著者:秋山 賢三[あきやま・けんぞう] (1940-)
【目次】
はじめに [i-ix]
裁判官から弁護士へ
法律と市民の間
弁護士として冤罪事件に関わる
刑事司法と冤罪
刑事司法の構造
目次 [xi-xiii]
第一章 裁判所と裁判官の生活 001
1 裁判官と市民との間 002
「壇の高さ」
被告人を洞察する「目」
「世の中の動き」と裁判官
「保護」された生活
市民としての生活、友人との付き合い、生活の幅
2 裁判官の選任・養成システムと仕事 010
二〇歳代で任官
合議体における訓練・養成―― N裁判長のこと
実技体験なき判定者
転勤の日々
裁判官の職務分担と再任
再任拒否と全国裁判官懇話会
常時三〇〇件を担当――忙しすぎる裁判官
加重な負担と勤務評定
審理の形骸化傾向
マニュアル主義
「働き蟻」裁判官の今後
3 「生活者」としての裁判官 030
「仕事」に支配される家庭
閉ざされた毎日――裁判官の生活スタイル
上からの「しばり」――管理と「公正らしさ」論
「沈黙という名の保身」と「小役人化」
形骸化した「身分の保障」
寺西裁判官問題
独、仏における裁判官の組織活動
日本裁判官ネットワーク
第二章 刑事担当の裁判官として 047
1 法曹への志 048
東京へ――六〇年安保の頃
法曹への模索
岩波新書『誤った裁判』
松川事件と裁判官任官
2 任官のころ――人権擁護・民主主義の志 054
最高裁全逓中郵判決
青法協攻撃――司法再編の目論見
司法反動の時代
裁判官としての私
3 刑事裁判官の立場と悩み 060
裁判官の目からは見えない事実
「証拠隠し」の問題
よく分からないための苦労
刑事担当裁判官の悩み
難件の判決書き
「検察官上訴」が裁判官に対して持つ意味
「疑わしきは被告人の利益に」の原則を実践できるか
「無罪」の主張を受け止められるか
言い渡した無罪判決のその後
4 弁護士としての人権擁護活動 072
袴田事件と出会う
冤罪の構造とは何か
第三章 再審請求を審理する――徳島ラジオ商殺し事件 075
1 捜査の展開と起訴、そして判決 076
事件発生と当初の捜査
検察による「見込み捜査」、そして起訴
誤った一、二審判決――キャリア裁判官の陥った陥穽
上告取下げとその後の劇的な展開
2 再審請求 081
「反省なき」模範囚
最高裁白鳥・財田川決定
第五次再審請求
不提出記録二二冊の開示
茂子さんの死と決定書起案態勢
再審開始決定と被告人なき無罪判決
3 富士茂子さん再審事件から学ぶもの 090
科学的・合理的判断は行われたか
「実生活」に思いが致されたか
第四章 証拠の評価と裁判官――袴田再審請求事件 093
1 「見込み捜査」とマスコミ 094
袴田事件とは
身柄拘束と自白の強要
マスコミによる予断の植え付け
2 公判過程の疑問点 098
「五点の衣類」の発見
「端切れ」の発見過程をめぐる謎
血液の付着方法の不整合
3 確定判決と自白調書への疑問 102
一審判決に顕著な不自然・不合理
「動機」の明確でない犯行
行き場のなくなった「パジャマ」
「取調べ経過」の詳細な認定と捜査批判
自白調書をめぐって
4 再審請求審での新証拠 110
浜田鑑定書
「無知の暴露」の概念
「無知の暴露」① 甚吉袋と白い布小袋
「無知の暴露」② 強取した金の額と種類
「無知の暴露」③ 死体の位置
袴田さんの獄中書簡
袴田事件が我々に語りかけるもの
第五章 「犯罪事実の認定」とは何か――長崎(痴漢冤罪)事件 117
1 長崎事件について 118
痴漢と冤罪
ある日突然に
裁判の争点
2 有罪判決の論理と問題点 123
一審判決
二審判決
一、二審判決の問題点
二審判決の補強証拠の問題
「繊維鑑定」の証明力
3 「痴漢冤罪」はなぜ起こるのか 132
痴漢犯人を特定する場合
被害者の供述
「被告人となった者」に対する理解
「一人の被害者の供述」による有罪の認定
供述証拠と補強証拠
4 最近の危険な裁判傾向 141
証拠を離れた事実認定
保釈を許さない
九三日の勾留――裁判官の被告人を見る目
第六章 裁判官はなぜ誤るのか 147
1 「裁判上証明されるべき事実」とは何か 148
「刑事裁判上の証明」とは
裁判官による事実認定の目的
二項対立的事実観をめぐる学説
裁く者の論理と被告人の事実
「規範的・構成的事実観」とは何か
2 構造的な誤判・冤罪 155
九九・九パーセントの有罪率
構造的な誤判・冤罪
誤判の原因と対策――日弁連の案
適切な弁護は冤罪防止の必須要件
3 「疑わしきは被告人の利益に」の模索 163
正しい事実認定のための「注意則」
自白の信用性に関する注意則
目撃供述の信用性に関する注意則
共犯者の自白に関する注意則
事実認定をめぐる注意則
4 裁判所はどうあるべきか 173
「検察官・裁判官」対「弁護人・刑訴法学説」
検察官に対する「ハードル」となりえているか
5 市民に開放された司法は実現できるか 176
裁判官と検察官の同質化
司法改革の方向
司法制度改革審議会意見書と刑事司法改革
「非常勤裁判官制度」から弁護士任官へ
ロースクール構想
裁判員制度
6 職業裁判官に対する十戒――ささやかなる提言 186
誤判を犯さないために
①「壇の高さ」を自覚する
②「疑わしきは被告人の利益に」を実践する
③秩序維持的感覚的を事実認定の中に持ち込まない
④「人間知」「世間知」の不足を自覚する
⑤供述証拠を安易に信用せず、その誤謬可能性を洞察する
⑥公判における被告人の弁解を軽視しない
⑦鑑定を頭から信じこまない
⑧審理と合議を充実する
⑨有罪の認定理由は被告人が納得するように丁寧に書く
⑩常に、「庶民の目」を持ち続ける
おわりに(二〇〇二年八月三〇日 秋山賢三) [199-204]