著者:松薗 美帆[まつぞの・みほ] 文化人類学。マーケティング。UXリサーチ。
著者:草野 孔希[くさの・こうき] システムデザイン・マネジメント。UXリサーチ。
NDC:675.2 マーケティング(市場調査.市場予測)
はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために(松薗 美帆 草野 孔希)|翔泳社の本
【目次】
Introduction はじめに [003-009]
なぜ本書を書こうと思ったのか
UXリサーチ実践者の悩みに寄り添う
本書を手に取って欲しい人
本書が想定する実践のステージ
目次 [010-013]
問い合わせ先 [014]
Chapter 1 UXリサーチの捉え方
UXリサーチとは 016
UXリサーチの必要性が高まっている背景を捉える 017
UXリサーチのメリットを捉える 019
リリース前に小さく失敗しながら学びを増やせる
データを解釈する精度を高められる
組織づくりに使える
UXリサーチを手段として捉える 025
状況や目的に合ったサイクルを選ぶ
UXリサーチの分け方を捉える 028
探索/検証のリサーチ
探索のリサーチ
検証のリサーチ
質的/量的
質的リサーチ
量的リサーチ
UXの要素ごとのリサーチ
UXエレメント
UXタイムスパン
UXの要素を組み合わせて考える
UXリサーチとマーケティングリサーチ
定義に囚われすぎない 036
真摯なのリサーチを心がけよう
自分の好みや得意も大切にしよう
COLUMN|UXリサーチで好きなところは? 039
Chapter 2 UXリサーチの始め方
始めること自体は目的ではない 042
まずは小さく始めてみよう 043
高い専門性がなくても始められる
予算がなくても始められる
特別な設備や機材がなくても始められる
時間がなくても始められる
上司や同僚の理解がなくても始められる
実はもう始めていたUXリサーチ 046
何から始めるか 049
探索のリサーチから始める
活用例
検証のリサーチから始める
活用例
すでにあるデータの活用から始める
活用例
ひとつでも学びが得られたら前進している 052
より良いUXリサーチを目指す工夫 054
ウォークスルーをやってみる
自分1人で振り返りする
他の人にフィードバックを依頼する
他の人のスタイルから学ぶ
調査の実施だけではないUXリサーチのプロセス 054
○もっと詳しく学びたいときは 054
COLUMN|メルペイでのUXリサーチの始まり 056
Chapter 3 UXリサーチの組み立て方
UXリサーチで歩む7つのステップ 058
組み立て方の概要 059
状況を理解するには 060
プロジェクトの状況
リソース
ヒト
モノ
カネ
リソースに合わせて組み立て方は柔軟に考える
権限
問いを立てるには 065
結果の活用を考えるには 067
調査・分析作業への同席を通して共有する
レポートで共有する
ワークショップで共有・議論する
調査手順を考えるには 071
調査対象を考えるには
調査分析手法を選ぶには
調査のスケジュールを考えるには
組み立てたプランをまとめて、準備を進める 073
調査の実施手順を具体化する
調査協力者を集める準備を進める
COLUMN|調査企画書ってどう書けばいいの? 077
Chapter 4 UXリサーチの手法を知る
本章で紹介する手法 082
ユーザーインタビュー 083
どんなときに使うと良いか
組み立て方
一対一で行うか、一体複数で行うか
質問することをどれぐらい決めて臨むか
質問項目を考える
実施手順
序盤
中盤
終盤
テクニック
クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンを組み合わせる
5W3Hで深掘る
オウム返し
似ているものを挙げてもらう
リフレーミング
間接的な一般論で聞く
複数の選択肢を提示する
○もっと詳しく学びたいときは 092
ユーザビリティテスト 093
どんな時に使うと良いか
組み立て方
探索と検証
タスクとシナリオを設計する
実施時間の目安
気軽に反復できるようにする
書画カメラを活用する
実施手順
1. 事前インタビュー
2. タスクの実行
3. 事後インタビュー
実施時のポイント
思考発話をお願いする
ぐっとこらえて観察する
目撃者を増やす
注意点
実は念入りに
タスクの実施順序に注意する
良い悪いの結果だけに囚われない
コンセプトテスト 101
どんなときに使うと良いか
実施手順
1. 事前インタビュー
2. コンセプトの提示
3. コンセプトの評価
注意点
○もっと詳しく学びたいときは 103
アンケート 104
どんなときに使うと良いか
組み立て方
計画を立てる
対象者を定義する
質問を設計する
実施手順
アンケートを配信する
実施した結果を分析する
注意点
○もっと詳しく学びたいときは 107
フィールド調査 108
参与観察
訪問調査
行動観察
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 109
ダイアリー調査 110
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 110
質的データの分析手法とは 111
KA法
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 112
SCAT[Steps for Coding and Theorization]
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 114
mGTA[modified Grounded Theory Approach]
時に使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 115
KJ法
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 117
ペルソナ
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 119
カスタマージャーニーマップ
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 121
サービスブループリント
どんなときに使うと良いか
○もっと詳しく学びたいときは 122
分析手法の実務での使い方
COLUMN|質的データだけではないUXリサーチャー 124
Chapter 5 UXリサーチを一緒にやる仲間の増やし方
段階に応じた仲間の増やし方 126
まずは一度引き込んでみよう 126
UXリサーチという単語を使わず、相手の視点から説明する
小さく実績を作って共有しながら、おすすめする
実績を用いて引き込んでいった事例
キックオフとラップアップで関わりやすい雰囲気を作る
実際の流れ
継続的な関係を構築しよう 132
UXリサーチが必要な状況を察知できるようにする
UXリサーチに関する情報を蓄積して参照しやすくする
より広く・多くの人を引き込もう 134
組織の中で情報発信する
外部に情報を発信して、組織の中に伝播させる
主体的にUXリサーチを継続できる人を増やす
UXリサーチを文化にしよう 136
COLUMN|デザイナーからみたUXリサーチャー 139
Chapter 6 UXリサーチを活かす仕組みの作り方
ResearchOpsとは 142
ResearchOpsの6要素
①リクルーティングの効率化
②ガバナンス
③ツール
④ナレッジマネジメント
⑤コンピテンシー
⑥広報活動
ResearchOpsの実践例 143
①リクルーティングの効率化
リクルーティング手順を定義する
調査協力者のデータベースを構築する
スクリーニングのアンケート例を用意する
日程調整を効率化する
謝礼の管理コストを下げる
リクルーティングをルーティン化する
②ガバナンス
UXリサーチでご案内すべきことを定める
同意書を用意する
個人情報の管理ルールを作る
③ツール
ソフトウェアを整備する
ハードウェアを整備する
④ナレッジマネジメント
データを一元化する
データのアクセスしやすさを考える
⑤コンピテンシー
テンプレートを整備する
マニュアルを整備する
学習コンテンツを用意する
⑥広報活動
UXリサーチの価値を広げる
外部のパートナーと協働する 155
調査会社に相談する
リサーチアシスタントに委託する
研修やセミナーを活用する
COLUMN|UXリサーチに役立つツール 157
Chapter 7 UXリサーチのケーススタディ
事例のラインナップ 160
事例1:利用上限金額の設定機能 161
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
準備・実施・分析の進め方
コンセプトテスト
ユーザビリティテスト
結果の活用
仲間の増やし方
仕組みの作り方
事例2:maruhadaka PJ 165
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
調査全体
準備・実施・分析の進め方
デプスインタビュー
ダイアリー調査
訪問調査
結果の活用
仲間の増やし方
仕組みの作り方
事例3:おくる・もらう 180
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
準備・実施・分析の進め方
1. 戦略検討
2. サービス検討
3. マーケティングプラン検討
結果の活用
1. 戦略検討
2. サービス検討
3. マーケティングプラン検討
仲間の増やし方
1. 戦略検討
2. サービス検討
3. マーケティングプラン検討
仕組みの作り方
事例4:定額払い 189
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
準備・実施・分析の進め方
お客さまを深く理解するためのデプスインタビュー
お客さま像を俯瞰して理解するための価値の構造化とペルソナの作成
想いを固めてコンセプトを作るデザインワークショップ
ワークショップの後はコンセプトテスト
要件策定のためのユーザビリティテスト&改善
サービスを俯瞰して体験をデザインするための検討合宿
結果の活用
仲間の増やし方
仕組みの作り方
事例5:初期設定フロー 202
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
結果の活用
仲間の増やし方
仕組みの作り方
注意点
事例6:Weekly UXリサーチ 205
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
仕組みの活用
リリース前
リリース後
リニューアル
結果の活用
仲間の増やし方
仕組みの作り方
phase1:調査会社との協働
phase2:リクルーティングの内製化
phase3:リクルーティングの横断化
事例7:リモートUXリサーチ 212
どのような取り組みか
状況の理解
組み立て方
実施の仕方
仕組みの活用
リモートのメリット
結果の活用
注意点
COLUMN|UXリサーチャーのしくじり 219
Chapter 8 UXリサーチの実践知の共有
組織の中でUXリサーチの実践知を共有しよう 222
お互いの活動を観察し合う
日々の業務の中でレビューし合う
KPTをして活動を振り返る機会を作る
スキルを棚卸しするワークショップを行う
メンターに相談できる環境を作る
組織の外・業界と交流しよう 224
イベント型の情報共有をする
コミュニティ型の情報共有をする
関連コミュニティで情報発信をする
COLUMN|本を書くための調査とは? 228
Appendix 付録 [230]
あとがき [231]
【メモランダム】
本筋とは関係のない、かなり細かい点について個人的な感想を書く。
本書「7章 UXリサーチのケーススタディ」の「事例4:定額払い」(pp.189-201)は、とても興味深いが、不穏に感じられる。
この「事例4:定額払い」では、2020年7月にサービスが開始された「メルペイ定額払い」(厳密には「メルペイスマート払いの定額払い」)実装までのリサーチが紹介されている。そして私が気になったのは二点;大雑把にいうと「サービス開始の理由が建前っぽいこと」「危険性への意識が甘いこと」。
・開始した理由:「事例4:定額払い」冒頭では「どんなリサーチを行ったか」を詳しく解説しているものの、「定額払いが必要なのか」にはほとんど答えていない。書かれているのは「お客様の要望があった」という一行だけだ。
どの程度の要望が届いたのか、その量も集計方法もわからない。
・逃れるための名称
しかし私は「それはあくまで建前で、実際は企業が収益を拡大する意図で進めたのだろう」と邪推している。というのも、メルカリ以外に大手のカード会社やオンライン決済サービスを提供するいくつかの会社等でも、実質リボ払いのサービスを用意しているからだ。後述するように、すでに悪評がたってしまっている「リボ払い」という名称を避け「定額支払い」など別の名称をつけたうえで(例:ZOZOTOWNの「ツケ払い」、Kyashの「イマすぐ入金」)。
・企業側の危険性への意識不足または注意喚起の不足:「事例4:定額払い」には、この定額払いが実質的に要注意のリボ払いであることがほとんど書かれていない。負の面について言及している箇所も皆無ではないが、「使いすぎへの不安や嫌な体験をしたという声があった」と3行で済ませてある。
これは、注意喚起としては分量が足りないし、他の箇所でも定額払いにまつわる表現はオブラートで多重に包装してしまっているような印象を受ける。この点に関しては、消費者庁が「分かりづらいリボ払い」について取り上げているので、そちらを参照(意図せぬリボ払い 利用明細は必ず確認(見守り情報)_国民生活センター)。
・そもそも本当に危険なのか、については長くなるので割愛。私は「消費者サイドは注意すべき」というスタンス。つまり、「大半のユーザーはそこそこの金融リテラシーを体得していない」と「メルカリは成功したサービスなので、非常に多くのユーザーを抱えている」とを念頭に置いている。
納得しない方には、1990年代までの日本の小口金融を概観した『サラ金の歴史――消費者金融と日本社会』(小島庸平 中公新書 2021年)を参照して、金融包摂の意義と過去の社会問題を再度確認してほしい。なお『サラ金の歴史』ではリボ払いの存在感が薄いこと(そしてその代わりにサラ金が発達したこと)も指摘されている。
本書では(金融とユーザーがかかわる問題として)「定額払いが必要なのか」または「本当に必要か」という重大な問いがスルーされてしまっている。そこに私は引っかかった。
もちろんクレジットカードやいわゆるサラ金が、金融のひとつの役割を担っていることが確かなのと同様に、くだんの「定額払い」にも意義はある。しかし、名称だけ変えて(過去の消費者が経験し獲得してきた)注意のアンテナをかいくぐるような行為には納得できない。
「その問題を吟味することは市場調査の領域にあるのか」や「市場調査の入門書に載せることか」という点は、読者それぞれで意見が異なるかもしれない。私と意見が異なる方からすると、「この苦情は宛先が違う」ということになる。