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『グリッドロック経済――多すぎる所有権が市場をつぶす』(Michael A. Heller[著] 山形浩生,森本正史[訳] 亜紀書房 2018//2008)

原題:The Gridlock Economy: How Too Much Ownership Wrecks Markets, Stops Innovation, and Costs Lives (2008)
著者:Michael A. Heller
訳者:山形 浩生
訳者:森本 正史
版元〈http://www.akishobo.com/book/detail.html?id=869

グリッドロック経済――多すぎる所有権が市場をつぶす

グリッドロック経済――多すぎる所有権が市場をつぶす

 

 
  ※下の目次ではルビを全括弧[ ]で示した。

【目次】
献辞 [001]
目次 [002-005]

 

序章 007

 

第1章 アンチコモンズの悲劇 015
元祖泥棒男爵たち 
命を救う薬のグリッドロック 021
クエーカー・オーツのおまけ、ビッグインチ 024
  世界一小さな公園?
  八〇キロメートルのコンクリート
歴史と文化におけるグリッドロック 028
芸術におけるグリッドロック 032
  フィルムとDVD
  音楽
  音符一つに著作権
コモンズとアンチコモンズ 040
国内外のグリッドロック 045
グリッドロックの裏面 046

 

第2章 用語集にようこそ 051
不思議な駐車場 052
空の料金所 057
  灯台の光
  トム・スウィフトからグーグル・ブック検索へ
  航空機製造におけるグリッドロック
なぜ「underuse[過少利用]」は波線扱いであってはいけないのか? 066
  使いすぎを直すには
  三匹のクマと女の子
  アンチコモンズの悲劇
集団財産の仕組み 074
  法なき秩序
  オープンアクセスに対するハイブリッドな解決法
  コモンズの教訓
コモンズとアンチコモンズの対称性 080
  アンチコモンズの経済学
  実証研究の最先端
用語集まとめ:但し書きをいくつか 085
  独占に関する補足事項
  絶対についての警告
  アンチコモンズの喜劇、あるいは意図的なグリッドロック

 

第3章 治療法はどこに? 093
医薬品研究におけるグリッドロック 096
  特許取得の革命
  黄金のコメの物語
  農業研究におけるアンチコモンズ
共有から訴訟へ 108
  遺伝子断片
  ライセンスの山
過渡期か悲劇か? 117
  アンチコモンズの戦いにおける三つの指標
  学術的な研究はどうなっているのか?
  商業的な医薬品開発はどんな具合
たくさんの解決法 126
  市場原理による解決法
  財産化を阻止する投資による解決法
  特許プールなどの協力的な解決法
  規制による解決法
注意点:一つの特許だけではグリッドロックにならない 137

 

第4章 これでもう聞こえない 141
過少利用の側面 144
なぜこんなに未利用周波数があるのか 146
  固有周波数
  周波数帯コモンズ
  周波数帯コモンズへの期待
私有財産化した周波数帯域の進化 156
  新しい周波数帯域の割り当て
  合意ゾーン
アンチコモンズの周波数帯 165
  アナログテレビ放送のアンチコモンズ
  ワイヤレス・ケーブルテレビと教育テレビのアンチコモンズ
  目に見えない川
ワイヤレス特許のバトルロイヤル 173
  社運を懸ける
  グリッドロック
アンバンドリングと規制アンチコモンズ 180
グリッドロック仮説再訪 182

 

第5章 ブロックパーティー、シェアチョッパー、バナナリパブリック 187
不動産グリッドロックへの窓口 187
不動産グリッドロックへの窓口 189
ブロックパーティー 192
  一方向のラチェット
  自由意志による地上げ VS 土地収用
  スゼット・ケロの家
  解決法:再開発区域
シェアチョッパー 209
  黒人所有農場の終焉
  ジョン・ブラウンの農場
  アメリカ先住民の割当地
  分断と混在への道
  アイルランドのジャガイモ飢饉
  合理的な個人と集団の悲劇
バナナ(BANANA)リパブリック 224
  天然資源のバナナリパブリック
  水平、垂直のバナナリパブリック
  世界規模のバナナリパブリック
  バナナリパブリックの隠れたコスト
  バナナリパブリックの修正

 

第6章 モスクワの空っぽの店頭 239
アンチコモンズの発見 242
ハンプティ・ダンプティグリッドロック 244
ソビエト式所有権から店頭アンチコモンズへ 247
モスクワの店舗:アンチコモンズから私有へ 251
  市場取引と政府による一括販売
  答えは汚職か?
アパート市場の活況 259
  一に立地、二に立地、そして三には明確な所有権
  公正さのトレードオフ
共同居住アパートのドラマ 263
  空間アンチコモンズ対法的アンチコモンズ
  ハンプティ・ダンプティ式アンチコモンズの克服

 

第7章 世界は私の牡蛎 273
なぜ牡蠣は絶滅しないのか? 275
オープンアクセスの牡蠣 276
チェサピークの牡蠣戦争 279
陸上におけるクローズアクセスへの努力 286
牡蠣保護のジグソーパズル 290
古代ローマにおける強欲と貪欲 292
シェークスピアからディケンズまでの牡蠣採取 293
現代における征服によく似た例 298
牡蠣とアンチコモンズ 300

 

第8章 解決ツールキット 307
ステップ1:グリッドロックの特定と命名 308
  言葉が問題を浮き彫りにする
  最先端の探求
  なぜ隣の芝生は青いかを考えよう
  古きよき時代に郷愁の年を抱け
ステップ2:グリッドをほぐす 314
  モニタリング
  予防接種
  発生時の早期隔離
  既存の法律をチューンナップ
  組み立てツールを作る
  正しい命名
  積み木取り
  ゴシップ、恥、評判
  自発的同意
  慈善活動

 

謝辞 [327-333]
訳者解説(平成最後の夏 深圳/東京にて 山形浩生) [335-343]
  本書の概略:細切れ所有権の位置づけ
  著者について
  本書の議論の歴史的背景
  本書の評価について
  おわりに
注釈 [1-47]

 

 


【抜き書き】

□43頁 

 コモンズの私有化は無駄の多い使いすぎを矯正してくれるが、意図せずまったく逆の効果を生むこともある。英語には使用が不十分で不経済な状態を意味する言葉がない。このような細分化の類型を説明するために、「アンチコモンズの悲劇」という新語を私は作った[53]。この言葉は、多すぎる人が互いに希少な資源を生み出したり利用したりするのを妨げている状態すべてを指す。コモンズにおける使いすぎの対極は、正しくはアンチコモンズにおける不十分な使用だ。
 このコンセプトは所有権の範囲のうちの隠された半分を可視化する。その半分は、これまで私たちが知っていた部分と同じくらい複雑で大規模な社会関係の世界だ(図1-5)。ごく普通の私有財産を超えたところにアンチコモンズのグリッドロックは存在する。ある法理論家は「少し単純化すると、コモンズの悲劇はなぜ物事が瓦解してぱらぱらになる傾向にあるのかを解き明かし、アンチコモンズの悲劇は瓦解してしまったものをもとに戻すのは 多くの場合なぜ大変なのかを明らかにしてくれる」と言った[54]。
 私たちは、政府に必要なのは明確な所有権を設けて、あとは邪魔にならないよう手を引くことだけだと考えることが 多い。所有権がはっきりとしていれば、所有者は権利を取引して財をなるべく高い利用価値があるところに動かし利益を生める。しかし権利の明確化と通常の市場だけでは十分ではない。アンチコモンズの視点は、所有権の内容がその明確性と同様に重要であることを示している。所有権があまりに細分化されて、規制がうまく機能していないとグリッドロックが起こる。

[53]以下を参照。Heller, “Tragedy of Anticommons” 624.
[54]Lee Anne Fennell. "Common Interest Tragedies," Northwestern University Law Review, 98 (2004): 907-90, at 936-37.

 

 

 

□84頁  

   実証研究の最先端

 アンチコモンズ理論はいまや十分に確立されているが、実証研究のほうがこれに追いつかなくてはならない。断片化した所有権について交渉を進めるのはどれほど大変なのか? グリッドロックはどのくらい技術革新を遅らせているのか? その影響は業種によって違うのか? 本来生まれたはずなのに実際には生まれなかった発明、あったはずなのにいまは存在しない産業を評価するのは難しい。こういった難問への取り組みは始まったばかりだ。
 二〇〇六年、法律、経済、心理学の研究者によって作られたチームが、コモンズとアンチコモンズの対称性という想定を否定する実験結果を示した論文を刊行した。その論文だとアンチコモンズのジレンマは、コモンズのジレンマに比べてより利己的な行動へと人を導く傾向がある」という。そして「コモンズの事例における過大利用に比べて、過少利用が起こりやすい」と述べている。研究者たちはコモンズが“悲劇”を招くというなら、アンチコモンズが引き起こすのは“惨劇”だ」と結論している[48]。別の実験チームの報告によれば「アンチコモンズの状況下で失われる効率性は、経済理論が予測しているよりもはるかに大きい」という[49]。

 

[47]Carl Shapiro, “Navigating the Patent Thickest”
[48]Vanneste et al., “From 'Tragedy' to 'Disaster' ”, 116-17 (see chap. 1. n. 62). アンチコモンズ的構造における交渉は、なぜ失敗に終わるのかという問題を考察した追跡研究。彼らは断片化した所有者の相補性と数が増すと、それに伴って交渉の失敗も多くなることを見出している。まだ不確実性が増すにつれ、損失もより明白になってくる。

[49] Steven Stewart and David J. Bjornstad, “An Experimental Investigation of Predictions and Symmetries in the Tragedies of the Commons and Anticommons”, Joint Institute for Energy and Environment Report, No. JIEE 2002-07 (August 2002), 17