著者:飯田 泰之[いいだ・やすゆき](1975-) マクロ経済学。
NDC:331 経済学.経済思想
【目次】
はじめに [003-008]
目次 [009-014]
第1章 マクロ経済を見る「目」 015
1 マクロ経済を見るための国民経済計算 017
GDP統計の三原則
フローとストック
名目値と実質値
GDP統計の主要項目
2 GDP統計を使って現状を把握しよう 034
GDP統計の三面等価原則
需要項目別の寄与度分解
マクロ生産関数
セイの法則と有効需要の原理
総需要と総供給のショートサイド原則
第2章 長期経済理論としての新古典派成長モデル 061
1 新古典派成長モデルとは何か 063
成長させる力と衰退させる力
生産能力としての貯蓄と投資
ソロー・スワンの基本方程式
2 収束論と修正される新古典派成長モデル 075
収束論の政治的意味
定常状態の経済水準を決める要因
収束論への疑問としての貧困の罠
内生的成長理論
3 成長モデルから循環モデルへ 090
レオンチェフ型生産関数の意味
加速度型投資と不安定な経済状況
ヒックスの景気循環モデル
第3章 需要サイドによる景気循環モデル 105
1 有効需要の原理と45度線モデル 107
需要が決める所得、所得が決める需要
均衡GDPと望ましいGDP
内生変数と外生変数
波及効果による乗数効果
財政制度のビルトイン・スタビライザー効果
景気変動の主役としての投資
2 資産市場と貨幣市場 125
異時点間を評価する割引現在価値
安全資産利子率と資産価格
裁定条件とリスク資産の価格
貨幣とは何だろうか
貨幣供給量の決定
マネーの元となるベースマネー
貨幣需要の三形態
LM曲線の導出
第4章 マクロ経済学の基本モデルとしてのIS-LM分析 145
1 IS-LMモデルの基礎 196
大胆な仮定とワルラスの法則
IS曲線再論
LM曲線再論
乗数効果と財政政策の効果
クラウディングアウト
金融政策の効果とその影響
流動性の罠と金融政策の限界
2 IS-LMモデルの拡張と批判 170
恒常所得仮説とライフサイクル仮説
中立命題と流動性制約
減税か財政支出か
クラウディングアウトと需要主導モデルの限界
為替制度と財政政策
第5章 労働と価格のマクロ経済学 193
1 フィリップス曲線とマクロ経済学の変容 195
失業の定義問題
賃金の硬直性とフィリップス曲線
AD-ASモデル
2 マクロ経済論争と現代マクロ経済学の始まり 009
貨幣錯覚説と自然失業率
合理的期待形成と政策無効命題
再びマクロ経済学のショートサイド原則
3 マクロ経済学の現代的課題 219
フィリップス曲線は労働市場だけの問題か
フィナンシャル・アクセラレーターと人生の余裕
ゼロ金利と量的緩和
インフレーション・ターゲット
需要か供給かを超えて
おわりに――マクロ経済学の未来 [241-245]
発展編 [246-253]
(1) 生産関数と生産性
(2) ソロースワン基本方程式の導出
(3) 安全資産(債権)の理論価格
(4) リスク資産(株式)の理論価格
索引 [254-255]
コラム1 日本は既に貿易立国ではない 050
コラム2 人口減少悲観論は大げさ過ぎる 052
コラム3 再分配政策としてのインフラ投資 055
コラム4 経済効果って何ですか? 185
コラム5 国際金融から見るトランポノミクスの帰結 189
コラム6 アベノミクスの誤算と雇用者数 237
【抜き書き】
・「コラム2 人口減少悲観論は大げさ過ぎる」(pp. 52-55)
経済成長は人口の増加、資本の増加、生産性の変化に分解される……と説明すると、「これからの日本は人口減少社会に突入するのだからやはり無理だ」という主張が正しく見えてしまうかもしれません。確かに人口の減少は成長会計の上では経済成長にマイナスの影響を与えます。しかし、だからといって日本経済そのものがマイナス成長になるのは当然だという見解は言い過ぎです。
戦後日本経済の高度成長期(1955年から60年代半ば)にかけて、日本経済は年率10%以上の成長を続けました。〔……〕同時期の人口成長率は平均で1%弱にすぎません。戦後は健康寿命が延びたこともあり〔……〕、10%成長のうち労働者の増加による部分は1.5%未満とする推計がほとんどです。推計の手法によって細かな数値は変わりますが、高度成長期の10%成長は「労働1.5、資本設備2.5、生産性6」の割合で実現したと考えておけば大過ないでしょう。経済成長の肝は人口ではなく生産性なのです。
日本の生産年齢人口(15歳から64歳人口)が最も急速に減少するのは2030年代後半ですが、この時期でもその減少率は2%未満です。さらに現在も進む女性の労働参加率向上や健康寿命が延びることによる影響を考えると、実際の「働き手」の減少率は1.5%以下になると予想されています。働き手が1.5%減少することによる経済成長の低下は〔……〕最も人口減の影響が大きい時期でも、それによる経済成長率下押し効果は1%程度ということになりそうです。
経済成長の主役である生産性にとっても、人口減少の影響は暗いものではありません。人口減少に伴って生じる人手不足は、省力化技術への投資や人手不足に対応した働き方改革を促します。日本国内で空前の人手不足が生じた1980年代に、工場の無人化や小売・外食産業でのサービスのあり方の変化が生じたことを記憶されている方も多いしょう。 AI(人工知能)やロボット技術、さらには人手不足に対応するためのサービス業の効率化にとって人手不足は大きな追い風になり得ます。