原題:Cognitive Grammar (Oxford University Press, 2002)
著者:John R. Taylor(1944-)
著者・訳者:瀬戸 賢一(1951-)
【書誌情報+内容紹介】
出版年月日 2008/08/20
ISBN:9784469213225
判型:A5
頁数:395
定価:本体2,600円+税◆認知文法の本質を明らかにする
世界的に名のある認知言語学者、ジョン・R・テイラーと瀬戸賢一による初のコラボレーション。音韻論、形態論、意味論、構文論をコンパクトにまとめた。音素、形態素、語、句、節、構文だけにとどまらず、イディオムやメタファーまでも手厚く解説。また、初学者にも配慮して、随所にQ&Aとその解説というスタイルをとった。認知文法のみならず認知言語学を専攻する学生にとっての必携書。
【目次】
はじめに(2008年盛夏 瀬戸賢一) [iii-vi]
目次 [vii-xi]
第1部 認知文法の考え方 003
第1章 認知文法と認知言語学 005
I 認知論的転回 005
II 認知論的言語学でないもの 006
III 「認知言語学」としてのチョムスキー言語学 007
IV 認知言語学はどこが認知的か 009
i カテゴリーの形成
ii 図と地
iii イメージと「解釈」(construal)
iv メタファーと「経験基盤主義」(experientialism)
v 概念的アーキタイプ(祖型)
vi 推論
vii 自動化(automatization)
viii 記憶vs.計算、リストvs.ルール
ix 形へのこだわり
x シンボル行動
V 認知文法の全体像 014
i シンボル体系としてのことば
ii 単位間の関係
VI 認知文法の特徴 017
i 認知文法は用例に基づく(usage-based)
ii 認知文法は意味論を重視する
iii 認知文法では境界はファジーである
iv 認知文法は独自の言語観をもつ
〈研究の指針〉 020
第2章 シンボルとは何か 022
I ソシュールと記号 022
II アイコン、インデックス、シンボル 024
i アイコン
ii インデックス
iii シンボル
III シンボルの性質 030
IV シンボル原理への疑問に答える 031
〈研究の指針〉 035
第3章 音と意味とシンボル 037
I 音韻構造 037
II 音韻単位 038
III 音韻制約 040
IV 意味構造 042
i 強い合成原理の弱み
ii 弱い合成原理の強み
V 'the football under the table'の意味を問う 049
VI 意味の調整とアクティブ・ゾーン 052
〈研究の指針〉 056
第2部 認知文法の方法 059
第4章 スキーマと事例で説明する 061
I 意味構造に見るスキーマと事例 061
i 多義ネットワーク
II 音韻構造に見るスキーマと事例 069
i 素性(feature)
III シンボル構造に見るスキーマ構造と事例 075
i 品詞の意味と音韻
〈研究の指針〉 083
第5章 意味は弾性を示す 084
I 意味研究の3つのアプローチ 084
i 言語と世界の関係を探るアプローチ
ii 言語内部に限るアプローチ
II 概念的アプローチ(プロファイル・ベース・ドメイン) 088
III 意味の弾性 092
i 意味の弾性に限界はないのか
IV 意味ネットワーク 102
i カテゴリーの拡張
ii over物語
〈研究の指針〉 113
第6章 より大きな単位の作り方 115
I 「関係」をプロファイルする 115
i tr と lm
ii 形容詞と副詞
II 意味単位を結合する 125
i 意味結合の仕組み
III 音韻単位を結合する 130
i 認知文法における音韻制約のあり方
〈研究の指針〉 136
第3部 語の内部を見る 137
第7章 形態論の意味と形 139
I 形態素分析 139
II 形態素を結合する 141
III スキーマの力 143
IV 形態素-erは多義的か 145
V 指小辞も多義的か 149
i 指小辞の中心と周辺
〈研究の指針〉 152
第8章 分けることと結ぶこと 156
I 分析可能性を調べる 156
i 部分的な分析可能性
ii 不透明な境界
II 「強制」と一体化 162
III 生産性 165
i 生産性を計量する
IV 「バーガー」はどんな味か 170
〈研究の指針〉 172
第9章 競合するスキーマ 173
I 規則的な複数形 173
II 不規則的な複数形 178
III 規則とリスト 183
IV 結果としての形を大切にする 187
V キーワードの整理 190
i 内実度またはスキーマ度
ii 自立度と依存度
iii 結合度
iv 強制度
v 内的複合度
vi 定着度
〈研究の指針〉 200
第4部 語の外側を見る 201
第10章 名詞の外回り 203
I 名詞と名詞句 203
II グラウンディング、事例化、種別化 205
i グラウンディング
ii 事例化
iii 種別化
III 限定詞と数量詞 212
i 限定詞の働き
ii 数量詞の働き
IV グラウンディングされない名詞 218
V 可算名詞と質量名詞 222
VI 2分法から3分法へ 225
VII 可算と質量の境界 230
VIII 数詞類別詞型の言語 233
〈研究の指針〉 236
第11章 テンスとアスペクト 237
I テンスとグラウンディング 237
i 節の種別化
ii プロセスのグラウンディング
II テンスとアスペクト 241
i 完了と未完了
ii 進行形
III プロセスの種類 248
i 反復
ii 習慣
iii 現在時制と「構成された世界」
IV 法助動詞(modal) 254
i 主体化
〈研究の指針〉 259
第12章 節の仕組み 261
I 状況のタイプ 261
i 動態プロセス
ii 状態プロセス
iii 認知プロセス
iv 複合プロセス
II 参与者の数 264
i 参与者と非参与者を区別する
ii 参与者とならない名詞句
iii 名詞句以外の参与者
III 参与者の役割と文法関係 269
i 行為連鎖モデル
ii 認知プロセス
iii 非参与者が主語になるとき
IV 節のタイプ 277
i 参与者が1の節(自動詞節)
ii 参与者が2の節(他動詞節)
iii 参与者が3の節(2重目的語節)
iv 移動動詞と参与者
V 補部を埋め込む 284
i 節の結合度
ii 節の分析法
〈研究の指針〉 289
第5部 メタファーから構文へ 291
第13章 新しいメタファー論 293
I レイコフと概念メタファー 294
i レイコフ理論の概念的基盤に関して
ii レイコフ理論の方法論について
iii メタファーの一般的理論としての写像理論について
II スキーマとしての概念メタファー 299
III メタファーの生産性 304
IV イメージ・スキーマ 305
V タルミーと「力動性」 308
VI メンタル・スペースとブレンディング 312
VII メタファーからメトニミーへ 315
i ドメインについて
ii 語彙的メトニミーについて
iii メトニミーの種類について
iv シネクドキについて
〈研究の指針〉 320
第14章 イディオムはおもしろい 322
I 文法の中のイディオム 322
II イディオムの範囲 324
i 狭義のイディオム
ii 定型表現(formulas)
iii 引用句('pre-formed' language)
iv 発信イディオムと受信イディオム
III イディオムの意味と形式 330
i 意味のイディオム性
ii 形のイディオム性
IV イディオムと予測可能性 335
〈研究の指針〉 338
第15章 構文には意味がある 339
I 構文と構文スキーマ 339
i 構文の中のスキーマと事例の関係
ii 構文の部分も構文である
iii 構文スキーマの生産性
II 構文的イディオム 344
i 「まさか」構文
ii もっと構文的イディオムを
III 文法の中での構文的イディオムの位置づけ 351
i 構文的イディオムと語彙
ii 構文的イディオムと統語
iii 言語習得の観点から見れば
IV 構文のエコロジー('Bang goes weekend!') 355
〈研究の指針〉 361
引用文献 [363-377]
索引 [379-381]
【抜き書き】
・「はじめに」から。この本が抄訳ではなく再構成であること、認知言語学と認知文法とを区別すること、などを冒頭で述べている。
本書『認知文法のエッセンス』は,John TaylorのCognitive Grammar(OUP, 2002)をベースとした認知言語学の入門書である。翻訳でも抄訳でもなく,日本の読者のために著者二人が緊密に話し合い,新しい構想のもとに日本語で書き下した共著である。日本語の例を加え,新たな知見を補充し,新しいセクションを追加した。データも最新のものを収めてある。また,適宣 Q&A を設け,それに沿って解説をした。これにより認知文法の本質が,よりわかりやすくより効率的に日本の読者に届けられるはずである。
本書は,認知文法と認知言語学を区別する。認知文法は,もちろん認知言語学のひとつであるが,文法に対する全体論を提示するという点で他の認知的な嘗語研究とは異なる。認知文法は,ラネカー(Langacker)の一連の研究を基盤とする言語理論である。内外の一般の認知言語学の入門書が,ともすれば認知的な立場に立っての個別的なトピックの選択とその解説になりがちなのに対して,本書は一貫した説明原理に基づいて文法の全体像を示すことを意図する。
それゆえ,認知言語学とは認知的観点に立った意味論,あるいは認知意味論から見た統語論のことではないかという一部の見方があるが,本書は同じく認知的ではあっても,文法の全体的な構成の基礎を描くことを目的とする。もちろん意味論と構文論には多くのスペースを割いているが,音韻論と形態論にもしかるべき紙幅を配分している。また,イディオムやメタファーなどに独立した章を割り当てたのも,これと同じ意図に基づく。ここに本書の特色がある。
〔……〕本書では,方法論的な基礎部分を手厚く記述した。この意味で,第1部の3つの章(とくに第1章)は,方法論的色彩が濃い。本書のタイトルの一部に「エッセンス」が含まれているのは,認知文法の本質的部分をできるだけ正確に記述しておきたいとの思いからである。〔……〕
本書の構成は次のとおりである。
第1部「認知文法の考え方」は,認知文法の基本的な見方を他の文法あるいは言語理論と比較することによって,その本質を明らかける。認知文法,認知文法ではない認知言語学・生成文法などは,それぞれの目標および方法においてどのような違いがあるのだろうか。認知文法は,音韻単位,意味単位,シンボル単位の3つの言語単位を認めるが,三者はどのように関係しあうのだろうか。また,各単位がそれぞれのレベルで合成されるとき,それはどのような原理に基づくのか。部分の総和が全体になると考えてよいのだろうか。このような方法論的問題を具体例に基づいて検討する。
第2部「認知文法の方法」は,認知文法の基本的な記述原理であるスキーマと事例の関係を説明する。この関係は音韻単位,意味単位,シンボル単位のすべてに当てはまるものであり,スキーマとは事例と事例の間の共通成分を抽出したものである。スキーマと事例は,音素や形態素のレベルから広い意味での構文のレベルに至るまで,その全体を統率する基本原理である。ここから,言語とは「言語単位の体系だった目録一覧」との見方が生じる。この原理に従えば,独立した統語部門は不要となる。構文もひとつのスキーマとして抽出されると考えられるからである。
〔……〕