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『認知言語学の大冒険』(鍋島弘治朗[編] 開拓社 2020)

著者:鍋島 弘治朗[なべしま・こうじろう](1961-) a.k.a. spiralcricket  認知言語学
装丁:Shihoko Nakamura
イラスト:石関 束沙[いしぜき・たばさ] 
イラスト:田村 颯登[たむら・はやと] 
イラスト:佐藤 彩美[さとう・あみ]
NDC:801.04 言語心理学


認知言語学の大冒険 株式会社開拓社


【目次】
まえがき [002-003]
目次 [004-007]


第1章  プロローグ ゴキブリを美女に変身させる
1.1 「害虫コスモポリタン」の擬人化美少女たち 009
  シマ蚊
  アシダカグモ
  ハナアブ
  カゲロウ
  スズメガ
1.2 擬人化とその効果 012
  1.2.1 かわいくて興味が持てる
  1.2.2 表情がわかりやすい
  1.2.3 感情移入しやすい
  1.2.4 言葉が話せる
1.3 擬人化とは 014
1.4 擬人化の種類 015
1.5 擬人化からメタファーへ,メタファーから認知言語学へ 016


第2章 従来の意味観と認知言語学 018
2.1 認知言語学とは 019
2.2 従来の意味観――素性意味論―― 020
  記号接地問題
2.3 新しい意味観――シミュレーション理論(百科事典的意味観)―― 026
  2.3.1 脳の構造と機能
  2.3.2 シミュレーション理論
2.4 イメージの言語学 029
2.5 文脈の言語学 031
2.6 捉え方の言語学 033
2.7 まとめ 034


第3章 従来の統語観と認知言語学 036
3.1 従来の統語観 037
  3.1.1 句と樹形図
  3.1.2 統語範疇(品詞)
  3.1.3 句構造
3.2 従来の統語観と認知言語学 041
  3.2.1 従来の統語観と認知文法
  3.2.2 従来の統語観と構文文法
3.3 まとめ 043


第4章 認知言語学の歴史 (1) ジョージ・レイコフとマーク・ジョンソン 044
4.1 生成文法家レイコフと生成意味論 045

4.2 哲学者ジョンソンとレイコフの出会い 048

4.3 メタファー論 049
  4.3.1 時は金なり(Time Is Money)
  4.3.2 人生のメタファー
    〈人生は旅〉
    〈人生は一日〉
    〈人生は一年〉
    〈人生は芝居〉
    〈人生は容器〉
    〈人生はギャンブル〉
  4.3.3 恋愛のメタファー
    〈恋愛は旅〉
    〈恋愛は物理的な力〉
    〈恋愛は病人〉
    〈恋愛は狂気〉
    〈恋愛は魔法〉
    〈恋愛は戦争〉
    〈恋愛は温かさ〉
  4.3.4 議論のメタファー
    〈議論は戦争〉
    〈理論(議論)は建物〉
  4.3.5 心のメタファー
    〈心は機械〉
    〈心は壊れやすい物体〉
    〈感情的影響は物理的接触
  4.3.6 理解のメタファー
    〈考えは食べ物〉
    〈考えはナイフ〉
    〈理解は見ること〉
  4.3.7 上下のメタファー
    〈幸せは上・悲しみは下〉
    〈意識は上・無意識は下〉
    〈健康と生は上・病と死は下〉
    〈支配は上・被支配は下〉
    〈多は上・少は下〉
    〈近い未来は上〉
    〈上流は上・下流は下〉
    〈良は上・悪は下〉
    〈美徳は上・悪徳は下〉
    〈理性は上・感情は下〉
  4.3.8 コミュニケーションのメタファー
    〈言葉は液体〉
  4.3.9 擬人のメタファー
  4.3.10 メタファー写像
  4.3.11 レイコフとジョンソンのメタファー論まとめ

4.4 ジョンソンらのイメージ・スキーマ論 075
  4.4.1 イメージとは
  4.4.2 スキーマとは
  4.4.3 イメージ・スキーマ
  4.4.4 〈容器〉のスキーマ
  4.4.5 〈経路〉のスキーマ
  4.4.6 〈物質〉のスキーマと〈物体〉のスキーマ
  4.4.7 そのほかのスキーマ
  4.4.8 イメージ・スキーマのまとめ

4.5 レイコフのカテゴリー論 082
  4.5.1 古典的カテゴリー観
  4.5.2 ウィトゲンシュタインの家族的類似性
  4.5.3 ロッシュ[Eleanor Rosch]のプロトタイプ理論
  4.5.4 基本レベルカテゴリー
  4.5.5 カテゴリー論のまとめ

4.6 レイコフのoverの多義論 087
  4.6.1 〈上を移動〉の意義
  4.6.2 〈接して移動〉の意義
  4.6.3 語義間のリンク図
  4.6.4 語義間のスキーマ
  4.6.5 〈覆う〉の意義
  4.6.6 複数体による〈覆う〉の意義
  4.6.7 経路による〈覆う〉の意義
  4.6.8 虚構移動
  4.6.9 メタファー的拡張

4.7 抽象化説の批判 096

4.8 メトニミー論 097
  4.8.1 部分で全体
  4.8.2 製造者で製造物
  4.8.3 道具で使用者
  4.8.4 リーダーで部下
  4.8.5 組織で責任者
  4.8.6 場所で組織
  4.8.7 場所で出来事
  4.8.8 メトニミー論のまとめ

4.9 まとめ――レイコフとジョンソンの創造性―― 102

付録 Go! Go! メトロン君!! 103
Go! Go! メトロン君!! 第1話 テレビを切る 104


第5章 認知言語学の歴史(2) チャールズ・フィルモア 106
5.1 格文法[Case grammer] 107
  5.1.1 行為の格役割
  5.1.2 移動の格役割
  5.1.3 知覚経験の格役割 (1)
  5.1.4 知覚経験の格役割 (2)
  5.1.5 まとめ――格文法と格役割――

5.2 フレーム意味論 112
  5.2.1 認知科学での隆盛
    ミンスキーのフレーム
    ゴッフマンのフレーム
  5.2.2 格文法からの発展
    非典型的な他動詞文
  5.2.3 素性意味論への疑問
    意味としての視点
    意味としての評価性
  5.2.4 売買フレーム
  5.2.5 リスク・フレーム
    〈大切なもの〉
    〈危害〉
    〈行為〉
    目的語以外のフレーム要素
  5.2.6 まとめ――文脈としてのフレーム意味論

5.3 構文文法 129
  5.3.1 the more構文
  5.3.2 「すればするほど」構文
  5.3.3 「することはするが」構文
  5.3.4 イディオムと構文の連続性―― day in day outThanks a lot. ――
  5.3.5 let alone構文
  5.3.6 WXDY構文
  5.3.7 ひとつ構文
    「を」が入れない
    程度軸という意味論的制約
    行為も「ひとつ」
    語用論的制約
  5.3.8 構文文法まとめ

5.4 まとめ――認知言語学のフィールドをおぜん立てしたフィルモア―― 144

Go! Go! メトロン君!! 第2話 荷物を車に乗せる 146
Go! Go! メトロン君!! 第3話 洗濯機を回す 148
Go! Go! メトロン君!! 第4話 黒板を消す 150


第6章 認知言語学の歴史(3) レン・タルミー 152
6.1 ゲシュタルト心理学 153
  6.1.1 合成性の原理
  6.1.2 フィギュアとグラウンド
  6.1.3 隣接性の法則
  6.1.4 類似性の法則
  6.1.5 良い曲線の法則
  6.1.6 閉鎖の法則
  6.1.7 脳神経科学から見たゲシュタルト心理学
  6.1.8 ゲシュタルト心理学のまとめ

6.2 虚構移動 159
  6.2.1 範囲占有経路(Coextension path)
  6.2.2 フレーム相対移動(Frame-relative motion)
  6.2.3 到達経路(Access path)
  6.2.4 方向性経路(Orientation path)
  6.2.5 光の経路と影の経路(Radiation path and Shadow path)
  6.2.6 知覚の経路(Sensary path)
  6.2.7 虚構移動のまとめ

6.3 フォース・ダイナミクス 165
  6.3.1 フォース・ダイナミクスの基本的枠組み
  6.3.2 フォース・ダイナミクスの基本4パターン
  6.3.3 フォース・ダイナミクスの基本的言語例
  6.3.4 フォース・ダイナミクスが個人の行動に拡張する例
  6.3.5 フォース・ダイナミクスが義務や許可へ拡張する例
  6.3.6 フォース・ダイナミクス のまとめ

6.4 移動の類型論 172
  6.4.1 フィギュアとグラウンド
  6.4.2 経路と様態
  6.4.3 経路と様態の類型論
  6.4.4 移動の類型論のまとめ

6.5 タルミーのまとめ 177

Go! Go! メトロン君!! 第5話 お風呂を入れる 178
Go! Go! メトロン君!! 第6話 テーブルを片づける 180
Go! Go! メトロン君!! 第7話 カレー見てて 182


第7章 認知言語学の歴史 (4) ロン・ラネカー 184
7.1 ソシュール記号論とラネカーの記号論的文法 185

7.2 プロファイルとベース 186

7.3 捉え方 188
  7.3.1 選択(Selection)
  7.3.2 視点(Perspective)
  7.3.3 トラジェクターとランドマーク
  7.3.4 抽象化(Abstraction)
  7.3.5 ビリヤードボール・モデルと行為連鎖(Action chain)
  7.3.6 捉え方のまとめ

7.4 認知文法の骨子 194
  7.4.1 部分構造と合成構造
    合成性の原理
    a red penの例
    cat out of bagの例
  7.4.2 活性領域(Active zone)とP-AZのズレ
  7.4.3 認知文法のまとめ

7.5 プロトタイプとスキーマ 203

7.6 まとめ――認知言語学の文法を担ったラネカー ―― 205

Go! Go! メトロン君!! 第8話 やかん消して 206
Go! Go! メトロン君!! 第9話 お鍋を食べる, お鍋をつつく 208
Go! Go! メトロン君!! 第10話 CDを聞かせる 210


第8章 認知言語学の歴史 (5) ジル・フォコニエ[Gilles Fauconnier] 213
8.1 メンタルスペース 213
  8.1.1 メンタルスペースとモダリティ
  8.1.2 信念スペースと基本概念
  8.1.3 写真スペース
  8.1.4 絵画スペース
  8.1.5 映画スペース
  8.1.6 時間スペース
  8.1.7 場所スペース
  8.1.8 仮定スペース
  8.1.9 埋め込みスペース
  8.1.10 メンタルスペースのまとめ

8.2 融合理論 221
  8.2.1 ウォーターゲート事件と融合理論の基本図
    自由度
    創発
    採用
  8.2.2 「子供医者」の融合
  8.2.3 恐竜鳥の融合
  8.2.4 そのほかの用例
  8.2.5 形式融合
  8.2.6 行為融合
  8.2.7 メタファー融合
  8.2.8 融合理論による害虫女子の再分析
  8.2.9 融合理論のまとめ

8.3 フォコニエのまとめ 233

Go! Go! メトロン君!! 第11話 家に上げる 234
Go! Go! メトロン君!! 第12話 手を貸して 236
Go! Go! メトロン君!! 第13話 目を離さない 238


第9章 認知言語学の歴史 (6) アデル・ゴールドバーグ 240
9.1 way構文 241

9.2 結果構文 244
  9.2.1 形容詞句を取る結果構文
  9.2.2 前置詞句を取る結果構文
  9.2.3 結果構文の記述
  9.2.4 自動詞の結果構文

9.3 使役移動構文 248

9.4 二重目的語構文 253

9.5 構文とは 257
  9.5.1 構文の典型的状況
  9.5.2 プロトタイプと拡張
  9.5.3 他動詞構文の可能性

9.6 ゴールドバーグのまとめ 260

Go! Go! メトロン君!! 第14話 時計を動かす 262
Go! Go! メトロン君!! 第15話 塩を振る 264
Go! Go! メトロン君!! 第16話 席を取る 266


第10章 認知言語学の理論間のリンク 268
10.1 フレーム(フィルモア)とベース(ラネカー)は似てるよね 269
10.2 領域(レイコフら)とフレーム(フィルモア)はどういう関係になるの 271
10.3 メトニミー(レイコフら)と活性領域(ラネカー)はどう関連するの 272
10.4 フィギュアとグラウンド(タルミー),トラジェクターとランドマーク(ラネカー),プロファイルとベースをラネカー)はよく似ているように思うけど 274
10.5 フレーム(フィルモア)カテゴリー論 (レイコフ)は関連があるの 276
10.6 フォース・ダイナミクス(タルミー)は、移動の類型論(タルミー)とどう関連するの 276
10.7 フォース・ダイナミクス(タルミー)とビリヤードボール・モデル(ラネカー)はどう違うの 278
10.8 フレーム(フィルモア)とスペース (フォコニエ)は似てる? 279
10.9 フォース・ダイナミクス(タルミー)と使役移動構文(ゴールドバーグ)は関係ある? 280
10.10 合成(ラネカー)と融合(フォコニエら)は同じ? 281
10.11 メタファー(レイコフら)とフォース・ダイナミクス(タルミー)はどういう関係かな 283
10.12 フレーム(フィルモア)と移動の類型論(タルミー)は似てる? 283
10.13 虚構移動(タルミー)はメタファー(レイコフら)と同じ? 284
10.14 プロトタイプとスキーマ(ラネカー),抽象化説批判(レイコフら),イメージ・スキーマ(ジョンソンら),抽象化(ラネカー)のあたりの抽象性について教えて 285
  10.14.1 ラネカーのプロトタイプとスキーマ
  10.14.2 ラネカーの抽象化
  10.14.3 レイコフらの抽象化批判
  10.14.4 ジョンソンらのイメージ・スキーマ
  10.14.5 抽象化に関する認知言語学まとめ
10.15 構文文法(ゴールドバーグ)カテゴリー論(レイコフ)に少しでも関連性はある? 290
10.16 構文文法(フィルモア)と構文文法 (ゴールドバーグ)は似てる? 違ってる? 291
10.17 構文文法 (フィルモア,ゴールドバーグ) と認知文法(ラネカー)は大幅に違うように見えるんだけど 292
10.18 概念の関係のまとめ 294

Go! Go! メトロン君!! 第17話 パソコンを打つ 296
Go! Go! メトロン君!! 第18話 ゴミを出す 298


第11章 認知言語学の理論間のスキーマ 300
11.1 イメージの言語学としての認知言語学 301
  11.1.1 認知文法
  11.1.2 視点
  11.1.3 活性領域
  11.1.4 合成
  11.1.5 メタファー
  11.1.6 多義論
  11.1.7 カテゴリー論
  11.1.8 イメージ・スキーマ
  11.1.9 フレーム意味論
  11.1.10 フォース・ダイナミクス
  11.1.11 融合理論
  11.1.12 認知言語学における意味のイメージ性まとめ

11.2 文脈の言語学としての認知言語学 309
  11.2.1 フレーム意味論
  11.2.2 プロファイルとベース
  11.2.3 移動の類型論
  11.2.4 フォース・ダイナミクス
  11.2.5 文脈の言語学のまとめ

11.3 捉え方の言語学としての認知言語学 313

Go! Go! メトロン君!! 第19話 関大に入る 320
Go! Go! メトロン君!! 第20話 ケーキを焼く 322


第12章 エピローグ 新しい冒険者のために関西大学 六甲山荘にて spiralcricket(鍋島弘治朗)) 324
認知言語学に興味を持った人のために 327


参考文献 [329-332]
問題解答 [333-335]
索引 [336-339]




【メモランダム】
・著者のブログ(2011年まで)
プロフィール : All about Cricket's Life

・擬人化の例として、小谷真倫『害虫女子コスモポリタン』という漫画が挙げられている。
害虫女子コスモポリタン - Wikipedia
 ちなみに、本書の見出し・本文ではその書名をさすときに、正式名称の『害虫女子コスモポリタン』と、〈女子〉を省いた『害虫コスモポリタン』のふたつが混在している。後者はインターネット上でも用例がほとんどない。





【抜き書き】


・本書の付録の説明。謎の四コマ漫画の設定と最初の例について(pp. 103-105)。

 本章では,メトニミーを扱った「Go! Go! メトロン君!!」 というネタをご紹介します。 これは,関西大学の授業でクリケットが長くやっているもので,論文(鍋島 2006)もあります。今回は,タバサちゃんとハヤト君という描き手を迎えて,漫画とともに紹介します!
 まず,トロン君とは何者なのか,その設定からご紹介しましょう。
 メトロン君はメトロン星人が地球侵略のためにつくったサイボロイド超最終兵器である。メトロン君に課せられた使命は,2年間で完璧に地球語を習得すること。そのために,メトロン星の叡智を駆使した最新AI が搭載されている〔……〕。
 メトロンの頭脳は高性能だが欠点がひとつだけある。文章を字義通りにしか理解できないことである。主にメトニミーが理解できない。しかし,これは実社会で経験を積み、会話データベースを増やしていくことで克服できる。そのためにメトロン君は山田家にひそかに潜入。地球語を学ぶために日夜研鑽し〔……〕。

 それでは、本章から第11章まで、1〜3話ずつ,メトロン君の漫画を紹介していきましょう。
〔……〕 
 さて、「切る」は, 「かける」 「つける」 「とる」 「いれる」 「する」などと同じ機能動詞と呼ばれる幅広く使用される動詞です。 ここで 「切る」は,〈機能を止める〉意味で使用されています。 メトロン君は,これをリテラルな(字義通りの)意味で理解してしまいました。人間は言葉を聞けば,その意味を柔軟に解釈して理解しますが、メトロン君の脳みそ (AI) は,アルゴリズム(ルール)で理解しているのでなかなか人間と同じようにはいきません。

 さて,リテラルに「テレビを切る」を理解すると、「テレビ」(という語で示される物体)を「切る」(切断する,通常,周辺ではない部分を鋭利な刃物やハサミ・ノコギリなどで、 2つ以上の塊に分ける)という理解になりそうです。 これに従って行動したメトロン君を描いたのがこの作品です。
 これは、私たちが知っている 「テレビを切る」 の意味と大きく違いますね。 私たちが知っている「テレビを切る」という行為は,リモコンの電源ボタンなどを押すことで,テレビを不稼働状態にすることです。 不稼働状態というのは通常の言葉でいうと,「テレビが動いていない」 状態ですが,これをメトロン君にいうと,「テレビが動いてる????」 となると思います。テレビは物理的には移動していませんから。〔……〕正確に話すことは難しいですね。というより,人間はとても上手に柔軟に言葉を理解している,ということでしょう。



・「まえがき」から(p. 2)。

 本書は認知言語学の概説書です。認知言語学とは何でしょうか。認知言語学は1970年代から徐々に構成され,その名の通り, 認知と言語を組み合わせた学問です。認知言語学の首謀者の一人,レイコフは,1990年のCognitive Linguisticsという雑誌の創刊号で,人によって違うだろうが,と前おきをしたうえで,認知言語学の自分の定義を以下の2つの目標にまとめています (Lakoff 1990:40-43)

(i) 認知的目標:認知科学の知見と整合性があること
(ii) 一般化目標:言語現象の一般化を見出すこと

そして,2つの目標が相反するときには、認知的目標を優先し,一般化目標を捨てると言っています。つまり,言語の一般化ができても,それが認知科学で知られる知見に矛盾する場合にはその研究を進めないということです。
 私は認知言語学を 「意味の言語学」であり,主観的な 「捉え方」 の言語学だと思います。 先ほどのはレイコフの考えですが,「認知科学の知見」というのも意味に関することが主です。
 従来,〔……〕生成文法の系譜では,統語(語と語の組み上げルール)に集中し, 意味は辞書(レキシコン)だけで取り扱っていました。「辞書だけで取り扱う」 といえばまだ聞こえがいいですが,意味の問題はほとんど無視されてきたわけです。
 これに対して,認知言語学では,意味をしっかりと取り扱い,統語においても, 〈形式〉と〈意味〉を平行して取り扱います。
 これから以下の7人6組の人を紹介しますが,それぞれ,意味に深い関心を示しています。

メタファー論のレイコフとジョンソン
フレーム意味論,構文文法のフィルモア
虚構移動,フォース・ダイナミクス,移動の類型論のタルミー
認知文法のラネカー
メンタルスペース,融合理論のフォコニエ
構文文法のゴールドバーグ

 本書では,第2章と第3章で従来の意味観,統語観と,認知言語学を比較します。6組の紹介が終わった後で,それぞれの理論の関係 (リンク) と,全体をつなぐ共通点 (スキーマ) を論じることになります。第4章から第11章の各章の終わりには,メトニミーが理解できないという想定のAIロボット,メトロン君を描いた漫画を付けました。