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『マクロ経済学の核心』(飯田泰之 光文社新書 2017)

マクロ経済学の核心 (光文社新書)

マクロ経済学の核心 (光文社新書)

【目次】
はじめに [003-008]
目次 [009-014]


第1章 マクロ経済を見る「目」 015
1 マクロ経済を見るための国民経済計算 017
  GDP統計の三原則
  フローとストック
  名目値と実質値
  GDP統計の主要項目
2 GDP統計を使って現状を把握しよう 034
  GDP統計の三面等価原則
  需要項目別の寄与度分解
  マクロ生産関数
  セイの法則有効需要の原理
  総需要と総供給のショートサイド原則


第2章 長期経済理論としての新古典派成長モデル 061
1 新古典派成長モデルとは何か 063
  成長させる力と衰退させる力
  生産能力としての貯蓄と投資
  ソロー・スワンの基本方程式
2 収束論と修正される新古典派成長モデル 075
  収束論の政治的意味
  定常状態の経済水準を決める要因
  収束論への疑問としての貧困の罠
  内生的成長理論
3 成長モデルから循環モデルへ 090
  レオンチェフ型生産関数の意味
  加速度型投資と不安定な経済状況
  ヒックスの景気循環モデル


第3章 需要サイドによる景気循環モデル 105
1 有効需要の原理と45度線モデル 107
  需要が決める所得、所得が決める需要
  均衡GDPと望ましいGDP
  内生変数と外生変数
  波及効果による乗数効果
  財政制度のビルトイン・スタビライザー効果
  景気変動の主役としての投資
2 資産市場と貨幣市場 125
  異時点間を評価する割引現在価値
  安全資産利子率と資産価格
  裁定条件とリスク資産の価格
  貨幣とは何だろうか
  貨幣供給量の決定
  マネーの元となるベースマネー
  貨幣需要の三形態
  LM曲線の導出


第4章 マクロ経済学の基本モデルとしてのIS-LM分析 145
1 IS-LMモデルの基礎 196
  大胆な仮定とワルラスの法則
  IS曲線再論
  LM曲線再論
  乗数効果と財政政策の効果
  クラウディングアウト
  金融政策の効果とその影響
  流動性の罠と金融政策の限界
2 IS-LMモデルの拡張と批判 170
  恒常所得仮説とライフサイクル仮説
  中立命題と流動性制約
  減税か財政支出
  クラウディングアウトと需要主導モデルの限界
  為替制度と財政政策


第5章 労働と価格のマクロ経済学 193
1 フィリップス曲線マクロ経済学の変容 195
  失業の定義問題
  賃金の硬直性とフィリップス曲線
  AD-ASモデル
2 マクロ経済論争と現代マクロ経済学の始まり 009
  貨幣錯覚説と自然失業率
  合理的期待形成と政策無効命題
  再びマクロ経済学のショートサイド原則
3 マクロ経済学の現代的課題 219
  フィリップス曲線労働市場だけの問題か
  フィナンシャル・アクセラレーターと人生の余裕
  ゼロ金利量的緩和
  インフレーション・ターゲット
  需要か供給かを超えて


おわりに――マクロ経済学の未来 [241-245]
発展編 [246-253]
  (1) 生産関数と生産性
  (2) ソロースワン基本方程式の導出
  (3) 安全資産(債権)の理論価格
  (4) リスク資産(株式)の理論価格
索引 [254-255]


コラム1 日本は既に貿易立国ではない 050
コラム2 人口減少悲観論は大げさ過ぎる 052
コラム3 再分配政策としてのインフラ投資 055
コラム4 経済効果って何ですか? 185
コラム5 国際金融から見るトランポノミクスの帰結 189
コラム6 アベノミクスの誤算と雇用者数 237



【抜き書き】
・pp. 52-55

コラム2 人口減少悲観論は大げさ過ぎる

 経済成長は人口の増加、資本の増加、生産性の変化に分解される……と説明すると、「これからの日本は人口減少社会に突入するのだからやはり無理だ」という主張が正しく見えてしまうかもしれません。確かに人口の減少は成長会計の上では経済成長にマイナスの影響を与えます。しかし、だからといって日本経済そのものがマイナス成長になるのは当然だという見解は言い過ぎです。
 戦後日本経済の高度成長期(1955年から60年代半ば)にかけて、日本経済は年率10%以上の成長を続けました。その中で人口成長率は何%だったかご存じでしょうか? 同時期の人口成長率は平均で1%弱にすぎません。戦後は健康寿命が延びたこともあり、働き手の増加はもう少し多くなりますが、10%成長のうち労働者の増加による部分は1.5%未満とする推計がほとんどです。推計の手法によって細かな数値は変わりますが、高度成長期の10%成長は「労働1.5、資本設備2.5、生産性6」の割合で実現したと考えておけば大過ないでしょう。経済成長の肝は人口ではなく生産性なのです。

 ではこれからの日本、人口減少社会における経済成長はどのようなものになるでしょう。日本の生産年齢人口(15歳から64歳人口)が最も急速に減少するのは2030年代後半ですが、この時期でもその減少率は2%未満です。さらに現在も進む女性の労働参加率向上や健康寿命が延びることによる影響を考えると、実際の「働き手」の減少率は1.5%以下になると予想されています。働き手が1.5%減少することによる経済成長の低下はどのくらいになるでしょう。43頁の分解方法でのαは先進国では2/3程度です。すると、最も人口減の影響が大きい時期でも、それによる経済成長率下押し効果は1%程度ということになりそうです。
 日本よりも1人あたりのGDPの高い先進各国においては、年率2%前後の経済成長率が平均的です。ここから、日本は最悪期の2030年代末でも1%、その他の時期については1.5%程度の経済成長を期待できるということになります。
 さらに、人口減少の影響は軽微であるだけでなく、その人口減少そのものにポジティブな側面もあります。GDPとは日本国内で発生する総所得でしたね。すると、人口減少下では1人あたり所得(総所得÷人口)を計算する際の分母が小さくなっていることに気づくでしょう。総所得の伸びは鈍っても人口が減少しているならば、1人あたりの所得はむしろ増加する傾向になるのです。
 経済成長の主役である生産性にとっても、人口減少の影響は暗いものではありません。人口減少に伴って生じる人手不足は、省力化技術への投資や人手不足に対応した働き方改革を促します。日本国内で空前の人手不足が生じた1980年代に、工場の無人化や小売・外食産業でのサービスのあり方の変化が生じたことを記憶されている方も多いしょう。 AI(人工知能)やロボット技術、さらには人手不足に対応するためのサービス業の効率化にとって人手不足は大きな追い風になり得ます。
 人口減少だから成長はあきらめようという短絡的な結論に至るのは簡単です。しかしその影響の大きさを正しく把握した上で、人手不足による生産性向上がスムーズに生じるように制度・慣習を改革していくことこそがこれからの日本社会にとって必要な姿勢なのです。