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『1冊で知る 虐殺』(Jane Springer[著] 築地誠子[訳] 原書房 2010//2006)

原題:Genocide (Groundwood Books)
著者:Jane Springer 開発コンサルタント。著述家。
訳者:築地 誠子[つきじ・せいこ] 翻訳。東京外国語大学ロシア語科卒。
解説:石田 勇治[いしだ・ゆうじ](1957-) ドイツ近現代史、ジェノサイド研究。
件名:ジェノサイド
NDLC:A195
NDC:329.7 国際法 >> 国際刑法.国際警察


1冊で知る 虐殺 - 原書房


【目次】
目次 ([iii-vii])
謝辞 ([viii])


第1章 今日のジェノサイド 001
どのようにジェノサイドは始まったのか?
なぜジェノサイドは起こるのか
二度と繰り返さない?


第2章 人道に対する究極の罪 011
人権の進化
人道に対する罪
人権協定
ジェノサイド条約


第3章 集団暴力の歴史 027
勝者の歴史
アメリカ先住民へのジェノサイド
見て見ぬふり
否定は続く


第4章 ジェノサイドの論理 045
なぜジェノサイドは起こるのか?
どこでジェノサイドは起こるのか?
いつジェノサイドは起こるのか?
どのようにジェノサイドは起こるのか?
ヒトラーホロコースト


第5章 ジェノサイドの分析 065
誰が被害者になるのか?
被害者を孤立させる
誰が加害者になるのか?
人に殺害させる
罰せられる可能性
誰が傍観者になるのか?
ジェノサイドとジェンダー
レイプと性的暴行
レイプはジェノサイド的行為である


第6章 ジェノサイドへの反応 091
「われわれはジェノサイドを告発する」
民衆法廷
ジェノサイドに関わらない
新しい権利の提案
ユーゴスラビア法廷
ルワンダ法廷
国際刑事裁判所
国際法廷の影響力
記憶と忘却
生存者の救済
謝罪と賠償
真実和解委員会


第7章 ジェノサイドの防止 123
防止への第一歩
各国政府の役割
人道機関の役割
メディアの役割
国際連合の役割
個人の役割
早く警告を出す
被害者への支援に天災と人災の区別はいらない


解説 ジェノサイドへのアプローチ(石田勇治) 147
  はじめに
  人間の性か
  「名称なき犯罪」から独立犯罪へ
  集団抹殺
  広義のジェノサイド
  ジェノサイドの目的と類型
  非対等戦争下の大量殺戮
  関東大震災直後の朝鮮人虐殺
  参考文献


人権とジェノサイドの年表 [159-161]
歴史上のジェノサイド [162-167]
注 [168-175]


  コラム
詩歌に讃えられなかった英雄 016
わたしたちにはどんな権利があるのか? 020
アルメニア人虐殺 036
奴隷貿易はジェノサイドか? 039
ウクライナ大飢饉 042
人種主義とジェノサイド 051
流れ作業のジェノサイド 060
言葉で人を殺す 068
ジェノサイドの8段階 071
カンボジアのジェノサイド 078
トゥールスレン刑務所 081
ボスニア・ヘルツェゴヴィナのジェノサイド 086
慰安婦問題 089
ルワンダのジェノサイド 101
ガチャチャ裁判 111
加害者の反応 115
グアテマラ真実和解委員会 120
抵抗者と救済者 130
良い警官? 悪い警官? 132
身分証明書 143




【抜き書き】


□「第5章 ジェノサイドの分析」から。訓練を受けた兵士にも他者を殺す行為をためらう傾向があることを紹介する(p. 73)。なお、参照されているGwynne Dyerの著書は未だ日本語に翻訳されていないが、Dave Grossman『戦争における「人殺し」の心理学』(筑摩書房)で同様の指摘がある。

戦場で人を殺すように訓練された兵士でさえ、他国の兵士を殺すのは気が進まないという。第二次大戦中のアメリカのライフル銃兵を意識調査したところ、「訓練されたライフル銃兵のうち、実際に戦場で発泡したのは15パーセントだけだった」ことがわかった。[注4]アメリカ軍はこの結果を踏まえて、兵士が何も考えずに的確に撃つことを徹底的に訓練させた。

[注4]グウィン・ダイアーの著書『War』(Crown Publishers, 1985) p. 118


□「第7章 ジェノサイドの防止」から(pp. 141ー142)、警告リストの部分。

 ジェノサイド問題の活動家はさまざまなジェノサイドの共通点を分析して、いつ、どこでジェノサイドが起こりそうかを予想できる「早期警告リスト」を作成した。そのリストにはジェノサイドの初期の兆候が載っている。

・身分証明書を利用して特定集団を識別する。
・特定集団への差別を防止したり、罰したりする法律がない。
・権力の座から特定集団を排除する。
・メディアを利用して特定集団を悪魔や非人間のように言う。
・特定集団を差別する。
・特定集団を土地や所有地から強制的に移動させたり、追い立てたりする。
・特定集団が必要不可欠なサービスや援助を受けられないようにする。
民兵組織や自警団組織が存在する。[注12]

 このうちひとつかふたつは特定集団への迫害状況を示しているが、必ずしもジェノサイドに至るとは限らない。だがいくつかの項目は、深刻な人権侵害であることを警告している。


[注12]NGOのMinority Rights Group International と あらゆる形態の差別及び人種差別に反対する国際運動(International Movement Against All Forms of Discrimination and Racism)の共同声明。国連人種差別撤廃委員会(2005年2月28日から3月1日にかけて、ジェノサイド防止に関するテーマ別の議論が行われた)に向けての共同声明。ファン・E・メンデスの演説“Ultimate Crime”


□ 石田勇治による「解説」から。虐殺の分析について(p. 152)。この引用箇所の後に、虐殺の類型が示される。

 一見、克服しがたい集団間の敵愾心や歴史的・文化的対立が根本原因であるかに見えるジェノサイドも、実はきわめて具体的で、かつ多様な政治的・経済的・社会的要因によって引き起こされており、単一の因果律で説明できるケースは皆無に等しい。また殺害行為自体を自己目的とする例も存在せず、ジェノサイドを実行する側には必ず何らかの目的があると見るべきである。




【メモランダム】 
・紙でもウェブでも著者の情報が少ない。以下、Amazonドットコムの著者紹介欄から転載。

About the Author
Jane Springer is the author of “Genocide”, part of the Groundwork Guides series for which she is also the series editor. She is a consultant in international development and has lived and worked in Mozambique and India. She is the author of “Listen to Us: The World's Working Children” and translator of the Portuguese-language books “Nest Egg” and “Tales from the Amazon”. Jane Springer lives in Toronto.