contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『心理学の7つの大罪――真の科学であるために私たちがすべきこと』(Chris Chambers[著] 大塚紳一郎[訳] みすず書房 2019//2019)

原題:The Seven Deadly Sins of Psychology: A Manifesto for Reforming the Culture of Scientific Practice
著者:Christopher D. Chambers
訳者:大塚 紳一郎[おおつか・しんいちろう](1980-) 精神分析ユング派)。臨床心理士。翻訳。
件名:心理学--研究・指導
装丁:大倉 真一郎[おおくら・しんいちろう] ブックデザイン。
NDC:140.7 心理学 >> 研究法.指導法.心理学的検査
NDLC:SB24


心理学の7つの大罪 | 真の科学であるために私たちがすべきこと | みすず書房


【目次】
献辞 [1]
題辞 [2]
目次 [3-7]
序文 [i-vi]


第1の罪 心理学はバイアスの影響を免れていない 001
「イエス・マン」小史 006
目新しさへの偏愛——陽性かつ新たなものは、いつ陰性だが真実のものを打ち負かすのか 012
実験ではなく、概念を追試する 019
歴史の改竄 024
バイアスとの戦い 029


第2の罪 心理学は分析に密かな柔軟性を含ませている 033
p値ハッキング 035
p値の特異なパターン 043
ゴースト・ハンティング 049
分析上の無意識的な「調整」 052
バイアスの影響を受けたデバッギング 057
心理学研究者は報われることの少ない法律家にすぎない存在なのだろうか 058
密かな柔軟性の解決法 060
  事前登録制
  p値カーブ
  供述開示
  データの共有
  「任意停止」の許容への解決策
  研究実践の標準化
  道徳的議論を超えて


第3の罪 心理学は自らを欺いている 069
心理学における非信頼性の原因 072
理由1 直接的追試の軽視 072
理由2 検定力の不足 083
理由3 方法を開示しないこと 090
理由4 統計的誤り 093
理由5 論文を撤回をしないこと 097
非信頼性の解決法 099


第4の罪 心理学はデータを私物化している 113
データ共有の大いなる利益 116
データを共有しないということ 118
秘かなデータ共有 121
データを共有しないということがいかに不正行為を隠蔽するか 123
データ共有を標準とすること 126
草の根的活動、飴、鞭 133
ブラックボックスを開け放つ 138
悪しき慣習の防止 143


第5の罪 心理学は不正行為を防止できていない 147
詐欺行為の解剖学 151
一線を越えるとき 161
若い世代の科学者たちが道を踏み外すとき 172
ケイトの物語 179
悪の12カ条——どうやって詐欺の発覚を免れるか 186


第6の罪 心理学はオープン・サイエンスに抵抗している 193
オープン・アクセス出版の基礎 195
  完全OA
  ハイブリッドOA
なぜ心理学者は障壁を前提とした出版活動を支持するのか 198
ハイブリッドOA——解決でもあり、問題でもあるもの 203
ゲリラ活動の呼びかけ 209
反対意見 212
  反対意見1 「私はアクセス権を持っている。何も問題はない」
  反対意見2 「一般の人々のほとんどはOAなど望んでいない。もし文献を読めたとしてもどうせ理解できないし、危険なあり方で誤解するかもしれない」
  反対意見3 「OAジャーナルは著者が発表のために料金を支払うものなので、伝統的なジャーナルと同じ編集基準を満たしていない。したがってOAジャーナルには出来の悪い論文を受理する商業的インセンティブがある」
  反対意見4 「それが私にとって何の役に立つのか?」
開かれた道のり 226


第7の罪 心理学はでたらめな数字で評価を行っている 227
どこへも行き着くことのない道 229
インパクト・ファクターと現代の占星術 230
本末転倒 242
学術的著者権という汚濁 247
どこかへと行き着く道 255


救済 259
「バイアスの影響を受けているという罪」「密かな柔軟性を用いているという罪」の解決法
登録制報告——バイアスに対するワクチン
査読を伴わない事前登録 296
「自らを欺いているという罪」の解決法 299
  再現可能性指標の開発
  ジャーナルおよび資金提供者によるポッタリー・バーン・ルール
  定期的な多角的追試の取り組み
  登録制資金報告制度
「データを私物化しているという罪」の解決法 304
「不正行為を防止できていないという罪」の解決法 308
  ランダムに行われるデータ監査
  研究者のプロファイリング
  学術的詐欺行為の違法化
  内部告発者の保護と支援
  追試
「オープン・サイエンスに抵抗しているという罪」の解決法 313
「でたらめな数字で評価を行っているという罪」の解決法 317
変革のための具体的な歩み 320
  若い世代、上の世代の研究者たちへ
  上の世代の研究者たちへ
  ジャーナル、資金提供者、学識者団体、大学へ
  ジャーナリスト、一般の市民へ
おわりに 324


訳者あとがき(二〇一九年二月一〇日 チューリッヒにて 大塚紳一郎) [327-330]
注 [viii-xl]
索引 [i-vii]




【抜き書き】

・学術論文のオープン・アクセス化について、反対意見と著者の応答(pp.218-220)。下線は引用者による。

反対意見2 「一般の人のほとんどはOAなど望んでいない。もし文献を読めたとしてもどうせ理解できないし、危険なあり方で誤解するかもしれない」

〔……〕他の科学と同様に、心理学における実証論文は高度に専門的なものであり、関心の似た研究者などの特別な読者のみに向けて書かれている。理論的前提、背景となる研究、専門用語が詳細に説明されることは珍しい。ターゲットとなる読者層の間では一般的な知識だと(おそらくそのとおりなのだが)見なされているからだ。そうした事実を踏まえて考えれば、専門家向けジャーナルの中で伝えられている基礎的な心理科学が、一般の人々にとって面白いもの、理解可能なものだとはとても思えない〔……〕。
 表面的に見ればこの主張は理にかなったもののように見える。しかし、「一般の人々」というあいまいな定義に、その致命的欠陥がある。大学所属の研究者以外のすべての人を単一の集団にまとめてしまうことにより、私たちは「外集団同質性」という有名な心理学的罠に滑り落ちることになるのだ。「外集団同質性」とは、小さな内部集団(この場合は大学の研究者たち)に属さない人々が、実際にそうである以上によく似ていると見なされてしまうということである。ところが実際には、「一般の人々」という非常に大きな塊を形成している大学研究者以外の専門家の内部で、さまざまな形での専門知識の応用がなされている。whoneedsaccess.orgというウェブサイトは、大学研究者以外の集団にとってOAがいかに重要なものなのかの一例だ――そのリストには(先述した)公務員や政策立案者だけではなく、翻訳者、研究組織、中小企業、発展途上国で働く人々、医師や歯科医、看護師、教師、消費者団体、患者、患者グループ、アマチュア科学者、ウィキペディア寄稿者、ブロガー、サイエンス・ライター、引退後に無給で研究を行う人、進取の精神を持つ子どもたち、大学以外の専門職研究者、独立した研究者、出版社、さらには芸術家までもが含まれる。自分たちの狭い世界以外の場所には研究に関心を抱く人などいないという理由でOAが不要だと主張する大学所属の研究者たちは、自分自身の研究の価値だけではなく、彼らから直接見える範囲の向こう側にいる集団の知性や知的エネルギーのことも過小評価しているのである。