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『日本語の歴史――青信号はなぜアオなのか』(小松英雄 笠間書院 2001)

著者:小松 英雄[こまつ・ひでお] (1929-) 日本語史。

日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか

日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか

日本語の歴史 青信号はなぜアオなのか

日本語の歴史 青信号はなぜアオなのか

※新装版あり。

日本語の歴史: 青信号はなぜアオなのか[新装版]

日本語の歴史: 青信号はなぜアオなのか[新装版]


【目次】
Contets [i-iii]
はしがき(2001年9月 小松英雄) [001-007]
凡例 [008]


0 イントロダクション――日本語史の知識はどのように役立つか 010
0.0 素人論からの脱却 010
0.1 時間軸上の現代日本語 014
0.2 有用性という視点 016
0.3 変化の予測 019
0.4 安易な予測 022
0.5 日本語史のルツボとしての現代日本語 024
0.6 政治史/文化史/文学史に密着した国語史の限界 026


1 日本語語彙の構成 031
1.0 文字づかいの裏にあるもの 031
1.1 みっつのグループ 032
1.2 活写語 037
1.3 活写語の機能 038
1.4 活写語に残った[p] 042
1.5 活写語の柔軟性 043
1.6 カタカナ語 045
1.7 語彙の変動に連動する変化 048
1.8 複合名詞の語構成 050
1.9 2音節名詞の語構成(1) 052
1.10 2音節名詞の語構成(2) 056
1.11 単音節名詞から多音節名詞へ 057
1.12 単音節語のまま残った名詞 060
 

2 借用語間のバランス 063
2.0 カタカナ語使用の是非 063
2.1 二重言語・日本語 065
2.2 現代語における漢語のジレンマ 067
2.3 古代中国語からの借用 072
2.4 借用語の語形 074
2.5 漢語以前 075
2.6 語音結合則、語源の解明 077
2.7 『源氏物語』の漢語 078
2.8 大徳、消息、博士 081
2.9 類似したふたつの語形の共存 083
2.10 ハカセとハクシ 086
2.11 ビビンバという語形 088
2.12 借用語の語形 091
2.13 漢語の語形 093
2.14 語彙の集団差、個人差 094
2.15 漢文の時代か英語の時代へ 097
2.16 雇用のソーシツ 099
2.17 外来語からカタカナ語へ 102
2.18 漢語の漢字ばなれ 104
2.19 デッドロック 106
2.20 2/2のモデル 108
2.21 ハショリ型、ツギハギ型 110
2.22 ロックする、チェックする 114


3 言語変化を説明する――怪しげな説明から合理的説明へ 118
3.0 言語変化 118
3.1 唇音退化 119
3.2 唇音退化ついての疑問 122
3.3 発音労力の軽減、発音のナマケ 124
3.4 怪しげな説明 126
3.5 専門用語のトリック 129
3.6 母と狒々〔ひひ〕 129
3.7 ファファ、ファワ、ファファ、ハハ 133


4 音便形の形成から廃用まで 139
4.0 俗説を駆逐して真実を探る 139
4.1 音便の枠付け 140
4.2 音便という名称 142
4.3 予備的検討 144
4.4 スラーリング【slurring】が新しい語形を生む 146
4.5 音便形の形成 149
4.6 音便形の機能 151
4.7 音便形の整備 154
4.8 日本語史からみた音便形形成の意義 155
4.9 文体指標の多様化 159
4.10 言語現象を包括的に把握する 162
4.11 オナイドシという語形 165


5 日本語の色名 167
5.0 ふとした疑問から 167
5.1 青信号の色はアオではない? 168
5.2 ふたつの原則 169
5.3 規範と記述 170
5.4 辞書の説明 172
2.5 現代語のアオ 175
5.6 日本語の色名 178
5.7 色名の進化過程 179
5.8 『土佐日記』のアヲ 182
5.9 アヲウナハラ、アヲブチ 183
5.10 ミドリ 187
5.11 ミドリコ 190
5.12 海のミドリ、空のミドリ 191
5.13 現代日本語の色名 192
5.14 キからキイロへ 195
5.15 形容詞キーロイの形成 199
5.16 チャイロ、チャイロイなど 200
5.17 紺青 202


6 書記テクストと対話する 210
6.0 書記テクストの声に耳を傾ける 210
6.1 クレノアヰ 213
6.2 国語辞典、古語辞典の説明 215
6.3 カラアヰ、クレノアヰ、クレナヰ 216
6.4 クレナヰとクレノアヰ 220
6.5 書記テクストの取り扱い 223
6.6 証明の手順 226
6.7 語形の縮約と語構成の透明度 229
6.8 カラクレナヰ 231


7 係り結びの機能 235
7.0 掛かり結びを古典文法から救い出す 235
7.1 センテンスを中断する 236
7.2 係助詞ゾの機能 239
7.3 係助詞ナムの機能 242
7.4 ディスコースにおける係助詞ゾ、ナムの機能 245
7.5 係助詞コソの機能 248


索引 [253-256]




【抜き書き】


◆ 「4.2 音便という名称」より、国語学宣長の関係についての余談(pp. 142-143)。

 「発音の便宜」という説明には、つぎのようなウラがある。
 本居宣長は、『漢字三音考』で、「皇国ノ音声」のすばらしさを、つぎのように賛美している。

 〔……〕

 音の数が50では濁音が余る計算になるが、つぎのような理屈でツジツマを合わせている。その認識を支えているのは五十音図である。


○ 弱音ハタダ清音ノ変ニシテ。モトヨリ別ナル音ニハ非ル故ニ。皇国ノ正音ニハ。是ヲ別ニハ立テズ。[皇国ノ正音]


 「凡テ濁ハ其中下ニノミアリ」[皇国ノ正音]と記されているから、活写語は無視されている。
 日本語の音は純粋正雅であったが、中国語からの借用語が浸透してくると、卑しい外国音に汚染されて、日本語の音がおかしくなり、その結果、音便を生じるようになったというのが彼の見解である。
 国学者として当然ながら、コチコチの国粋主義である。現今の国語学国粋主義の色彩は希薄であろうが、こういう考えに貫かれた国学者の研究を忠実に継承していることは歴然たる事実である。本居宣長は現行の国文法の祖にあたる。


◆ 「6.0 書記テクストの声に耳を傾ける」より、抜粋についての著者の考えが表れた一節。(p. 211)。

 ここで告白すれば、このような人目を書く過程で、いちばん気が咎めるのは、用例を引用することである。叙述の流れのなかから一部分だけを切り取ったら赤い血がほとばしる。和歌なら短いから血が出ないだろうというわけにはいかない。丹念に編纂された歌集のなかで、個々の和歌は流れのなかに位置づけられているからである。詞書を切り離すことは許されないし、固有名詞はともかく、男性の作か女性の作かは、解釈を大きく左右する場合がある。特に「恋」の部の「詠み人知らず」は、しばしば作者の性別を隠す手段になっている[『古典和歌解読』]。たとえば、和歌の用例に基づいてアラヤギの意味を解明するのに十ページぐらいは必要なのに、数行で済ませなければならないので(→5.10)、和歌はなるべく引用したくない。用例を引用するのは必要悪だと筆者はあきらめている。そういう制約のなかで、文脈が把握できる最小限を切り取ったものであるから、用例のトバシ読みをしないでいただきたい。