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目次とメモを置いとく場

『マクロ経済学』(二神孝一,堀敬一 有斐閣 2009)

著者:二神 孝一 (1958-)
著者:堀 敬一 (1967-)



※2017年に第二版が刊行された。
マクロ経済学第2版 | 有斐閣


【目次】
はしがき(2009年1月 二神孝一・堀敬一) [i-v]
目次 [vii-xv]


  第I部 基礎

第1章マクロ経済学の考え方 003
1.1 マクロ経済学とは何か 003
  1.1.1 マクロ経済学の対象(3)
  1.1.2 経済主体の役割(4)
  1.1.3 マクロ経済学の考え方(6)
  1.1.4 データからマクロ経済を理解する(8)
1.2 国民経済計算 010
  1.2.1 マクロ経済活動の水準を測る制度(10)
  1.2.2 GDPに関する様々な概念(11)
  1.2.3 国内総生産と国内総所得(14)
  1.2.4 GDPを計算する場合の注意点(18)
1.3 国際収支統計 020
  1.3.1 海外との取引を測る制度(20)
1.4 物価水準の測定 023
  1.4.1 名目GDPと実質GDP(23)
  1.4.2 GDPデフレーター(24)
  1.4.3 消費者物価指数と企業物価指数(25)
  1.4.4 連鎖指数(26)
1.5 マクロ経済分析の視点 027
  1.5.1 外生変数と内生変数(27)
  1.5.2 動学と静学(28)
  1.5.3 不確実性と期待(28)
  1.5.4 長期と短期(29)
  1.5.5 経済成長と景気循環(30)
  1.5.6 閉鎖経済と開放経済(31)


第2章 家計の消費・貯蓄行動 033
2.1 家計の消費行動 033
  2.1.1 消費の実態(33)
  2.1.2 消費に関する基本的な概念(34)
2.2 家計はどのように消費を決定しているか 035
  2.2.1 消費と貯蓄の選択(35)
  2.2.2 2期間モデルによる分析(36)
2.3 貯蓄関数 039
  2.3.1 貯蓄の決定における所得と利子率,主観的割引率の役割(39)
  2.3.2 所得の変化の効果(39)
  2.3.3 利子率変化の効果(40)
2.3.4 時間選好率(41)
2.4 消費に関するいくつかのモデル 043
  2.4.1 ライフサイクル仮説(43)
  2.4.2 恒常所得仮説(45)
  2.4.3 ケインズ型消費関数(46)
2.5 補論:最適な消費計画の決定 048
  2.5.1 限界代替率(48)
  2.5.2 ラグランジュ乗数法による効用最大化条件の導出(51)


第3章企業の設備投資行動 055
3.1 マクロ経済における投資の役割 055
  3.1.1 様々な投資(55)
  3.1.2 設備投資の二面性(57)
3.2 新古典派投資理論 059
  3.2.1 設備投資の2期間モデル(59)
  3.2.2 企業価値最大化条件の解釈(60)
  3.2.3 経済環境の変化と設備投資(61)
3.3 調整費用モデル 063
  3.3.1 新古典派投資理論の問題点(63)
  3.3.2 調整費用モデル(64)
3.4 その他の投資 066
  3.4.1 在庫投資(66)
  3.4.2 研究開発投資(66)
3.5 補論:最適な設備投資決定の図による説明 067


第4章 資産市場 071
4.1 資産価格とマクロ経済 071
4.2 資産市場の機能と制度 072
  4.2.1 資産市場の機能(72)
  4.2.2 企業の資金調達手段(74)
  4.2.3 直接金融と間接金融(76)
  4.2.4 負債と資本金(76)
  4.2.5家計の資産選択(78)
4.3 無裁定条件と資産価格 079
  4.3.1 安全資産の利子率(79)
  4.3.2 危険資産の期待収益率と無裁定条件(80)
  4.3.3 割引現在価値(81)
  4.3.4 資産価格の決定(82)
  4.3.5 資産価格とバブル(83)
4.4 金利の期間構造 085
  4.4.1 短期金利長期金利(85)
  4.4.2 利回り(金利)の計算方法(86)
  4.4.3 期待仮説と利回り曲線(86)
4.5 名目利子率と実質利子率 088
4.6 資産価格に関する実証研究 090
  4.6.1 日本の株価はバブルか?(90)
  4.6.2 日本の家計の資産選択(92)
4.7 補論:危険回避的な投資家とリスク・プレミアム 095


第5章 貨幣と銀行行動 099
5.1 貨幣とインフレーション,銀行の経済活動 099
5.2 貨幣の機能と特徴 100
  5.2.1 貨幣の機能(100)
  5.2.2 貨幣の歴史(102)
  5.2.3 貨幣と流動性(104)
5.3 貨幣供給 105
  5.3.1 貨幣供給量(105)
  5.3.2 マネタリーベース(107)
  5.3.3 貨幣乗数(108)
  5.3.4 信用創造(110)
  5.3.5 貨幣供給量のコントロール方法(114)
5.4 貨幣需要 115
  5.4.1 最適な貨幣保有量の決定(115)
  5.4.2 貨幣需要のモデル(117)
5.5 インフレーション 121
  5.5.1 貨幣とインフレーション(121)
  5.5.2 インフレーションの費用(122)
  5.5.3 シニョレージ(124)
5.6 不良債権問題と信用創造をめぐる議論 125
  5.6.1 不良債権とは何か(125)
  5.6.2 貸し渋りと追い貸し(125)
  5.6.3 銀行の信用創造機能は低下したか(127)
5.7 補論 128
  5.7.1 貨幣供給量の定義の変更(128)
  5.7.2 貨幣保有が効用関数に入ったモデル(128)


  第II部 長期の経済理論

第6章 閉鎖経済での長期の経済分析 135
6.1 マクロ経済モデル 135
  6.1.1 経済変数の相互関係(135)
  6.1.2 各市場のつながり(135)
  6.1.3 本章で分析するマクロ経済モデル(137)
6.2 財・資金市場の均衡と実質GDP の決定 138
  6.2.1 財市場(138)
  6.2.2 資金市場(140)
  6.2.3 均衡実質GDPの決定(143)
6.3 政府の経済活動とマクロ経済 144
  6.3.1 政府部門の導入(144)
  6.3.2 政府部門の予算制約(145)
  6.3.3 資金市場の均衡と実質GDP の決定(146)
6.4 比較静学分析 147
  6.4.1 財政赤字の拡大の効果(147)
  6.4.2 生産技術の改善(149)
  6.4.3 時間選好率の変化(150)
6.5 貨幣市場の均衡:物価水準の決定 150
6.6 長期の均衡 154
  6.6.1 要約(154)
  6.6.2 本章の分析が示唆すること(155)
  6.6.3 今後の分析(156)


第7章 開放経済での長期の経済分析 161
7.1 開放経済のマクロ経済モデルの特徴 161
7.2 開放経済の資金市場 163
  7.2.1 財市場の均衡条件(163)
  7.2.2 資金市場における国際間の無裁定条件(164)
7.3 GDP と経常収支の決定 165
  7.3.1 GDPの決定(165)
  7.3.2 経常収支の決定(166)
  7.3.3 物価水準の決定(167)
7.4 比較静学分析 168
  7.4.1 財政赤字の拡大(168)
  7.4.2 生産技術のショック(169)
  7.4.3 時間選好率の変化(169)
7.5 為替レート 170
  7.5.1 通貨の取引はどのように行われるか(170)
  7.5.2 名目為替レートと実質為替レート(171)
  7.5.3 長期の為替レート決定理論:購買力平価(PPP)(173)
7.6 経常収支赤字の持続可能性 175
  7.6.1 経常収支と対外純資産の関係(175)
  7.6.2 2期間モデルを用いた説明(176)
  7.6.3 多期間で経常収支赤字が持続可能である条件(177)
  7.6.4 実証研究の結果(178)
7.7 開放経済における設備投資と貯蓄の相関 179
7.8 購買力平価(PPP)の実証研究 180


第8章 経済成長の理論I:ソロー・モデル 185
8.1 GDPの成長をどのように説明するか 185
  8.1.1 各国の成長過程(185)
  8.1.2 経済成長のモデル(187)
8.2 基本的なソロー・モデル 188
  8.2.1 モデルの設定(188)
  8.2.2 ソロー・モデルの分析(191)
  8.2.3 比較静学(194)
  8.2.4 GDP成長率(197)
8.3 技術進歩を考慮したソロー・モデル 200
  8.3.1 技術変数と効率労働(200)
  8.3.2 定常状態(201)
  8.3.3 資本ストックとGDPの成長率(202)
8.4 経済成長に関する実証研究 203
  8.4.1 成長会計(203)
  8.4.2 収束(206)
8.5 ソロー・モデルを超えて 209
8.6 補論 210
  8.6.1 コブ・ダグラス型生産関数と資本分配率,労働分配率(210)
  8.6.2 ガルトンの誤謬(211)


第9章 経済成長の理論II:内生的成長モデル  215
9.1 新しい経済成長理論の登場 215
9.2 研究開発と経済成長のモデル 216
  9.2.1 R&D投資と独占的競争(216)
  9.2.2 質のはしごモデル(217)
  9.2.3 家計の選好と企業の価格競争(219)
  9.2.4 家計の財の需要と支出の決定(221)
  9.2.5 研究開発(224)
  9.2.6 株式市場(224)
  9.2.7 労働市場226
  9.2.8 定常状態における均衡の分析(227)
  9.2.9 経済政策の効果:研究開発に対する補助金政策(229)
  9.2.10 規模効果(231)
9.3 内生的成長理論の様々なモデル 233
  9.3.1 公共サービスを含むモデル(233)
  9.3.2 労働者の学習効果モデル(236)
  9.3.3 人的資本モデル(237)
9.4 補論:質のはしごモデルにおける経済成長率 239


  第III部 短期の経済理論 

第10 章 労働市場 245
10.1 失業の定義と分類 245
  10.1.1 失業率とは(245)
  10.1.2 自発的失業と非自発的失業(247)
10.2 労働市場の均衡 248
  10.2.1 労働供給(248)
  10.2.2 労働需要(251)
  10.2.3 均衡実質賃金と雇用量の決定(252)
10.3 失業の理論 253
  10.3.1 労働供給における異時点間の代替仮説(253)
  10.3.2 労働者と企業のミスマッチによる失業(254)
  10.3.3 賃金の下方硬直性による失業(257)
  10.3.4 UV曲線(ベバレッジ曲線)(261)
10.4 日本の失業に関する実証研究 263
  10.4.1 労働供給における異時点間の代替(263)
  10.4.2 ジョブサーチ理論(264)
  10.4.3 構造的失業(264)
  10.4.4 インサイダー・アウトサイダー理論(265)
  10.4.5 効率賃金仮説(265)
10.5 補論 266
  10.5.1 (10.2) 式の導出(266)


第11章 閉鎖経済での短期の経済分析 271
11.1 短期のマクロ経済モデルの特徴 271
  11.1.1 短期と長期の違い(271)
  11.1.2 本章で分析するマクロ経済モデル(272)
11.2 45度線分析 273
  11.2.1 財市場の均衡(273)
11.3 IS-LM 分析 275
  11.3.1 財市場とIS曲線(275)
  11.3.2 貨幣市場とLM曲線(277)
  11.3.3 財市場と貨幣市場の均衡(278)
11.4 総需要・総供給分析 279
  11.4.1 問題の設定(279)
  11.4.2 総需要曲線(280)
  11.4.3 総供給曲線(281)
  11.4.4 均衡の決定(286)
11.5 景気循環と経済政策 289
  11.5.1 経済政策の役割(289)
  11.5.2 財政政策(290)
  11.5.3 金融政策(293)
  11.5.4 総需要管理政策(294)
  11.5.5 マクロ計量モデルとルーカス批判(295)


第12章 開放経済での短期の経済分析 301
12.1 開放経済における短期のマクロ経済分析 301
12.2 金利平価 302
  12.2.1 自国と外国における資金の運用(302)
12.3 為替相場制度 303
  12.3.1 変動為替相場制度(303)
  12.3.2 固定為替相場制度(305)
  12.3.3 2つの制度の比較(306)
12.4 マンデル・フレミング・モデル:変動相場制 307
  12.4.1 開放経済下のIS-LM分析(307)
  12.4.2 変動相場制のもとでの財政・金融政策(312)
12.5 マンデル・フレミング・モデル:固定相場制 316
  12.5.1 均衡の決定(316)
  12.5.2 固定相場制のもとでの財政・金融政策(317)
12.6 名目為替レートの変動 319
  12.6.1 物価の粘着性と名目為替レートのオーバーシュート(319)
  12.6.2 バブルの存在(321)
12.7 金利平価に関するパズル 321
  12.7.1 名目為替レートの不確実性を考慮した金利平価(321)
  12.7.2 フォワード・ディスカウント・パズル(323)
  12.7.3 将来の名目為替レートの予測に関するパズル(325)
12.8 補論 326
12.8.1 マーシャル・ラーナー条件(326)


  第IV部 経済政策と応用

第13章 財政政策 333
13.1 マクロ経済政策の問題 333
13.2 政府と財政政策 334
  13.2.1 財政政策の役割(334)
  13.2.2 政府の構成(334)
  13.2.3 日本の財政制度(335)
  13.2.4 財政政策の問題(338)
13.3 等価定理 339
  13.3.1 政府支出の財源は問題か(339)
  13.3.2 2期間モデルによる説明(340)
  13.3.3 流動性制約と等価定理(342)
  13.3.4 利他主義と等価定理(345)
13.4 財政赤字の持続可能性 346
  13.4.1 2期間モデルでの公債償還(346)
  13.4.2 長期の公債償還(347)
13.5 社会保障:年金 348
  13.5.1 年金の役割と制度(348)
  13.5.2 世代重複モデル(349)
  13.5.3 積立方式(349)
  13.5.4 賦課方式(351)
  13.5.5 年金制度と動学的非効率性(353)
13.6 日本の財政政策 355
  13.6.1 財政政策の効果(355)
  13.6.2 等価定理(355)
  13.6.3 財政赤字の持続可能性(356)
  13.6.4 年金制度の改革(356)
13.7 補論:動学的非効率性の改善 356


第14章 金融政策 361
14.1 金融政策の目的 361
14.2 フィリップス曲線 362
  14.2.1 失業とインフレーションのトレード・オフ(362)
  14.2.2 短期フィリップス曲線と長期フィリップス曲線(363)
14.3 金融政策の有効性 365
14.4 動学的不整合性 367
  14.4.1 ルールと裁量(367)
  14.4.2 動学的不整合性の例(367)
14.5 金融政策の運営をめぐる議論 369
  14.5.1 金融政策運営の過程(369)
  14.5.2 金融政策と利子率(371)
  14.5.3 金融政策におけるルール(373)
14.6 日本の金融政策 375
  14.6.1 金融政策は景気の安定化に対して有効か(375)
  14.6.2 ゼロ金利政策量的緩和政策(377)


第15章 消費理論と投資理論の発展 383
15.1 不確実性下の家計と企業の行動 383
15.2 ランダム・ウォーク仮説 384
15.3 流動性制約と予備的貯蓄 386
  15.3.1 消費の過剰反応(386)
  15.3.2 流動性制約下の消費行動(386)
  15.3.3 予備的貯蓄(387)
15.4 日本の消費と貯蓄に関する実証研究 390
  15.4.1 流動性制約と予備的貯蓄(390)
  15.4.2 貯蓄率をめぐる議論(391)
15.5 トービンのq 理論 392
  15.5.1 平均qと限界q(392)
  15.5.2 トービンのqは現実の設備投資を説明しているか(394)
15.6 設備投資理論の進展 395
  15.6.1 流動性制約と設備投資(395)
  15.6.2 エージェンシー費用と設備投資(396)
  15.6.3 不確実性と設備投資(398)
15.7 設備投資に関する実証研究 401
  15.7.1 実証研究の方針(401)
  15.7.2 流動性制約に関する実証研究(402)
  15.7.3 何が90年代の設備投資を抑制したのか(403)
15.8 補論 405
  15.8.1 トービンの限界qの導出(405)


第16章 景気循環理論 413
16.1 景気循環分析の新しいアプローチ 413
16.2 実物的景気循環RBC)理論 414
  16.2.1 RBC理論の基本モデル(414)
  16.2.2 簡単化されたモデルの分析(418)
  16.2.3 より一般的なモデルへの拡張(420)
  16.2.4 RBC理論の含意(423)
16.3 RBC理論の成果と問題点 424
  16.3.1 RBC理論の成果(424)
  16.3.2 RBC理論に対する批判(427)
16.4 新しいケインジアン理論 429
  16.4.1 新しいケインジアン理論の特徴(429)
  16.4.2 新しいケインジアン理論の動学モデル(430)
  16.4.3 GDPの変動(435)
  16.4.4 新しいケインジアン理論の問題点(435)
16.5 日本を対象とした実証研究 436
  16.5.1 RBC理論の実証研究(436)
  16.5.2 新しいケインジアン理論の実証研究(437)


数学付録 [441-445]
索引 [447-455]




【抜き書き】
・同書の「はしがき」から、本書の構成についての説明。

 本書は,初級のマクロ経済学を学習した学部生を対象として,中級のマクロ経済学を解説することをめざしている〔……〕。
 中級の教科書の役割は,言うまでもなく初級から上級への「橋渡し」である。しかしながらマクロ経済学では,初級と上級の間のギャップがあまりに大きいために,橋渡しすることは容易ではない〔……〕。本書は他の教科書と比べて,以下に述べるような特徴があるとわれわれは考えている。
 第1に,家計や企業の行動を,ミクロ経済学の枠組みに基づいて丁寧に説明することを心がけている。第2に,現在のマクロ経済学では,家計や企業,政府が,時間の経過とともにその行動をどのように変化させるか,という点に注目して分析を行っている。本書ではそうした視点を取り入れる一方,説明が複雑にならないように可能な限り2期間のモデルを使って説明を行っている。第3に,日本のデータや実証研究の成果を数多く紹介し,現在のマクロ経済学でどのようなことが説明できて,どのようなことが説明できていないのかを明らかにしている。こうした特徴をすべて備えた中級マクロ経済学の教科書は,未だ登場していないとわれわれは自負している。

 本書は,4部から構成されている。まず第I部は本書で用いるマクロ経済モデルの各パーツを説明する。第1章では国民経済計算とマクロ経済学の基本的考え方,その分析アプローチについて説明する。第2章で2期間を計画期間とする家計の消費・貯蓄決定を,第3章で同じく2期間を計画期間とする企業の投資決定を説明する。次に,家計の貯蓄と企業の投資を結びつける役割も担う資産市場の説明を第4章で行う。資産市場は貯蓄と投資を結びつけるだけにとどまらず,異なる時点での資源配分や異なる経済主体間でのリスクの配分などにも大きな役割を果たしている。次に第5章では貨幣について説明する。この章では貨幣の機能や,貨幣を供給する中央銀行の役割について基礎的な解説を行う。
 第II部は,第I部での基礎を元に,長期のマクロ経済モデルを構成することを目的としている。長期とは,経済主体の期待形成がマクロ経済の構造と整合的であり,市場の調整もうまく機能するような状況のことである。まず第6章では閉鎖経済における2期間のマクロ経済モデルを,第7章では海外との取引を考慮に入れた同じく2期間のマクロ経済モデルを説明している。次に第8章と第9章では,2期間以上の時点を含むより長期の分析として経済成長の理論を説明する。まず,第8章では経済成長理論の基礎となるソロー・モデルを説明する。この経済成長理論は,ソローにより提示されてから半世紀以上を経過しているが,現在でも経済成長を考えるための重要な視点を提供している。続いて第9章では,ソロー・モデルの問題点を克服することを試みた,内生的成長理論を説明する。経済成長の源泉である技術の革新は,ソロー・モデルでは与えられたものとして,明示的に分析されていなかった。内生的成長モデルは,企業が技術革新を行う仕組みを描写するとともに,経済成長がどのように生じるのかを説明している。
 第III部では,長期の経済分析の想定とは異なり,経済主体の期待形成と経済パフォーマンスが不整合で,市場機構がうまく働かない,いわゆる短期のマクロ経済の分析を行う。その具体例として第10章では,労働市場を取り上げて,失業が生じる理由について考察する。その後,第11章では,短期のマクロ経済モデルの代表としてIS LMモデルを,またその拡張である総需要・総供給モデルを説明する。これらのモデルは,短期のマクロ経済モデルの出発点としての役割を,依然として担っている。ただし,これらのマクロ経済モデルは,経済主体の期待形成を反映していないという問題点を抱えている。次の第12章では,マンデル・フレミング・モデルを中心に,開放経済における短期のマクロ経済の分析を行う。
 第IV部では,第13,14章でマクロ経済政策とその有効性について説明する。第13章において財政赤字と年金の問題を,また第14章では金融政策に関する最近の議論を紹介する。次に,第15章では第I部で説明した家計の消費・貯蓄行動と企業の投資行動についてより最新の考え方を,最後の第16章では短期のマクロ経済モデルについて最近までどのような理論的展開があったかを紹介する。その1つは実物的景気循環理論であり,次に実物的景気循環理論を批判的に受け継ぐ形で現れてきた新しいケインジアンの理論について説明する。



・読者が持つべき心構えについての訓示。

 巷には「誰でもわかる」と銘打つ書物が数多く出版されている。確かに,できるだけ少ないコスト(努力)で手早く多くの知識を得るためにそのような書物は必要かもしれない。しかし,真に学問の内容を理解するためには読み手にも努力が必要である。本書では,初歩的だがある程度の数学的な知識を必要とする個所を意図的に含めている。また,先述のようにかなり高度な内容にも踏み込んで記述を行った。したがって,読者の方にもある程度の努力を惜しまずに読むことをお願いしたい。テレビなどのマスコミに登場するエコノミスト,また大学の教授であっても最新の経済学の知識も持たずに,簡単な入門書の知識ほどの理解で批判的な言辞を振りまく人たちが数多く存在する。彼らのうわべだけの知識の言説に振り回されないために,本書をある程度の努力を払う覚悟で読んでいただければと望んでいる〔……〕。必要とされるのは,直線の方程式に関する知識,2次関数や対数関数の性質,それに微分法の初歩的な知識(特に合成関数の微分法),確率の初歩的な知識(特に期待値の計算)である。それ以上の高度な数学的知識は必要ではなく,経済数学の入門書の知識と加減乗除の四則演算を根気よく行う根性と努力が必要である。