contents memorandum はてな

目次とメモを置いとく場

『国語教育 混迷する改革』(紅野謙介 ちくま新書 2020)

著者:紅野 謙介[こうの・けんすけ](1956-) 日本近代文学。評論。


筑摩書房 国語教育 混迷する改革 / 紅野 謙介 著


【目次】
はじめに [003-020]
  背中から未来に入る
  手段としての入試改革
  見えない具体案
  論理か文学か?
  言葉をきちんと読むために
目次 [021-024]


第1章 記述式試験の長所はどこに――プレテスト第1問の分析 025
  混乱する大学入学共通テスト 
  第二回プレテストの「国語」
  題材選択の本気度
  「指」が結ぶ三項関係
  記述式のリスク
  論点整理の矛盾
  複雑な条件はなぜ必要か
  記述式試験の長所が消えた
  正答の幅が狭すぎる
  テストは所詮テストである


第2章 複数の資料が泣いている――プレテスト第2問の分析 063
  法と契約の言説
  不都合な情報はオミットせよ
  「著作権」について考える
  名和小太郎著作権2.0』
  選択肢は正しいか
  正答への疑問
  著作権1.0から2.0へ
  設問相互の矛盾
  表を読む
  表現と内容
  これは「文学」である
  リスペクトの不在


第3章 教室の「敵」はどこにいる?――「学習指導要領」の逆襲 103
  試験から教室へ
  解説本、大セール
  解説の解説本
  国語の先生、君たちはもう終わっている!
  ゼロベースからの見直し
  推測に推測を重ねて
  学習指導要領とは?
  読解中心をやめる
  文学部を批判する
  打倒、訓詰注釈/曖昧な言葉たち
  「資質・能力」ベースの幻想
  どんな「能力」を伸ばすのか


第4章 「現代の国語」と「言語文化」――高校一年生は何を学ぶのか 147
  Evaluation と Assessment
  カリキュラム・マネジメントとは
  拘束力を強めよ
  言葉のマジック
  科目の性格
  「現代の国語」
  一五歳が見えているか
  比べて読む
  「現代の国語」の危うさ
  「言語文化」
  一学期の指導計画
  読まずに味わえるか
  小説が読めていない
  際立つ貧しさ
  悲しき「言語文化」


第5章 選択科目のゆくえ――間延びしたグランドデザイン 193
  言葉をどのように引き出すか
  「論理国語」
  絵に描いた餅は食べられるか
  「文学国語」
  「虎の穴」第二弾
  「文学」概念の狭さ
  「国語表現」
  自分を語るむずかしさ
  「古典探究」
  分かること、分からないこと
  「清光館哀史」の意義


第6章 国語教育の原点に立ちかえる――ことばの教育へ 231
  「学校化」の徹底
  「政治」の浸透
  「学習指導要領」のダブルスタンダード
  オープンダイアローグ
  「読むこと」と「書くこと」のサイクル
  テクストの複数性
  言葉に向き合う
  署名のある文章、署名のない文章
  小説の言葉
  会話を読む
  世界認識の形式 
  教育課程をどのように組み立てるか


あとがき(二〇一九年一二月九日 紅野謙介) [274-280]





【抜き書き】
・冒頭の「はじめに」がウェブ上で公開されている。
問題は「記述式試験」だけではなかった!|ちくま新書|紅野 謙介|webちくま




・構成

 まず第1章では、2018年11月に実施された第二回プレテストのうち、記述式問題である第1問について検討します〔……〕。このテスト分析を通して、教育改革の内実を探る手がかりにしたいと思います。
 第2章は、同じ第二回プレテストの第2問を分析してみます〔……〕。そして実用的といわれる文章を中心とした問題を第2問に持って来たのです〔……〕。その第2問でも大きな問題点があることが分かりました。
 第3章は、新しい「学習指導要領」解説のための解説本を読んでいくことにしました。どのような教育課程に基づき、どのような教育内容を計画しているのか。ここではその前提として、解説本の著者たちの現在の教育についての考え、また「学習指導要領」そのものの捉え方を、それらの本から抽出して批判的に検討してみました。
 第4章は、「現代の国語」と「言語文化」という必修の二科目について、いまどのような指導計画が組み立てられているのかを追及しました。教科書もまだ出来ていない現状においては、こうした解説本が手がかりになります〔……〕。
 第5章は、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」という四つの選択科目について検討を加えました〔……〕。
 第6章は、今回の改革の背景にある思想的な問題を押さえた上で、「学習指導要領」改訂の弱点を取り上げます。これまでの定番的な教材や小説にどのような可能性があるかを探り、複数の資料を読み、それらの情報を統合し、構造化するという目論見がまったく逆の、国語教育の迷走を招き寄せるであろうと指摘しました。

 



・前回の著作と今回の著作のねらい。ひきつづき「はじめに」から適宜抜粋した。

 その新共通テストで、「英語」「数学」とともに変更の目玉となっているのが「国語」です。一昨年、私が刊行した『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』ちくま新書)では、それまでに発表されていたサンプル問題や第一回試行調査(プレテスト)をつぶさに検討し、新たに導入された記述式試験の題材や設問の問題点、採点方式への疑念をあげ、公平性や正確さにおいてリスクが高いことを指摘しました。

高等学校の教育課程について「学習指導要領」が新たに改訂され、二〇一八年三月に告示されました。二〇二二年度からはこの指導要領に基づいた教育が実施されることになります。
 この指導要領も、「主体的・対話的で深い学び」とか、「思考力・判断力・表現力」を育てるなど、抽象的ではありますが、すっと読むだけならなるほどなと思うテーマを掲げています。〔……〕しかし、そうした目標を実現するには、どのようなカリキュラムが必要で、どのような具体的プログラムが必要かは曖昧なままでした。
 〔……〕少なくとも「話すこと・聞くこと」「書くこと」にも力を注ぐという提案に、一般論でいえばだれも反対ではありません。
 でも、それはどのようにやるのか。どこまで遵守しなければならないのか。さっぱり分かりません。見えたのは、「大学入学共通テスト」のサンプルやモデルとなる試験問題です。そこからさかのぼって、どのような国語教育が構想されているのか。前著の探究はそこから始まりました。

 「大学入学共通テスト」の第二回プレテストも、二〇一八年一一月に実施されたので、もう一つのサンプルも出てきたのです。ならば、前著では検討できなかった新たな材料をもとに、さらなる検討を行ってみようというのが本書のテーマです。



【メモランダム】


・新学習指導要領
学習指導要領「生きる力」:文部科学省


・予備校講師による同意の記事(書籍への評価ではなく、国語科のテストそのものについて)。
https://note.com/gendaibun/n/nadf09fdcabb2