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『軍隊の文化人類学』(田中雅一[編] 風響社 2015)

編著者:田中雅一〔たなか・まさかず〕 (1955-)
著者:Sabine Frühstück〔サビーネ・フリューシュトゥック〕
著者:福浦厚子
著者:河野 仁〔かわの・ひとし〕
著者:森田真也
著者:Aaron Skabelund〔アーロン・スキャブランド〕
著者:小池郁子
著者:丸山泰明
著者:Eyal Ben-Ari〔エヤル・ベン=アリ/אייל בן ארי〕
著者:高嶋 航
著者:朴 眞煥〔ぱく・じんふぁん〕
著者:上杉妙子
著者:福西加代子
著者:田村恵子
著者:Christopher Ames〔クリストファー・エイムズ〕
訳者:萩原卓也
訳者:康 陽球〔かん・やんぐ〕
訳者:神谷万丈〔かみや・またけ〕
装丁:佐藤一典(オーバードライブ)


※著訳者の略歴は風響社サイトを参照。
軍隊の文化人類学 - 株式会社 風響社


【簡易目次】
第一章 モダン・ガール(モガ)としての女性兵士たち〔サビーネ・フリューシュトゥック/萩原卓也訳〕 039
第二章 逡巡するも、続ける〔福浦厚子〕 067
第三章 自衛隊と家族支援〔河野 仁〕 095
第四章 占領という名の異文化接合〔森田真也〕 139
第五章 軍隊・性暴力・売春〔田中雅一〕 177
第六章 「愛される自衛隊」になるために〔アーロン・スキャブランド/田中雅一・康陽球訳〕 213
第七章 アフリカ系アメリカ人の社会運動にみる軍事的性格〔小池郁子〕 247
第八章 殉職と神社〔丸山泰明〕 287
第九章 日本の自衛隊に見る普通化、社会、政治〔エヤル・ベン=アリ/神谷万丈訳〕 323
第一〇章 軍隊と社会のはざまで〔高嶋 航〕 349
第一一章 韓国社会の徴兵拒否運動からみる平和運動の現状〔朴 眞煥〕 419
第一二章 グルカ兵はどのようにして英国市民になったのか?〔上杉妙子〕 459
第一三章 日本における軍隊、戦争展示の変遷〔福西加代子〕 489
第一四章 豪従軍カメラマンの描いた日本兵像とその変化〔田村恵子〕 529
第一五章 「トモダチ作戦」のオモテとウラ〔クリストファー・エイムズ〕 559



【目次】
序章 軍隊の文化人類学のために〔田中雅一〕 001
1 はじめに 001
2 文化人類学という視点 003
3 民軍関係 005
4 本書の構成 012
注 022
参考文献 024


目次 [027-035]


第I部 軍隊とジェンダー・家族
第一章 モダン・ガール(モガ)としての女性兵士たち──自衛隊のうちとそと〔Sabine Frühstück/萩原卓也 訳〕 039
1 はじめに 039
2 「自分の道は、自分で選ぶ」──女性自衛官の視点 043
3 「大きな夢をひとつ持ってきてください」──自衛隊の新隊員募集と広報活動における材料 052
4 「鉄腕美女」──大衆メディアにおける女性自衛官 055
5 おわりに──活発な自衛隊 059
注 061
参考文献 063
資料 065


第二章 逡巡するも、続ける──軍事組織における女性のキャリア形成とライフ・イベント〔福浦厚子〕 067
1 はじめに 067
2 軍事組織の女性に関する先行研究 067
3 自衛隊概略 075
4 キャリア形成 077
5 逡巡するも、続ける 079
  1 下士官の事例 079
  2 士官の事例 083
6 おわりに 090
注 090
参考文献 091


第三章 自衛隊と家族支援──地域支援力の構築にむけて〔河野 仁〕 095
1 はじめに 095
2 軍人家族支援と地域支援力(community capacity)モデル 096
  1 社会問題としての軍人家族支援 096
  2 軍人家族支援と「地域支援力」モデル 099
  3 地域支援力モデル 100
  4 米国の事例 102
  5 英国の事例 104
3 自衛隊における家族支援の現状と課題──陸上自衛隊北部方面隊の事例を中心に 106
  1 家族支援に関するフォーマルな支援体制の整備 106
  2 部隊家族間コミュニティの育成 111
  3 旭川市陸上自衛隊第二師団)の事例 113
  4 札幌市(陸上自衛隊第一師団)の事例 115
  5 「家族のレジリエンス」強化とインフォーマルな支援の重要性 116
4 おわりに──地域支援力の構築にむけて 121
注 124
参考文献 128


第II部 軍隊と地域社会
第四章 占領という名の異文化接合──戦後沖縄における米軍の文化政策と琉米文化会館の活動〔森田真也〕 139
1 研究の目的と視点 139
2 戦後沖縄における米軍の統治と文化政策 141
3 琉米文化会館の社会教育活動 146
4 琉米文化会館の図書館機能 156
5 異文化の接合の場としての琉米文化会館 160
注 165
参考文献 170


第五章 軍隊・性暴力・売春──復帰前後の沖縄を中心に〔田中雅一〕 177
1 はじめに 177
  1 二種類の女性 177
  2 本土での展開 179
2 在日米軍 181
3 沖縄の売買春 183
  1 米兵による性暴力 183
  2 基地周辺の売春街 187
  3 売春の形態 188
  4 売春防止への取り組み 191
4 それぞれの経験 192
5 交錯する売春婦イメージ 197
  1 売春の島 197
  2 最底辺からの批判 199
  3 比較 200
6 沖縄をめぐる言説と女性像 202
注 206
参考文献 209


第六章 「愛される自衛隊」になるために──戦後日本社会への受容に向けて〔Aaron Skabelund/田中雅一・康陽球 訳〕 213
1 はじめに 213
2 甘えの構造――自衛隊駐屯地をもつ地域の経済学 217
3 百聞は一見に如かず――自衛隊アウトリーチ 223
4 「昭和の屯田兵」――北部方面隊における男性性の構築 233
5 おわりに 240
注 242
参考文献 244


第七章 アフリカ系アメリカ人の社会運動にみる軍事的性格──暴力、男らしさ、黒人性〔小池郁子〕 247
1 問題の所在 247
  暴力、男らしさ、黒人性 247
  家族――人種、階級、性の交錯 250
2 オリシャ崇拝運動 253
  1 集合的な運動実践の基盤――アフリカ、ヨルバの神々を求めて 253
  2 「反白人・反キリスト教」主義を具体化する男性結社 255
  3 非集合的な運動実践の萌し――宗教的家組織(イレ) 258
3 宗教的家組織(イレ)における男性結社の取り組み 259
  イレの成員と地域社会――奴隷、叛乱、わたしたち 260
  家族を互いに語る――イレの男性結社での交流 262
4 「地域社会の父」構想 265
  ロール・モデルの不在 265
  学校教育にみる問題 266
  「地域社会の父」構想が目指す教育 268
  警察権力への対処法 270
5 アフリカ系アメリカ人の社会運動にみる男らしさの変化――男らしさからの解放と「ひとり」に認められる価値 271
注 276
参考文献 280


第III部 軍隊と国家
第八章 殉職と神社──日本の軍隊および警察における殉職者の慰霊をめぐって〔丸山泰明〕 287
1 はじめに 287
2 戦前における殉職者の神社 294
3 占領政策と神社 305
4 護国神社における殉職者の合祀 310
5 おわりに 317
注 319
参考文献 319


第九章 日本の自衛隊に見る普通化、社会、政治〔Eyal Ben-Ari/神谷万丈訳〕 323
1 はじめに 323
2 日本の自衛隊 325
3 合法化、普通化、そして論争 328
4 普通化──「われわれは必要とされている」 332
5 普通化──病理からの距離、あるいは病理からの帰還 335
6 儀礼密度と普通化 338
7 普通化と、標準への順応 340
8 おわりに 344
注(訳者注) 345
参考文献 345


第一〇章 軍隊と社会のはざまで──日本・朝鮮・中国・フィリピンの学校における軍事訓練〔高嶋 航〕 349
1 はじめに 349
2 日本 351
  1 兵式体操の導入 351
  2 兵式体操から教練へ 354
  3 学校教練の導入 358
  4 学校教練の変容 362
  5 軍事訓練と女性 364
3 朝鮮 367
  1 抵抗の道具としての兵式体操 367
  2 統合の道具としての学校教練 371
4 中国 374
  1 軍国民主義の成立と兵式体操の導入 374
  2 軍国民主義の凋落と兵式体操の廃止 379
  3 軍事訓練の導入 381
  4 軍事訓練と女性 387
5 フィリピン 391
  1 アメリカ植民地期 391
  2 コモンウェルス期 398
  3 軍事訓練と女性 400
6 おわりに 402
注 405
参考文献 406


第一一章 韓国社会の徴兵拒否運動からみる平和運動の現状〔朴 眞煥〕 419
1 はじめに 419
2 韓国会社における徴兵制と軍事文化 422
  1 韓国会社における徴兵制の歴史 422
  2 徴兵制が生み出す軍事文化 424
3 徴兵拒否運動の形成過程 430
  1 第一期――導入期 430
  2 海外の平和運動団体からの提案 430
  3 徴兵拒否運動の登場 434
4 第二期──徴兵拒否運動の成長期 441
  1 多様な徴兵拒否運動者たち 441
  2 徴兵拒否運動論の模索 447
5 おわりに 453
注 455
参考文献 455


第一二章 グルカ兵はどのようにして英国市民になったのか?──移民退役軍人による多層的な自己包摂の試みと市民権の再構築〔上杉妙子〕 459
1 はじめに 459
2 国家レベルにおける排除と包摂 462
  1 一九九七年以前グルカ兵論争 462
  2 退役グルカ兵らの実践 466
3 地域レベルでの排除と包摂 468
  1 グルカ兵と地域住民の摩擦 468
  2 英国グルカ福祉協会の概要 469
  3 英国グルカ福祉協会の活動 470
  4 軍務に由来する資源の活用 473
4 移民退役軍人の実践と市民権の再構築 475
  1 移民退役軍人の実践の多層性 475
  2 市民権の構築 477
5 おわりに 478
注 480
参考文献 483


第IV部 軍隊の表象のポリティクス
第一三章 日本における軍隊、戦争展示の変遷〔福西加代子〕 489
1 はじめに 489
2 戦争・軍隊の博物館と平和博物館 490
  1 歴史 490
  2 重層的な平和観 491
  3 二つの博物館 492
3 戦争をテーマにした二つの博覧会 493
  1 概略 493
  2 支那事変聖戦博覧会 497
  3 大東亜建設博覧会 503
  4 博覧会における展示 507
4 「平和」の展示と語り 510
  1 平和博物館と「平和」の展示 510
  2 ボランティアガイド 512
  3 「平和」を展示する 514
5 「戦争」の展示とローカル・アイデンティティ 516
  1 「技術」の展示 516
  2 呉市民にとっての大和ミュージアム 521
6 おわりに 524
注 525
参考文献 526
資料 528


第一四章 豪従軍カメラマンの描いた日本兵像とその変化──デミアン・ペアラーのニューギニア戦線ニュース映画をとおして〔田村恵子〕 529
1 はじめに 529
2 従軍カメラマンとしてのデミアン・ペアラー 532
3 ペアラーとニューギニア 535
4 『ココダ前線』(一九四一年八月‐九月) 538
5 『ビスマルク船団撃破』(一九四三年三月) 543
6 『サラモア急襲』(一九四三年六月‐八月) 547
7 おわりに 552
注 555
参考文献 555


第一五章 「トモダチ作戦」のオモテとウラ──在日米軍による東日本大震災の災害救助をめぐるポリティクス〔Chiristopher Ames〕 559
1 はじめに──トモダチ作戦成立の背景 559
2 トモダチ作戦の「成功」 561
3 トモダチの「友情」 564
4 トモダチ作戦をめぐるポリティクス 567
5 トモダチ作戦の中・長期的影響 574
6 おわりに 577
注 579
参考文献 580


あとがき〔二〇一四年一二月 編者〕 [585-587]
索引 [588-598]
執筆者紹介 [600-602]






【抜き書き】
・「序章」より

  『軍隊の文化人類学』は、軍隊を主として文化人類学的視点から考察しようとするものである。その際、軍隊とそれを一部とする外部世界との相互関係に注目する。たとえば、軍隊における女性兵士や家族の位置づけは、外部社会のジェンダー規範の影響を受けていると同時に、軍隊での変化が外部社会のジェンダーや家族のあり方に影響を与えるという場合もある。軍隊は社会の産物であると同時に、そのような社会にも影響を与える力をもつ特殊な集団なのである。
  具体的には、主としてアジアの軍隊を対象に、(1) ジェンダーと家族、(2) 地域社会との関係、(3) 国家との関係、(4) 軍隊の表象の四つの領域から軍隊を多角的に考察する。本書で扱う軍隊は、戦前の帝国日本軍(丸山、高嶋、福西、田村)、自衛隊(フリューシュトゥック、福浦、河野、スキャブランド、丸山、ベン=アリ、福西、エイムズ)、在日米軍(森田、田中、エイムズ)、英国軍(上杉)などであり、国も日本、韓国、中国、フィリピン、英国、アメリカ合衆国が対象となっている。しかし、本書では、あえて軍隊や国家、さらには時代などで各論文をまとめることはしなかった。本書は軍隊の組織論だけを目指したわけではなかったからである。本書の軍隊への視点は、あくまで広い意味での民軍関係にある。このため、ジェンダー・家族から地域社会、国家、展示やマスメディアに関わる表象へと、民軍関係の多様な位相を念頭に本書を組織した。それはミクロからマクロへの展開、軍隊内部から外部へ展開といってもいいかもしれない。もちろん、多面的な性格を有する軍隊という国家暴力装置をこれら四つだけに限って論じるには無理があるかもしれないし、また、論文によってはこのうちのひとつの領域に収まらないものもあるかもしれない。しかし、ジェンダー・家族から地域社会、国家、表象へという視座は、軍隊が社会のどの次元と接合しているのかを考える上で意義があると思われる。
〔……〕


3 民軍関係
  軍隊・軍人と社会との関係は、一般に民軍関係(civil-military relations)と表される。ここでは社会と軍隊との関係を「軍事化」という視点ではなく、「国民化(nationalization)」という視点から考えてみたい。ここでいう国民化とは、軍隊に参加することで国民主体を形成する過程を意味する。そのうえで、ふたつの軍隊観(モデル)を考察したい。それらをここでは縮図モデルと特殊モデルと名づける。前者は軍隊とは社会の縮図だ、たとえば在日米軍基地はアメリカ社会そのものだ、といった言説を支持するモデルである。もうひとつは、軍隊は一般社会に比べてきわめて特殊だ(保守的だとか、貧困層出身者や低学歴の人たちの集まりだなど)という考え方である。この特殊モデルについてはいくつかのヴァリエーションがある。〔……〕


・「縮図モデル」の部分

  国民国家においては、国民の重要な義務が国家の防衛である。したがって、国民を対象とする徴兵制度(皆兵制度)によって生まれた軍隊は、そのまま国民の総体(厳密には兵士にふさわしくないとされる女性、 子ども、病人や障がい者は排除されるが)を意味する。徴兵制度は、国家(領土)の防衛に必要な兵隊を、戦闘訓練や軍事的な知識の学習、鍛錬などを通じてつくるだけでなく、軍隊に入ることで「国民」を生み出す。すなわち、徴兵制度によって新兵たちは、軍隊にふさわしい心身を鍛えられることになる。それだけではない。新兵は、あたらしい共同生活を通じて一人前の大人になり、また共通語(標準語)を学習することで「国民」として規格化されるのである。


・「特殊モデル」の部分

  つぎに徴兵制度が放棄されている場合についても考えておこう。志願制度の場合、軍隊は一般社会の縮図と言えるのだろうか。兵隊を志願する人たちは一般に保守的で貧困層が多い。部隊や職種にもよるが学歴も低い傾向がある。また地域的な偏りや人種・民族的な偏りも存在するであろう。これらは、しばしば経済的な(階級的な)格差と関係する。
軍隊が一般社会を反映していると言えないのは、防衛であれ、(防衛という名の)侵略であれ敵国の軍隊と交戦するための暴力装置であるという性格の特殊性から理解できる。この特殊性ゆえに、それは特定の国民や社会を代表しているとは言い難い。それは、どの国家においても主として健康な若い男子のみからなるからである。



・「そもそも軍自体が特殊」と云う部分

  ここで軍隊そのものの特殊性を列挙しておく。(1) 国家暴力装置である。軍隊は、警察とならんで暴力の行使が正当化されている集団である。このため、圧倒的に男性中心の集団である。(2) 全制的施設(total institution)である[ゴッフマン 1984]。軍隊は、家族や刑務所、病院のように、兵士の面倒を24時間見る。それは、兵士の生活に干渉し、監視し、教育する。兵士は「兵士」になるのである。それゆえまた、外部への影響力も大きい。(3) 死を前提とする集団である。戦死は、個人的な死ではなく、国家の犠牲と位置づけられ英雄視される。このような死を引き受ける人間こそが国民国家において真の国民とみなされる。換言すると、死を引き受けることのできない人間は、国民とみなされない。戦死を覚悟している兵士こそ真の国民である[アンダーソン 1997]。徴兵制度による「国民化」とは国家のために生命を捧げる人間を育てることにほかならない。世俗的な政治制度である国家と軍隊はこうして聖化されることになる。本書、第8章の丸山論文では、こうした軍隊と死の問題が主題となっている。
  日本の自衛隊や、多民族世界において支配民族が占有しているような軍隊もまた特殊と言える。前者は違憲だとみなされ、阪神・淡路大震災での救援活動やPKOとしての海外派兵が報道される前世紀末まで日陰者であった。自衛隊は胸を張れる職業とは言い難かった。本書に収められている自衛隊を扱っている諸論文からは、特殊存在である自衛隊がいかにして主流社会に溶けこむために努力しているのかが理解できる。

  まとめておこう。軍隊は、国家暴力装置としてきわめて特異な集団である。しかし、その集団が、国民国家の体制下で、教育制度とともに国民創出の一翼を担ってきた。その意味で軍隊はけっして特殊ではない。国民と軍隊は相等しいからである。そして相等しくない「国民」は定義から国民ではない。しかし、志願制度が一般化すると、軍隊は国民創出の制度ではなくなり、かならずしも国民を代表するとは言えなくなる。しかし、軍隊の特殊性は、ときに効率を重視することで社会の差別撤廃に貢献する(人種統合政策の導入)と同時に、他方で戦闘に向いていないといった理由から社会に蔓延する差別を反映する(ジェンダー差別や同性愛差別)ということも生じる。