著者:田中 茂樹(1965-) 医師・臨床心理士。高次脳機能の研究。地域医療・カウンセリング。
装画:岡田 千晶
装丁:加藤 恒彦
NDC:379.9 家庭教育
- 作者: 田中茂樹
- 出版社: 大隅書店
- 発売日: 2011/09/10
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 19回
- この商品を含むブログを見る
【目次】
題辞 [/]
はじめに [001-005]
目次 [007-011]
この本の目的と構成 012
具体的な方法を提案すること
悩みの仕組みを解き明かすこと
私の知識と経験のベースについて
子どもの問題の多くは歓迎すべきもの
子どもの問題に本は役に立たない?
ふだんから子どもにやさしく接する
この本の構成
I 診察や面接で気がついたこと
1 親にできるのは自分が変わること 026
子どもを変えることはできない
親はただちに変わることができる
通常のカウンセリングと親面接の違い
親の代わりにSOSを発信する子どもたち
2 目に見えるものに偏りすぎていないか 036
親面接でしばしば出会う気になる傾向
「指示や行動を促す言葉」と「思いや考えを伝えあう言葉」
目に見えるものばかりを求めない
ファンタジーの重要性
不安があるからこそ信じこもうとする
勉強や学歴は手段か目的か
広い土地にはいろいろな建物ができていく
「羨ましがられる」よりも「幸せだと感じられる」方が大切
3 勉強よりも大切なこと 044
人として育っていく上で習得すべきこと
ロボットや人工知能にはできないこと
相手の気持ちを知るよりも大事なこと
子どもの持っている力のすばらしさ
4 先んずれば人を制す? 050
幼少期は子どもにとって大事な時期である
文字や数字にないものの大切さ
教えなくても子どもは自分で「発見」する
文字のない時期を大切にする
5 不登校は勇気ある行動である 058
不登校は困ったことではない
不登校がはじまる時、子どもはかなり弱っている
サボりたくて不登校になるような子はほとんどいない
意気地があるからこそ不登校を選べる
不登校で問題なのは「勉強が遅れる」とか「進学できない」などではないはず
家庭内暴力について
再登校のタイミング
不登校のタイミングと子どもの持っている強さ
6 子どもを信じて愛情を与える 069
カウンセリングの基本は話を聴くこと
子どもは良くなっていこうとする力を持っている
愛情はなんでもない時に何回でも
愛情には条件をつけない
7 まず好きになる 075
私がしでかした失敗
学びの順序
「まず好きになる」は「生きることを好きになる」につながる
8 きちんとすることよりも好きになることを 079
食べることも「まず好きになる」が大切
きちんとできるのはその後で
食事は家族の楽しみの時間
偏食も必要以上に気にしない
子どもを信じて待ってやる
トイレで食事する大学生たち
本当に子どもの幸せに役立つのかを意識する
きちんとすることより好きになることを
9 子どもは導かないと成長しないのか? 088
子どもは叱られなくても褒められなくてもきちんとしようと思っている
自分で牛乳を飲むと言い出した四歳の息子
騒がずに淡々と振る舞う
II 親子の関係
10 親と子の別れ 094
親と子には何度も別れがある
四つの別れの段階
第1の別れ――「誕生」
第2の別れ――「再接近期」
第3の別れ――「一次反抗期」
第4の別れ――「二次反抗期」
親も動揺することがあるのは当然のこと
11 子どもと親の距離――近すぎる親、遠すぎる親 102
理想的な親・子・現実の三者関係
子どもと親の距離はどうやって測るのか
「近すぎる親」――子どもの問題がいつしか自分の問題になってしまっている
「遠すぎる親」――子どもは自分を賞賛する鏡か自分のアクセサリー
12 近すぎる親の問題――子どもの出会う現実を加工する 108
近すぎる親・子・現実の三者関係
事実を事細かに語る傾向と主語を省略する傾向
子どもと一体になって苦しみ悩んでしまう
若いカウンセラーがしがちな失敗
「現実を加工している」という自覚を持つ
現実を加工しないのと放っておくのは違う
安全な失敗を体験するべき時期がある
13 遠すぎる親の問題――子どもの気持ちに無関心 117
遠すぎる親・子・現実の三者関係
子ども自分を賞賛する鏡
子どもは自分の一部か持ち物の一つ
「遠すぎる親」はなかなか相談に来ない
「遠すぎる親」の子どもに見られる傾向
自分の子どもたちが何者なのか見届けたい
子ども本人が「自分は幸せである」と感じられること
14 現実を受け容れるということ 123
受容のプロセス
まず認めない、やがて怒る
「怒り」から「困った」へ
困るのは子どもであるべき
15 叱りすぎることの危険性 128
集中するのが得意な子と苦手な子
叱ることへの依存
叱ることに依存している親への働きかけの難しさ
感情のスイッチを切る――解離という防衛機制
やさしく見守ることのメリット
16 母親は子どもに去られるためにそこにいなければならない 135
急がないかぎり子どもは自分で親から離れていく
無理に外に出そうとするとかえってしがみつく
去られるものとしての親の悲しみ
惜しまず与えてあとは任せる
17 空腹の自由、食欲の自由、排泄の自由 142
自分で痛い目に遭うことの大切さ
空腹の自由、食欲の自由
排泄の自由
トイレの失敗はSOSの表現である
勉強の自由だって同じこと
18 頼りないので手放さない 149
いつまでも未熟なままでいて欲しい
いつまでも自分の手元に置いておきたい
親の子離れも、少しずつ、心配しながら、子どもを信じて
19 食べ物は毒? 154
食べ物への過剰なこだわりは子どもにどういうイメージをもたらすのか
親の脅しは効きすぎるということをわすれてはいけない
まず楽観的になること、世界を好きになることが重要
20 優等生はなぜいじめられやすいのか 159
厳しく育てることの問題
優等生はなぜいじめられやすいのか(その1)――思春期という問題
優等生はなぜいじめられやすいのか(その2)――親のしつけの問題
21 自分を守る心の仕組み ――防衛機制について 165
ぶどうを取れなかったキツネの負け惜しみ
名付けたのはフロイト
防衛機制は悪者ではなく必要なもの
防衛機制は日常の場面にいくらでも現れている
22 自分の世界にこもることで自分を守る――引きこもりの防衛 168
チャイルドシートど眠りに落ちる赤ん坊
退屈な授業と真っ赤な十円玉の思い出
他にもたくさんある引きこもりの防衛の例
大人だってしばしば引きこもることをやっている
23 不快をもたらす現実を受け容れない――否認の防衛 173
防衛機制の種類を判別するのは難しい
否認の防衛とは
子どもの不登校を認めたくない
親が変われば子どもも変わる
24 育児の不安、親の不安――置き換えの防衛 181
置き換えの防衛
受験の不安と手洗いの儀式
それが防衛機制であることを意識することが基本
面接に苦情を言いに乗り込んでくる親
子どもへの接し方の問題を指摘することの難しさ
過剰な干渉ではなく見守る勇気を
置き換えの防衛の例――予防接種をめぐる不安
25 自分の思いを相手に映し出す――投影による防衛 192
自分の中の認めたくないものを他人に映し出す
「投影」と「抑圧」の違い
親子の関係に現れる投影の例
26 子は親の鏡――だから親の過去を映すこともある 196
子どもの欠点を許せない
子は親の鏡
親は子どもに「自分の過去」を暴かれたような気分になる
親がしてやるべきことは先輩としてのやさしい支え
27 できたと思って喜ぶとすぐ逆戻り――打ち消しの防衛 201
自立する嬉しさは親から離れる淋しさとセットである
子どもが成長すると親も淋しい
成長する子どもの側にも葛藤がある
保育園ではできるのに家ではできない
28 なんでも思い通りになるという感覚――万能感による防衛 208
万能感――幼い時は誰でも感じていたもの
子どもの万能感とどうつきあっていくか
成功することよりも大事なことがある
29 責められるより責める方が楽――攻撃者への同一化 215
攻撃する側に立つことで心を楽にする
虐待されている子どもに多く見られる防衛機制
30 親が子どもを守るということ 219
親は子どものために先回りする
いじめに備えて準備する親たち
準備することの問題
III 子どもとのコミュニケーション
31 先に進まない 224
先に進まない
聞き手が主導してしまうというのはどういうことか
5W1H を使いたくなったら注意!
事実をやりとりするよりも、思いを伝えあう
話し手が主導すると会話はどのようなものになるか
先に進まず聞いてもらえると「話したいこと」に近づける
聞いてもらえたという体験の大切さ
聞いてもらうことの持つ大きな力
アドバイスが欲しいんじゃない、聞いて欲しいだけ
子どもの話を聞く喜び
32 小言を控える 234
子どもの頃を思い出してみる
小言は癖になる
指示をしていないように見える指示――「○○しても良いし、○○しなくても良いし」
子どもに起こる変化を予告しておく理由
33 指示しない 239
過剰な指示は子どもの自発性が育つのを邪魔する
あくまでも家ではくつろげることが重要
親が子どもを褒めることの難しさ
良かれと思っての言葉がけが子どもを苦しめることもある
子どもから話しかけてくれるということの嬉しさ
34 子どもに起きてくる変化 250
欲求や衝動性が高まる
親を避けていた子どもが、親と顔を合わせるのを嫌がらなくなる
テレビを見て笑い声を立てるようになる
欲しいものを要求しはじめる
以前にあった出来事の不満を親に話すようになる
35 押しつけないことで伸びるものがある 259
勉強しなさいと言われていないAくん
自分で問いを立てられるということ
子どもの能動性を大事に育てることの難しさ
36 子どもが失敗した時は愛情を与えるチャンス 263
こぼすのはわざとじゃない
子どもに愛情を与える絶好のチャンス
母親に余裕がなければ父親の出番
「大丈夫だよ」と言ってあげても大丈夫
37 おしゃれや化粧は自分を守る 268
退行が起きたらそれはやり直しのチャンスである
おしゃれや化粧に興味を出すのは良い兆候
38 衝動を制御する力はどう育つのか 272
わがままを聞いてもらえた子はわがままを自制できるようになる
子どもはみな衝動的である
受容的な状況でそれまで抑えられていた衝動が現れてくることがある
一見大人びて見えるような子どもが問題を抱えている場合もある
親との関係は他人との関係に引き継がれる
39 家ではくつろがせてやる 280
家ではくつろぐ、外では頑張る
制服を片付けてやる
そんなに甘くて大丈夫なのか
40 子どものペースで 285
指導しすぎる大人たち
子どもが自分のペースでいられることの大切さ
41 子どもは「嬉しい」や「悲しい」をどう学ぶのか 289
言葉はどうやって覚えるのか
高田馬場の思い出
感情を表す言葉はどのように習得されるのか
自分の気持ちが分からない――アレキシサイミアの苦しみ
「そんなの平気でしょ!」と言われてしまうと
「美味しい」や「不味い」も同じこと
42 子どもをやる気にさせる 298
やるのは子ども
いつまで指示できるか
43 自分の意見を言える子どもはどうやれば育つのか 304
自分の話を聞いてもらえた子どもは、自分の意見を言える人になる
自分の話を聞いてもらえた子どもは、相手の話を聞ける人になる
君のことを思うとお父さんはいつも勇気が出るよ
44 見守る 309
計算されたリスクをおかせ
保育園の坂道のこと
親が注意しないと子どもは転び続けるのか?
見守ることの難しさ
子どもが大きくなっても親はなにか言いたい
見守ることは放置するのとはまったく違う
45 アイスクリーム療法 317
子どもを元気にするかなり有効な方法
アイスはできるだけ多くの種類のものを買うこと
アイスを楽しんでいる時に小言を言わないこと
条件をつけないこと
片付けは親がすること
子どもが太りませんか?
なんのためにやるのか?
子どもが持っている自己制御の能力を信じる
アイスクリーム療法は親のための認知行動療法でもある
参考文献 [327]
おわりに(二〇一一年八月 田中茂樹) [328-331]
【抜き書き】
・24章「育児の不安、親の不安――置き換えの防衛」からの一節(p. 185)。
子どもに暴力が出てくる場合、親の側には次のような共通点が多く見られます。①子どもの要求を頑として受け容れない、②宗教や権威のある人の考えなどを、親が頑なかたくなに信じていて、その価値観を子どもに押しつける、などです。つまり、子どもの意見や主張を認めていないのです。〔……〕/このような状況では、子どもからの発信が伝わらないか、伝わっても聞き流されてしまい、親からの返信がありません。/そうなると、子どもは、なにか価値あるものを傷つけて、親の関心をなんとしてでも惹こうとします。/「学校に行かない」ということは、自分の人生を傷つけることです。拒食や過食、リストカットは、自分の身体を傷つけることです。家のものを壊すことは、親の財産を傷つけることです。
・冒頭の題辞から。
Mothers have to be there to be left.
――― Erna Furman
著名な精神科医のErna Furman(1926-2002)の言葉。