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『その言い方が人を怒らせる――ことばの危機管理術』(加藤重広 ちくま新書 2009)

著者:加藤 重広[かとう・しげひろ](1964-) 日本語学、語用論、統語論
扉イラストレーション:山本サトル
NDC:801 言語学
NDC:810.4 日本語
件名:語用論
件名:コミュニケーション


筑摩書房 その言い方が人を怒らせる ─ことばの危機管理術 / 加藤 重広 著


【目次】
目次 [003-006]


序章 なぜうまく伝わらないのか? 007


第1章 ことばの危機管理 011
  ことばは意外と正直だ
  火に油を注ぎかねない「は」
  丁重・丁寧という罠
  和語こそが落とし穴
  文体転じて口調となる
  文を閉じたくないという病
  文を閉じるか、閉じないか、それが問題だ
  閉じずに伸びる文の落としどころ
  明晰性と論理性にこだわりすぎない


第2章 誤解されることば 053
  解釈のぶれを予測せよ
  修正が可能なことば
  修正できないことば
  文を閉じて生まれる明晰さとリズム
  限定の手順というテクニック
  一個人に戻れないジレンマ
  述べる順序の影響
  断言するリスクを小さくする
  閉じない文の落としどころ


第3章 ロゴスとパトスを使いこなす 095
  日本人はことばに不信感をもっている
  ロゴスとパトスのちがい
  ロゴスを活かす3つのポイント
  ロゴスとパトスの切っても切れない関係
  パトスに捨てられたロゴスの末路
  ロゴスを武器にするやり方
  ことばにかかわる常識とはいったい何?
  「情報の切り身」をどうさばくか
  日本人のクセを知る
  「お疲れさま」と「ご苦労さま」


第4章 読むべき空気と読まざるべき空気 139
  日本語は「空気」に敏感だ
  読めない「空気」は2種類
  人が作り出す空気という日本的なるもの
  「空気、読めてます」を伝えるには
  「謙虚さ」を演出する文法
  相手のパトスをコントロールする日本語の掟
  ことばはデジタル式ではない
  ことばは無色透明ではない
  心の内を見せる
  はしばしであっても示されること


第5章 敬語よりも配慮 185
  敬語とのつきあい方
  “ちょうどいい”敬語とは?
  自由の度合いというメカニズム
  「じゃないですか」の病巣
  解釈を誘導する日本語のからくり
  「ていうか」や「まあ」の落とし穴
  かたちのない文脈の使い方
  空気との距離


終章 時代の求めることばのありかた 227
  日本語の近代化
  書きことばと話しことばの天秤がつりあうとき


あとがき(2009年夏の終わりに 加藤重広) [235-238]




【抜き書き】
・「序章」冒頭から。

  ちょっとしたことばの行き違いで相手を怒らせてしまうことはないだろうか。実は、「なんとなく変だ」と感じる言い方や、「不愉快な言い方だなあ」と思う表現には、不快にさせるだけの理由がある。しかし、私たちは「嫌なニュアンス」「好ましくない印象」のように呼んで、感覚的なものに過ぎないかのように思い捨てていることが多い。〔……〕語用論は、ことばとして表面に表れない「文脈」の科学であり、コミュニケーションにおいて言いたいことをうまく表現するヒントをもたらしてくれる。
  言語学の研究者として、私は、ことばを科学的に研究する際に「ニュアンス」といった感覚的な表現は極力使わないようにしている。やや極端な言い方をすれば、分析や説明で「ニュアンス」や「感じ」などを使うのは、十分に分析できていないからだ、とさえ、思っている。あることばや表現が、なんらかの「ニュアンス」を伴うのには、それなりの理由があり、その手順やしくみを丁寧に分析するのが、ことばの意味を研究する意味論や、ことばの運用を文脈や場面と関連づけて研究する語用論の仕事だと考えるからだ。

  コミュニケーションの失敗には理由があり、それを科学的に分析したり説明したりする上で言語学、とりわけ、語用論の知識が役に立つと私は考えている。その点を踏まえ、科学的な知見を活かして「ニュアンス」だの「感じ」だのというヴェールを取り払い、失敗の原因やコミュニケーションのしくみを明らかにすることで、ちょっとしたコツがお伝えできるのではないか、というのが、本書を書いた動機である。



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