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『日本 戦争経済史――戦費、通貨金融政策、国際比較』(小野圭司 日本経済新聞出版 2021)

著者:小野 圭司[おの・けいし] 軍事・戦争の経済学、戦争経済思想。開発経済学修士防衛研究所特別研究官。
装丁:野網 雄太[のあみ・ゆうた](1988-) グラフィックデザイン
cover photo:近現代PL/アフロ
件名:日本--経済--歴史--1868-1945
件名:戦争と経済--歴史--近代
NDLC:DC51 経済・産業 >> 経済史・事情 >> 各地域の経済史・事情 >> 日本 >> 明治以降
NDC:332.106 経済史・経済事情.経済体制 >> 日本経済史・事情 >> 近代:明治・大正時代.昭和時代前期 1868-1945
メモ:本書の扱う時期からすれば、『大日本帝国の戦争経済史』という書名の方が内容は伝わりやすいかもしれない。


日経BOOKプラス


【目次】
まえがき [i-iii]
目次 [iv-ix]


序章 近代の戦争と戦費
はじめに 001
1.近代世界の戦争の定量比較 002
  (1)19世紀後半から第1次世界大戦
  (2)日華事変・第2次世界大戦
2.戦費の定義 009
  (1)戦費の性質と算出
  (2)日本の戦費の定義
おわりに 016


第1章 日本の戦争経済の座標軸:理論的背景と国際比較
はじめに 020
1.理論的背景 021
  (1)国民所得会計と戦費:閉鎖経済の場合
  (2)国民所得会計と戦費:開放経済の場合
  (3)戦費調達手段と付加価値(国民所得
  (4)貯蓄と戦費
2.戦時通貨金融政策の変遷 030
  (1)近世以前の戦争と通貨発行
  (2)近代の戦費調達政策
  (3)近代銀行制度・金本位制と戦費調達
3.経済力と軍事支出の国際比較 036
  (1)名目値での国際比較
  (2)日露戦争まで
  (3)第1次世界大戦・シベリア出兵まで
  (4)日華事変・第2次世界大戦勃発まで
おわりに 046


第2章 戊辰戦争:過渡期の戦時通貨金融政策
はじめに 051
1.江戸期幕藩体制下の御用金 052
  (1)大名の借入れ
  (2)御用金の変遷
2.藩札・御用金の経済理論 055
  (1)三岡八郎由利公正)の経済論と実践
  (2)会計基立金の考え方
3.明治新政府の戦費調達と御用金(会計基立金) 061
  (1)鳥羽・伏見の戦いの戦費調達
  (2)会計基立金による戦費調達
4.戊辰戦争戦費の決算 067
  (1)太政官札による戦費調達
  (2)戊辰戦争の戦費推計の試み
おわりに 072


第3章 西南戦争:不換紙幣による戦費調達
はじめに 078
1.近代軍隊の形成 079
  (1)近代軍制の整備
  (2)鎮台制と徴兵制の導入
  (3)海軍の独立と整備
2.明治初期の財政と西南戦争の戦費
  (1)明治初期の財政状況と大隈重信
  (2)征討費(別途会計)の経緯と内訳
3.西南戦争の戦費調達政策 088
  (1)第十五国立銀行からの借入れ
  (2)政府紙幣発行と準備金
  (3)西郷軍の戦費とその調達
4.19世紀の日米内戦比較 093
  (1)南北戦争時の銀行制度と戦費調達
  (2)戦費調達から見た西南戦争南北戦争 おわりに 097


第4章 日清戦争:戦時通貨金融政策の原型
はじめに 102
1.清国の脅威と軍備拡張 103
  (1)陸軍の拡張
  (2)海軍の拡張
2.日清戦争の戦費 107
  (1)戦前の予想
  (2)臨時軍事費特別会計の内訳
  (3)一般会計の戦費
3.戦費調達の施策 113
  (1)大蔵省の対応
  (2)軍事公債の発行
4.戦時の通貨金融政策と賠償金 119
  (1)戦費調達への支援
  (2)銀価下落と兌換制度の維持
  (3)清国賠償金(日清戦争) おわりに 125


第5章 日露戦争:戦時通貨金融政策の完成形
はじめに 130
1.対露戦に向けた軍備増強 131
  (1)陸軍の拡張
  (2)海軍の拡張
  (3)開戦直前の装甲巡洋艦購入
2.日露戦争の戦費 138
  (1)戦前の予想
  (2)臨時軍事費特別会計の内訳
  (3)一般会計の戦費
3.戦費調達と通貨金融政策 147
  (1)一時補塡資金の供給
  (2)内債発行と金融政策
  (3)外債発行と通貨制度の維持
4.日露戦争が遺したもの 157
  (1)ロシアとの比較
  (2)臨時軍事費による軍備増強
おわりに 163


第6章 第1次世界大戦・シベリア出兵:曲がり角の戦時通貨金融政策
はじめに 171
1.第1次世界大戦勃発時の軍備と大戦景気 172
  (1)陸軍の軍備
  (2)海軍の軍備
  (3)第1次世界大戦と日本経済
2.第1次世界大戦・シベリア出兵の戦費概要 178
  (1)臨時軍事費特別会計の内訳
  (2)第1次世界大戦とシベリア出兵の戦費
3.第1次世界大戦・シベリア出兵の戦費考察 185
  (1)日露戦争との比較
  (2)第1次世界大戦直接戦費の国際比較
  (3)第1次世界大戦時の通貨金融政策比較
4.円系通貨のシベリア進出の試み 194
  (1)シベリア出兵と円系通貨
  (2)円系通貨シベリア進出の結末
おわりに 198


第7章 日華事変・太平洋戦争:戦時通貨金融政策の最終形
はじめに 205
1.軍縮から軍拡へ 206
  (1)陸軍の様相
  (2)海軍の様相
2.日華事変・太平洋戦争の戦費 210
  (1)臨時軍事費特別会計の設置
  (2)臨時軍事費特別会計の項目別内訳
  (3)昭和19年度以降の戦費膨張
3.内地での戦費調達と金融の「自給自足」 219
  (1)金融の「自給自足」と軍事公債引受け
  (2)本土決戦時の戦費支払い準備
4.外地のインフレと戦費の「現地調弁」 224
  (1)臨時軍事費の地域別支出内訳
  (2)「現地通貨借入金」の導入
  (3)外資金庫と戦費の「現地調弁」
5.「現地調弁」と中国での通貨戦争 232
  (1)日系通貨による法幣攻撃
  (2)蒋介石国民政府の対応
  (3)通貨戦争の結末と清算
6.マクロの視点と国際比較 239
  (1)日本の戦費負担推移
  (2)連合国・枢軸国の経済力と戦費
おわりに 246


終章 戦費の終焉:戦費借入れの戦後処理
はじめに 254
1.第1次世界大戦以前の戦費用長期借入れの返済 255
  (1)戊辰戦争西南戦争日清戦争
  (2)日露戦争-第1次世界大戦・シベリア出兵
  (3)外債の処理(日清・日露戦争分)

2.日華事変・太平洋戦争の戦費用借入れの返済
  (1)国債の返済
  (2)現地通貨借入金の清算と返済
  (3)戦争終結とインフレ

おわりに 269


あとがき(令和3年3月 小野圭司) [273-275]
関連年表 [276-287]
人名索引 [288-289]
事項索引 [290-293]






【抜き書き】
 以下「まえがき」から。
・戦争が経済に与える諸々の影響

 戦争は経済的に見ると、政府による大規模な消費活動である。交戦国は経済活動によって生産した付加価値を戦争目的に投入する。こうして軍は兵を養い、弾薬や燃料を消費し、兵器を調達する。軍以外の政府機関も外交交渉や財政措置、国境警備や輸送の強化などで軍の運用を支援する。この付加価値の消費は平時も同じであるが、戦時にはその量が一時的に膨れ上がり、その構成比率も変化する(兵士の動員増による人件費などの増加)。


・近代日本の戦費(調達方法)と金融政策。

 それでは「戦争の世紀」に突入してから、軍事と経済はどのような関係にあったか。偶発的な大規模消費たる戦争は、中山伊知郎が示したように経済にとって「一時的な病理現象」と捉えることも可能だろう。ところが日本では「日清戦争以来、今次の敗戦に至るまでの五十年間の中で、戦争およびその処理のための支出(広義の戦費)が財政統計の上にあらわれていない年は、ただの一度もなかった」〔……〕。そして日本の場合、戦費調達に対する通貨金融政策の関わり方が、2つとして同じものは無いという特徴が現われる。
 本書の問題意識は、この点を起源とする。即ち「2つとして同じものはない」理由は、通貨金融政策の発展という普遍性と、欧米列強から遅れて始まった社会・経済の近代化が、遅れたが故に急速に進められたという特殊性とが絡み合ってもたらされたという認識である。この問いに答えるために、本書では前者に対して近代における日本の戦費調達問題を世界のなかで捉え、後者に向けてはそれを通史として論じることとした。


・本書の新奇性

 ポール・ケネディPaul Kennedy)も言うように、「国際関係において富と力、つまり経済力と軍事力は常に相対的な関係にあり、そう見られるべき」である。しかし近代日本にとって時間的な遅れと経済力の規模の格差がもたらす、相対的な関係の不利はいかんともし難かった。そこで戦費調達で頼ったのが通貨金融政策、端的に言えばあの手この手の金融緩和とその管理であった〔……〕。
 このような戦時の通貨金融政策が、日本の特性として炙り出されることはほとんどなかった。戦争史研究では経済課題として、「モノ(兵器生産・物資動員:国家兵站)」を語ることはあっても「カネ(戦費)」が論じられることは少なく、そればかりかストックとフローが混在した大福帳式の議論も時にまかり通っている。
 他方で経済研究では「戦時財政」が対象となっても、「戦時の通貨金融政策」は財政の一部という扱いであり、これは戦時の財政当局と金融当局の力関係がそのまま映し出されているようでもある。また総じて個別の戦争ごとに分析が独立しており、時間軸は分断されている。 本書は各戦争の考察を通して、この空白を埋めることを企図している。



・「あとがき」より、初出情報。

 本書の一部では〔……〕論稿を改稿したうえで掲載している。本書に関連する既発表論文などは以下の通りである。


・「戊辰戦争の戦費調達政策と御用金――近代国民国家への過渡期の戦時財政」『軍事史学』 第54巻第3号 (2018年12月) :第2章

・「西南戦争の戦費調達政策再考――歴史的法則性における南北戦争との比較」『軍事史学』 第52巻第3号 (2016年12月) :第3章

・「日露戦争の戦費と財政・金融政策」 日露戦争研究会編『日露戦争研究の新視点』(成文社、2005年) : 第5章

・「第1次世界大戦 シベリア出兵の戦費と大正期の軍事支出――国際比較とマクロ経済の視点からの考察」『戦史研究年報』 (防衛省防衛研究所) 第17号(2014年3月):第6章

・「アジア基軸通貨への夢と現実――第一次世界大戦 シベリア出兵時の対外通貨政策」 「20世紀と日本」研究会編『もうひとつの戦後史――第一次世界大戦後の日本・アジア・太平洋』 (千倉書房、2019年):第6章

・「総力戦に向けた日本の経済力動貝――国民所得と軍事支出の視点から」三宅正樹他編『検証 太平洋戦争とその戦略1 総力戦の時代』 (中央公論新社、2013年):第7章

・「日華事変 太平洋戦争の戦費清算――戦費調達の構造と清算への影響」『軍事史学』第56巻第1号(2020年6月):第7章・終章


 各稿を収録するに当たっては、新しく入手した統計資料などで数値を更新すると同時に、各戦争での戦費調達を通史と捉えて国際比較することを軸に構成を見直した。