著者:大泉 啓一郎[おおいずみ・けいいちろう] (1963-) アジア経済研究。
NDC:334.32 人口問題.人口政策
【目次】
はじめに [i-x]
少子高齢化の波
「まぼろしのアジア経済」を超えて
目次 [xi-xvi]
第1章 アジアで進む少子高齢化 003
1 世界人口とアジア 004
「人口爆発の世紀」から「人口減少の世紀」へ
世界レベルで加速する出生率の低下
開発途上国の人口増加率の低下
「雁行的人口変化」
2 アジアにおける出生率低下の背景 014
人口転換モデル
「多産多死」から「多産少死」へ
出生率の低下と一人っ子政策
子供を持つことの効用と不効用
「少産少死」そして「少子化」
今後の出生率の推移
3 高齢化地域としてのアジア 034
四七〇〇万人から七億人超へ
高齢化のスピード
もはや先進国特有の問題ではない
第2章 経済発展を支えた人口ボーナス 041
1 「東アジアの奇跡」はなぜ生じたか 042
経済発展は結果か原因か
人口規模と経済発展
人口構成の変化
2 人口ボーナスとは何か 052
ボーナスとしての経済発展
ベビーブーム世代による労働投入量の増加
国内貯蓄率の上昇による投資の促進
初等教育の普及による生産性の向上
人口ボーナスはいつまで続くのか
3 アジア各国は人口ボーナスの効果を享受できたか 065
人口ボーナス効果の変化
日本――団塊の世代が支えた高度成長期
韓国・台湾――人口ボーナスにフレンドリーな政策を展開
中国――遅れた人口ボーナスの効果①
タイ――遅れた人口ボーナスの効果②
第3章 ポスト人口ボーナスの衝撃 091
1 人口ボーナスから高齢化へ 092
2 高齢化による成長要素の変化 094
労働力人口の減少
ライフサイクルにみる国内貯蓄率の低下
求められる全要素生産性の向上
3 中国、ASEAN 4 の高成長の壁 105
偽装失業と労働移動
「都市部の人口ボーナス論」
高い国内貯蓄率
中国経済はバブル化していないか?
4 ベビーブーム世代の生産性 118
農工転換と生産性
ベビーブーム世代の高齢化
5 ベトナムとインドの参入 126
小型中国としての課題――ベトナム
IT国家の課題――インド
アジア経済の行方
第4章 アジアの高齢者を誰が養うのか 135
1 アジアの社会保障制度 138
機運の高まり
アジア各国の社会保障制度
民主化運動のインパクト
世界銀行のソーシャル・プロテクション
2 社会保障制度構築の課題 149
医療負担の増大
疾病構造の変化と医療保険制度
すでに賄いきれない年金負担
世界銀行による五つの年金制度
年金制度改革の政治学
高齢化問題と人間の安全保障
3 開発途上国が直面する困難 165
タイの年金制度
実現しなかった国民皆年金制度
第5章 地域福祉と東アジア共同体 173
1 福祉国家から福祉社会へ 174
鍵を握る二つのコミュニティ
福祉社会への移行
2 日本の地域福祉の取り組みと教訓 178
日本の地域福祉の歩み
国と地方の役割分担
担い手の連携と住民参加
3 真の東アジア共同体形成に向けて 186
アジア地域での協力体制
東アジア共同体形成への課題
アジア福祉ネットワーク
あとがき(二〇〇七年八月 大泉啓一郎) [195-197]
参考文献 [198-201]
索引 [202-204]
【図表一覧】
表0-1 ii
表0-2 v
図1-1 007
図1-2 010
図1-3 015
図1-4 018
図1-5 019
図1-6 022
図1-7 027
図1-8 028
図1-9 033
図1-10 033
図1-11 035
表1-1 037
図2-1 049
図2-2 050
図2-3 052
図2-4 055
図2-5 057
図2-6 059
表2-1 061
表2-2 064
図2-7 067
図2-8 071
図2-9 071
図2-10 073
図2-11 073
図2-12 074
図2-13 074
図2-14 082
図2-15 082
図2-16 088
図2-17 088
図3-1 093
図3-2 095
図3-3 097
図3-4 100
図3-5 102
図3-6 109
表3-1 111
図3-7 113
図3-8 117
図3-9 121
表3-2 122
表3-3 123
図3-10 124
図3-11 128
表4-1 141
図4-1 150
表4-2 152
図4-2 154
表4-3 154
図4-3 162
図4-4 163
表4-4 164
表5-1 190
【抜き書き】
◆本書の基本的なスタンス(pp. viii-ix)。
「まぼろしのアジア経済」を超えて
本書を貫くメッセージは、高齢化が加速するアジア地域において、その繁栄の持続について楽観視することは許されないということである。
かつてアジアの高成長の持続について疑問を呈したのは、米国の経済学者 P・クルーグマンであった。彼は「まぼろしのアジア経済(The Myth of Asid's Miracle)」(一九九四年)という論文を発表し、アジアの高成長は、労働投入量と資本ストックなど「投入要素の増大」に支えられたものであり、技術革新などの「生産効率の改善」がみられないため、いずれ調整局面を迎えざるをえないと主張した。この指摘は、その三年後の一九九七年にタイを発端とする通貨危機がアジア全域を経済危機へと陥れることを予言したとする見方もあるが、まさに高齢化のなかでこそ現実味を高めている。その意味で各国は、これからその答えを出していくことになる。
◆人口変動と経済発展との関係をどう捉えるか(p. 47)。
他方、人口減少についても、労働力人口の減少により経済規模の縮小は避けられないものの、社会、企業、個人がそれぞれの生産性を高めることで、一人当たりの所得を伸ばすことができるという楽観論がある。
このような楽観論は、人間は問題に直面すると、これを克服する新しい技術を開発する能力を持つという、人類の英知に期待したものである。その観点では、人口の変化に対する楽観論というよりも、技術革新による生産性の向上が経済発展に寄与する、とみなす中立論と捉えた方がよいだろう。そのほか、人口の規模やその増減が経済に及ぼす影響の研究として、最適人口規模や最適人口増加率を見出そうとの試みもあったが、共通した見解は得られていない。