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目次とメモを置いとく場

『代替医療解剖』(Simon Singh, Edzard Ernst[著] 青木薫[訳] 新潮文庫 2013//2010//2008)

原題:Trick or Treatment?: Alternative Medicine on Trial ―examines various types of alternative medicine, finds lack of evidence―
著者:Simon Lehna Singh(1964-)
著者:Edzard Ernst(1948-)
訳者:青木 薫(1956-)

【目次】
目次 [005-007]
はじめに [010-018]


第I章 いかにして真実を突き止めるか 019
  壊血病、英国水兵、瀉血臨床試験
  科学的根拠にもとづく医療
  天才の一打


第II章 鍼の真実 075
  プラセボの威力
  盲検法と二重盲検法
  試験される鍼療法
  コクラン共同計画
  結論


第III章 ホメオパシーの真実 155
  ホメオパシーの起源
  ハーネマンによる福音
  ホメオパシー――隆盛と衰退、そして復活
  『ネイチャー』事件
  臨床試験に付されるホメオパシー
  結論


第IV章 カイロプラクティックの真実 241
  科学的根拠にもとづくお茶
  患者をマニピュレートする
  骨接ぎ万能療法
  注意してほしいこと
  カイロプラクティックの危険性
  代替医療の危険性


第V章 ハーブ療法の真実 317
  ハーブの薬学
  一番大切なのは、害をなさないこと
  思慮ある人たちがなぜ?
  実際に経験したのだから疑いようがないという心情


第VI章 真実は重要か? 389
  プラセボ――罪のないささいな嘘なのか、医療として不正な嘘なのか
  効果が証明されていない、または反証された医療を広めた責任者トップテン
  代替医療の未来


付録――代替医療便覧 [483-559]
  ◆代替医療の診断法 
  ◆代替医療の療法 
  ◆代替医療運動療法〔エクササイズ〕
  ◆代替医療の装置類
  ◆アレクサンダー法
  ◆アロマセラピー 
  ◆イヤーキャンドル(耳燭療法)
  ◆オステオパシー(整骨療法) 
  ◆キレーションセラピー 
  ◆クラニオサクラル・セラピー(頭蓋整骨療法) 
  ◆クリスタルセラピー 
  ◆結腸戦場 
  ◆催眠療法 
  ◆サプリメント 
  ◆酸素療法 
  ◆指圧 
  ◆人智学医療 
  ◆吸い玉療法(カッピング) 
  ◆スピリチュアル・ヒーリング(霊的療法) 
  ◆セルラーセラピー 
  ◆デトックス 
  ◆伝統中国医学 
  ◆ナチュロパシー(自然療法) 
  ◆ニューラルセラピー 
  ◆バッチ・フラワーレメディ 
  ◆ヒル療法 
  ◆風水 
  ◆フェルデンクライス法 
  ◆分子矯正医学 
  ◆マグネットセラピー(磁気療法) 
  ◆瞑想(メディテーション) 
  ◆リフレクソロジー(反射療法) 
  ◆リラクセーション 
  ◆レイキ(霊気) 
より詳しく知りたい読者のために [560-566]
謝辞 [567-568]
訳者あとがき(2009年12月 青木薫) [569-575]
文庫版訳者あとがき(2013年7月 青木薫) [576-584]





【抜き書き】
・「訳者あとがき」がここに掲載されている。
・九段落目の冒頭が「暖かい」となっているが、本来「戦い」とすべきところをミスタイプしたようだ。

訳者あとがき
 今日、代替医療――すなわち、現代の科学によっては理解できないメカニズムで効果を現すと考えられる治療法で、科学者や多くの医師が受け入れていないもの――は、全世界で数兆円規模の市場に成長しているといわれる。しかし、はたして代替医療には、宣伝されているような効果があるのだろうか? お金を費やし、かけがえのない健康を託すに値するものなのだろうか? 本書は、さまざまな代替療法の有効性と安全性を、今日手に入るかぎりもっとも信頼性の高いデータにもとづいて判定しようという試みである。


 著者のひとりであるサイモン・シンは、綿密な取材と優れた構成力で、科学的知識を一般の読者にもわかりやすく伝えることに力を尽くしている科学ジャーナリストであり、これまでに発表した3つの著作、『フェルマーの最終定理』、『暗号解読』、『ビッグバン宇宙論』(文庫収録時に『宇宙創成』に改題)はいずれも世界中で高い評価を得ている。もう1人の著者であるエツァート・エルンストは、長年にわたり、本書でも取り上げるホメオパシーなどの代替医療によって実際に治療に従事してきた経験をもち、代替医療の分野では世界初の大学教授となって、さまざまな治療法の有効性と安全性を精力的に調べている医療研究者である。第一級の科学ジャーナリストと最先端の医療研究者との協力によって生まれた本書は、わかりやすさと信頼性の高さとを兼ね備えた意欲作であり、健康への関心が高まり、医療費の問題がかつてないほど重くのしかかっている現代社会の要求に応える内容となっている。
 今日、実に多くの人たちが、なんらかの形で代替医療を利用しているといわれる。国によって状況はさまざまだが、施設・医療制度といったインフラ整備が十分でなかったり、歴史的経緯や経済上の理由などから、人口の大半が代替医療以外の治療を受けるのが難しいというケースもある。インドなどはその典型だろう。しかし、代替医療が浸透しているのは、新興国や途上国だけではない。近代的な医療が十分普及しているはずの先進国であっても、たとえばイギリスでは、王族が率先して代替医療の振興に力を尽くしているし、ベルギーのように、人口の約半数がごく普通にホメオパシーを利用しているところもある。かく言う日本でも、鍼灸カイロプラクティックはごく一般的に利用されている。
 2人の著者の目標は、これだけ普及している代替医療を、メカニズムが科学的に理解できないからといって頭から否定することにあるのではない。なんといっても、医療にとってなにより大切なのは、実質的な効果があるかどうかだからである。代替医療の基礎となっている思想や理論は、科学的には理解できないし、なかには荒唐無稽といってよいものもあるけれども、そのこと自体は医療にとってそれほど重要ではない。現代の科学的知識で理解ができないのなら、メカニズムの解明は未来に託せばよいのだから、というのが著者たちの考えである。しかしその一方で、もしもありもしない効果があると主張されているのなら、人びとはかぎりあるお金を価値のない治療に費やしていることになる。そればかりか、そもそも病気でもないのに害となるものを受け入れて健康を損なったり、受けるべき有効な医療の妨げとなって命にかかわることさえある。2人の著者が取り組んだのはその問題、すなわち、理屈はどうであれ実質的な効果があるのかないのか、隠れた危険性があったりはしないのかを明らかにすることである。
 近年ようやくデータも出そろい、個々の代替医療の有効性と安全性について、かなり確かなことが言えるようになってきた。たとえば、医療にまつわる重要なテーマのひとつに、プラセボ効果の問題がある。プラセボ効果は、ありとあらゆる医療行為に伴うものだが、とくに鍼については、二重盲検法の実施が難しいという事情があったため、プラセボ効果を適切に考慮に入れて信頼性の高い結論を引き出せるようになったのは、21世紀に入ってからのことだった。本書の第II章には、紆余曲折の歴史を経て、最新の結果がもたらされるまでの経緯がドラマチックに描き出されている。鍼は日本人にとって親しみ深い治療法なので、日本の読者にはとくに興味深く読んでいただけるものと思う。また、鍼を扱った第II章には、こと代替医療に関するかぎり、WHOの取り組みには大きな難点があるという注目すべき問題が指摘されている。
 さて、個々の代替医療の有効性と安全性について下された判定は、おおむね否定的である。しかし2人の著者は、代替医療など効くわけがないと決めてかかっていたのでは決してなく、それぞれの治療法の実質を見極めたいという動機に駆り立てられていたであろうことを疑うわけにはいかない。なぜなら、もしも代替医療の有効性と安全性が示されれば、それはまぎれもなく素晴らしいことだし、頭から代替医療は役に立たないと決めてかかるのは科学的な態度ではない。なによりも、医療の歴史上には、なぜ効くのかわからないまま、たしかに有効であることが示された治療法がいくらでもあるからだ――その典型例として紹介されているのが、壊血病の治療法としての「レモン療法」である。
 とはいえ、ホメオパシーのように、プラセボを上回る効果はないことがすでにはっきりと示されているにもかかわらず、人気が衰えないどころかますます利用者が増えている代替医療も多い。人びとはなぜ、中身のない治療法であることが示されている代替医療を利用するのだろうか。最大の理由は、治療法の効果に関する事実を知らないことなのかもしれない。しかし、第V章の最後で論じられているように、多くの人が代替医療に心惹ひかれるのには、それ以外にも理由がありそうだ。
 ひとつには、主流の医療に対する不満があることだろう。「冷たい主流の医療」に対して、「暖かい代替医療」といったイメージを抱く人は少なくないように思われる。医療崩壊が指摘される日本の現状を見れば明らかなように、医者が1人ひとりの患者に対して十分な精神的なケアを行うことは、現状ではきわめて難しいと言わなければならない。一方、かかった時間に応じて費用を請求することも可能な代替医療ならば、施術者と患者とが満足度の高い人間関係を結ぶ余裕もある。代替医療の繁栄は、著者たちが指摘するように、通常医療の側に問題があることを指し示してもいるのだろう。
 暖かい【ママ】と同時に、実質的に有効な医療を目指すというテーマでは、第Ⅵ章でプラセボ効果をめぐる重要な論点が取り上げられている。プラセボ効果はときに非常に大きなものになるため、たとえ医療そのものに実質的な効き目がなくても、プラセボ効果だけでも十分に意味があるとは言えないだろうか? 患者に効果が現れるのなら、それでよいではないか? これは十分考慮に値する意見ではあるが、プラセボ効果のみに頼った医療を容認することは、医療全体を暗黒時代に引き戻すことだという点が丹念に論じられている。
 もうひとつ、主流の医療に対する不満とともに、科学に対する反感もまた、多くの人が代替医療に心惹かれる理由になっているようにみえる。科学的な医療と言えば、「人工的」「西洋の」「分析的」といったキーワードで、何かを理解したつもりになってしまうことが多いのではないだろうか。こうしたステレオタイプの裏返しを、人びとは代替医療に求めているのかもしれない。本書では、とくに注意を要するキーワードとして、「ナチュラル」、「トラディショナル」、「ホーリスティック」の3つを挙げているが、これらはまさしく、先に挙げた科学的医療のイメージの裏返しである。たとえば、日本でもあらゆるメディアを通じて、「天然植物成分100%」といった言葉が「安全」の同義語であるかのように使われているけれど、少し考えてみれば、そんなはずはないことが容易に理解できるだろう。自然はそれほど人間に都合よくはできていないし、植物には有毒なものも多いのである。どうやら代替医療にまつわるこれら3つのキーワードには、私たちの思考を停止させる強力な魅力があるようにみえる。そうだとすれば、医療との関連でこれら3つのキーワードが出てきたら、むしろ実質を伴わないイメージ戦略ではないかと疑ってみたほうがよいのかもしれない。
 第VI章の最後には(475〜478ページ)、代替医療を受ける前に知っておきたいことが、代替治療薬に添えられるべき「注意書き」の案としていくつか挙げられているが、それらは決して冗談でも皮肉でもないという点に注意を促したい。それらの注意書きは、今日得られているもっともたしかな根拠にもとづいた信頼性の高い内容であり、かけがえのない健康を守るために、私たちみんなが知っておくべき基本的な情報なのである。
 本書には、誰にとっても大切なことであるにもかかわらず、たいていの人にとっては学ぶ機会のなかった、医療に関する基本的な考え方や最新の情報が盛り込まれている。ジェイムズ・リンドと臨床試験ナイチンゲール統計学など、医療の歴史を彩るさまざまなエピソードを楽しみつつ、現代人に必要な医療リテラシーを身に付けるための一助としていただけるなら、訳者としてこれにまさる喜びはない。
最後になるが、新潮社出版部の北本壮氏と、同じく校閲部の田島弘氏にはひとかたならぬお世話になった。お二人のご尽力に対し、心より感謝申しあげる。
  (2009年12月 青木 薫)



・「文庫版のための訳者あとがき」がここに。
・英国の名誉棄損裁判について相当の分量をさいているのだから、ついでに、必読と言っていい『肯定と否定』(Deborah E. RLipstadt)も挙げてほしかった。

文庫版のための訳者あとがき

 この文庫版のための訳者あとがきでは、本書の単行本が刊行されてからこれまでに起こった代替医療関係の出来事のうち、とくに興味深いと思われるものを2つほど取り上げてご紹介したい。
 まず1つ目は、本書の著者の1人であるサイモン・シンが、英国カイロプラクティック協会に名誉毀損で訴えられた一件である。2008年、本書の原書がイギリスで刊行されるのに合わせ、シンは『ガーディアン』紙のウェブ版のコラムで、子どもの腹痛や喘息などを治療できるとして、子どもに施術しているカイロプラクターがいると述べた。
 英国カイロプラクティック協会はそれに対し、シンの書き振りは、まるで協会の指導部がそれと知りつつインチキ療法を許しているかのように読め、事実上、協会の指導部を不当にも非難するものだとして法廷に訴えたのである。
 イギリスでは、こうした場合に名誉毀損で訴えられると、まず勝てないという状況があった。訴えられた科学者や医師やジャーナリストは、裁判のために多大な時間とエネルギーを取られるばかりか、その費用も負担しなければならない。それを逆手にとって、国際的な団体や企業などが、事実上の口封じとして名誉毀損に訴えるときには、わざわざイギリスを裁判地に選ぶという、「名誉毀損ツーリズム」という現象まで起こっており、国際問題にもなっていた。国連の人権委員会も、イギリスの名誉毀損法は、「公共の利益にかかわる問題についての報道を妨げ、名誉毀損ツーリズムとして知られる現象などを引き起こし、研究者やジャーナリストに仕事の公表をためらわさせている」として警告するほどだった。
 サイモン・シンが訴えられたケースでも、予想された通り、1審では英国カイロプラクティック協会の主張が認められ、シンが敗北した。しかしその判決を受けて、科学者やジャーナリストばかりか、著名な司会者やコメディアンなど芸能人までもが、シンの応援に立ち上がった。支援のためにさまざまな活動が行われたようだが、そのひとつとして、科学的根拠がないままに治療効果を謳い、子どもに施術しているカイロプラクターを見つけだし、告発するという摘発キャンペーンがあった。カイロプラクターの中には、腹痛、喘息、泣きぐずりのほかにも、関節炎から学習障害まで、さまざまな症状を治せると称して子どもに施術する者がいたのである。
 この摘発キャンペーンに対処すべく、英国内の有力なカイロプラクティック協会のひとつであるマクティモニー・カイロプラクティック協会は、所属する会員800名にメールを送り、「ウェブサイトで治療を宣伝している者は、サイトを閉鎖すること。協会作成のパンフレット、および独自に作成したパンフレットで、ムチ打ち症や、腹痛を始めとする子どもの病気を治療すると述べたものを撤去し、追って通達するまで使わないこと」との指示を出したが、そのメールもみごとにリークされてしまった。最終的には、英国のカイロプラクターのうち、なんと4人に1人が取り調べの対象になるという事態に至る。
 結局、控訴審ではシンの主張が認められ、その後、カイロプラクティック協会が名誉毀損の訴えを取り下げたことにより、この裁判はシンの勝利に終わった。裁判所はこれにより、科学上の問題は、煩瑣な法廷論争によってではなく、科学論争によって決着されるべきであるとの考えを示したといえよう。
 サイモン・シンは、裁判に勝利したとはいえ、ブログ記事の中のたかだか数ワードの表現を擁護するために、2年の歳月と20万ポンド(約3000万円)の支出を強いられることになった。このシンのケースと、前年にイギリスの心臓外科医ピーター・ウィルムズハーストが、アメリカの医療機器製造会社に名誉毀損で訴えられたケースとが大きな契機となって、名誉毀損法の改正を求める声が高まった。改正への道のりは容易ならざるものに見えたが、この4月、イギリス政府がそれまでの態度を一転させ、部分的に改正案を受け入れる姿勢を示した。そして、「大企業は、問題とされる記述の文言により、甚大な経済的損失を被ったこと、または損失が見込まれることを示さないかぎり、名誉毀損に訴えることができない」という条文案を提出し、議会はそれを通過させたのである。この修正条項は、明らかに不十分な内容ではあるにせよ、これまでは企業や団体が名誉毀損法に訴えることをためらわせるようなハードルは何も設定されていなかったことを思えば、大きな一歩といえるだろう。
 もうひとつ、この間に起こったこととして特筆に値するのは、プラセボ効果の研究が大きく進展しはじめたことだろう(参考資料、THE NEW YORKER, Dec. 12.2011, Harvard Magazine, 2013.01)。その動きの中心にいるのが、テッド・カプチャクというアメリカの研究者である。カプチャクはもともと鍼を学び、ボストンで治療院を開業して、その人柄とよく効く治療で評判をとった。しかしやがて彼は、首をかしげるような現象に気づく。まだ鍼を打ってもいないうちから、患者の症状が軽快してしまうということが、しばしば起こったのである。当時のカプチャクは、鍼の有効性を微塵も疑っていなかったが、そこには何か別のプロセスが働いていると考えざるをえなくなった。
 意を決したカプチャクは、科学的なアプローチを精力的に学びはじめ、研究者としてメキメキと頭角を現した。現在は、ハーバード・メディカルスクールの教授にして、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンターに本部を置くプラセボ研究プログラムHarvard-wide Program in Placebo Studies and the Therapautic Encounter(PiPS)の中心人物となっている。PiPSは、プラセボ効果の研究だけに的を絞った、世界的にも例を見ない学際的な研究機関である。今やプラセボ効果は、臨床医学、心理学、人類学、経済学、神経科学など、幅広い分野から研究成果が流れ込む、活発な分野となっているのである。
 プラセボ効果への関心が高まるにつれて、基本的な研究テーマとして次の3つが浮かび上がってきた。第1に、プラセボ効果の生理学的基礎を明らかにすること。第2に、プラセボ効果が起こる条件と、その限界を明らかにすること。第3に、プラセボの薬や治療法によく反応する人としない人を、あらかじめ識別することができるかどうかを明らかにすることである。
 〔…略…〕
 カプチャクは、「プラセボで、がんを縮小させたり、ウイルスと戦ったりすることはできません」という。しかし、比較的軽い症状や慢性病には、プラセボ効果が大きな力になってくれるだろう。また、プラセボ効果の研究は、医師と患者の相互作用にも科学の光を当ててくれるに違いない。「私たちは、医術(the art of medicine)を、医療の科学(the science of care)に変えていかなければなりません」というのが、カプチャクの信念なのである。
 インチキ療法の文脈で語られ、胡散臭い雰囲気をまとうことの多かったプラセボ効果だが、こうして科学の土俵に乗せられ、複雑に絡まり合っていたさまざまな要素がときほぐされていくにつれて、思いもよらぬ魅力的な姿を現しつつあるように見える。プラセボ効果が医療の現場で、文字通りの意味において「私は喜ばせるであろう」という役割を演じる日も、それほど遠くないのかもしれない。
 (2013年7月 青木 薫)