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『ナビゲート!日本経済』(脇田成 ちくま新書 2010)

著者:脇田 成[わきた・しげる](1961-) マクロ経済学。日本経済論。
NDC:332.107 経済史・事情(昭和時代後期.平成時代 1945-)


筑摩書房 ナビゲート!日本経済 / 脇田 成 著


【目次】
目次 [00-006]
はじめに(筆者) [007-010]


第1章 景気「診断」と「治療」 011
1 日本経済の「病状」 012
2 「診断」――慢性か一過性か 023
  誤診例① バブル崩壊
  誤診例② 景気変動の2段階
  誤診の構造① サイクルとトレンドを分けるもの
  誤診の構造② 実務家のインセンティブ構造
  誤診の構造③ 計量分析の落とし穴
  誤診の構造④ マスコミと官僚機構
3 「治療」としてのケインズ政策再考 031
  処方箋① 政策対応の短期と長期――ケインズ政策の役割
  処方箋② 今時の金融危機と財政政策
  処方箋③ 金融政策
  処方箋④ 税制と制度
  日本経済の「病状」「診断」「治療」


第2章 「平熱」と「発熱」――経済政策のインパクト 039
1 1人当たりGDPと景況感 041
  景気の体感温度は何兆円か
  好景気の基準
  中期か長期か
  日本経済の「分量」
  1人当たりの数字と消費
2 非正規雇用化と労働市場 053
  労働力人口と失業率
  1人当たりの賃金
  失業率と非正規雇用比率
  非正規雇用の満足度
  オークンの法則――実質GDPと失業率
  処方箋① ワークシェアリングは可能か
  処方箋② セーフティネットの強化
  処方箋③ 訓練強化が本当に望ましいのか
  処方箋④ まず分類
  派遣労働は効率的か
3 不良債権金融危機 076
  基礎「体力」としての資産市場と高齢化
  不良債権問題の規模
  今時金融危機の規模
4 「格差」社会の誤診と低下する「体温」 081
  「格差」より平均所得減少
  「平熱」と「発熱」


第3章 「病状」の進行――経済の基本リズム 085
1 輸出がきっかけとなる景気回復 087
  混乱しがちな輸出の見方
  為替レートと立場の違い
  為替レートをデパート商品券で理解する
  円高と輸出
  資産と為替レート
  誤診と帰結――円安と購買力流出
2 サイクルをとらえる在庫循環図 097
  在庫循環と景気循環日付
  実際の在庫循環と在庫循環図
  推移確率とサイクル
  金融危機以降の景気底打ち
3 企業利潤増大から人件費と設備投資へ 103
  企業利潤を軸とする景気変動理解
  景気動向指数と企業利潤の関係
  企業利潤を軸とする考え方の落とし穴
  在庫循環と設備投資循環
4 固定費と短期的な規模の経済 109
  日米景気循環――労働保蔵と消費関数
  マークアップ率と規模の経済
  日本の景気循環はなぜ生じるか


第4章 「モルヒネ」としての金融政策 117
1 新しい金融政策 118
  実物のサイクルと名目値のレジー
  量的緩和と金融政策のターゲット
  「量的」の意味
  量的緩和政策の3つの役割
2 レジーム変化と金融政策の効果 126
  レジーム変化
  生産に与える影響
  貨幣数量説の成り立ち
  流通速度を使ったレジームの再解釈
3 病は気から?――インフレ期待と金融政策 138
  誤診の構造① 日本の経済に即さないエコノミストの議論
  誤診の構造② 都合の良い誰もが傷つかない結論
  「容態」の変容① マネーフローの変化と追い貸し
  「容態」の変容② 企業部門の黒字化の功罪
  「容態」の変容③ 金融市場の世界的統合と円高懸念
  原材料と最終製品で理解する銀行と金融政策


第5章 「病巣」の「転移」と「再発」――金融危機への波及 153
1 「梗塞」の部位――金融危機の構造 156
  金融危機の「主病巣」はどこか
  「診断」不一致の構造
2 グローバル・インバランスと交換の利益 165
  交換の利益
  情報の非対称性
3 ミクロ構造① 逆選択と疑心暗鬼 172
  逆選択への対応策
  中古車と金融危機
  過剰な保険と過少な保険
4 ミクロ構造② モラルハザードPA問題 178
  依頼人代理人
  エージェントの報酬体系
  タクシー運転手とPA問題
  織田信長の切り取り自由
  保険の実際の問題点
  経済学と金融危機


第6章 「手術」の成功と「リハビリ」の失敗――小泉構造改革 191
1 誤診の傾向――経済政策の大失敗 192
  1973〜74年の大インフレーション
  バブルとプラザ合意と金融緩和
  バブルと金融引き締めの遅れ
  誤診の構造――日本銀行の輸出過敏症
2 「失われた10年」と「慢性」化のメカニズム 198
  「失われた10年」を説明する仮設
  不良債権と家計
  所得と消費
  全要素生産性成長率と「失われた10年
  不良債権の生産性ルート――民間のハコモノ投資
  構造改革と「失われた10年
3 「手術」としての小泉構造改革 209
  小泉期の経済――好調な輸出と投資
4 「リハビリ」の失敗 214
  データで見る誤診の構造――輸出主導型回復と分離する企業セクター
  理論で見る誤診の構造――家計と企業のやりとり
  外需から内需へのバトンタッチ
  再びの過剰設備


第7章 「老化」と「生活習慣病」――これからの日本 223
1 引き裂かれた家計――「もったいない」消費者と「忙しい」労働者 227
  勤労尊重とビジネス・ヒーロー
  家計と輸出
2 無借金経営を目指す企業と貯蓄増加を図る家計 232
  世代間の不公平
  過剰投資と少子高齢化
3 知識資本と生産性 238
  専門職の軽視と「文化大革命
  2つの極論


おわりに(脇田成) [244-245]



【図表一覧】

図1-1  014
図1-2  015
表1-1  018
図1-3  024
図1-4  026
図1-5  036


図2-1  041
表2-1  056
図2-2  057
表2-2  059
図2-3  061
図2-4  064
図2-5  082


図3-1  089
図3-2  095
図3-3  100
図3-4  105
図3-5  112


図4-1  123
図4-2  129
図4-3  132
図4-4  137
図4-5  139
図4-6  143
図4-7  146
図4-8  146
図4-9  148


図5-1  161


図6-1  196
図6-2  202
図6-3  206
図6-4  211
図6-5  213
図6-6  216


図7-1  234




【抜き書き】

□pp. 69-70

   処方箋③ 訓練強化が本当に望ましいのか
 正規雇用と非正規雇用の格差を是正するために、労働者の訓練強化が主張されます。たしかに前向きの方策で、一見良さそうです。しかし筆者は、この主張に疑問をもつようになってきました。このような処方箋はもはや有効な段階を越えているのではないでしょうか。
 厚生労働省は麻生政権時より2009年度補正予算に盛り込まれた職業訓練の拡充を始めると発表していました。最初は2000人規模でのスタートとなる見通しですが、厚労省は初年度に10万人、3年間で35万人の訓練枠を見込んでいたそうです。雇用保険を給付できない人に職業訓練中の生活費を月10~12万円給付し、希望者にはさらに5~8万円を貸し付ける仕組みも始め、3年分計7000億円が補正予算に計上されていたそうです。
 訓練の内容は基礎学力の向上などに6ヶ月をあて、さらに医療や介護、情報技術、農業など分野別の演習を3~6ヶ月受講するコースや、パソコン講習を3ヶ月受けるコースがあります。厚労省はすでに企業や各種学校非営利団体NPO)など訓練を担う民間施設の募集を始めたそうです。
 2000人から大きく飛んで35万人(ほとんど製造業派遣労働者全体にあたります)、その後100万人(!)に修正という試算や、基礎学力からパソコンに飛ぶ計画もあまりに総花的でよく分かりません。もともと訓練補助といっても、一時は英会話教室のNOVAやフラワーアレンジメントの講習に補助を出していたように、なかなか有効な手立ては見つけにくいことが認識されています。


※71頁の絵に付されたキャプション 「ネタ切れの職業訓練:フラワーアレンジメント」


※些細な誤記について。一段落目の末の文は、主・述が不一致気味で気になる。
このような処方箋はもはや有効な段階を越えているのではないでしょうか」
 簡単な手直しして「……処方箋[が]有効な段階を……」に変えたい。
 または支持内容を明示して、「処方箋としては、このような訓練が有効な段階を……」とするか。

※内容について。職業訓練だけで正規と非正規間の格差を満足いくまで縮めることはむずかしいが、職業訓練の有効性自体は確かにある。



□pp. 71-72

 世の中には物的な生産性がなかなか上がりにくいが、清掃業や配達業など人手に大幅に頼らざるをえない職業も存在します。現在、問題になっている介護もようでしょう。このような職業に従事する人々に、訓練を促し高生産性業務への移動を望むよりも、巨額の訓練費用(7000億円)や生活費補助の原資を使って、介護などの不安定な環境と低賃金を少しでも是正する方が急務ではないでしょうか。いささか過激な言い方ですが、厚労省自体が貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を行っている、といわれないようにしてほしいものです。


□シンプルなあとがき。

  おわりに 

 本書は以下で発表した書籍・論文を基礎として、近年の世界経済の激動と日本経済の置かれている現状を初歩の経済学と簡単なグラフで表したものである。より詳細な結果や、参考文献等は以下を参照されたい。本書の執筆に当たっては、筑摩書房の永田士郎さんにはお世話になった。御礼を申し上げたい。


脇田成 (1998)『マクロ経済学パースペクティブ日本経済新聞社
脇田成 (2003) 『日本の労働経済システム――成功から閉塞へ』東洋経済新報社
脇田成 (2004)『マクロ経済学のナビゲーター第2版』日本評論社
脇田成 (2007)「在庫循環図の理論と計量分析」 浅子和美・宮川努編『現代の景気循環ー理論と実証』東京大学出版会
脇田成 (2008)『日本経済のパースペクティブー構造と変動のメカニズム一有斐閣
脇田成 (2009a)「マクロから見た雇用危機――現在・過去・未来」『経済セミナー』2009年6月号
脇田成 (2009b)『「日本人」論の「行動」経済学』『書斎の窓』連載、有斐閣
脇田成 (2010)『雇用不安と消費停滞の経済学(仮題)』岩波書店近刊