018年) 
図S6・6 政府の資本支出(2018年と世界金融危機前の比較) 
図S6・7 政府の資本支出:オーストラリア 
図S6・8 政府の非防衛投資:アメリカ 
図S6・9 政府の資本支出:韓国 
図S6・10 政府投資(2017年) 
図S6・11 政府の非防衛投資(2017年) 
図S10・1 環境保護支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 
図S10・2 治安支出の対GDP比(1995年と2018年の比較) 



BOX一覧
BOX 2・1 国の医療制度設計の違いによる影響 
BOX 2・2 新型コロナウイルスの世界的流行 
BOX 2・3 年齢調整指標 
BOX 2・4 慢性疾患患者の余命の延びと治療期間の長期化 
BOX 2・5 年齢調整した慢性疾患の発生率と有病率の比較トレンド 
BOX 2・6 寿命 
BOX 2・7 バイオ医薬品 
BOX 2・8 生産性の伸び 
BOX 2・9 コスト病説のロジック 
BOX 2・10 医療部門の生産性測定 
BOX 2・11 医療部門の低生産性の計量経済学エビデンス? 
BOX 2・12 市場の不完全性と医療サービスの過剰利用 
BOX 3・1 遺伝子編集 
BOX 3・2 再生医療 
BOX 3・3 デジタル一次トリアージシステム 
BOX 3・4 医療従事者の報酬圧迫は医療支出を頭打ちにできるか 
BOX 3・5 Do-It-Yourself〔自分でできる〕医療 
BOX 3・6 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ 
BOX 3・7 逆選択医療保険 
BOX 3・8 歳出限度額を設けるべきか 
BOX 3・9 医療支出の長期予測 
BOX 4・1 介護 
BOX 4・2 イギリスの介護危機 
BOX 5・1 公企業と気候投資 
BOX 5・2 炭素税 
BOX 5・3 規制の役割とは? 
BOX 5・4 ドイツの適応支援 
BOX 6・1 ブロードバンドへの政府の出資 
BOX 6・2 道路の有料化と将来の税を財源とする道路投資の要件 
BOX 6・3 例外の韓国 
BOX 7・1 絶対的貧困相対的貧困 
BOX 7・2 潜在的相対的貧困のトレンド 
BOX 7・3 不完全就業 
BOX 7・4 完全就業と就労貧困のトレンド 
BOX 7・5 アメリカにおける所得の不安定性 
BOX 7・6 一時雇用と二重労働市場の若者 
BOX 7・7 ドイツの貧困と非正規雇用 
BOX 7・8 ICT主導の自動化が雇用に及ぼす影響の推定 
BOX 7・9 雇用とオンライン・デジタル経済 
BOX 8・1 債務の雪だるま現象 
BOX 8・2 溶ける雪だるま 
BOX 8・3 債務の対GDP比が継続的に増えても限度を超えないのはなぜか 
BOX 10・1 税のかわりに強制保険? 



【抜き書き】
・「補遺8・3 現代貨幣理論と国民のための量的緩和」から、従来の量的緩和とPQEとを比較している部分。下線は引用者による。

 もう一つの立場は、いわゆる「国民のための量的緩和」(PQE:People's Quantitative Easing)を使えば巨額の持続的な政府支出増の財源にできる、というものだ(Coppola, 2019)。PQEは多くの先進国の左派の間で人気を博してきた。イギリスでは労働党の前党首、ジェレミー・コービンが提案している。イギリスやフランスなどの国々の環境派政治家たちは、この一種である「グリーン量的緩和」を提唱してきた[原注:緑の党の共同党首キャロライン・ルーカス議員のレター "Britain Needs Its Own Green New Deal" Financial Times. 8 June 2019 を参照のこと。 フランスの提唱者にはジャン・ジュゼルとピエール・ラルトゥルー (Gollier, 2019: 93-6 参照)、有力な環境保護活動家(およびマクロン政権の元環境相)のニコラ・ユロ(Fondation Hulot, 2011)などがいる]。
 量的緩和(従来型の量的緩和)とは、特に世界金融危機以降、多くの先進国の中央銀行が公開市場で金融資産を大量に買い入れてきたプロセスをいう。具体的には、国民が保有する長期政府債、民間部門の債券(例えば不動産担保証券)や(日本の場合は)株式の買い入れだ。中央銀行はこれらの購入資金を通貨増発によって賄うため、資産の買い入れを通じて経済に資金を注入することになる。
 このような資産購入やその財源となる通貨増発の額は莫大だった。アメリカでは、2008年から2014年までの量的緩和プログラムで連邦準備制度が約4兆5000億ドルの資産を購入している。ヨーロッパでは、欧州中央銀行が1兆ユーロ以上費やした。量的緩和の先駆けとなった日本の資産購入額はアメリカとヨーロッパの合計額をはるかに上回る。2018年までに日銀の保有資産の総額は日本のGDPを超えていた(それに対してアメリカは約20%、EUは約40%)[出典:Takeo,Yuko,"Bank of Japan's Hoard of Assets Is Now Bigger Than the Economy", Bloombarg, 13 November 2018.]。 
 一方、PQEとは中央銀行が通貨を増発して政府支出の財源としたり、国民に直接給付したりすべきだという考え方だ。PQEの典型的な筋書は次のようになる。量的緩和の実施にあたって、中央銀行は大量の通貨を増発し、使ったが、インフレを引き起こさなかった。同じような通貨増発のプロセスを使って、政府の資金源にすればよい[原注:PQEのよくあるバリエーションに、中央銀行の通貨増発を米国インフラ銀行が発行する債券の購入に使って同銀の財源にせよと提案するものがある。 この方法と政府の直接的な資金調達に大きな違いはない]。それによって可能となる追加的な政府支出に、量的緩和を上回るインフレ効果はないだろう。しかも、金融刺激策を民間の金融市場ではなく政府を通じて行ったほうが社会に有益であり、経済を刺激する効果も高いはずだ。金融市場を利する量的緩和ではなく、国民のための量的緩和となるだろう。少なくともPQEの理屈ではそうなる。
 このロジックと、「国民のための量的緩和」という言葉そのものの問題は、(本物の)量的緩和と政府支出の財源として通貨増発を利用することを同列に扱い、完全に誤解を招いている点だ。実際にはこの二つはまったくの別物である。量的緩和は民間部門(家計と企業)にお金を与えて使わせることではない。話は逆で、民間部門は金融資産を売却する対価として、中央銀行が増発したお金を受け取るのだ。量的緩和は民間支出を刺激することを目的としてきたが、だからといって家計や企業にお金を与えることによってその目的を達成するわけではない。これは、増大した政府支出の財源にするという明確な目的で通貨を増発して政府に与えることとはまったく異なる。後者の説明として「量的緩和」というまぎらわしい言葉を用いると、財政赤字の財源にする通貨増発の規模は近年行われてきた量的緩和措置の規模と同等にできるしすべきだ、という完全に誤った考えを助長してしまう。
 すでに述べたように、経済不況の(なおかつ金融政策の効果があまりない)ときに追加支出の財源として通貨増発を使うべきだという考えを、今日多くの経済学者が持っている。しかしこのことと、量的緩和の原則を政府の資金調達に適用する考え方は一致しない。
 量的緩和が実際どれだけ民間支出を刺激することに成功しているかについてはいろいろな議論がある。多くの経済学者がその効用には懐疑的で、もっぱら新たな金融バブルを煽るばかりだったのではないかと危惧している。中央銀行が財源を提供する財政出動のほうが従来型の量的緩和よりも望ましかったのではないか、と考える向きも多い[原注:例えば、著名な貨幣理論家のヴィクトリア・チック[引用者注:Victoria Chick(1936-2023)]を筆頭とした経済学者グループが2015年3月27日付『フィナンシャル・タイムズ』紙へのレターで述べたように。彼らは多くの経済学者と同じく、政府による巨額の景気刺激策の財源を通貨増発で賄う選択肢に加え、中央銀行が通貨を増発して家計に直接給付し民間支出を刺激すること(いわゆる「ヘリコプターマネー」案)も可能だろうと指摘した。繰り返すが、ヘリコプターマネーを量的緩和の一種とみなすことはできない]。
 最も根本的な論点は、中央銀行が近年とってきた量的緩和措置の規模に関係なく、通貨増発を財源とした追加的な政府支出を行う余地は経済の余剰能力の度合いによって制約される、という事実は変わらないことだ。だから、コッポラ(F. Coppola, The Case for People's Quantitative Easing. Polity Press, 2019)らのように、PQEを気候変動や(到来するとされる)技術的失業といった巨額の長期的な政府支出圧力すべての解決策になると考えるのは、まったく非現実的である。