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『おしゃべりなポライトネス――会話の中の共話・話題交換・笑い・メタファー』(笹川洋子 春風社 2020)

著者:笹川 洋子[ささがわ・ようこ] 社会学。コミュニケーション論。
装丁:矢萩 多聞[やはぎ・たもん] (1980-) 画家・装丁家。 
件名:ポライトネス(言語学
NDLC:KE12
NDC:801 言語 >> 言語学


おしゃべりなポライトネス―会話の中の共話・話題交換・笑い・メタファー | 春風社 Shumpusha Publishing


【目次】
目次 [002-006]


はじめに 007


第一章 会話の中のポライトネス 015
一 会話のルールとポライトネス 015


二 言語文化圏による会話のルールの違い 019
  二・一 ターン・テイキング 020
  二・二 隣接ペアと優先応答体系 024
    二・二・一 優先応答体系の有標性
    二・二・二 優先応答体系における発話連鎖
    二・二・三 発話の修復
  二・三 会話の構造の多様性 032
    二・三・一 会話の構造
    二・三・二 会話の中のマルチモダリティ
註 039


第二章 協調的発語媒介行為としての共話 041
一 協調的発語媒介行為としての共話 041
  一・一 共話とは何か 041
  一・二 共話の類型 049
  一・三 会話調査の概要 052


二 異文化コミュニケーションに見られる一文型の共話 053
  二・一 一文型の共話の類型 053
  二・二 日本人女性どうしの会話に見られる一文を作る共話の型 055
    (1) 後半部予測型の共話
    (2) 前半部予測型の共話
    (3) 共感表現型の共話
    (4) 言い換え型の共話
    (5) まとめ型の共話
    (6) 情報添加型の共話
    (7) 先取り回答型の共話
    (8) 助け舟型の共話
    (9) 相互作用型の共話

  二・三 初対面の話者による異文化コミュニケーション状況で起こる一文を作る共話の型 063
    (一) 後半部予測型の共話
    (二) 前半部予測型の共話
    (三) 共感表現型の共話
    (四) 言い換え型の共話
    (五) まとめ型の共話
    (六) 情報添加型の共話
    (七) 先取り回答型の共話
    (八) 助け舟型の共話
    (九) 相互作用型の共話

  二・四 異文化コミュニケーションにおいて話者が共話を担う回数 083
    二・四・一 異文化コミュニケーションにおける共話の総数について
    二・四・二 後半部予測型の共話数について
    二・四・三 情報添加型の共話数について

  二・五 異文化コミュニケーションにおける共話 092


三 異文化コミュニケーションに見られる添加型の共話 098
  三・一 添加型の共話 098
  三・二 あいづちやパラフレーズなどの副次言語による共話 101
    (1) 笑いやあいづちを用いる
    (2) パラフレーズする
    (3) オーバーラップが起こる
  三・三 共感を表す文を添加する共話 105
    (1) 予測により相手の言うべき文を付け加える
    (2) 共感を示す感情表現を加える
    (3) 共感を示す意見を加える
    (4) 情報を付け加える
    (5) 相手の表現を言い換える
    (6) 先取りの回答をする
  三・四 発話行為方略などをストラテジーとして用いる共話  113
    (1) 興味を示す質問したり、発話に対する関心を表現する。
    (2) 交話的な挨拶を交わす
    (3) 励ましの表現を用いる
    (4) 誉めの表現を用いる
    (5) 謙遜表現とそれに対する否定という、謙遜表現に関わる相互作用を行う。
    (6) 謝りの表現を用いる
  三・五 助け舟型、共話連鎖、共感表現の増幅、話題交換、先行話題導入による共話 122
    (1) 助け舟による共話
    (2) 共話の連鎖が起こる
    (3) 共感表現を増幅させていく
    (4) 共話的な話題交換が行われる
    (5) 先行話題を導入する
  三・六 異文化コミュニケーションにおける添加型共話 130
註 132


第三章 話題交換から探るポライトネスとジェンダー 135
一 会話構造を分析する視点 135
  一・一 会話スタイルに見られるジェンダー  135
  一・二 談話構造としての話題フロアと話題領域 139
    一・二・一 話題を捉える視点
    一・二・二 話題フロアの設定
    一・二・三 会話調査の方法と手順


二 初対面の話者に対する日本人女性の名乗りの談話方略について 149
  二・一 談話交換としての名乗り 149
  二・二 自己紹介の場面における日本人女性(JF)の談話方略の変化について 150
    二・二・一 名乗りの談話方略
    二・二・二 日本人女性(JF)どうしの自己紹介
    二・二・三 日本人女性(JF)と日本人男性(JM)との自己紹介
    二・二・四 日本人女性(JF)と中国人女性(CF)との自己紹介
    二・二・五 日本人女性(JF)と中国人男性(CM)との自己紹介
    二・二・六 日本人女性(JF)とアメリカ人女性(EF)との自己紹介
    二・二・七 日本人女性(JF)とアメリカ人男性(EM)との自己紹介
  二・三 日本人女性の名乗りの談話方略について 160
    二・三・一 日本人女性の名乗りの談話の方略変化
    二・三・二 話題領域から考えた名乗りの談話方略の意味


三 初対面の話者に対する日本人女性の談話構成の変化について――性差と異文化差の視点から 165
  三・一 話題フロアの設定 165
    三・一・一 話題フロア
    三・一・二 分析の視点
  三・二 日本人女性の話題フロア割合の変化 168
    三・二・一 日本人女性(JF)どうしの会話
    三・二・二 日本人女性(JF)と日本人男性(JM)の会話における話題フロアの傾向について
    三・二・三 日本人女性と中国人女性の会話における話題フロアの傾向について
    三・二・四 日本人女性と中国人男性の会話における話題フロアの傾向について
    三・二・五 日本人女性とアメリカ人女性・アメリカ人の会話における話題フロアの傾向について
    三・二・六 日本人女性とアメリカ人男性の会話における話題フロアの傾向について
  三・三 話題フロアの全体的傾向 178
    三・三・一 日本人女性と対話者の話題フロア導入の傾向
      (1) 自分の話題を「話す」話題フロアの傾向
      (2) 相手のことを「聞く」話題フロアの傾向
    三・三・二 日本人女性自身の領域に属する話題フロアの優先度
    三・三・三 日本人女性の話題フロアの主導率
  三・四 「積極的な聞き手」と「積極的な話し手」 182


四 話題転換における意図の了解過程 186
  四・一 話題転換の捉え方 186
    四・一・一 話題転換とは
      (1) 話題の終了部
      (2) 新しい話題の導入について
    四・一・二 話題転換の捉え方
      (1) 話題の終了部と話題の導入・展開部
      (2) 話題の話者領域
  四・二 会話事例に見られる話題転換 194
    四・二・一 話題転換が行われた事例
      四・二・一・一 話題交換が見られる会話例
      四・二・一・二 話題が共有され、話題転換が起こる例
    四・二・二 話題転換が行われない事例
  四・三 話題転換と発話行為交換としての談話の構造 210
    四・三・一 話題転換の構造
      (1) 話題の終了部について
      (2) 話題の導入表現・展開
        (A) 話題転換が起きた事例
        (B) 話題転換が起こらなかった事例
      (3) 話題領域
    四・三・二 発話行為交換としての談話の構造
註 222


第四章 発語媒介行為としての笑い 227
一 発語媒介行為の装置――儀礼行為としての笑い 227
  一・一 笑いをどう捉えるか 227
    一・一・一 笑いをどう捉えるか
    一・一・二 笑いはどう考えられてきたか――先行研究の中の笑い
    一・一・三 笑いを捉える視点
  一・二 どのような笑いがあるか――電話会話の中の笑い 237
    一・二・一 「呈示儀礼」に関わる笑い
    一・二・二 回避儀礼に関わる笑い
    一・二・三 品行に関わる笑い
  一・三 儀礼行為としての笑い 246


二 異文化コミュニケーションに現れる笑いの発語媒介行為調整機能について 251
  二・一 対他機能としての笑い 251
  二・二 対面会話に現れる笑い 253
    二・二・一 対面会話調査の概要
    二・二・二 笑いの分類と記述
  二・三 発話行為に添えられる笑い――発語媒介行為としての笑い 256
    二・三・一 「ア:おかしさや嬉しさを表現する笑い」
    二・三・二 「イ:共感を表現したり、付加される笑い」
    二・三・三 「ウ:感嘆等の感情表現に付加される笑い」
    二・三・四 「エ:話し手の評価を高める文脈に付加する笑い」
  二・四 発話行為を実行する笑い 270
    二・四・一 「オ:発話行為の遂行と、その応答に付加される笑い」
    二・四・二 「カ:話題転換時に現れる間をとる笑い」
    二・四・三 「キ:悪い情報や会話の流れを遮る言語表現につく笑い」
  二・五 笑いによる対人関係機能の調節 283
註 291


第五章 発語媒介行為としてのメタファー 295
一 会話におけるメタファーの機能 295
  一・一 メタファーを捉える視点 295
    一・一・一 メタファーを捉える視点
    一・一・二 概念メタファー
  一・二 会話の中のメタファー 302
    一・二・一 言語行為としてのメタファー
    一・二・二 会話の中のメタファー
  一・三 会話の中のメタファーの機能 310
    一・三・一 教育的な会話場面:専門分野について話す会話
    一・三・二 社交的な会話場面:親しさを示す会話
    一・三・三 闘争的な会話場面:政治ポリシーに関わる党首会談(2011年2月9日)
    一・三・四 発話媒介行為としてのメタファー表現


二 物語構造の中のメタファー ――『流星花園花より男子)』台湾、日本、韓国版の物語構造の比較 326
  二・一 ドラマの中の物語構造 326

  二・二 物語の中のメタファーをめぐって 331
    二・二・一 「戦う少女」としてのつくし
      (一) 「戦う少女」像
      (二) 台湾、日本、韓国版における物語の背景とつくし像の比較
    二・二・二 戦いのメタファー ――いじめ、富、白馬の王子との闘い
      (一) いじめ、富、白馬の王子との闘い
      (二) 台湾、日本、韓国版における描写の比較
        (1) いじめの描写
        (2) 富との闘い
        (3) 白馬の王子様、類との闘い

  二・三 物語行為としてのメタファー 347
註 350


引用文献 [353-375]
初出一覧 [376-378]
おわりに [379-384]





【メモランダム】
336頁。第5章の二・二・二の見出しに、二倍の長音が出現している。上記目次では勝手に長音と二倍ダッシュに修正した。
  「戦いのメタファーーいじめ、富、白馬の王子との闘い」 
  「戦いのメタファー ――いじめ、富、白馬の王子との闘い」





【抜き書き】
「はじめに」から、本書の概略。

 第一章〔……〕ポライトネスや会話のルールもそうした社会現象の一つである。そして、私たちの周りに隠れている ポライトネスの一部は、会話のルールの現象に現れる。ここでは、ポライトネスに関わり、特に多言語文化圏における言語行為及び会話を比較した言語研究の知見について、(1)会話の順番取り(Turn- taking)、(2) 隣接ペア (Adjacency Pair)、(3) 修復(Repair)、(4) 会話の全域的構造(Overall Structural Organization)、 (5) マルチモダリティ(Multimodality)の、五つの視点を選び研究動向を探りたい。
 第二章では〔……〕「共話」という現象を観察する〔……〕。一文型の共話では、話者は相手の発話内行為を予測し、協調的発語媒介効果を勘案し、話し手の発話を完成させるという行為を示す。話し手の心に添い、共感を示す共話は、協調的発語媒介行為と考えることができよう。はじめに、日本人女性どうしの会話を分析し、共話を取り出した。一文完成型共話は、(1) 後半部予測型の共話、(2) 前半部予測型の共話、(3) 共感表現型の話、(4) 言い換え型の共話、(5) まとめ型の共話、 (6) 情報添加型の共話、(7) 先取り回答型の共話、(8) 助け舟型の共話、(9) 相互作用型の共話に分けられる。
 さらに、日本人女性と対話する中国人女性、中国人男性、アメリカ人女性、アメリカ人男性が共話を行っているかどうかを観察したところ、すべての共話の型が見られ、しかも異言語文化圏の話者も共話の担い手となっていた。なお、中国人女性、中国人男性は母語話者である日本人女性より多く共話を行っていた。日本人女性の特徴としては、先取り発話、すなわち相手の発話を予測して完成させる共話が多かったが、他の言語文化圏の話者は情報添加型の共話が優勢であった。
 同じように、文に文を加えていく、添加型共話についても日本人女性どうしのコミュニケーション場面に見られる型を取り出した〔……〕。
 第三章では、談話レベルのコミュニケーションを考えるために、話題交換をとりあげる〔……〕。ここでは、ジェンダーに言語文化という視点を加え、また親疎上下の要因が影響しないような、初対面の大学生どうしの会話状況において「日本人女性が日本人(女性・男性)、中国人(女性・男性)、アメリカ人(女性・男性)との対話で、談話方略をどう変化させるか」を観察する。〔……〕言語とジェンダーの研究者からは、一般的に女性が受け身的な聞き手、男性は能動的な話し手と言 われるが、本節では、まず能動的な聞き手という視点が必要なこと、また中国語話者ではこうした ジェンダーステレオタイプが逆転することから、受け手性は決して本質的に女性に備わったもので はないことを指摘したい。
 さらに、第三章の最後で、話題交換の状況を質的に分析する。会話の中で、日本人女性は合意を重 ねながら、話題 フロア、すなわち談話を構成していく。会話例では、「相手の所属するサークル」を 聞くという、相手の話題フロアを導入する質問が、どのように談話構成に連なっていくかを観察する。 話題転換にあたって、話者はある時は話題交換を行い、または先行話題に戻るなど、協働作業により 合意を目指す。そして話題の話者領域の認識が話題転換に関わってくることが確認された〔……〕。
 第四章では、会話における笑いを観察し、私たちが笑いをどのように用いるかを考える。 はじめに、 日本人どうしの電話会話で起こる笑いを観察する〔……〕。ここでは、印象操作の方略としての自己呈示 の笑いに焦点をあて、以下のように分類した。①相手のフェイスを評価することを示す「呈示儀礼」に関わる笑い、②相手のフェイスを脅かさないことを示す「回避儀礼」に関わる笑い、③自分のフェイスを保持する「品行」に関わる笑いである。
 さらに、日本人のコミュニケーションで見られた笑いが、異文化コミュニケーションでも現れるか どうかを確認する。日本人、中国人、アメリカ人の対面会話データを見ると、異言語文化圏の話者も日本人と同様、様々な文脈で笑いを用いており、儀礼行為に関わる笑いの三つのタイプが確認された〔……〕。
 第五章では、メタファーを観察する。〔……〕会話の中のメタファーにはそうした話者の発話の調整 意識が顕在化する。まず、メタファーを捉える視点を整理し、レイコフとジョンソン(Lakoff G. & M Johnson, 1980)の概念メタファーと、鍋島弘治朗(二〇〇五)の紹介する応用研究に触れる。フェアクラフ (Fairclough N, 1995) やヴァン・ダイク (Van Dijk T., 1988) による新聞記事の分析では、概念メタファーが印象 そして、表現効果を強めるとともに、概念をすり替えることで、問題の本質を見えなくしていることが指摘されている。そして、会話の中のメタファーを扱った、カーター (Carter R, 2004他)、キャメロン (Cameron L., 2003他)等による研究を見る〔……〕。最後に、実際の会話で、話者がどのようにメタファーを用いているかについて、①専門的な知識を伝える会話、②友達どうしの会話、③政治論争の場面をとりあげ、観察した〔……〕。
 最後に、研究の範囲を広げ、日本、韓国、台湾のドラマの中のメタファーを比較する。 映像は瞬時 に消えるため、ストーリーは映像の中にメタファーとして描かれることが多い。視聴者が好感を持っ てドラマのモティーフやストーリーを受け入れるために、その言語文化圏にふさわしい行為として、 評価を受けられる、すなわちポライトネスにかなった行為がドラマでは選ばれ、描かれるであろう〔……〕。ここで は、主人公となる少女がどう描かれるかを観察し、物語構造として現れるメタファーを探る。