contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『労働経済学入門』(大竹文雄 日経文庫 1998)

著者:大竹 文雄[おおたけ・ふみお] 労働経済学、行動経済学

【目次】
まえがき(1998年3月 大竹文雄) [003-004]
目次 [005-009]


第1章 労働経済入門 011
1.1 労働市場 012
  労働市場とはどんな市場か
  労働サービスの対価
  労働市場の分析枠組み
  労働供給と労働需要
  労働市場の均衡
1.2 労働市場の動き 017
  ストックとフロー
  労働力の状態
  内部労働市場
  賃金格差,失業


第2章 労働市場をみる 021
2.1 賃金と雇用量はどう決まるか 022
  労働供給曲線とは
  労働需要曲線とは
  賃金率と雇用量の決宗
2.2 市場の需給バランスの変化 028
  さまざまなショックによる影響
  アメリカの賃令格差拡大
  「団塊の世代」と賃金
  年金・保険料の負担
  外国人労働者の効果
2.3 独占的な労働市場 037
  買手独占の市場とは
  賃金の決まり方


第3章 労働供給とは 041
3.1 労働力の測り方 043
  労働力率の推移
  労働供給はどう決まるか
  所得・余暇撰好モデル
  所得効果と代替効果
  留保賃金
3.2 労働供給関数 050
  労働供給関数とは
  既婚女性のパートタイム労働
  労働時間の長さとの関係
3.3 家計生産モデル 054
  家計の生産活動
  所得効果と代替効果
  家事はどう分担するか
  夫婦の働き方の組み合わせ
  出生率の決定


第4章 労働需要の決まり方 063
4.1 生産要素としての労働 064
  生産関数
  生産と労働需要の関係
  フリーエージェント制度にみる需要決定
  長期の労働需要曲線
  労働にとって代わる要素
4.2 雇用調整 072
  雇用調整にかかる費用
  解雇制限法の影響
  労働時間の調整


第5章 年功賃金制度 079
5.1 「年功」賃金制度とは 080
  制度の発祥
  何が「年功」なのか
  賃金の上がり方は他国と比べてどうか
5.2 年功賃金制度の理論的説明 084
5.3 人的資本理論による説明 085
  一般訓練モデルにおける賃余プロファイルと訓練費の負担
  企業特殊訓練モデルと訓練費の負担問題
  シェアリング・モデル
  内部昇進モデル
  離職抑制モデル
  自己選抜モデル
5.4 情報の不完全性と年功賃金制度 090
  インセンティブ・モデル
  信頼度上昇モデル/マッチング・モデル
5.5 資本市場の不完全性と年功賃金 093
  労働者出資仮説
  生活費保障仮説
5.6 「ねずみ講」としての年功賃金 095


第6章 長期雇用制度 097
6.1 長期雇用制度の特徴 098
  制度の発祥
  労働市場流動性の国際比較
  日本の労働市場は流動化しているか?
6.2 長期雇用制度のメリット・デメリット 106
  企業特殊熟練仮説
  マッチング仮説
  低い離・転職率のメリット
  低すぎる離・転職率のデメリット
6.3 長期雇用を促進する制度 109
  (1) 勤続年数にともなって増加する賃金制度(年功賃金)
  (2) ポータビリティのない退職金・企業年金制度
  (3) 他企業より高い賃金
  (4) 高い企業特殊熟練
  (5) 企業別の労働協定
  (6) 退職金にかかる税制上の措置
  (7) 労働法
  (8) フリンジ・ベネフィットにおける税制面・長期勤続の優遇
  (9)雇用保険制度
6.4 日本人の離・転職率が低い理由の文化的要因 114


第7章 労働者のキャリアと昇進 115
7.1 労働者のキャリア 116
  ブルーカラー労働者
  分離方式と統合方式
  大卒ホワイトカラー
7.2 査定と昇進・賃金決定 119
  日本の大企業の査定・昇進制度の特徴
  危険とやる気のトレードオフ
  引き抜き防止策としての遅い昇進
  インセンティブとしての昇進制度
  労働者の能力に関する情報の非対称性
  将来のキャリアアップとやる気


第8章 労働組合の役割 125
8.1 企業別組合 126
  労働組合の成立
  労働組合の組織率の低下
  組合の目的
  独占組合
  企業の等利潤曲線
  効率的契約
  組合の賃金引き上げ効果
  組合とフリンジ・ベネフィット
  組合と賃金格差
8.2 組合の生産性効果 135
  退出・発言仮説
  労働組合と企業利潤


第9章 さまざまな賃金格差 137
9.1 労働環境と賃金格差 138
  さまざまな条件
  労働者の選好
  企業の等利潤曲線
  東京一極集中と補償賃金格差
9.2 学歴間の賃金格差 143
  格差の現状
  学歴間賃金格差の理論
  教育の収益率――人的資本理論
  人的資本モデルからわかること
  シグナリング・モデル
  シグナリング均衡
  4つの特徴
9.3 産業間・規模間の賃金格差 152
  金融業の賃金はなぜ高いのか
  3つの理由
  1 競争的市場モデルによる説明
    (1)観察されない能力差の存在/(2)観察されない労働環境の差の存在
  2 効率賃金仮説
  3 レント・シェアリング・モデル
9.4 男女間の賃金格差 160
  格差の現状と要因
  ベッカーの差別仮説
  統計的差別の理論
  統計的差別の解消策
    [長期勤続者の事前識別]/[訓練費の企業負担の解決]


第10章 失業と労働市場 167
10.1 「失業」とは 168
  失業率と有効求人倍率
  ベバリッジ曲線と有効求人倍率
  高すぎる賃金による失業
  職探しと求人情報
  職探しと賃金
10.2 ジョブサーチの理論 174
10.3 異時点間の代替性 177
10.4 部門間移動 179
10.5 効率賃金仮説 180
10.6 インフレーションと失業のトレードオフ 181
  フィリップス曲線
  自然失業率


リーディング・リスト 186
索引 [195-198]


◆コラム◆
コースの定理 068
離職率と平均勤続年数の逆転 100
効率賃金モデルと失業・二重構造・終身雇用 159
効率賃金仮説の代替的根拠 182




【抜き書き】


□pp. 95-96

   6 「ねずみ講」としての年功賃金
 高齢者が少なく若年者が多いというピラミッド型の労働者構成のもとで成り立つ賃金制度が、年功賃金制度であるとする考え方を「ねずみ講」仮説と呼びます。
 この仮説では、賃金上昇をあたかも賦課方式の年金制度のように考えます。賦課方式の年金制度とは、現役勤労者から徴収した年金保険料収入を、その時点の退職者に対する年金給付の財源に用いる年金制度のことです。
 これに対して、個々の勤労者が支払う年金保険料収入を積み立てておき、その積立金をその労働者が退職した際の年金給付の財源にあてる年金制度を、積立方式の年金制度といいます。
 「ねずみ講」仮説では、多数の若年労働者が少数の高年労働者の賃金を支払う形のものとして、年功賃金を捉えるのです。
 この場合、若年労働者は、生産性より低い賃金を受け取ります。その差額が、高齢者の賃金と生産性の差を充填するのに用いられるのです。この事実上の賦課方式の年金制度に基づく年金の収益率(年功賃金の傾き)は、若年労働者の数が多いほど、また労働者の生産性の上昇率が高いほど、大きくなります。
 この仮説にもとづけば、人口の高齢化により年功賃金制度の維持は困難になるといえます。これに対し、「ねずみ講」仮説を除く仮説は、個人の生涯の生産性と生涯賃金は等しいという意味で、積立方式の年金制度と同じ枠組みで年功賃金制度が説明されています。
 「ねずみ講」仮説の問題点は、競争的労働市場を前提とすると説明が難しいことです。若年者がどの企業に就職するかを考えた場合、高齢者が比較的多い企業には、誰も就職しないことになります。したがって、人口の高齢化力葡生じることが予測されていれば、「ねずみ講」方式の年功賃金制度をとる企業が若年労働力を確保することはできないでしょう。
 また、企業は成長衰退を繰り返すものですが、成長だけを前提とした賃金制度が若年労働者の支持を得られるのでしょうか。
 もっとも、多くの労働者が企業というものは成長を続けると信じていたならば、ねずみ講がなくならないのと同じように、この方式の年功賃金が成立していたと考えることもできます。

□巻末の読書案内から、幾つか(私が興味を抱いた分野のみ)抜粋。

    リーディング・リスト

 本書は、コンパクトに労働経済学の考え方を紹介することに重点をおきました。現実のデータの解説やより高度な議論については、ここで紹介する文献を読まれることを勧めます。
 本書と同じように初学者を対象としていながら、現実のデータや制度について詳しく書かれた本が、中馬・樋口(1997)です。この本は、本書と補完関係にあるといえます。小池(1991)は本書でも随所に研究成果を紹介した小池教授の研究成果をまとめたテキストです。樋口(1996)は、本書より広範囲のテーマを詳しく説明しています。同じレベルの教科書として、大橋他(1989)があります。その上のレベルの教科書として中馬(1995)、石川(1991)があります。
 労働経済学を勉強する上で、労働法の知識は不可欠です。菅野(1996)、山川(1996)は、法律学の専門家以外にもわかりやすく書かれています。
英語文献では、Borjas (1996)、Ehrenberg and Smith (1994)、Filer、Hamermesh and Rees (1996)が優れたテキストです。Borjas (1996)は、理論的解説に優れています。一方、Ehrenberg and Smith (1994)およびFiler, Hamermesh and Rees (1996)は、具体例も豊富です。内部労働市場に関する英文文献としては、Lazear (1995)およびMilgrom and Roberts (1992)を勧めます。大学院レベルの文献としては、Ashenfelter, Orley and Richard Layard (1986)がその時点までの研究をまとめています。


第6章 長期雇用制度
 長期雇用制度の歴史的説明は、尾高(1993)を参考にしています。長期雇用制度の最近の動向については樋口(1991)、OECD(1993)、日本銀行(1994)、中馬(1997)が参考になります。退職金制度の退職抑制効果については、清家(1995)、労働省(1996)に分析があります。転職行動の文化的要因については、小野(1989)、Blinder and Krueger(1996)が参考になります。

大竹文雄猪木武徳(1997)「労働市場における世代効果」、浅子和美・福田慎一・吉野直行 編『現代マクロ経済分析』所収、東京大学出版会
尾高健之助(1993)「『日本的』労使関係」、岡崎哲二・奥野正寛 編『現代日本経済システムの源流』所収、日本経済新聞社
小野旭(1989)『日本的雇用慣行と労働市場東洋経済新報社
清家篤(1995)「退職金・企業年金の経済効果」、猪木武徳樋口美雄 編『日本の雇用システムと労働市場』所収、日本経済新聞社、pp. 229-255.
中馬宏之(1997)「経済環境の変化と中高年の長期勤続化」、中馬宏之・駿河輝和 編『雇用慣行の変化と女性労働』所収、東京大学出版会
日本銀行(1994)「我が国の雇用システムについて」、『日本銀行月報」3月、pp.13-45
樋口美雄(1991)『日本経済と就業行動』東洋経済新報社
労働省(1996)『平成8年版労働白書』日本労働研究機構。
Blinder, Alan S. and Alan B. Krueger (1996) “Labor Turnover in the USA and Japan: A Tale of Two Countries”, Pacific Economic Review;1 (1), June, pp. 27-57.
OECD (1993) “Enterprise Tenure, Labour Turnover and Skill Training” Employment Outlook, pp.119-155.


第8章 労働組合の役割
 労働組合の歴史に関する本文の記述は、尾高(1993)を参考にしています。労働組合の経済分析については、橘木・連合総研(1993)、Booth(1995)がさまざまな立場から分析を行っています。労働組合の生産性効果については、Freeman and Medoff(1984)、村松(1983,1984)、中村ほか(1988)、野田(1997)の分析があります。
尾高健之助(1993)「『日本的』労使関係」、岡崎哲二・奥野正寛 編『現代日本経済システムの源流』所収、日本経済新聞社
橘木俊詔連合総研 編(1993)『労働組合の経済学』東洋経済新報社
中村圭介・佐藤博樹・神谷拓平(1988)『労働組合は本当に役に立っているのか』総合労働研究所。
野田知彦(1997)「労働組合と生産性」、『日本労働研究雑誌』No.450、pp.36-47.
村松久良光(1983)『日本の労働市場分析』白桃書房
村松久良光(1984)「離職行動と労働組合」、小池和男編『現代の失業』所収、同文館
Booth, Alison L.(1995) “The Economics of the Trade Union”, Cambridge University Press.
Freeman, R., B. and J.L. Medoff (1984) “What Do Unions Do?”Basic Books.(邦訳、島田晴雄・岸智子 訳『労働組合の活路』日本絵生産性本部)

第10章 失業と労働市場
 失業の理論的分析に関して、より詳しくは、Borjas(1996)を勧めます。サーチ理論については、Mortensen(1986)が優れています。余暇の異時点間代替については、Lucasand Rapping(1969)によって提唱されました。部門間移動については、Lilien(1982)が提唱しました。効率賃金仮説については、Yellen(1984)が簡潔に展望しています。

Boljas, George J. (1996) “Labor Economics,”McGrawHill.
Lilien, DavidM. (1982) “Sectoral Shifts and Cyclical Unemployment,” Journal of Political Economy 90, pp.777-793.
Lucas, Robert E. and Leonard Rapping (1969) “Real Wages, Employment and lnflation,” Journal of Political Economy 77, pp.721-754.
Mortensen, Dale T. (1986) “Job Search and Labor Market Analysis,” in Orley C. Ashenfelter and Richard Layard, eds., Handbook of Labor economics, Vol.2, North-Holland Publishers, pp.849-919.
Yellen, Janet L. (1984) “Efficiency Wage Models of Unemployment,” American Economic Review; 74(2), May, pp.200-205.