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『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美 新潮新書 2014)

著者:佐藤 留美[さとう・るみ](1973-) ライター。
NDC:317.4 国家試験
NDC:366.29 職業、職種、職業紹介、職業訓練、就職


佐藤留美 『資格を取ると貧乏になります』 | 新潮社


【目次】
はじめに [003-009]
目次 [011-015]


第1章 イソ弁にさえなれない――弁護士残酷物語 017
  5人に1人は「生活保護受給者並み」の所得
  たった10年で2倍に
  突出して多い30代
  「法科大学院修了者7~8割合格」の空手形
  三振が怖い
  数合わせだった「3000人構想」
  三流大学にも法科大学院が出来たワケ
  失敗の理由
  法学部まで巻き添えに
  需要がない組織内弁護士
  類似資格の存在
  事件数もピークアウト
  国選弁護人の仕事も奪い合い
  8割超の法科大学院が定員割れ
  試験対策はやっぱり予備校頼み
  すさまじいカースト構造
  予備試験という抜け穴
  司法修習も自腹に
  最初の弁護士業務は「自分の自己破産」?
  「ケー弁」現る
  過払い金バブル
  使い捨てされた若手の行き先
  弁護士がすし屋になっちゃった!
  「過払い組」は福島を目指す
  ボランティア活動が食い扶持に
  始まったディスカウント競争
  「特別負担」の憂鬱
  エリートは霞が関を目指す
  有望株は「リーガル商社マン」
  「食べログ」みたいにランク付けされる?


第2章 “待機合格者”という生殺し――公認会計士の水ぶくれ 082
  “待機合格者”が続出
  公認会計士も10年で2倍に
  金融庁経団連が後押し
  「給料半年分あげるから出ていってくれ」
  狙い撃ちされた「会計バブルの申し子」たち
  若手リストラの酷い手口
  会計大学院は入ると損をする
  リストラ組の行き先
  「企業財務会計士」という詐術
  経団連の拒否
  IFRS強制適用の時限爆弾
  日本の会計士資格はガラパゴス


第3章 爺ちゃんの茶坊主になれ!――税理士の生き残り作戦 107
  「足の裏にくつ付いたご飯つぶ」
  月5万円の顧問料が5000円以下に
  記帳代行業務も壊滅状態
  全自動会計クラウドサービスの衝撃
  e-Taxでも出る幕ナシ
  マイナンバー制度導入で個人客はいなくなる?
  営業に引っかかるのはケチな客ばかり
  税理士を変えると税務調査が来る?
  「節税コンサルタント」になれるか?
  仲間の足もとを見る元国税
  不動産屋、生命保険代理店になる人も
  会計士の首に鈴を付けられるか?
  全員で「オース!」
  箔付けに集団で著書を出す
  税理士事務所が税理士を採らない理由


第4章 社会保険労務士は2度学校へ行く 135
  10年前から1万人増
  人気の理由は独立・開業のしやすさ
  親に「テヘペロ」で食いつなぐ
  ボトルネックは独占業務の少なさ
  「うざい社員」になるから転職できない
  恐怖の「ヒヨコ食い」
  笑顔の練習に励む中年社労士の悲哀
  今度は先生として資格予備校に逆戻り
  合格祝賀会写真のウソ
  人気講師はホスト並みの口のウマさ
  やり手は生保営業マンと組む
  沖縄というオイシイ穴場
  鬱病患者の「障害年金」申請でひと儲け


第5章 TOEICの点数が上がると英会話が下手になる 154
  受験者数230万人超
  「TOEIC採用」はもはや下火?
  英会話が出来るようになるとスコアが下がる
  900点でも半数は喋れない
  「ガラパゴス化した経産利権」
  安倍政権はTOEFLへの移行を推進
  先進企業は「英語面接」
  結局は「話す内容」


第6章 それでも資格を取りたいあなたのために 168
  アドバイスその1・サラリーマン根性を捨てる
  アドバイスその2・資格にこだわり過ぎず、まずは就職を
  アドバイスその3・サラリーマンになったらサラリーマンになりきる
  アドバイスその4・人が行かない「空白地帯」を目指す
  アドバイスその5・出来ない仕事も引き受ける
  アドバイスその6・顧客の話し相手になる
  アドバイスその7・先輩を頼る


おわりに(2014年1月 佐藤留美) [184-187]



【図表一覧】
図1 弁護士数の推移(1950年~2013年)(出典:弁護士白 2013年版) 021
図2 弁護士男女別年齢別構成 021
図3 弁護士1人あたりの民事事件・家事事件数――1人あたりの事件数の多い順(出典:弁護士白 2013年版) 040
図4 2012年司法試験法科大学院別結果(出典:日本経済新聞2013年4月30日朝刊) 043
図5 司法試験合格から司法修習終了までの流れ(「伊藤塾」ホームページを参照) 052
図6 公認会計士試験から登録までの流れ(出典:金融庁) 085
図7 公認会計士の数の推移(各年12月末日現在)(出典:日本公認会計士協会) 092
図8 税理士登録者・税理士法人届出数(平成25年10月末日現在)(出典:日本税理士会連合会ホームページより) 109
図9 税理士の年齢構成(2013年1月1日時点)(出典:日本税理士会連合会) 117
図10 「社会保険労務士試験合格者のデータ」(出典:社会保険労務士試験オフイシャルサイト) 140
図11 TOEICテスト受験者数の推移(出典:一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会) 158
図12 主な英語テストとその特徴 166




【抜き書き】
※西暦は四桁表記に戻した。
※週刊誌同様に無駄な括弧が多い。読みにくいがそのままにした。


◆pp. 5-7

 資格を取り巻く世界がおかしなことになっている――。
 このテーマに関心を抱いた私は、3年ほど前から、弁護士、会計士、税理士、社会保険労務士などの国家資格、あるいはTOEICなどの英語能力試験、OLが飛びつきがちな仕事に直結しない趣味系資格の実態を探る取材を始めた。その結果、明らかに違和感を抱かずにはいられない事実が続々と浮かび上がってきた。
 それを一言で言うと、こうした資格は、人の不安に乗じて稼ごうとする意図が見え透いた「コンプレックス商法」の商品になりつつある、ということだ。
 民間資格は非常に分かりやすい。「○○式リフレクソロジスト資格」なんて、平たく言えば、マッサージ屋が「手に職を付けたい」OLの不安に付けこんで、10万円以上の金を取り“研修”させて、見せかけの資格を与え、その後安い賃金のバイト・マッサージ嬢として雇うための手段に過ぎない。
 「フードコーディネーター」とかいう資格は、合格者を増やし認知度を上げるために、一部スクールが試験前に試験内容を丸々教えていることも知った。
 単なるウォーキングを「ダイエット・エクササイズ」として商売に変えた有名人は、たかだか「歩き方」を教えるだけで、全国数万人の会員から数万円の会費を集め、「ウォーキングスタイリストマエストロ」とかいう資格を目指させる。こうして金をかき集めた結果、本人の年収は20億円とも言われ、欧州のリゾート地で「チップだけで毎月50万円かかる」程の貴族なみの暮らしを躯歌している。

 まあ、こんなバカな資格の話はどうだっていい。はっきり言ってしまえば、引っかかるほうも自業自得なのだから。
 情けないのは、国家資格でさえ、今やこうした民間の資格ビジネスと同じようなロジックが横行していることだ。
 文系資格の最高峰、弁護士を巡っては、法科大学院と資格予備校が「金のなる木」である学生の争奪戦を日夜繰り広げる。
 「食えない資格」の代表格、社会保険労務士の世界では、先輩社労士が新米社労士をかき集めて開業セミナーを開き、何の役にも立たない話を披露しては、受講料だけをくすねる通称「ヒヨコ食い」が横行する……。
 資格取得を目指す人やその周辺にも、おかしな話が花盛りだ。
 MBA(経営学修士)を取得するために“妊活”するOL(妊娠期間中にビジネススクールに通いMBAを取得する算段)。鬱病で会社を休職中だというのに、税理士や社会保険労務士資格の勉強に精を出す人々。TOEICで高得点を取るために、英会話学校を辞める人たち(英会話の熟練がTOEIC高得点に繋がらないため)。


◆pp. 60-62

   過払い金バブル
 即独のタク弁でもすぐにでき、しかも大量にあったその仕事とは、消費者金融への過払い金の返還請求や債務整理などだ。
「この仕事は、日弁連前会長で、長年消費者金融対策に熱心に取り組んできた宇都宮健児氏らが “発明”した。2006年1月、消費者金融に対して、利息制限法の上限金利である15~20%と、出資法の上限金利29.2%の間の“グレーゾーン金利”を認めないとする最高裁判所判例を勝ち取ったのです。これにより、消費者金融に利息を払い過ぎていた人が、その返還請求を行えるようになり、確定した判決に基づいてどういうパターンで返還請求すればいいかシステマチックな道筋が出来た。この実務は、消費者金融に通知を送り、返済記録を取り寄せ、利息制限法に従って手直し計算して、過払い分を請求する至って簡単な、普通の事務員でも誰でもできる仕事です。しかも請求しさえすれば必ず勝てる。なおかつ、弁護士報酬は取り返した過払い額の21~25%もあり、いわゆるオイシイ仕事になった。だから、2〜3年前には、過払い金返還請求専門の事務所が乱立。商売っ気の強い弁護士が車内広告をバーンと打って、何億と稼いだんです」(都内中堅事務所勤務の弁護士)
 そうした、過払い金返還請求専門の事務所は潤い、体力があったから、職にあぶれた新米弁護士を多数雇ったし、即独のタク弁に仕事を“外注”することも頻繁だった。
 ところが、2010年には消費者金融大手の武富士が事実上、倒産。プロミスが三井住友グループへ、アコム三菱東京UFJグループへと吸収された。
 これにより、過払い金返還の請求が困難になった上、司法書士規制緩和の波に乗り、請求金額が140万円以下の案件について簡易裁判所に訴えを提起することが出来るようになったことから、過払い金返還請求の仕事に“進出”。
司法書士はより安いフィー(報酬)で、140万円以下の過払い金返還請求を代行するようになり、弁護士の仕事を奪って行きました」(都内中堅事務所勤務の弁護士)
 過払い案件を巡り、弁護士同士が、そして弁護士と司法書士が、血みどろの“ダンピング合戦”を展開。そうこうしている間に過払い案件は激減し、あれほど吹き荒れた“過払いバブル”は終了した。
 こうして、過払い金返還請求専門の弁護士事務所は、「はい、おしまい」とばかりに、若手弁護士を使い捨て、即独のタク弁も、多くの仕事を失ったと言う。



◆pp. 68-69

 もう一つ、一部の若手弁護士が、「ポスト過払い」の新領域として注目しているのが、「ADR」だ。ADRとは、Alternative Dispute Resolution の略。裁判外紛争解決手続お よび裁判外紛争解決機関のことだ。
 2007年に「ADR法」が施行されて以来、交通事故、建築、個別労働紛争、不動産、離婚、相続、医療、知的財産、国際商事紛争など多様な分野に渡って、法廷以外の場で紛争を解決する動きが盛んになっている。そこで、各地の弁護士会は、多くの仲裁センターを設立。「その一つが、原子力損害賠償紛争解決センター。ここの調査官として、百人単位で若手弁護士が流入している」(中堅弁護士事務所パートナー)。
 だが、それも過払い金の返還業務の人材吸収力には、比べるべくもない。



◆pp. 161-163

 そもそも、英語能力を測る試験は、昔からある英検(実用英語技能検定)やTOEFL、IELTSなどたくさんある。
 では、なぜ日本企業は、TOEICばかりを有難がるのか? TOEICが爆発的に普及したのは、5565円という受験料の安さによるところが大きい。
 企業が、「TOEIC高スコアでも英語が喋れない社員問題」を認識していながらも、スピーキングとライティングの能力もしっかり測ることで定評がある米国発のグローバルなテスト「TOEFL」の採用に踏み切れないのは、TOEFL受験には最低、225USドルが必要で、TOEICと比べて4倍近い値段の開きがあるからだろう。
 万人単位の社員を抱える大企業が、社員に一斉にテストを受けきせるとなると、この差額は甚大だ。それに、そもそも日本でのTOEFL受験はPC上でしか可能でないのも、厄介な問題となる。社員を大会議室に集めて一斉にパソコンに向かわせるにしろ、個々人で受けさせるにしろ、管理の手間が恐ろしくかかってしまう。

   安倍政権はTOEFLへの移行を推進
 だが、安倍晋三政権は、13年6月に打ちだした成長戦略の中で、既にTOEFLへの移行を推進している。大学入試や卒業認定へのTOEFL等の活用を促進する――。そう明言しているのだ。日経新聞の報道(2013年9月17日付)によると、世界160か国・地域に受験者がいるTOEFLは大学入試や入社試験など世界中で利用できる点が優れているという。
 そして、驚くことに、この報道によると、政府の産業競争力会議で民間議員を務める楽天の三木谷会長が、TOEFL移行を推進したらしい。あれほどTOEIC高得点に執着した人が今度はTOEFLに鞍替えとは随分調子のいい話だが、裏を返せばTOEICの問題点に気付いたということか。語るに落ちるとは、まさにこのことだ。
 それにしても、イデオロギーに振り回される方はたまったものではない。


pp. 170-171 

   アドバイスその1.サラリーマン根性を捨てる
 これまで資格職の若手のシビアな就職問題について書いてきたが、プロフェッショナルの若年失業率が高いのは、世界的視点で言うなら当たり前のことだ。
 欧米では、資格職に限らず、ホワイトカラーの全ての仕事の採用は、欠員補充が基本で、その職務がすぐに出来る人を求める。それが出来ない人は、応募資格さえない。だから、実務経験に乏しい若者は、シニア層に比べ圧倒的に失業率が高い。15~24歳の若者の失業率は、日本は9.1%なのに対し、フランスで22.8%、イギリスで18.9%に及ぶ。
 日本のように何のスキルもない若者を一括で「新卒採用」し、イチから育成するシステムは、欧米ではほとんど存在しないのだ。裏を返せば、日本くらい若者が就職しやすい国はない。
 欧米の若者は、大学を出ると公的な研修機関の門戸を叩き、トレーニングを受ける。あるいは、アルバイトやインターンとして企業で働き、経験を積むなどして実務能力を鍛える。
 『世界の若者と雇用』(OECD編著 濱口桂一郎監訳・明石書店、2011年)という本を読むと、そうした事情がよく分かる。この本で驚くべきは、世界レベルでいうところの「勝ち組」と呼ばれる層の解釈だ。
 そこには、①学校を卒業後の5年間のうちの7割以上において、組織に雇用されている、②学校卒業後、就職先を見つけるまでの期間が6か月以内の者、と定義されていた。この定義を適用するなら、日本の資格職の就職事情のほうが、国際的に見てまだ恵まれていないか。
 だいたい、資格職を選んだということは、潜在能力を買われてダダでトレーニングをして貰える日本の「企業人」としてのキャリアを捨てたということだ。プロフェッショなナルとして生きると決めたからには、日本型の「就職できて当たり前」という常識は捨て、経験を積んで能力が高くなるまでは就職に苦労するくらいで当たり前と腹を括り、国際標準の常識に従うべきだろう。