著者:友岡 賛[ともおか・すすむ] (1958-) 会計学。
NDC:336.9 経営管理 >> 会計学
【目次】
はしがき(1996年早春,三田山上にて 友岡賛) [i-iv]
著者紹介 [v]
目次 [vii-xi]
序章 会計の歴史にふれる 001
1 本書の意図 001
2 会計史の雰囲気にふれる 004
第1章 対象と方法 015
1 簿記と会計の監査 015
会計のイメージ
会計の定義
会計の目的
監査と簿記の位置づけ
会計史の見方
簿記と会計との関係
2 機能と構造 026
近代会計制度のメルクマール
会計世界一周論
期間計算
資本主義の発達
機能と構造との結合
3 前史 037
古代ローマ
封建社会
荘園
責任負担,責任解除計算書
監査
複式簿記との結合
参考文献 046
第1章を終わったところで 046
第2章 複式簿記 049
1 単式簿記と複式簿記 049
複式記入
簿記の目的と複式簿記
起源論との関係
2 ルカ・パチオリ 054
人物
『スムマ』
パチオリの貢献
ルネサンスにおける位置
『スムマ』の意義
3 複式簿記の起源 065
起源論の難点
古代ローマ説
古代ローマ説の問題点
起源論の多様性
中世イタリア説
「最古」の史料の意味
ヴェネツィアの意義
参考文献 080
第2章を終わったところで 080
第3章 期間計算 083
1 複式簿記の伝播 083
資本主義経済と複式簿記知識と実践
パチオリ以後
オランダ
イムピン
フランス
ステウイン
2 期間損益計算 097
当座企業と継続企業
口別計算と期間計算
企業形体と計算方法
商業形体の変遷
定期的な期間損益計算
3 複式簿記の伝播(続) 110
幻の書
初期のイギリス簿記書
イギリスの簿記実践
日本
福澤
シャンド
洋式簿記の導入経路
参考文献 126
第3章を終わったところで 127
第4章 近代会計の成立環境 129
1 株式会社の生成 129
ギルド
合本
株式会社
東インド会社
東インド会社と簿記
南海バブル
バブル会社禁止法
2 産業革命 140
スネルの監査報告書
年次期間損益計算
スコットランドの優越
スコットランド簿記書の背景
スミスの企業形体観
産業革命
交通革命
3 近代会社法の生成 156
バブル会社禁止法の廃止
会社法の近代化
計算書類,監査関連規定
鉄漬会社
近代会社法の成立
任意規定期
19世紀
イギリスの事業観
株主と経営者との関係
参考文献 169
第4章を終わったところで 169
第5章 固定資産会計 171
1 発生主義 171
現金主義
信用取り引き
律物
財産法と損益法
対応収益と費用
建物にかんする費用
2 減価償却 183
減価償却費
減価償却費の計算方法
永久資産
固定資産の認識
3 複会計システム 193
複会計システムの構造
複会計システムの実践
減価償却
減価償却と配当
減価償却の意義
税法
減価償却と複会計システム
参考文献 211
第5章を終わったところで 211
第6章 近代会計制度 213
1 監査 213
監査法制度の展開
会計学の生成
監査人観
監査人の資格要件
専門性
独立性
会計士監査
2 会計プロフェッション 223
ワトスン
会計士協会
スコットランドの先進性
イングランド
会計士の業務
破産関係業務の2面性
3 近代会計制度の成立情況 232
1879年会社法
制度の成立
参考文献 238
第6章を終わったところで 238
文献リスト [241-242]
事項索引 [243-246]
人名索引 [247-248]
COLUMN
①『会計史国際百科事典』 003
②会計と情報提供 020
③複式簿記から三式簿記へ 051
④単式簿記から複式簿記へ 053
⑤建物は永久資産? 177
⑥土地という資産の分類 190
【抜き書き】
pp. i-iii
はしがき
本書は,とりあえずは,「会計史」という講義のテキストとして書かれているが,さらには,「会計学総論」ないし「会計学」といった類いの講義のサブ・テキスト(?)としてもちいることも想定されている。
本書の著者は,このところ,大学院において「会計史特論」,大学学部の3,4年生を対象として「会計史」を担当しているが,また,それらにくわえて,大学学部の2年生を対象とする概論的な科目(「会計学」)のなかでも会計の歴史的なことがらについて講じているし,さらには,本務校以外でも,国税庁税務大学校において「会計史」の講義をおこなったことがある。本書は,そうしたいくつかのレヴェルの講義に一貫してふられる著者の立場から書かれている。
(ここでは言及されないが)そうした著者の立場ないし意図は,まずは,『歴史にふれる会計学』という本書のタイトルをもってあらわされているし,さらに,(ある程度)具体的には,本書の序章にその一端がのべられている。
〔……〕
それでは本書の著者のばあいはどうかといえば,7年ほどまえに「会計史」という講義を新設し,爾来,担当してきている。著者は,自分のことを会計史家であるともヒストリアン(歴史家)であるともおもっていないが,なぜか(?)「会計史」というものを講じてみたかった。やりたい講義をやらせてくれる,そんな慶應義塾の自由な風土,雰囲気には感謝している。そして,本書はこの講義あってこそ生まれたといってよい。
とはいえ,本書にはまた,冒頭にのべたように,「会計学総論」ないし「会計学」といった類いの講義のサブ・テキストとしてもちいることも想定されている。くわしくは序章においてのべられるが,会計の歴史を講ずることについての著者の本音をいえば,概して無味乾燥なイメージをもたれがちな会計ないし会計学というものに,若干の味わいないし潤い,をあたえたい――『歴史にふれる会計学』という「アルマ(手段,という意味だそうな)」によって――いうことである。
歴史はひとの営みの軌跡であって,それはけっして無味乾燥ではない。
〔……〕
さらに,「会計史」のテキスト,ということにかんして若干附言すれば,テキストとして書かれた「会計史」の書は,すくなくも著者の知るかぎりにおいて,わが国にはいまだなく(たぶん?),世界的にみても,これまた,すくなくも著者の知るかぎりにおいて1冊ぐらい(たぶん?)しかない。したがって,このことについても,「そんなものをヒストリアンでもない著者が……」,「じつに大それたことを……」などと,これまた言い訳じみたことをいうべきなのかもしれないが,これにかんしては,むしろ,ヒストリアンではない著者だからこそ気楽に書けたのかもしれない,ということにしておこう。
pp. 1-3 「序章」の冒頭部分から。
1 本書の意図
本書は,一応は,会計の「歴史」にかんする入門的なテキストといった体裁をとってはいるが,読者が,本書を手がかりとして,さらに,いわゆる「歴史研究」(これのなんたるか自体,非常にむずかしいが)として深めてゆく,といったようなことは,さしあたり意図されていない。
それは,(もちろん,ひとつには著者(友岡)自身がヒストリアン(歴史家)ではないということにもよっているが,これはさておくとして)本書の目的が,会計史それ自体をまなぶというよりは,会計学(もちろん,いわば広義には会計学は会計史もふくむが,ここでいうそれは通常の学科目などにいう「会計学」のことである)をまなぶ過程において歴史的な側面にもふれてみよう,といった程度のところにあるからである。
〔……〕
しかしまた,さらに本音をいえば,概して無味乾燥なイメージをもたれがちな会計ないし会計学というものに,若干の味わいないし潤い,をあたえたい。歴史はひとの営みの軌跡であって,それはけっして無味乾燥ではない。
したがって,本書では,いわゆる史実を詳細,克明に記述するといったことはおこなわれない。本書において「会計の歴史」がどういった形でもってとりあつかわれるかについての詳細は第1章にのべられるが,ひとことでいえば,通史的なサーヴェイがおこなわれる。
ところで,会計史という学問領域は,ある意味において,いまだ発展途上にあるというか,ようやく形をなしてきたというか,いずれにしても,それほど成熟した学問領域ではなく,その手法であるとか,体系性であるとかいった点において,いわゆる歴史研究としては,他の領域に比してまだまだおくれているのが事実であろう。たとえば,(その是非はともかく)一般にヒストリアンのとる,いわゆる1次史料至上(?)主義的な主張が広くきかれるようになったのも,ごくごく最近のことである(著者自身はこうした主張が好きではないが)。
〔……〕
いずれにしても,したがって,他の歴史領域にいわれるような本格的な通史(これのなんたるかが,またむずかしいが)はいまだ存在しないというか,そうしたものが書かれるような段階に達していない(本格的な通史が書かれるだけの学問としての歴史がない)ということになるかもしれない。
とはいえ,前述のことをいい換えれば,とどのつまり,著者ないし本書の意図は,概して無味乾燥なイメージをもたれがちな会計というものについて,いわば,「ほお,会計にもこんな歴史があるんだ」といった程度のことを知ってもらう程度のところにある。
pp. 17-18
ちなみに,たとえば英語では会計を「アカウンティング(accounting)」というが,これは「説明する」という意味の動詞「アカウント(account)」から派生している。そしてまた,ちなみに,たとえば,さきほど,会計の一般的なイメージのひとつとして金勘定といったイメージをあげたが,会計は「カウンティング(counting)」,すなわち「勘定」ないし「勘定すること」ではなくてアカウンティング,すなわち「説明」ないし「説明すること」なのである。
p. 23 独特な言い回し。
さて,したがって,ここで,やや大雑把な言い様をするならば,わたしたちが会計(ないし会計の歴史)というものをみるばあいふたとおりの見方をかんがえることができる。