著者:江原 由美子[えはら・ゆみこ](1952-) 社会学,ジェンダー・スタディーズ。
著者:山田 昌弘[やまだ・まさひろ](1957-) 家族社会学,感情社会学。
シリーズ:岩波テキストブックスα
備考:底本は放送大学のテキスト(『改訂新版 ジェンダーの社会学――女と男の視点からみる21世紀日本社会』放送大学教育振興会,2003年。なお初版は1999年)。
【目次】
はじめに(2008年3月 江原由美子・山田昌弘) [iii-iv]
目次 [v-viii]
1 ジェンダーとは? 001
1.「ジェンダー」概念の誕生 001
第二波フェミニズム運動
「セックス」と「ジェンダー」
2.セックス/ジェンダーという二分法に対する批判 004
自然/文化という二分法に対する批判
「性別や性差についての知識」としての「ジェンダー」
文化遺産とジェンダー
3.研究の視点としての「ジェンダー」と「ジェンダーの社会学」 007
研究の視点としての「ジェンダー」
ジェンダーの社会学
参考文献 008
2 性別とは――「性」の多様性 009
1.性別が三つある社会 009
2.性別現象のレベル 010
身体的性別
性自認としての性別
セクシュアリティとしての性別
性役割(性別規範)
性別の社会性と多様性
3.ジェンダー化の過程 014
性自認の獲得
セクシュアリティとしての性別の獲得
4.逸脱から多様性へ 016
近代化とジェンダー,セクシュアリティの画一化
逸脱から多様性へ
多様なジェンダーのあり方を認めるために
参考文献 019
3 「女」とは何か――他者としての女性 020
1.「女らしさ」という問題 020
ジェンダーと性役割
2.様々な「女らしさ」と性役割 022
「女らしさ」という「規範」
二つの「女らしさ」と性役割
「女らしさ」の矛盾
3.他者としての女性 026
男性視点から定義された「女らしさ」?
「人間=男性=我々」「女性=人間ではない=他者」?
他者としての女性
参考文献 028
4 「男」とは何か――「男らしさ」の代償 030
1. 男性学,メンズリブ運動 030
男は本当に得なのか
男性学,メンズリブ運動の形成
鎧理論の限界
性別規範の非対称性
2. 「男らしさ」の形成 034
人は男に生まれない
「である性」と「する性」
3.社会的・経済的責任の問題 036
家族の経済的責任をとるという「男らしさ」
「男らしさ」の三つの性格
4.「男らしさ」の再構築は可能か? 037
男性解放の課題
参考文献 038
コラム 国民化とジェンダー[江原由美子] 039
コラム 軍事化とジェンダー[江原由美子] 040
5 専業主婦という存在 042
1.性役割分業 042
近代社会における性役割分業
アンペイド・ワークとしての家事
家事労働の女性的性格
2.専業主婦とは何か 045
立場としての「専業主婦」
専業主婦の定義
専業主婦の不安定性
3.専業主婦の歴史 048
専業主婦の誕生
専業主婦の一般化
専業主婦が成立する条件
専業主婦の増大
4.専業主婦の黄昏 051
経済の低成長化と専業主婦の基盤の喪失
専業主婦の微修正の時代(1975~99年)
専業主婦の黄昏
参考文献 055
6 ゆらぐライフコース――少子化とジェンダー 056
1.進む少子化 056
少子高齢化の進行
女性の社会進出が少子化の原因とはいえない
2.専業主婦志向が強いことが未婚化,少子化の大きな原因 060
専業主婦志向と未婚化
3.身体化した性役割分業 062
性役割分業の多様化を阻むもの
好まれる異性のタイプのジェンダー差
「自然な感情」として身体化した性役割分業
性役割分業の変革には,感情レベルの変革が必要
4.ゆらぐライフコースの中で 069
ライフコースの多様化の裏側で
戦略的思考のすすめ
参考文献 070
7 変わる出産,変わる生殖医療 072
1.妊娠・出産を論じる視点 072
2.現代日本における出産の変化 073
3.生殖革命? 077
「体外受精・胚移植」技術とは?
社会問題としての「新しい生殖技術」
生殖技術とジェンダー
参考文献 081
8 男の子育て・女の子育て 082
1.現代の子育て環境 082
育児ノイローゼ
子ども虐待
2.育児参加とジェンダー 086
男女の育児時間
子育てに関わるジェンダー
3.働く男女の育児支援の現状と課題 089
育児に冷たい日本の企業社会
育児休業
保育施設
参考文献 092
9 ゆらぐ日本型雇用 093
1.日本型雇用慣行の成立 093
2.日本型企業社会における女性労働者 096
男女雇用機会均等法の制定と,「一般職/総合職」制度の導入
3.新しい経済の進展とジェンダー関係の変容 100
ニュー・エコノミーの進展
ニュー・エコノミーによる様々なジェンダーレス化
能力主義の貫徹がジェンダーに与える影響
仕事能力の内容変化がジェンダーにもたらす影響
4.フリーターの発生とジェンダー 105
ニュー・エコノミーの裏で進行する二極化 不安定雇用の増大
フリーターのジェンダー差
参考文献 108
コラム 社会保障とジェンダー[山田昌弘] 108
高まる社会保障改革の必要性
ジェンダーからみた現在の社会保障制度の問題点
現行の制度がよって立つ前提――標準家族モデル
現代社会の変化と社会保障制度の矛盾の顕在化
参考文献
10 親密性とセクシュアリティ 112
1.男女の心のすれ違い 112
2.親密性の歴史的変遷 113
親密関係とは何か
愛情の役割分業(経済の高度成長期型夫婦)
発達論的な愛情表現の差異の説明
親密性の変容
3.セクシュアリティの問題 117
セクシュアリティの重要性と二面性
セクシュアリティにおけるジェンダー差の発達
男性にとってのセクシュアリティの二重性と強迫性
女性にとってのセクシュアリティ
4.親密性とセクシュアリティ 120
親密性とセクシュアリティの関係
セックスレス・カップル
参考文献 122
11 ジェンダー,セクシュアリティ,暴力 123
1.国際会議における「女性に対する暴力」の問題化 123
2.ドメスティック・バイオレンス 124
3.セクシュアル・ハラスメント 126
4.レイプ神話 127
5.暴力,ジェンダー,セクシュアリティ 129
参考文献 131
12 性の商品化 132
1.「性の商品化」批判とは? 132
「性」の含意の二重性とジェンダー
「商品化」とは何か
「性の商品化」批判
1960~70年代の「性解放」と「性の商品化」
2.買売春問題とジェンダー 132
「性の商品化」をめぐる現代的状況
婚姻外性行動としての買売春
「女性の人権」の侵害としての買売春
「売春女性」への社会的非難とジェンダー
3.セックス・ワーク論と「性=人格」論批判 138
セックス・ワーク論
「性=人格」論批判
労働行為か人権侵害か――グローバル化の中で
参考文献 140
13 ケアとジェンダー 142
1.ケア(介護)とジェンダー問題 142
ケアと介護
高齢者介護の実情
家族介護の矛盾
介護の社会化とジェンダー
2.ケア労働の特徴 146
感情労働としてのケア労働
ケアの身体性
3.ジェンダー差を乗り越えることができるのか? 150
心の世話と体の世話を分離できるのか?
参考文献 151
14 セラピーとジェンダー 152
1.セラピーとジェンダー 152
心の問題への関心
セラピーのジェンダー視点からの見直し
2.従来のセラピーの男性中心主義 154
フロイトの精神分析学への批判
3.フェミニスト・セラピーの誕生 155
「名前のない問題」の発見
1980年代の変化
4.新しいセラピーヘの動き,男性性の問題そして,関係性の問題へ 157
新しいセラピーヘの動き
ジェンダー役割の問題性
男性が問題であるという視点
参考文献 159
15 ジェンダーと社会政策 161
1.「女性政策」と「ジェンダーの主流化」 161
女性政策と女性問題
「女性の意識啓発」から「ジェンダーの主流化」へ
2.国際社会の取り組み 163
3.日本政府のジェンダー政策――「男女共同参画社会基本法」を中心に 164
4.自治体のジェンダー政策 165
5.男女共同参画社会の形成とジェンダー 166
参考文献 167
人名索引・事項索引 [169-172]
【図表一覧】
図 2-1 身体的性別の多様性,連続性 012
図2-2 ゲイ・パレード(子どもを共に育てる同性カップルの行進(サンフランシスコにて筆者撮影)) 017
表3-1 「パーソナリティの男性性・女性性を測定する代表的な心理テストの一部」(注)Bem Sex Role Inventoryテストの日本語版.意識調査において,「男らしさ」「女らしさ」と評価された特性を挙げている.) 023
図4-1 現在の生活に対する満足度(性・年齢別)[出典:『月刊 世論調査』平成19年4月号「国民生活に関する世論調査」] 031
図5-1 女性の労働力状態(1960-2000)[出典:坂東眞理子編著『図でみる日本の女性データバンク(4訂版)』財務省印刷局,2001年,p.39] 051
図5-2 サラリーマン世帯の専業主婦数の推移(1955-2000)[出典:坂東眞理子編著『図でみる日本の女性データバンク(4訂版)』財務省印刷局,2001年,p.17 を改変] 052
図5-3 男女の家事関連時間(夫婦と子どもの世帯)[出典:坂東眞理子編著『図でみる日本の女性データバンク(4訂版)』財務省印刷局,2001年,p.77] 054
図6-1 出生数および合計特殊出生率の推移(厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」) 057
図6-2 OECD加盟24カ国における合計特殊出生率と女性労働力率(15~64歳,2000年)[出所:内閣府男女共同参画局ホームページ] 058
表6-1 家族状況,就労形態別性役割分業意識 061
図6-3 配偶者に求める資質[出典:経済企画庁国民生活局「平成9年度国民生活選好度調査」] 066
図6-4 未婚女性の理想のライフコース,未婚男性が期待する女性のライフコース[出典:国立社会保障.人口問題研究所「結婚と出産に関する全国調査」2005年.] 068
表7-1 平均出生児数(結婚持続期間15~19年)[出典:「厚生省人口問題研究所出生動向調査」] 074
図7-1 総人口の推移(出生中位・高位・低位〔死亡中位〕推計)[出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」] 075
表7-2 避妊法,別普及割合の各国比較[出典:井上輝子・江原由美子編『女性のデータブック』有斐閣,第4版,2005年,p.35] 075
図7-2 出生の場所別,出生割合の年次比較[出典:井上輝子・江原由美子編『女性のデータブック』有斐閣,第4版,2005年,p.33] 076
図7-3曜日別・時間別平均出生数(2000年)[出典:井上輝子・江原由美子編『女性のデータブック』有斐閣,第4版,2005年,p.33] 077
図8-1 専業主婦の母親に大きい育児不安 084
【抜き書き】
・「はじめに」(pp. iii-iv)から。
「ジェンダーの社会学」とは,様々な社会現象や社会問題を,「性別や性差についての知識や社会通念」を意味する「ジェンダー」との関連性で読み解く社会学をいう.「ジェンダーの社会学」が成立した背後には,近代化に伴う男女間の社会関係の変容および対立激化と,それに伴う社会運動の高まりがあった1960年代から1970年代,先進国を中心に大きなうねりとなった女性運動は,女性学という学問を生み出した.その後男性学も成立し,この双方から,「女らしさ」「男らしさ」に関する知識や社会通念(=ジェンダー)が近代社会の形成において果たした役割の大きさが,強く認識されるようになった.当然「ジェンダー」は,我々が生きていく21世紀の日本社会を形成する上でも,非常に重要な役割を果たしていくに違いない.
21世紀に入り,世界は激動ともいいうる社会変動に直面している.国境を越えて人・モノ・金・情報の移動が増大するグローバル化がいっそう勢いを増し,経済の国際競争が激化している.この過程で,世界各国で経済格差が拡大し,中流層が二極分解している.また,従来国民国家単位で維持されていた文化・教育・医療・福祉なども,グローバル化の流れに巻き込まれつつあり,制度的流動化や再編成を余儀なくされている.途上国の女性たちが先進国に移動して介護労働者や家事労働者になるなど,「再生産労働の国際分業」と呼ばれるような事態も,拡大の一途をたどっている.その結果,多くの国々で,社会心理的不安定化と政治的不安定化が生じている.
本書では,現在生じているこのような社会変動にも焦点をあて,「ジェンダー」を切り口として分析している.21世紀の日本社会を豊かで幸福なものとするために考えていかなければいけないことについて,何らかの示唆となれば,幸いである.