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『徹底検証 日本の右傾化』(塚田穂高[編] 筑摩選書 2017)

編者:塚田 穂高[つかだ・ほたか](1980-) 宗教社会学
NDC:302.1 政治・経済・社会・文化事情
NDC:311.4 政治学.政治思想 >> 保守主義


筑摩書房 徹底検証 日本の右傾化 / 塚田 穂高 著



【目次】
目次 [003-006]
はじめに(編者) [009-012]


第I部 壊れる社会――新自由主義レイシズム、へイトスピーチ

第1章 罪深く恥ずかしい「サロゲート」に沈み込む前に[斎藤貴男] 014
「あれ?」という感覚の発端 016
新自由主義と社会ダーウィニズム 019
朝日新聞文藝春秋の変節 023
「日本は欧米烈強のサロゲート」 025
膨張する帝国主義への野望 031


第2章 在日コリアンへのレイシズムとインターネット[高史明] 034
1 全体として日本は右傾化しているのか? 034
2 在日コリアンに対するレイシズムの伸張 036
3 Twitter上の言説の分析 042
4 アンケート調査により得られた知見 050
まとめ 053
注 053


第3章 ヘイトスピーチ、極右政治家、日本会議――特報部の現場から[佐藤圭] 054
ヘイトスピーチの衝撃 054
レイシストの台頭 056
メディアと政治の怠慢 058
政治の極右化 060
政治中枢に及ぶ日本会議の影響力 063


第II部 政治と市民――右傾化はどこで起こっているのか 

第4章 排外主義とへイトスピーチ[樋口直人] 068
1 排外主義・ヘイトスピーチ・右傾化――何を問うべきか 068
2 排外主義の裾野をめぐる二つの見方 069
3 政治と排外主義運動 072
  ①政治から排外主義運動へ
  ②政治に逆流する排外主義
4 排外主義の火消しをする市民社会 080
  ①近隣諸国の敵視
  ②外国人排斥に抗する市民社会
5 何がどこまで右傾化したのか 085
注 086


第5章 自民党の右傾化――その原因を分析する[中北浩爾] 088
1  089
  ①綱領の変化
  ②二つの改憲案の比較
  ③国会議員の政策位置の変化
2 なぜ自民党は右傾化したのか 095
  ①世論の変化
  ②支持基盤の変化
  ③政党間競合の変化
結論 105
注 107


第6章 有権者の「右傾化」を検証する[竹中佳彦] 108
1 安倍首相に対する感情温度 110
2 有権者の「脱イデオロギー化」 112
3 安倍感情温度と左-右イデオロギーの関係 113
4 政党に対する感情温度、安倍内閣業績評価の相互の関係 114
5 政策争点に対する態度の相互の関係 117
6 安倍首相に好感情を持つのはどういう人か 120
結び 124
注 124


第III部 国家と教育――強まる統制、侵蝕される個人
 
第7章 〈震災後〉の日本におけるネオナショナリズム[Mark R. Mullins/齋藤公太:訳] 128
1 社会的危機とナショナリズム 129
2 震災後の文脈におけるネオナショナリズム 132
3 愛国心教育 134
4 教育基本法の改正 137
5 三・一一以後の展開 142
注 146


第8章 教育基本法「改定」とその後[大内裕和] 148
1 教育基本法の成立と「改定」前の動き―― 一九八〇年代まで 148
2 転換期となった一九八〇年代後半以降――教育基本法「改定」まで 151
3 教育基本法「改定」の内容 158
4 教育基本法「改定」後 164
注 167


第9章 国に都合のいい子、親、教師をつくる教育政策[杉原里美] 168
道徳の教科化、強まる国の関与 168
教育・教科書の「下から」の右傾化 172
国は家庭教育にどこまで介入するのか? 176
強まる教員統制 178


第IV部 家族と女性――上からの押し付け、連動する草の根 

第10章 重要条文・憲法二四条はなぜ狙われるのか[清末愛砂] 182
1 明文改憲をめぐる近年の動き 182
2 憲法二四条、そのインパクト 185
  ①憲法二四条の誕生
  ②憲法二四条の意義
3 狙われる憲法二四条――保守改憲政党・勢力による攻撃 190
4 自民党の「日本国憲法改正草案」の登場 194
  ①改正草案における二四条改憲
  ②自民党案に呼応する民間保守改憲勢力
5 愛国心にくすぐられた家族主義からの脱却 199
注 200


第11章 結婚、家族をめぐる保守の動き[斉藤正美] 202
1 ジェンダーと家族をめぐる安倍政権の政策展開 204
2 渋谷区条例に対する家庭連合の反対運動 207
3 婚活政策と結婚教育――福井市議の活動 211
4 家庭連合の家族観――富山でのフィールドワークから 214
おわりに 216
注 220


第12章 税制で誘導される「家族の絆」[堀内京子] 222
一〇年前から「家族の絆」 222
民主党政権下でも地道に伝道 224
「三世代同居税制」の成立 226
税制の原則を壊す「夫婦控除」 229
おわりに 231
注 232


第V部 言論と報道――自己賛美と憎悪の連鎖に向き合う 

第13章 「日本スゴイ」という国民の物語[早川タダノリ] 236
日本スゴイ」系テレビ番組の興隆 237
日本スゴイ」 241
「世界に誇る日本文明」 242
嫌中・嫌韓+「日本スゴイ」のキメラ 243
底流に流れる「大東亜戦争がアジアを解放した」 245
日本スゴイ」美談が押し寄せる「道徳」教育 246
日本スゴイ」という国民の物語への欲望 250
「日本主義」大洪水の時代 252
注 254


第14章 “歴史戦の決戦兵器"、「WGIP」論の現在[能川元一] 256
江藤淳の『閉された言語空間』 257
『閉された言語空間』への評価 258
右派・保守論壇での限定的な受容から多様化へ 261
高橋史朗の「WGIP」論とその陰謀史観的性格 264
WGIP論の現状 267
おわりに 272
注 274


第15章 狙われ続ける「慰安婦報道」[北野隆一] 276
慰安婦問題」とは何か 277
保守・右派にとっての慰安婦問題 278
歴史修正主義バックラッシュ」 280
朝日新聞社の検証記事と同社への集団訴訟 284
注 287


第16章 暴走する権力と言論の自由――シリーズ「時代の正体」の現場から[田崎基] 288
失われたものとは 290
演出された「改憲機運」 292
黙殺の末に 295
「公平・中立」という自縄 297


第VI部 蠢動する宗教――見えにくい実態、問われる政治への関与 

第17章 神道政治連盟の目指すものとその歴史――戦後の国体論的な神道の流れ[島薗 進] 302
はじめに 302
1 神政連の発足と「皇室の尊厳護持」 304
2 神社本庁の発足と設立の意図 310
おわりに――「皇位と神宮」という「国体神道」的アジェンダ 318
注 321


第18章 創価学会公明党自民党「内棲」化 [藤田庄市] 322
1 創価学会=安倍右翼政治の得票基盤 322
2 自公は「連立政権」か 323
3 自民党選挙協力設計者が語る実態 324
4 「票のバーター」と「連立」の前史 327
5 新進党失敗、自民の猛烈な攻撃 329
6 右派政権の公明党軽視 331
7 九条の解釈改憲議論中の「恫喝」 332
8 「政教一体」は生命維持の原理 334
9 「内棲化」による右傾化の可能性 337
注 339


第19章 統一教会=勝共連合――その右派運動の歴史と現在[鈴木エイト] 342
政界と関わり続ける統一教会 342
安倍政権との親密な関係 345
学生版勝共運動・UNITE 347
奇妙な「共闘」関係 350
注 351


第20章 幸福の科学=幸福実現党――その右傾化、保守運動との齟齬[藤倉善郎] 352
保守運動に食い込む宗教政党 353
政党結成で急激に右傾化 356
天皇制軽視のナショナリズム 358
注 360


第21章 「宗教の右傾化」はどこにあるのか――現代日本「宗教」の類型的把握から[塚田穂高] 361 
1 日本会議――「宗教」との関わりのなかで 362 
2 神社本庁神道政治連盟――最前列に位置する「宗教」 365
3 日本「宗教」の分布構造の四類型 368
4 組織宗教――新宗教の停滞・減退 370
5 制度宗教――神道・仏教の消滅の危機? 373 
6 個人宗教――「宗教」でも「組織」でもなく、の向かう先 375
7 文化宗教――天皇崇敬・文化ナショナリズム・「家族は大切」の浸透力 377
注 381


おわりに[塚田穂高] 383


あとがき [387]
「日本の右傾化」を考えるためのブックガイド [vii-ix]
「日本の右傾化」関連年表 [i-vi]




【抜き書き】

 二〇一六年には、国内最大の右派・保守運動と目される「日本会議」についての書籍が相次いで刊行され、その存在が社会的に顕在化した。その意義自体は大きい。だが、「日本の右傾化」の焦点を「日本会議」にのみ合わせただけでは、取りこぼされるものも大きいだろう。現実に進行中の事態は、もっと複雑で、多面的である。
 多面的な対象に迫るには、多角的に検討すればよい。事態はもはや、特定のメディアや個人などが独力で捉えきれるものではないのではないか。「日本の右傾化」と大きく括られているそれを、いったん限られたテーマに分解・細分化する。それぞれの領域の専門家が自身のフィールドについて、信頼できるデータと資料を駆使しながら検証し、それを幾重にも重ね合わせる。その作業が必要であり、本書が目指すのはそれである。
 よって、本書ではこの「はじめに」において、「右傾化」の定義は行わない。各章の検討の結果、特定の意味の「右傾化」がその領域では起きているかもしれないし、起きていないかもしれない。あるいは「右傾化」と括られていた問題の実態は、もっと別の深刻な問題であることが明らかになるのかもしれない。別々のテーマを論じていたはずなのに同じ事項や団体・人物が出てくることもあれば、時には同じ事象に対して異なる見解や見方がぶつかる局面もあるだろう。それら各章の検討結果を重ね合わせた際に、どのような現代日本社会の像が結ばれる、何が看過できない問題として浮かび上がってくるのか。それを提示したいし、そしてつかんでもらいたいと思う。
 全体は、「壊れる社会」「政治と市民」「国家と教育」「家族と女性」「言論と報道」「蠢動する宗教」の六部・二一章からなる。各章執筆者には、安倍政権なり日本社会なり右派勢力を批判してほしいとは依頼していない。しかし、中立や冷笑を気取るのでもない。各人の問題意識はそれぞれ明白であるはずだ。どの部・どの章から読み始めてもらってもかまわない。どれも、この日本社会の直面する諸問題をつかむための入口となっている。なお、各章のなかに「(→第〇章)」とあるのは、その章・部分と関連する内容が他章で論じられている場合のリンク先を示している。文中の肩書き等は当時のもの、敬称は基本的に略としたが、著者に委ねた部分もある。


 巻末には、編者による「「日本の右傾化」を考えるためのブックガイド」と「「日本の右傾化」関連年表」を附した。
 前者は、本書各章の議論についての理解を深めるのに資すると思われる、比較的手に取りやすい書籍を、近年のものを中心に選んでいる。
 後者は、本書各章に出てくるポイントとなる出来事を中心に、日本の「右傾化」に関連すると思われる事項を抽出して記載した。紙幅の都合から一九八九(平成元)年からとしたが、結果的にそれは「平成史」のある一面を表していると言えるかもしれない。参照してほしい。