著者:石井 淳蔵[いしい・じゅんぞう](1947-)
著者:嶋口 充輝[しまぐち・みつあき](1942-)
著者:栗木 契[くりき・けい](1966-)
著者:余田 拓郎[よだ・たくろう](1960-)
装幀:松田 行正
装幀:杉本 聖士
【目次】
はしがき(2013年9月 石井淳蔵 栗木契 嶋口充輝 余田拓郎)
マーケティングを求めて
マーケティングは、企業経営に何をもたらすのか
マーケティングを学ぶことの醍醐味
本書のねらい
本書の構成
本書の使い方
目次
第I部 マーケティング・マネジメント
第1章 市場をつくり出す企業活動
1-1 マーケティングの役割
なぜ、高度な技術力・製品力だけでは不十分なのか
マーケティングの努力
なぜ、優良企業が事業化の機会を見逃してしまうのか
カップヌードルは、値段の高い「即席麺」か
1-2 マーケティング・マネジメントの基本枠組み
顧客との関係の創造と維持
マーケティング・ミックス
1-3 マーケティング・マネジメントの機能
なぜ「4つのP」なのか
統合を生み出す2つの一貫性
マーケティング・ミックスの内的一貫性
どのような製品を投入するか
どのような価格を設定するか
どのような流通チャネルを採用するか
どのようなプロモーションを採用するか
プッシュ戦略とプル戦略に見られる内的一貫性
マーケティング環境の把握と外的一貫性の確立
1-4 マーケティング・マネジメントのプロセス
基本的な作業プロセス
コラム
1-1 本書におけるマーケティングの定義
1-2 顧客から見た4つのP
1-3 SWOT分析
1-4 プル戦略の外的一貫性
第2章 価値形成のマネジメント
2-1 製品・サービスとは何か
顧客が抱えている問題を解決する
「便益の束」としての製品・サービス
製品・サービスの構成要素
2-2 新製品・サービスの開発プロセス
アイデアの創出
設計から試作・生産へ
市場導入
開発プロセスにおける組織のデザイン
2-3 アソートメントのデザイン
新製品・サービス開発とアソートメント
アソートメントの優位性
2-4 価格の役割
なぜ価格のデザインを行うのか
「安さ」の魅力
2-5 戦略的な価格デザイン
需要の価格弾力性
価格に依拠した価値の推定
マーケティング・ミックスとの連動
小売りマージンとインセンティブ
コラム
2-1 製品・サービスの分類
2-2 スーパーホテルの競争優位
2-3 製品・サービスの使用シーンの設定
2-4 支払い方法の設定
2-5 ロス・リーダー
2-6 変動費と固定費
2-7 ビジネスはシステムとして成り立っている
2-8 オープン価格
2-9 需要の価格弾力性に対応した戦略的価格デザイン
2-10 マーケティング・ミックスと連動した戦略的価格デザイン
第3章 価値実現のマネジメント
3-1 流通チャネルの機能と類型
流通チャネルの機能
流通チャネルの類型
3-2 流通チャネルのデザイン
なぜ流通業者は存立するのか
どのように流通業者を介在させるか
どの流通業者と取引をするか──小売業態と店舗密度の選択
3-3 メッセージの選択
メッセージとメディア
製品・サービスを語る
メッセージの戦略的な選択
「コカ・コーラ」のスローガンに見る戦略性
3-4 メディアの選択
プロモーション・ミックスの構成要素
統合化されたマーケティング・コミュニケーション
プロモーションの効果測定
コラム
3-1 小売業態の発展
3-2 取引数節約の原理
3-3 直営店チャネルのメリット
3-4 コンセプトから表現へ
第II部 事業組織のマネジメント
第4章 マーケティング組織のデザイン
4-1 組織をデザインするための3つの要件
組織は分業と調整によって成り立っている
なぜ分業するのか
部門を単位とした組織のデザイン
リーダー、階層化、集権化と分権化
4-2 マーケティング組織の発展プロセス
マーケティング業務の組織化
マーケティング組織の変遷
4-3 マーケティング業務の専門化と統合化
組織構造の2つの基本形──職能志向の組織と市場志向の組織
マーケティング組織のトレードオフ
4-4 市場志向の組織の基本類型
事業部制組織
事業部制組織の限界
統合のメリットをどう認識するか
コラム
4-1 市場や組織の複雑性を測る
4-2 グローバル企業の組織構造
4-3 戦略的事業単位
第5章 マーケティング資源の配分
5-1 何が事業の収益性を決めるのか
事業を峻別する枠組み
市場シェアをとることの優位性── PIMSプロジェクトの成果
5-2 規模と経験の効果
なぜ、市場シェアが大きくなると収益性が高まるのか
規模の経済性
経験効果
4つの指針──規模と経験の効果を活かしたマネジメント
5-3 製品ポートフォリオ管理
多数の異なる事業間での経営資源配分
例題──投資を続けるべきか、撤退すべきか
製品ポートフォリオ管理の考え方
製品ポートフォリオ管理の活用
5-4 製品ポートフォリオ管理がもたらすもの
なぜ製品ポートフォリオ管理を導入するのか
成長と資金管理のバランスをとる
長期と短期の経営目標を調和させる
変化に対応する
現場と本社の健全な対話を促す
コラム
5-1 重回帰式による収益性モデル
5-2 市場シェアと利益率との関係を規定る要因
5-3 製品ポートフォリオ管理への批判
第6章 事業の定義
6-1 マーケティング近視眼を避けよ
近くを見すぎていないか
マーケティング近視眼の教え
マーケティング遠視眼の罠
6-2 製品ポートフォリオ管理との関係
何を軸にして事業をとらえるか
事業を単体で定義するか、システムで定義するか
6-3 事業を定義し、成長への指針を描く
新事業の設計図
経営資源の活用と育成
新たな機能か、新たな顧客か
自らの依って立つ経営資源を明らかにする
事業の定義が異なると、直面する市場環境が変わる
コラム
6-1 事業の定義を考えるための軸
6-2 事業の見直し──用途開発、技術開発、市場開発
第III部 市場の論理
第7章 消費者行動の理解
7-1 消費者対応の考え方
最大の難問──消費者をどのように理解するか
分析の焦点となる購買行動
手法ではなく考え方に注意する
マーケティング・コンセプトと販売コンセプト
インプット─アウトプット分析とメカニズム分析
7-2 購買意思決定の分析
2つの局面の組み合わせ──購買意思決定のプロセス
消費者情報処理──選択代案の知覚と評価の局面をとらえる
ボトムアップとトップダウン
ヒューリスティクス
知覚と評価に見られる二重の選択
手段─目的の連鎖──必要や欲求の構成とらえる
相対化の遮断
7-3 市場の細分化──多様性への対応
購買行動の多様性
市場細分化マーケティング
市場細分化の軸
市場細分化のメリットとデメリット
市場細分化で満たすべき3つの条件
7-4 消費者をいかにリードするか
考えることなくできること
消費者調査の結果に従えば成功するか
独善化を阻み、消費者との対話を根づかせるために
コラム
7-1 生産財と消費財の購買行動の違い
7-2 期待は大きすぎても小さすぎてもダメ
7-3 購買意思決定と予算制約
7-4 なくてはならないもの、代わりのあるもの
7-5 関与度で変わる消費者の情報処理
7-6 見落としてはならない記憶の働き
7-7 消費者行動研究のポストモダン・アプローチ
7-8 生活行動が購買意思決定に及ぼす影響
7-9 ワン・トゥー・ワン・マーケティング
7-10 消費者調査の代表的な手法
第8章 競争構造の理解
8-1 競争の場の枠組み
顧客から見た競争、技術から見た競争
産業をとらえる重層的な視点
8-2 競争が規定する産業の収益性
事業の収益性にかかわる基本要因
産業における競争を規定する3つの構造要因
競争者の数と規模の分布
企業の数はどう決まるか──規模の経済性
新規参入の容易さ
新規参入の容易さはどう決まるか──参入障壁
差別化の程度
差別化の源泉
8-3 戦略グループ
産業内の競争ユニット
「垂直統合の程度」と「製品ラインの広がり」
わが国の家電産業 わが国の化粧品産業
8-4 業績の違いを生み出す移動障壁
戦略グループによって異なる参入障壁
なぜ、ある企業だけが成功するのか
なぜ、戦略グループを見落としてはならないのか
垂直統合がもたらす強み
垂直統合がもたらす弱み
製品ラインの拡大がもたらす強み
製品ラインの拡大がもたらす弱み
コラム
8-1 完全競争
8-2 戦略グループの軸
第9章 取引関係の理解
9-1 取引関係の構造
取引とは何か
自社でまかなうか、他社に委ねるか
取引関係の広がり──垂直的連鎖構造と水平的連鎖構造
9-2 統合か取引か
3つの基準──生産コスト、取引コスト、資源蓄積
生産量と生産コストの関係
生産コストの条件
9-3 取引コストと資源蓄積
取引のプロセス
取引コストはどう決まるか──機会主義的行動
資源蓄積のトレードオフ
9-4 中間組織の機能とマネジメント
2つの原理のハイブリッド
中間組織を活用する
コラム
9-1 アウトソーシング
9-2 サービス業におけるアウトソーシング
9-3 情報粘着性とユーザー・イノベーション
9-4 取引コスト上昇の原因は自分にあり
9-5 フランチャイズ・システム
9-6 戦略的提携
第IV部 市場と事業のダイナミクス
第10章 プロセスとしての競争
10-1 新機軸を生み出す競争
計画経済か市場経済か 競争の役割
知識を生み出すプロセスとしての競争
途切れることのない連続したプロセス
10-2 企業の個性をつくり出す競争
松下電器産業とソニーの競争
シャープとカシオの電卓戦争
10-3 産業の枠組みを構成する競争
産業の境界は定まったものではない
産業の枠組みをめぐる2つの戦い
産業のシステム・アップ
産業のシステム・ダウン
10-4 戦略的ジレンマを生み出す競争
戦略的ジレンマとは何か
戦略的ジレンマをめぐるマーケティングのダイナミズム
ビール産業
文具産業
コラム 10-1 システム化の動向を決める状況要因
第11章 産業のライフサイクル
11-1 製品の誕生から産業のライフサイクルへ
製品ライフサイクル 産業の生成──技術が製品になるとき
産業の誕生を導く出会いの偶然性
生成期から成長期へ
11-2 産業の離陸①──デファクト・スタンダード
VTR産業における業界標準の成立
産業が成長する条件──業界標準成立によるリスクの低減
システム製品 ネットワークの経済性
11-3 産業の離陸②──拡張製品
顧客のタイプと産業のライフサイクル
革新的採用者と初期採用者の違い
拡張製品による市場開拓
11-4 産業の成長期
役割期待が生まれる──取引構造の安定化
「自明の現実」の生成
プッシュ戦略からプル戦略へ──成長期のマーケティング
11-5 産業の成熟期と衰退期
マーケティング目標の転換
成熟期のマーケティング
事業の再定義
コラム
11-1 生成期のVTR産業
11-2 予想されなかった顧客の登場
11-3 業界標準に対するリスクヘッジ戦略
11-4 業界標準の問題はハイテク製品に限定されない
11-5 拡張製品の活用
第V部 市場資源構築のマネジメント
第12章 チャネル資産のマネジメント
12-1 マーケティング資産としての流通チャネル
製品を水道のように行きわたらせる
コカ・コーラ社の自販機ネットワーク
マーケティング資産としての自販機ネットワーク
消費者に自社製品を届ける仕組み
流通システムの資産化
松下電器産業の系列店
流通系列化の効果 流通系列化の限界
12-2 チャネル選択肢の広がりと時間の競争
流通システムを取り巻く2つの変化
消費における選択肢の拡大
流通プロセスにおける時間の競争の拡大
在庫回転率を高める時間の競争
多頻度小口のオーダー・エントリー・システム
在庫回転率に照準をあわせたビジネスモデル
12-3 製販連携──生産と流通を同期化するシステム
在庫を極小化する仕組み
カルビーの鮮度管理
取引先との連携の強化
製造と販売の連携
コラム
12-1 eコマース(電子商取引)というチャネル資産
12-2 在庫回転率と資本効率
12-3 製販統合のシステム
第13章 顧客関係のマネジメント
13-1 顧客関係のパラダイム
顧客関係をとらえる視点
交換パラダイム
ウィン・ウィンの関係
関係性パラダイム
顧客との長期的な関係を形成することのメリット
なぜ顧客との関係が注目されはじめたのか
13-2 顧客関係の識別と選択
顧客関係を企業の資産としてマネジメントマネジメントする
購買意思決定のキーパーソンは誰か
顧客生涯価値で優良顧客を識別する
一般顧客にも納得のいくプログラム
13-3 顧客関係の維持と修復
スイッチング障壁
スイッチング障壁の活用
顧客満足
顧客満足度調査
満足度─インパクト分析
顧客関係の修復 苦情を引き出す工夫
苦情にどう対応するか
13-4 顧客関係を高める組織
逆ピラミッド型組織
行動に枠組みをもたせる──権限委譲のポイント
コラム
13-1 アーントの内部化市場モデル
13-2 顧客満足度の有効性
13-3 理念と行動のリンケージ
第14章 ブランドのマネジメント
14-1 ブランドの再発見
資産としてのブランド
見逃されてきたブランドの価値
ブランドがもたらす効果
見えざる価値の再発見
14-2 信頼と識別の印
なぜブランドの効果は生じるのか
たかがマーク、されどマーク
保証機能
識別機能
関係を縫合する媒介項
14-3 認知と連想──ブランド想起
想起機能
ブランド認知
ブランド連想
連想の価値 情報処理負荷の削減
自己表現の媒体化
有用性の構成
ソニーのウォークマン
14-4 ブランドの活用と育成
ブランド・マネジメントの基本プロセス
プロダクトかブランドか
ブランド価値経営
成長の枠組みの転換──ブランド拡張の二重の効果
ブランド拡張は諸刃の剣
ブランドを評価する
主なブランド測定指標
コラム
14-1 「ナイキ」ブランドの価値
14-2 ブランド要素
14-3 ハーレーダビッドソンの復活
14-4 ブランド体系の確立
14-5 財務会計の立場からのブランドの価値の推定
事項索引
人名・企業名索引
【抜き書き】
コラム1-1 本書におけるマーケティングの定義
本書では、「マーケティング」「マーケティング・ミックス」「マーケティング・マネジメント」といったよく似た用語が繰り返し登場する。これらの言葉を本書ではどのように使い分けているのか、その定義と位置づけを整理しておくことにしよう。
①マーケティング 「マーケティング」とは、「企業が、顧客との関係の創造と維持を、さまざまな企業活動を通じて実現していくこと」である。これは、事業の創造と維持において欠かすことのできない課題である。また、顧客との関係の創造と維持にあたっては、単純に顧客のことだけを考えていればよいわけではない。他社との競争や取引、自社の組織や経営資源との関連も考慮しなければならない。
②マーケティング・ミックス 「マーケティング・ミックス」とは、「マーケティング、すなわち顧客との関係の創造と維持にあたって、企業が用いる手法や活動の総称、もしくは集合」である。「製品」「価格」「流通」「プロモーション」の4つのカテゴリーに分けてとらえるのが一般的である。
③マーケティング・マネジメント 「マーケティング・マネジメント」とは、「内的に整合がとれているとともに、外部環境とも整合的なマーケティング・ミックスを実現するためのマネジメント」である。設定したターゲット、コンセプト、ポジショニングに沿って、マーケティング・ミックスを策定するというのが、その基本である。なお、多くの場合、企業は、異なる製品や、異なるターゲットに応じて、社内で複数のマーケティング・マネジメントを展開することになる。こうしたマーケティング・マネジメントのひとつひとつのユニットを、「マーケティング・マネジメントのプログラム」と呼ぶ。