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『少子・高齢化の経済学――市場重視の構造改革』(八代尚宏 東洋経済新報社 1999)

著者:八代 尚宏[やしろ・なおひろ] (1946-) 経済学。経済企画庁OECD経済統計局など。
カバー・イラスト:七戸 優[しちのへ・まさる](1959-) 画家。イラストレーター。
カバー・デザイン:東京図鑑
NDC:364 社会保障


少子・高齢化の経済学 | 東洋経済STORE


【目次】
まえがき(1999年 春 八代尚宏) [iii-iv]
目次 [v-vii]


序章 少子・高齢化社会の経済政策 003
  はじめに
  日本経済の構造危機
  経済の供給面の重要性
  「高齢化のパラドックス
  性別・年齢にとらわれない社会を
  「内なる社会主義」との闘い


第1章 少子化の経済的な要因と対策 013
  はじめに

1.少子化はなぜ問題か 014
  少子化は社会的病理の表れ
  少子化の弊害

2.少子化の要因と対応 017
  未婚率の上昇
  女性就業拡大の効果
  人口の将来推計の問題点

3.出生行動に関する既存の研究 022
  就業女性の子供数の決定要因

4.子育て支援の考え方 026
  日本的雇用慣行の影響
  逆U字カーブ
  おわりに

注 029


第2章 労働市場の中長期的展望 031
1.労働市場の短期動向と長期動向の矛盾 032
2.カギとなる女性と高齢者の就業率 034
  既婚女性の就業行動の分析
  高齢化で下がる女性の就業率
  男性高齢者の就業動向

3.2050年までの労働力供給の展望 038
  労働市場予測の特徴
  推計方法
  推計結果の概要
  外国人労働力の活用可能性
  おわりに
注 047


第3章 少子・高齢化のマクロ経済的影響 049
  はじめに

1.長期経済予測の考え方 050
  短中期モデルとの違い
  新古典派型長期モデルの特徴

2.高齢化のマクロ経済への影響 052
  貯蓄率への影響
  投資率への影響
  技術進歩の重要性
  経常収支の動向
  国民負担増加と経済成長率

3.高齢化マクロモデルによる長期展望 060
  高齢化モデルの枠組み
  主要な関数式の説明
    生産関数
    投資
    貯蓄
    金利
  主要な予測結果

4.マクロモデルを用いた少子化の経済分析 066
  保育所を政策変数としたモデル
  生産関数の組み込み

5.高齢化モデルの残された課題 070
  高齢化と国際金融市場のリンケージ
  財政の長期展望
  おわりに 
注 072


第4章 公的年金制度改革の方向 075
  はじめに
1.公的年金改革の必要性 076
  給付水準をどう決めるか
  年金制度の公平性
  世代間の給付と負担の不均衡
  年金給付と負担の選択肢
  厚生省改革案のポイント

2.支給開始年齢の完全引き下げ 080

3.給付水準の引き下げ 082

4.賃金スライド廃止の意味 083
  賃金スライドとは
  可処分所得スライド制の限界

5.少子化リスクへの対応 086
  積立方式の必要性

6.世帯単位から個人単位の年金制度へ 088
  パートタイムの就業調整問題

7.基礎年金改革 091
  国庫負担比率引き上げの評価
  基礎年金の税方式化
  報酬比例年金の民営化
  おわりに
注 093


第5章 公的年金制度の計量分析 095
  はじめに
1.過去の公的年金財政悪化の要因 096
  年金財政悪化の要因
  人口動態の変化と政策の不作為

2.マクロモデルを用いた「財政再計算」のチェック 098
  財政再計算のチェック
  マクロ経済変数の内生化

3.年金制度改革のシミュレーション 100
  厚生年金制度の改革案
  財政収支への影響

4.保険料率の調整 103
  制度改革の保険料の引き下げ効果
  少子化リスクへの対応

5.年金制度改革の世代別効果 105
  制度改革の効果
  「団塊の世代」を目指した改革
  おわりに
注 108


第6章 企業年金と退職後所得保障 111
  はじめに
1.企業年金財政の問題点 112
  企業年金制度の概要
  年金財政負担の増加
  確定給付から確定拠出へ
  退職後所得保障の保全処置
  労働組合による監視

2.雇用流動化への対応 116
  現行制度の仕組み
  見直しの方向
  雇用流動化への対応

3.資産運用の自由化と金融市場の活性化 119
  将来の退職金債務の明示
  支払準備制度
  資金運用の規制緩和

4.個人退職年金の活用 121
  おわりに

注 123


第7章 高齢者就業と雇用保険の役割 125
  はじめに
1.高齢者失業と失業給付 126
  日本の失業給付制度の特徴
  年齢とリンクした失業給付額
  モラルハザードへの対応
2.雇用安定事業の問題点 131

3.高齢者雇用継続給付の問題点 132
  制度の仕組み
  雇用継続給付と在職老齢年金との重複
  雇用継続給付の帰着問題
  教育訓練給付制度の創設
  雇用保険財政の問題点
  おわりに
注 139


第8章 高齢者就業と「65歳現役社会」 141
  はじめに

1.日本の高齢者就業率の高さの要因 142
  反転した高齢者の労働力率

2.高齢者の就業選択行動の分析 144
  ミクロデータによる分析

3.年金制度の雇用への影響 147
  在職老齢年金の就業への効果
  労働の質に対する効果
  60歳代後半期の年金給付制限

4.退職行動決定要因としての年金資産要因 150
  年金資産の概念

5.65歳現役社会の意味するもの 153
  定年制度はなせ必要か
  個人の選択に基づく引退時期

注 155


第9章 高齢化社会と医療サービスの供給 157
  はじめに
1.医療における公的介入の論拠 158
  医療サービスの特殊性
  規制によって作られた医療情報の不足
  医療における平等性と効率性

2.医療保険改革 162
  医療保険を通じた所得再分配政策
  モラルハザードへの対応
  高齢者の医療保険のあり方

3.保険者機能の強化 164
  医療機関情報の公開
  保険者のレセプト審査の充実
  保険者による医療機関の選別
  保険者間の競争促進と医療機関との統合

4.医療サービス供給面の改革 167
  病床規制
  企業の病院経営の規制
  規制の根拠とその問題点
  おわりに

注 171


第10章 公的介護保険の意義 173
  はじめに
1.公的介護保険の意味 174
  介護保険の必要性
  税方式との優劣
  「福祉から保険へ」の問題点
  社会保険制度としての整合性

2.公的介護保険設計をめぐる争点 178
  介護保険のカバーすべき「リス」とは
  介護保険の対象範囲
  モラルハザード対策
  介護マンパワーの確保
  介護サービスノ供給主体の違い

3.在宅介護支援の考え方 182
  家族介護のコスト
  訪問介護のコスト
  在宅介護と施設介護の政策優先度
  現物給付か現金給付か

4.介護報酬体系の考え方について 186
  市場価格としての報酬体系
  報酬体系の設定上の問題点

5.公的介護保険の財政的基盤 188
  賦課方式か積立方式か
  国庫負担の最適な比率
  介護保険における国と地方との役割分担
  被保険者の単位
  定額保険料か所得比例か
  雇用主負担の是非
  整合的な保険システムの下での財政収支の均衡
注 


第11章 市場を通じた公的福祉の構造改革 195
  はじめに

1.社会福祉の「神話」 196
  福祉に「効率化」はありえない
  「消費者主権」は成り立たないか
  「営利企業」は福祉になじまないか

2.公的福祉改革の方向 200
  漸進主義か急進主義か
  社会福祉事業の見直し
  企業会計の導入
  補助金と結びついた規制
  機関補助から個人補助へ
  市場原理を補完する規制強化

3.保育サービスの改革 206
  営利法人排除の原則
  少子化対策の切り札としての保育所

4.最低生活保障制度の確立 209
  生活保護制度の問題点
  生活保護社会保険との補完性
  おわりに
注 212


第12章 高齢者の生活と家族の役割 213
  はじめに

1.高齢者の生活水準の評価 214
  勤労者世帯との格差の縮小
  世帯単位と個人単位との違い

2.高齢者の就業と家計貯蓄 218
  親子同居の家計貯蓄率への効果

3.親子同居率の決定要因 220
  同居率の社会的要因
  同居率の経済的要因
  個票を用いた親子同居率の実証分析

4.高齢者の住宅資産の活用 225
  住宅資産の活用
  逆住宅ローンの活用
  おわりに
注 228


第13章 高齢化社会所得再分配政策 231
  はじめに

1.高齢化社会と所得格差 231
  年齢を通じた所得格差の拡大要因
  所得分配の単位

2.高齢者世帯の所得格差とその要因 235
  高齢者層内部での所得再分配政策

3.高齢化社会での税制改革の方向 238
  所得税改革の方向
  消費税の活用
  
注 


参考文献 [247-251]
索引 [253-254]





【抜き書き】
・日本の少子化について著者が文章でまとめた箇所(図表は省略)。原因を女性の社会進出のみに帰せることは不合理と。
 この本は1999年に出版された本だが、論壇の人間や世論が少子化を論じてきるときの水準は、10年経ってもこのレベルに至っていない気がする。さらに10年後も変わらないだろうという危惧すらある。

 逆U字形カーブ
 以上のように,少子化の基本的な要因を,女性就業の高まりと結びつける考え方に対しては,社会的な問題をもっぱら女性の責任に帰しているという批判を受けることがある.しかし,これは,出生率の低下という「社会的変化」を,過去と比べてほとんど変化していない男性行動ではなく,女性就業率の高まりという別の大きな変化に,その因果関係を求めたものにすぎない.
 女性の社会的な進出は,先進国に共通した現象であるが,それは不可避的に出生率の低下と結びつくわけではない.むしろ OECD諸国の平均的な関係から見れば逆に男女の就業機会の平等な国ほど,出生率も高いという関係にある(図表1-6).したがって,女性の経済的地位の向上にともなう子育ての機会費用の高まりを相殺するような社会政策や雇用環境の変化が日本でも実現できれば,出生率の回復は不可能ではない.すなわち,女性の就業率の高まりという社会的変化を抑制するのではなく,それと両立できるように,既存の社会的制度・慣行を変えていくことが,少子化社会の基本的な戦略となる。
 少子化の要因は,主として家族行動の変化に起因しているが,その背後には,企業や政府が経済社会環境の大きな変容のなかで,必要な改革を怠ってきたことから生じている.しかし,企業の行動はグローバリゼーションと従業員の高年齢化の進展のなかで急速に変化しつつある.こうした変化は,女性の就業能力を活用させ,その社会的地位を向上させることから,出生率の向上と矛盾するものではない.また,女性が働きやすい環境は,高年齢者や障害者,および男性一般にとっても同様である.労働力の減少が基調となる今後の社会では,少子化対策は,企業の社会的な義務として行うだけでなく,むしろその生き残りをかけて行うための経営戦略でもある.




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