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目次とメモを置いとく場

『大阪ソースダイバー ――下町文化としてのソースを巡る、味と思考の旅。』(堀埜浩二, 曽束政昭 ブリコルール・パブリッシング 2017)

著者:堀埜 浩二[ほりの・こうじ] (1960-) ライター、イベントプロデューサー。
著者:曽束 政昭[そつか・まさあき] (1968-) ライター。
装丁:水野 賢司[みずの・けんじ] グラフィックデザイナー、アートディレクター。オフィス キリコミック
NDC:383.816 風俗習慣.民俗学 >> 衣食住の習俗 >> 近畿の飲食史


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【目次】
はじめに [002-005]
目次 [006-009]


序章 ソースから眺める、あの頃の下町 011
  高度成長期と大阪 
  ソースダイバー的「大阪の下町」
  家庭の食卓におけるソースのポジション
  昭和の下町の風景――西成から 
  飛田遊廓の塀の「中」と「外」
  「得体の知れなさ」と下町のエートス


第1章 お好み焼な街を往く 033
関西の「お好み焼き文化」試論 034
  「お好み焼き」と「お好み焼
  お好み焼きの起源、そしてソース
  「粉もん」によって遠ざかっていくもの

京阪神 お好み焼きな街と店 044
【大阪】
  キタ 044
  ミナミ 050
  天満 056
  西九条・千鳥橋 060
  鶴橋・桃谷 064
  今里 068
  布施 072
  岸里玉出 076
  堺東 082
  岸和田 086
【神戸】
  新長田 092
  生田川 098
  阪神住吉 100
【京都】
  七条・東九条 104

お好み焼な街を往く――「まとめ」として 110


[クローズアップ]OSAKA SAUCE DIVER GRAFFITI 113


[ピックアップ]関西地ソースカタログ 
 関西の代表的地ソースだよ! 全員集合 118 
 関西地ソース21社33品 比較座談会 119


第2章 ソースメーカーの工場を訪ねて 131
イカリソース 132
  大阪ソース界の「元祖的存在」の体力やいかに
  トマトをべーすに、「隙がないバランス 味」を確立
  多様化へ向かいつつ、変わらぬ姿勢

大黒ソース 144
  大阪地ソースの、頼もしき大手
  個人経営の店を支えるオリジナルソース
  地元に愛され続ける名物ソースとして

ヘルメスソース 155
  「幻のソース」の生まれる現場へ
  ウスターソースの希少価値が「幻」に
  「幻の味」を、次世代に受け継ぐために

ヒシウメソース 164
  家族代々、親戚一同の味が下町に残る
  樽はタンクに、ガラス瓶はペットに
  地域とつながるのは作り手だけでなく


第3章 串カツと下町 173
  串カツは、新世界の食である
  はじまりの串カツ
  「二度漬け禁止」の真実
  「串カツ」と「串揚げ」
  「ソースにまみれた風景」の価値
  西成・鶴見橋に見る、下町商店街コネクション
  昼飲みの聖地・京橋で、朝から串カツ三昧
  東成区・緑橋、串カツは上町台地を超えて
  サラリーマンの小腹を支える、キタの串カツ天国


最終章 ソースと下町のパースペクティヴ 205
  「コミュニケーションの行方」と「街場の行儀」について


おわりに(2017年6月某日 堀埜浩二@大坂・安治川口にて) [214-217]
掲載エリア [218-219]
参考文献 [220-221]






【抜き書き】
・ルビは〔 〕に入れた。
・傍点は黒太字で代用した。


□まず「序章」(p. 30)から。

 ソース、コーヒー、そしてコーラ。本書ではこれらを便宜的に、「3大黒褐色液〔ダークリキッド〕」とまとめましょう。いずれもダークな黒褐色で、どこか得体の知れないところがあります。その「得体の知れなさ」を含めて、私たちはそれらを「ハイカラでおいしいもの」として、全面的に受け入れた時代があった。ソースダイバー的には、3大黒褐色液が「雑多なヒトやモノやコトが行き交う場」としての「町・街」で受け入れられたことに、大きく首肯〔しゅこう〕してしまいます。それは、先に「出身地や社会的属性が重視されず、等身大の本人こそがコミュニティの成員として受け入れらる」とした「下町のエートス」と、ピッタリと重なるからです。


□最終章の末尾(p. 212)。
 なお、私個人による大阪での経験にもとづくと、「人や街の度量」が「損なわれつつある」とは思わないので、著者とは危機感を共有していないことになる。おそらく二十年ほどの景気の低迷から食文化の変化がそれほど大きくはないという事実は確かにあるが、それを住民の気質的な変化に帰するのはまだ早い。そもそも論としては、社会が大きく変化した時代と、成熟し安定期に入った時代を(気質・精神性の点で)比べるのもかなり難しい。

  ソース、コーヒー、コーラの「3大黒褐色液〔ダークリキッド〕」のうち、何故ソースだけが「ノスタルジックな風景」に閉じ込められようとしているのか……その理由は、「ソースが下町のエートスそのものであるがゆえ」、なのではないでしょうか。ノスタルジーとは端的に、失われた/損なわれたものに対する思慕にほかなりません。翻って、異なる立場や意見、異質なものや複雑なものをいちいち排除するのではなく、ひとまず受け入れるという「人や街の度量」を下町のエートスとするならば、今まさにそれが損なわれつつある、ということにならないか。ゆえに「ソースは、下町のエートスそのものである」という宣言は、これから迎える時代――どのような時代になるのかは、私たちの双肩にかかっています――に向けてのものであるということを、強調しておきたいと思います。
  私たちは未だ、ソースを巡るストーリーの途中にいます。それは終着点もなく、どこまでいっても結論のない旅です。ソースも街も、その「得体の知れなさ」において変わらない。だから私たちは、飽きずに旅を続けることができるのです。そこにソースの手柄があるということを今一度確認して、次なる「ソースにまみれた風景」へと、向かうことにしましょう。


□「おわりに」の一節(p. 215)。著者(堀埜浩二)の趣味が開陳されている。

  また本書の執筆と並行して、私はアイドルグループ「バンドじゃないもん!」のアルバム『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』(ポニーキャニオン、2017年)を愛聴していました。わけてもアルバムの中盤、『ドリームタウン』、『秘密結社、ふたり。』、『強気、Magic Moon Night 〜少女は大人に夢を見る〜』『ロマンティック♡テレパシー』、からの『すきっぱらだいす』という圧倒的な名曲群は、ソースを巡って街を駆け抜ける際に、常にドーパミンを注入してくれました。そして「おうちにあるのは小麦粉だけ」との「すきっぱらだいす♡」のフレーズには、毎回「そんな時はネットサーフィンではなくお好み焼でっせ」とツッコミを入れなくてはならず、また女性における空腹と生死の関係やチーズの重要性などを学ぶことで、やはり「下町とソースの関係」についての軸足の据え方を、確かなものにしてくれたのでした。
  つまり本書は、中沢新一氏の『大阪アースダイバー』への斜め45度からのオマージュでありつつ、東氏の『観光客の哲学』の豊かな思想的エコーの中に揺蕩〔たゆた〕いながら、「バンドじゃないもん!」にプッシュされ続けることで成立したものであるということを、各氏への感謝とともに、ここに記しておきたいと思います。


・上記の通り、「おわりに」に於いて堀埜浩二氏より、本書完成の一助として謝辞を捧げられているとあるグループの公式サイトから、そのアルバムの収録曲一覧を転載した。私は中沢新一東浩紀については少しは知っているが、アイドルについてちっとも知らないので。

 『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』
M1:青春カラダダダッシュ
M2:キメマスター!
M3:しゅっとこどっこい
M4:夏のOh!バイブス
M5:君はヒーロー
M6:結構なお点前で
M7:YAKIMOCHI
M8:ドリームタウン
M9:秘密結社、ふたり。
M10:強気、Magic Moon Night 〜少女は大人に夢を見る〜
M11:ロマンティック♡テレパシー
M12:すきっぱらだいす♡
M13:ピンヒール
M14:YATTA!
M15:エンド・レス


【メモランダム】
・とある紀要論文に本書がひかれていた。
佐藤善信 辻村謙一(2021)「わが国におけるソース業界の競争構造分析:Kotler,Porter,Miles=Snowの3つの分析フレームワークの有効性の検証」『ビジネス&アカウンティングレビュー』27号, 29-47, 関西学院大学経営戦略研究科.